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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第四章 30歳から始める学院生活
36/71

魔法の基礎と時々トーラス

――魔術の基礎Ⅰ。


あらゆる魔術の基礎を学べる、魔術初心者にはもってこいの授業だ。


といっても、本当の基礎から、少し基礎を応用したものまで、学生や先生によってまちまちなのがこの授業の特徴、らしい。



本来ならば満席になるような授業ではないらしいが、

今回に限っては席は様々な生徒達で埋められていた。



「ねえヒナちゃん、どこで魔術を学んだの?」「参考にした魔術書教えて~!」


「ヒナちゃんの顔綺麗過ぎない?彫刻?」「何属性が好きなの?」「髪の毛さらっさら…」


「ユユちゃんこっち向いてー!」「見てくれた!」「かわいい!」「動いてる~!」




………………。




もはやちょっとしたアイドルである。





「す、すごい人気だね……」


「まあ、うん……わかってた。こうなるのはなんとなく」



俺の席の隣に座るのは、トーラス・フィガロスと呼ばれる青年だ。

くせ毛の赤毛でやせっぽち、そばかすが特徴のメガネくんだ。

彼も俺と同じ《プルンブム》の校章をつけている。


魔術苦手だけどがんばろうな同盟みたいな感じで仲良くなった、生徒の一人だ。

実際のところ俺のヘタクソ火球を見て、元気が出た生徒は少なくないらしい。

てっきりこんな所に来るのだから全員貴族で全員魔術超絶できると思ってたよ……。


最初は滅茶苦茶敬語だったが、年齢は学校に関係ないだろ……という理論で押し切った。

多分10個くらい下だが敢えて年齢は言わないようにしている。30だもんな。30だもんな俺。



ヒナ達はまあ予想通りというか、なんというか。

編入試験の活躍ぶりと、見た目の可愛さもあいまって生徒達にえぐい程たかられている。

最初は俺の近くで耐えていたが、徐々に人の波に押されていった。

今日の授業が激混みなのもおそらく彼女らのせいだろう。



「しかし……トーラスは何で魔法学院なんか来たんだ?もっとほかに適正があるように感じるけど」


「ええ、そうかな……僕も一応、親が役人だからね。魔術の一つも使えないのはかっこ悪いんだってさ」


「なるほど」



ここ、王都魔法学院は基本的に入学が自由である。

そこが人気の秘訣でもあり、優秀な魔術師を輩出する理由にもなっているのだとか。



しかしながら、高額な学費と、厳しい試験、魔術を使えないものにとっては過酷とも呼べる環境から、

なんとなくで入学してくるものは少ない。


たいていは魔術や、魔法薬など、それらの関連に自信の在る者達が、より高みを目指して入学してくるのだ。



そんな中で、俺やトーラスのように、魔術の基礎が未だに習得できていないメンツは珍しいらしい。

ちなみにウォルは魔術は俺と大差ないへっぽこだが、薬学はそこそこできるし、手先が器用で、

魔術道具の製作ができたりする。俺からすれば滅茶苦茶すごい事なのだが、本人曰く「そんなにすごくない」との事だ。



「魔術道具は結局……魔術ができていないと作れる道具も限られてくるからね……」との事だ。



逆を言えば強力な魔術が使えれば、強力な魔術道具を作れるかもしれない。

これは後でヒナ達に聞いてみよう。




「――皆さん、静粛に」



教壇へ立った先生の一言で、講堂はしんと静まり返る。




「また、この学院に新たな学友が増えたのは誠に嬉しい事です。

しかしながら、本学院の生徒として、今一度その誇りを思い出してください」



厳しく、しかしながら淡々と、浮ついた生徒達を訓戒する先生。

その立ち振る舞いは堂々としており、自らの強さを誇示するまでもなく、この場での序列をはっきりと表していた。




「それでは編入生……、ヒナ・リーズベルトさん、前へ」




リーズベルトは今回のために用意した偽名だ。

ヒナは「ローツレスがいい」と駄々をこねたが、流石に全員ローツレスだと面倒くさい。

また、こちらの世界では姓がないは自然な事ではあるのだが、本学院ではそんな事はないというのが、先日わかった。


基本的にここにきているのはほぼほぼが貴族で、皆家名を持っているというか、家の名に誇りさえもっているので、

家名を名乗らないのは不自然なのだ。偽名であったとしても家名があったほうが目立たなくて良い。

そこで、俺以外にヒナとユユの分も、編入試験後に用意したのだ。



「――はいっ」



いきなり呼ばれると思っていなかったヒナが、少し緊張した面持ちで教壇へ向かう。

しかし編入生をいきなり呼んで何をさせるつもりなのだろう。今年の抱負でも言わせるつもりだろうか。




「皆さん、彼女は編入試験にて見事《四大元素龍ドラグエレメンタル》を披露し、

わずか入学一日にして、白金級プラチナムの称号を手にした魔術師です。まず、

このような優秀な学友と共に学べる喜びを祝福し、拍手を」



各所から、興奮した声や、驚きの声、そして拍手が響き渡る。

あの日参加していなかった生徒もいたのだろう。それほどすごい魔術だったというわけだ。



「さて、皆さんは入学一日目の彼女と、どれだけ差をつけられているか、理解しましたか?

もし理解できていない方がいれば、今日の講義は受けていただかなくて結構です。

それでは講義を始めます。皆さん筆記具を準備してください」



……なんという煽りの上手さだろうか。


先ほどまでゆるい感じであった講堂にすでにその空気はなく、

この一分一秒で少しでも自らを高めようとするべく奮起する者達の姿がそこにあった。


優秀な魔術師はその魔術の力量だけにて決められているわけではないと教えてもらったが、

つまりこういう事なのだろう。



「まずは基礎のおさらいからですね。リーズベルトさん、本日の講義で補佐を勤めて頂いて宜しいですか?」


「えっ!?私で良ければ、はい……」



所在なさげに先生の方を見ていたヒナが、突然の指名にうろたえるも、

とりあえず肯定するところはやはり、自分の実力に一定の自信があるという事だ。


俺は授業参観を見る父親のような微笑ましい心持ちでヒナを見ていた。うーん、今日も可愛い。

学院用に仕立てたローブも可愛い。



「貴方が使用した四大元素龍ドラグエレメンタル》は所謂、『最強の基礎魔術』と呼ばれています。

これは何故かわかりますか?」


「はい。四大元素龍ドラグエレメンタル》はあくまで初級魔法陣しか用いません。

魔術の構築としては非常に初歩だからです」


「その通り。流石にやり直しがなかっただけはありますね」



やり直しがなかった、という言葉から……、あの魔術は何度か試せば成功するものなのだろうか。




「さて、彼女からすれば『初歩』の魔術ですが……これが何故難しいか、

今回はそこについて説明していきましょう」



煽る煽る。この先生絶対人に教えるの上手いんだろうな。



四大元素龍ドラグエレメンタル》の特徴は火、水、土、風その四つの属性を同時詠唱する事にあります。

初歩の魔法陣とは言え、単純に詠唱が長い上に、四つの魔法陣を同時に起動し、それぞれに同量ずつマナを注ぐのはかなりの力量が必要です。

この練習としては、常に魔力を両手両足に巡らせておく練習法が有名ですが……これはそもそも魔力総量の大きい人しかできませんよね」




「僕には不向きなんだよな……」



隣でぽつり、とトーラスが呟く。

彼は元々魔力総量が大きくなく、系統適正もあまり高くないらしい。

それがどういう事なのかはよくわからないが、気恥ずかしそうに語る彼を見ると、「中学生だけど泳げない」とか、

「自転車に上手く乗れない」とかそういう類のものであるように感じる。


実際そうなのかは別として……雰囲気だ。



「そこで出てくるのが『瞬時解放』です。カードをめくるような早さで、

火、水、土、風のマナを解放するように魔法陣を順々に編んでいくやり方があります」



すると試したがりの生徒達が次々と魔法陣を展開していく。

ここでは魔術は使えるようだ。

最初に学校の説明を聞いたときに、学内の廊下などは、生徒同士の諍いを避ける目的で魔術封じがかけられていると聞いたからだ。



「みなさん、はやる気持ちはわかりますが、試すならば自室のベッドの上がおすすめですよ。

このやり方は非常に効果的ですが、とにかく頭に負担がかかる事、そして突然の魔力切れが起きやすいからです」



俺の場合、魔力切れでも倒れる事はなかったが、普通の人は魔力が切れると眠ってしまうらしい。

睡眠……というか、体を休ませることがそのまま魔力の回復につながるらしい。

酸欠みたいなものなのだろうか?欠伸は脳の酸素不足と聞くし……。



トーラスも試してはいるものの、魔法陣から魔法陣の切り替えが全然上手くいっていない。

素人目にもよくわかる。



「や、やっぱり難しいねコレ……」


「そうなのか……俺実は火以外の魔法陣展開できなくて……」


「えっ!?それで学院入ったの!?それはそれで、すごいね……」


「うん、どっちかというと剣ばっかり使ってきたからさあ……。魔法、いや魔術に触れるのも殆ど始めてというか」


「……気を悪くしないでほしいんだけど、今僕結構ホっとしたよ」


「そうか?それなら良かった」



なんとなくこの学校でも上手くやっていけそうな気がした。



――そして、講義は滞りなく終わった。

後で聞いたがあの先生も有名な魔術師であるらしい。なんでも火系の魔術を極めているのだとか。

本もいくつか出しているらしい。後で買っておこう。




授業後、俺はトーラスと二人で買い物に来ていた。

彼に魔術付与エンチャントを教えてもらうためだ。


魔術道具の作成にはそれに使う素材、そして付与魔術が必要である。

魔力を帯びたアイテム等は魔術付与エンチャントには最適なようで、

それを探すのが目的である。



もちろん、ヒナとユユもついてくるはずだったが……。



―――




「リーズベルトさん!この後お時間ありますか!?」


「え」


「ダメよ!ヒナちゃんは私達とお食事に行くの!」


「え」


「それよりも私達古代魔術同好会のお話を……」


「ちょ、ちょっとま……」




「……」


「……」




助けてやりたい気持ちもあったが、あれは無理だ。


あの喧騒の中、つっこんでいく勇気はない。


さらばヒナ。友達100人作るんだぞ……。



「じゃあ、ユユはお兄様と一緒に……」


「あっ、ユユちゃんだ!本当に動いてる!」



動いてるって……ゴーレムじゃないんだからそりゃあ動くよ。



「ユユちゃんってエルフなんだよね!まさか本物だとは思わなかったよ~」


「むしろ本物じゃないエルフっているです?」


「うん。付け耳とかおしゃれだしね。なんちゃってエルフおおいよ?」


「多いです!?」



それは流石に初耳だった。



「ああ、ウィード君達は王都に来て短いんだっけ……。神に近い存在であるエルフは『オシャレ』だからね。

ここ王都だと、エルフをモチーフにしたデザイン、ファッションは若い女性の間で流行ってるんだよ」



流行ってるのかよ……。オシャレなのかよ……。

というかエルフをモチーフにってどういう事だよ。



「いや~、生きてる間に学院で二人もエルフが見られるなんて……私運がいいのかも」




まて、今……、



「二人、って……?」



「知らない?そっか、編入したばっかりだもんね。氷結の姫君……、

えっとこれはあだ名で、本人はあんまり好きじゃないんだけど、エフィールさんってエルフがいるの」


「ゆ、ユユ以外にもエルフがいるですか!?」


「うん、いつも図書館にいるから、一度会ってみるといいと思うよ」


「……お兄様!」


「うん、行っておいで」


「ありがとうございますです!」



ユユにとって、自分以外のエルフと出会うのは……、村を出てから初めての事なのだろう。

ヒナ以外にはあまり心を開けていない様子だったし、これで良い経験になれ……ば?



なんだろう、講堂の入り口から寒い空気が入り込んできている。



誰かが廊下の窓を開けたのか?いや、そもそも外はそんなに寒かっただろうか?

野宿が問題ないくらい温暖な気候だったはずだ。日本の四季で例えるなら秋頃だった気がするが……。



そこではっきりする。


これはとある人物から漏れ出る、魔力の気配だ。



その人物とは言うまでもなく、先ほど紹介が済んだばかりの―――




「あっ、姫……エフィールさん」


「こんにちは、ロジーナ。……これが、『噂の』?」


「うん、そだよ。丁度エフィールさんに会いたいって言ってた所」




エフィール、と名乗るその少女は、ユユをそのまま大きくしたような美しい容姿をしていた。

まるで雪のように美しい、白い肌。豪奢な装飾物が霞むような銀髪。そして宝石のような赤い瞳。


見紛う事は無い。この美しさ、この荘厳さ。エルフだ。

人間には出せない魅力のようなものが伝わってくる。



「そう……」



ユユとは違い、かなり落ち着いた物腰である。表情もさっきから殆ど動かない。

まあ「氷結の姫君」みたいなあだ名が付くくらいだから、そういう感じなんだろう……。



と思ったのもつかの間。エフィールさんはユユを見て、口元を綻ばせる。



「……可愛い」



「えっ、エフィールさん!?」



ロジーナと呼ばれた少女がひどく驚いた表情をしている。




「すみません、ロジーナさん?でしたっけ、エフィールさんがこういう反応をするのって珍しいんですか?」


「ああはい、ロジーナ・ピリフルアです。よろしくねローツレス君。

私が彼女のこんな顔を見たのは、この人生で一回目なんですよ……」


「エッ」




エッ  うそやろ




無意識なのか、エフィールさんはひたすらユユの事を撫でている。

そんなにもお気に召したのか。ちなみに当のユユはただオロオロするのみだ。頑張れ……!




「ユユ……でいいの?私、貴方とお話がしたいのだけれど……」


「あっはい、えっと、ユユは、ええと……ユユ・ユーフォリアです?」



そこ疑問系じゃだめだろ。




「そうなの……じゃあ、行きましょう」


「えっ、あっ、はいです?」


「わーい、私も行っていい?」


「ええ。二人きりだと、この子、緊張しちゃうでしょうし……」


「おっ、お兄様、お兄様は……」


「えーと……今回は女子会っぽいし……俺、トーラスと行くところあって」


「お兄様ッ……!?」


「ローツレス君、気が利くねー。今度なんかあげるね!」


「助かるよ」



なんとなくクラスで女友達ができた感じがする。

これはヒナとユユには感謝せねばならない。




―――



という感じだ。


ヒナもユユもすこし大変だろうが……早めに学院になじんでもらうには丁度いい機会だと思った次第だ。


俺は俺でトーラスと早速仲良くなったし。




「しかしウィード君は……本当に何者なんだい……?」


「何者っていうか……うーん、話すと長くなるというか、通りすがりの旅人というか」


「まあ、魔法学院は結構なんでもありだし……出自について問いただす気はないから安心してよ。

単純に僕がめちゃくちゃ気になってるだけ」


「気にはなってるんだな……、俺は魔法の勉強にきたんだよ。今まで剣しかできなかったし、

このままじゃあ強い魔物と戦うときに苦戦するかもなって」


「ヒナさんやユユさんは十分な魔術師に見えるけど……それでも足りないのかい?」


「ああ、アイツらが来たのは多分ついでだよ。むしろあいつらは今更学ぶ事あるのかなって気分だし……」


「す、すごいね……」


「いや本当にな」



たまたま旅にくっついてきているだけ、とは言え……あの二人の実力は未知数だ。


少なくとも、学院を敵に回してもまあ戦えるだけの力は持っているだろう。


それに対して俺は……まあ強いのだろうが、聖騎士の職能なしでは普通の兵士とどっこいどっこい。

これではとても戦えたものではない。



「でも、剣が得意って理由で魔術付与エンチャントを学ぼうとするのは流石だね。

確かにすごく相性がいいと思うし、上手くいけばすごい力になるかもだ」


「やっぱり?」


「うん。まあ付与用の魔術の勉強をしないといけないけどね……」


「ぐっ……」




実は俺は魔術がかなり苦手であることがわかってしまった。

ていうかあんなもんすぐ習得できるかよ……。


感覚の再現がどうしてもできなかったので、奥の手として、

ヒナに経験の一部を譲ってもらったのだ。……あの方法で。(※『龍の住む島』辺りのアレ)



しかしながら、アレはヒナの経験を奪ってしまう都合上、

あまり何度も使える手ではない。


魔法陣の起動とか、魔力の注ぎ方とか、細かい部分は自分で学んでいかねばならないのだ。





「あれ、お兄さん、お買い物?」




この聞き覚えのある呼び方……。




「ドロシー、どうしたんだこんな所で……あっ、外でこの呼び方まずい?」


「あはは、大丈夫だよ。お隣の人は……えっと、もしかして学友?って感じですか?」


「そうそう、よくわかったな。あ、校章か」


「ええ、ここでその校章をつけているって事は、学院関係者……あの」


「ん?」



彼女はドロシー、金髪低身長、ロリ巨乳の娼婦だ。


先日フレッドとの娼館バトルの時にお世話になった、お姉さんタイプの少女だ。16歳前後とは思えぬ母性に、

きっとあらゆる男が陥落してきたのだろう。


本日はネグリジェ姿ではなく、普通の簡易的なドレスのような衣服を身に纏っている。

全体的に地味な服装のはずなのに、胸元が少し空いているのと美しい金髪のせいでやけに目立っている。

化粧はすごくおとなしく、ほぼノーメイクのようだ。まあ、この年齢ならノーメイクでも可愛いよな。



「ああ、こっちがトーラス、トーラス……?」


「は、はひ」


「トーラス……?」


「はいっ!トーラスです!」


「いや、どうしたの……?」


「ウィード君、ちょっとこっちきて」


「え、うん」




ちょっと離れる。


ドロシーは「?」みたいな顔している。




「何で君の知り合いはさっきからこう……可愛いんだ!?」


「そう言われても……」



そう言われても……。




「あんなに距離が近いとまともに話せるわけないだろう……!」



だからヒナやユユとは若干距離をとってた訳か。


そういえばさっきの会話でもヒナ達とは直接話してなかったもんな彼……。




「まあ、ドロシーは別に大魔術師でもないし普通の町娘だから気軽に話すといいよ」


「クソッ……君には近いものを感じたのに!おのれ!」



なんのおのれだ。言わんとする事はわかるけど。




「すみません、もしかして私、お邪魔だった……?」


「あーいや、そんな事は……」


「そそ、そうですよ!こんなお美しい方がお邪魔な訳がない!そうだ、お近づきのしるしに……」


「え、何か頂けるんですか?そんな、会ったばかりの方に物を頂くなんて……えっ?何これ?」


白銀鋼ミスリルのマジックプレートです。あらゆる魔術が封じられる一品で……護身用にぴったりですよ!」


「え、と……?これ、めちゃくちゃ高いんじゃ……?」




トーラスは童貞だとは知っていたが、まさかここまでとは思わなかった。

なんかもうわかりやすすぎるだろお前は。大丈夫か壷とか買わされるぞ。

ドロシーが娼館に勤めてることは絶対しばらく秘密にしておく必要がありそうだ。こいつ発狂して死にそう。




「すみません、コレは頂けません」


「そん……な……!?」



この世の終わりのような顔をするな。

そしてそれは初対面で渡すものではない。それ使い方によっては伝説級のアイテムに匹敵するだろ。



「まずは、もっとお互いの事を知るべきだと思います。

高価なプレゼントはとっても嬉しいんですけど、その前に私は、貴方の事が知りたいな」


「…………!」




あっ トーラス落ちた。




完璧な美少女スマイルの前に童貞トーラスはなすすべが無かったようで、

あっさりと人が陥落する様を目撃してしまう。


ドロシーは流石高級店の人気嬢。とくになんでもない路上で、その(比較的)少ない露出度でもここまで強いのか。

もうほんとすげえしか言葉が出ない。




「まずはお名前から、トーラス……さんでいいかな?」


「トッ、トーラス・フィガロスです!」


「わかりました!トーラスさんって呼んでもいい?」


「はっ!はい!」


「じゃあ今日からお友達!はいこれ、私のお気に入りのお菓子です!食べてねっ!」


「はい!食べます!」


「じゃ、私……結構このへん歩いてるので、また見かけたら声かけてねっ」


「はい!かけます!」





…………。



…………。



どうしよう、トーラス、しばらく手を振るだけのおもちゃみたいになってる……。


まったく動かないし、目線も変わらん……。




ドロシーが見えなくなってから数分、

やっとトーラスは人間に戻ってきたようだ。




「可憐だ……」


「お、おう……」






とっても面倒くさい問題に巻き込まれてしまった気がする。


いや、マジ、どうしよう。

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