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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第一章 ロリサキュバスと出会うまで
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リザードマンはかく語りき


目が覚める。



そこは見知らぬ天井……というかほの暗い洞窟。外から光が差し込んできているので、

今は昼なのだろうか。



ふと後ろを見ると祭壇があり、自分が寝ていた場所には何らかの魔法陣らしきもの。

ここがワープポイントなのだろうか……、と考えてみるも、うんともすんとも言わなかった。

おそらく、女神の補助なしでは世界間の移動は不可能という事なのだろうか。



洞窟を出る。あまりのまぶしさに目がくらみそうになるが、

ここは森の入り口……か出口かわからないが、森に入ってすぐのところにある洞窟だったようだ。

平原は見通しがよく、少し先に村らしきものが見える。なるほど、まずはあそこで情報収集しろという事か。



村は賑わっているようで、ここからでも喧騒が聞こえる。

村の周りには赤い人々の姿や、馬車のようなもの……。



赤い人々……?



村へ向かう足を速める。

何か嫌な予感がし、思わず腰の剣を確認する。

その剣はずっしりとした存在感があり、重くて動きにくく、はっきり言って邪魔ではあったが、

不思議とその重さが俺を安心させてくれる。





村へ辿りついた俺が見たものは、あまりにも衝撃的であった。



赤い、赤い鱗。

そしてその鱗の上から鎧と防具を纏った……トカゲのような、人間?

おそらくこの世界……ファンタジーに言うのであれば、『リザードマン』と呼ぶべき種族だろう。



リザードマン達は、村の私兵団?とにかく、武装した村人であろう人々と戦っており、

明らかに村人達は押されている。リザードマンはやってきた俺の事も気にかけず、村人を痛めつけては、拘束し、

どこかへ運び込もうとしているようだった。



「どういう事だ……?人攫いが目的か?」



リザードマンたちは悠々と私兵団をはねのけ、次々と人を捕らえる。



――そう、今こそ俺の出番だ。

もらった能力は非常に強力であるはず。この力があれば、人々を救える。



しかし、動けない。



目の前で繰り広げられる様は正に阿鼻叫喚。肉が飛び散り、血が撒き散らされる。

こんな、こんな空間に……どうやって足を踏み入れればいい?



気づけば、俺は嘔吐していた。

何も食べていないはずの体から、とにかく胃液を吐き出す。


流石にいきなり現れ、嘔吐してえづく俺に、リザードマンたちが顔を向ける。


意気揚々と現れておきながら、逃げ出そうとした、その時



「きゃっ……!」



リザードマンが、小さな女の子の手をつかむ。

逃げようとする女の子に、爪をつき立てようとする。



頭よりも、体が早かった。




一閃。腰の剣を振りぬくやいなや、リザードマンの腕を両断し、

女の子を救い出す。



「…………大丈夫?」


「あ……、あっ……いやっ」



ガクガクと震えている。それはそうだ。この状況の中で、平気でいられる方がおかしい。


俺はというと、一通り胃の中の物を出し、少し泣きながら剣を振るったからか……、なんだか落ち着いていた。



「……行くぞ」


「ギギィッ!!」



腕を切られたリザードマンが悲鳴を上げる。

その時、周囲にばらけていた他の仲間が一斉にこちらを向く。



『敵』として認識されたのだ。

もう後には引けない。女の子の前に立ち、剣を構える。



戦い慣れ等しておらず、殺すか、殺されるかという緊張感の中で、

俺はどこか甘い考えを持っていた。



なるべく、殺したくない。



なぜだろう。リザードマンはあくまで敵、モンスターだ。

こいつらを倒さなきゃ、排除しなきゃ、俺達人間の平和は訪れない。


それくらいわかっているのだが……。



振りかぶられた剣の柄に、剣の腹を思い切りぶつけて剣を落とさせ、そのまま顔面を殴りぬく。


死んではいない、が、大きなダメージを追っていることは確かだ。

しかし明らかに威力がおかしい。これが、女神の加護、そして俺の『職能』というヤツなのか。


村人とリザードマンの間に入りながら、武器や防具を破壊し、少しずつ無力化する。



よし、いける、勝てる。そう思った次の瞬間。



「ガァッ!!!!」


バチン!!と大きな音が耳元で響く。

いきなり飛び掛ってきたリザードマンの剣を、とっさに受け止めた。


いや、「体が勝手に動いた」が正しい。俺はとびかかる攻撃なんて見えやしなかったし、

まったく違うことを考えていた。


正に「体が勝手に動いた」と評するに丁度いい。



「ギギッ……!?」



このリザードマンだけ、明らかに防具の色が違う。……体長格か!

こいつを倒せば、一気に戦力を削げる!



向き直り剣を構えなおす。今まで四方から襲い掛かってきたリザードマンたちが、

突然動きを止め、俺達の動きを注視している。



いわゆる、一騎打ちというヤツだ。



「おおおっ!!!」



わけもわからず突っ込む。


本来なら後の先とか、戦術としてふさわしいやり方はいくらでもあったはずだ。

しかし、そんなものがわかるはずもなく。ただただ闇雲に剣を振り回すしか俺にはできない。



俺のわかりやすい袈裟切りはいとも簡単に躱され、がら空きの横っ腹に蹴りが飛んでくる。


「ぐっ……!」


しかし、動かない。

おそらく今ので確信した。俺の職能は『絶対防御』に近い。攻撃や俊敏さは負けているが、防御だけなら、

単純戦闘で遅れをとることはない。


しかし今、少し嫌な感じがした事から、ずっとこれに頼り続けるのは死を招く。


隊長クラスのリザードマンは、俺が蹴りを受けて動かないのを見ると、

少し驚いた表情の後、にやりと笑った。



「やるな、人間」




しゃ、喋った!?



「この言葉ではなかったか?エント語、というのだろう。人間の使う言葉は」


「お、お前、しゃべ……」


「喋る竜人族は珍しいか。ん?いや……お前、そもそも……なるほどな」



なんだよ!何がわかったんだ!言えよ!!

しかし、こちらでは竜人族、って呼ぶのか……。



大きく動揺させるのが相手の狙いかと思いきや、激しくバランスを崩した俺に攻撃をしてこない。

こいつ、まさか。



「すまないな、動揺させる気はなかった。何、人族と竜人族、どちらが優れているか、ここで決めよう」



ぶ、武士……!!こいつ、こういうタイプのキャラは絶対強いからな!?

まずい、このままだとマジで俺が防戦一方で、あっさり防御壁を剥がされて負ける未来が見える!!



とにかく守ってばかりではまずいと、勢い良く剣を振りかぶるもあっさりと躱され、一発も当たらない。

振り向きざまに切りかかっても、突きを試しても、とにかくいなされ、躱され、反撃をモロに食らう。


しかし俺も反撃に対してほぼ自動で守る事ができており、お互いにダメージを与えられないまま、

時間が過ぎる。



「……ふむ、太刀筋こそ甘いが、その防御は堅牢。こちらでは崩す手立てがないと言える」



す、と体を引く。

強者特有の美しい体捌きに「おおすげぇ……」と頭の悪い感想を抱いていた。



気づけば竜人族も、人間も、

皆俺達の戦いに目を向けており、先ほどまでの阿鼻叫喚は無くなっていた。



「人間よ」


「はっ、はい」


「何故……戦う?」


「はい?」


「お前は、異世界から来た……『来訪者』だろう?なれば、この村の住人等、どうでも良いはずだ」


「えっ何で知って……いや、どうでもよくはない!」


「何故だ?同じ人間だからか?」


「そうだ!」


「ふむ……」



考え込む竜人族の隊長。



「人間の来訪者よ、私は……話し合いで解決したいとおもっているのだが、どうか?」


「はっ……話し合い!?」


「そうだ。お前は……おそらく、強い。まだ剣の腕はからきしだが、おそらくその剣は一撃必殺。

今無差別に暴れられたら、こちらの被害は尋常ではないだろう。私をもってして止められない」



そんなに強かったのか俺。

というか敵に塩を送るようなマネしていいのかよ。とことん武人だな……。



「なれば、言葉が通じる相手。話し合いのほうが建設的であろう」



その通りすぎて何も言えなかった。

最初からそうしろよ!と思ったが話が違う。最初は「皆殺しにすればいい、虐殺相手」だったが、

今は「こちらも殺されるかもしれない、緊張感のある戦い」になっているようだ。やはり、異世界転移した俺は、

規格外の強さを誇っているらしい。



「話し合いって、具体的に何を?」


「我々が……、人間を持ち帰るのを許可して欲しいのだ」


「人間を持ち帰る!?」


「ああ、この村に群生している人間の、いくつかを里に持ち帰りたい。いかがか?」


「いやいかがかじゃなくて……!?それを見過ごせないからこうやって出てきたのであって!!」


「そうなのか……来訪者よ、お前は家族でも親戚でもない人間に……何故そこまで?

剣の腕を鑑みれば、その加護が効かぬ相手と出会えば、胴体が両断され死んでいたはずだぞ」


「うっ……」



それを言われると、痛い。

確かに女の子が襲われているとみて、何も考えず特攻したのは事実だ。



「確かに我々の中には人間を痛めつけ殺すのが趣味の者はいるが、

今回はそれが主目的ではないのだ」


「じゃあ一体、何のために……?」


「女がな、産気づいている」


「産気づいてるって……つまり」


「ああ、我々竜人族は、人間族と違い、一定周期で子を成すのだ。

しかし我々は、魔族の中でもマナの消費が激しい。子を産み育てるには、十分な食料が必要なのだ」


「ま、まあそれは人間も似たようなところあるけど……」


「なので、ここに群生している人間を少し分けて欲しいのだが……」


「待った待った!?どうしてそこから人間!?しかも群生って!?」


「ん?群れて暮らしているから……、群生ではないのか?やはり人間の言葉は難しいな」



いや、こいつは……本気で言っている。言葉が難しいとかではなく、

そう、わかりやすく言えば……野生の動物みたいに思っている!人間を!


そういう事か!道理で会話がかみ合わないと思った!

野生の人間がたくさんいるから、捕まえてご飯にしようって事か!!



しかし、これが女神様の言っていた、「共存」に関する事なのだろうか。

このズレを解決しない限り、永久に人間と魔族の共存なんてのもは不可能に感じてしまう。



「えっと……隊長さん。それはできない。無理なんだよ」


「何故だ、里はもう一刻を争う事態だ。我々が食料を持ち帰らずノコノコ戻れば、

それこそ竜人族の恥さらしだ」


「つまり、食料……とくに、マナ?っていうのが必要だと」


「そうだ」


「えっと……それは人間以外じゃダメなのか?」


「別に構わんが、人間が効率的なのだ。肉ともなるし、魔力も補充できるという意味でな」



そんなレベルの話で襲われてたのこの村…………?



「例えば……俺が、人間に代わる魔力の源みたいな……そういうの見つけたら、

人間持って帰らなくても……いいとか、そういう事はない?」


「ほう、それは面白い話だな……少し興味がある」



乗ってくれた。あとは……。



「あの、この中で、魔法薬とか、えっと、ポーションというか……魔力回復薬に詳しい人いませんか!?」



しん……とあたりが静まり返る。

そこでおずおずと、手をあげる少女がいた。



「あ、あ、あの……えっと……その……ま、魔法薬……その」


「おお!」


「話を聞かせてくれ!」



「ぴっ」と言って少女は半泣きになってしまう。

黒いローブを身に纏った、明らかに「魔法使い」という風体の子だ。



しかし隊長もノリノリである。

周囲の竜人たちはというと、馬車に戻ったり、だらだらしたりしている。

なんというか、爬虫類っぽい……。




そして、魔法薬売りの女の子から話を聞くことになった俺達は、

捕らえられていた村人達を解放した。


一見して、治癒魔術師も少ないように感じるこの村だと壊滅的な被害と言って差し支えないが、

全滅は避けられた。それゆえ、これだけほのぼのしていても、竜人族に攻撃する村人はいなかった。

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