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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第三章 「世界」の秘密
34/71

語られた『計画』



武器や火炎弾を射出でき、

斬りつけても瞬時に自己再生をする強大な魔物、共食カニバリィ


その強さ、そして戦闘の最中に成長するという、今まで出会った事の無い特性に厳しい戦いを強いられていた俺達であったが……。



突如現れた『辺境の勇者』はそれをものともせず、かの魔物を両断して見せた。



さらに驚くべきはその圧倒的な力、よりも――、



「俺の、名前……を?」


「あっやべ、近衛に聞かれてないよね?」



勇者と呼ばれる程の存在ではあるが、先日訓練場でで会った通り、

ノリに関しては見た目相応の様だ。



「近衛!この通り、砦にたむろう凶悪な魔物……共食カニバリィはこの僕が倒した!

そこの赤装束……いや、へっぽこ政務官の部下も連れて行け!そして青い顔をさせてやれ!

奴の鍍金がはがれるのもそう遠くないぞ」


「はっ!」


「かしこまりました……」



きびきびとヴォルフ達に指示を出す勇者。そういえば、以前も王と会ってくるとか言ってたけど……、

もしかして勇者って偉いのか?



「ヴォルフと、ガングと言ったか。二人で十分か?

僕はこの後、砦まで向かって封印の処理をやる。それにこの男を借りたいんだ」



「は!赤装束共の連行は我々だけで十分です。しかし、砦の偵察は我々が命じられたものであります。

我々も同行させて頂けませんか」


「気持ちはわかるがまずはその雑兵だろう。裁判にかけろ。国を揺るがす事件かもしれんのだぞ。

何、砦の周りの道路は任せろ。僕がきっちり舗装しておいてやるよ」



「……承知致しました。ご武運を」


「ああ。君らも気をつけて帰るんだぞ。城に帰るまでが偵察だ」





そして、ヴォルフ達は先遣隊の遺品と思われるもの、共食カニバリィの魔石、

赤装束の生き残り二名を拘束し、馬車に積み込む。



「ローツレス殿、今回は誠に助かった。正直、貴殿がいなければ我々もあの魔物の腹の中だっただろう」


「いや……俺は何もしてないよ、一から十まで勇者のおかげだと思うし」


「ふ、謙虚だな。しかしその姿勢、やはり貴殿はもっと上にいくのだろうな。

いつまでも、姫様の味方であってくれよ」


「もちろん」



俺が幼女を裏切る事等、それこそ天地がひっくり返ってもありえないだろう。

その時は俺も天動説を信頼してやろう。



ヴォルフ達と別れ、俺は御者のいない馬車に乗り込む。


あれ?御者は?



「……この馬車は僕の特別製だ。馬っぽいがこいつは馬じゃない。魔物だ」


「え!?」



魔物を操る魔法……!?

もしくは魔物を作り出した……!?



「お前、一体……」


「ふ、下等な人間ごときにはわからんか。それよりもさっさと乗れ、砦近辺の残党を片付けて、

お前らの任務について話さなきゃいけないんだ。僕は時間がない。早くしろ」




――今、確信した。こいつは只者じゃない。


いや、もちろんフレッドをワンパンで沈めたり、王にでかい口が叩けて、近衛よりも偉く、


あの共食カニバリィを瞬殺している時点でわかってはいたが……!




「――何者だ!お前、一体何の目的で……!」


「だぁから、それをこれから話すって言ってんだろうが。『座れ』よ」



「がっ……!?」



強制的に膝を付かされる。


一瞬で体の力を奪われ、方膝立ちになる。



こいつ、強いとかそんなレベルじゃない……!次元が違う!




「……そこまでです。魔王様。これ以上のお兄ちゃんへの狼藉は、例え貴方とて看過できません」





そこには、闇のオーラとも呼べる程の魔力を纏ったヒナが立っていた。


びりびりと肌に刺さるようなその殺気に、思わず怯んでしまう。



……いや、待て、『魔王様』!?




「ふふ……リーゼフォン、この僕に楯突くか。数百年前、力の差を思い知らせてやった事をもう忘れたか?」


「……私の力だけで貴方に勝てるとは思っていません。でも魔王様、ここで私と本気で戦えば」


「ふふ……ふふふ……そうだよね……ごめんなさい……僕が間違ってましたあ……」


「わかればいいんですよ。さ、お兄ちゃん、馬車の中へ。多分まだ状況わかってないと思うから……順序立てて話すね?」



「え?え?ええ???」


「です……?」




ついていけてないのは俺だけではなく、ユユもそうだった。


ちょっと安心した。




――――




「うん。自己紹介がまだだったよね。僕はルシフェル。昔は天使長として神のおそばに仕えてたんだよね。

今は魔王サタンって呼ばれてるよ」


「どこから突っ込めばいい?」


「え!?これでもダメ!?」


「魔王様、人間は天使とか悪魔とか魔王とかいきなり出てくると混乱するものなんです」


「そうなのかあ……そっちのちっこいエルフは?」


「て、天使様です……?それとも悪魔です……?」


「どっちもなんだけど……これもダメか」


「これは私も聞きたい事なんですけど……お兄ちゃんに接触したという事は『計画』について話してくれるんですよね?」


「ああ、その通りだ」



馬車の中で辺境の勇者――、いや、魔王とのゆるい雰囲気での会話が続く。


こいつが……?こいつが魔王なの……?いや確かに強さ的にはしっくり来るが、なんともこう……、


見た目が普通すぎるというか……何?何この普通の人感?



「はー……クッソめんどくさいけど歴史から話すか……」


「それが一番いいと思います」





――そうして魔王は、自らと歴史について語り始める。





――――――





「ルシフェル、お前をこれより天使を治めるものとする。勤勉に励め」



「はい。偉大なる神よ。我が全てを持って、任を全うします」



「よい。下がれ」



「はい」







――





「――って言っても、あんまり変わらないんだけどね。いつもと」


「こんな所でのんびりしていていいの?ルーくん」


「いいんだよ。結局天使長になっても僕の仕事って変わらないからね」


「そうなの」



手元の編み物を続ける素朴な村娘、ナーヤは常に楽しそうな表情をしている。


人間の感情の機微というのはいまいちよくわからない僕だが、彼女の横にいると何だか楽な気分なので、


ちょいちょい天啓ついでに近くで寛いでいる。



「ていうかそれ、何してんの?」


「編み物よ。私ね、今度、お姉ちゃんになるの!」


「あ~、そういえば」



彼女の母親、セラに受胎告知をしたのは確か先週の事だ。火の日だったか……たしかその辺りだった気がする。



「それで生まれてくる弟か……もしくは妹への贈り物ってことか」


「ええ!ふふ、今から楽しみ……!」


「何よりだ」



こういう風に大仰に喜んでくれると、受胎告知をした甲斐があったのだと言うものだ。

天使の仕事もそう考えれば悪くないものだ。




「おっ、ルシ坊じゃねえか。元気にしてるか」


「クルタゴ。僕は天使だから常に元気さ。それよりもお前の方が心配だな。酒の飲みすぎじゃないか?」




この厳ついおっさんはクルタゴ。セラの兄で、ナーヤからすれば叔父にあたる人物だ。

酒造りが趣味で、狩猟の際も一杯ひっかけてから行くような奴なので、時々心配になる。

人間はただでさえ短命なのだから、もう少し自分の体を労わってもいいのではないだろうか。



「ははは……相変わらず痛ェ所を突くな……!で、今週の天啓はどうだ」


「変わりないよ。いつも通り。明日は晴れるから洗濯物をやるといい。

あと羊がいくらか喧嘩してるみたいだね。怪我がないかは見ておくといいよ」


「そうか。助かる」


「いつもありがとうね」


「いーや、これが仕事だからね。




天啓、というとかの有名なジャンヌ・ダルクのエピソードのようなものを想像しがちだが、

人々から争いが減ってからは天啓も他愛の無いものになった。明日の天気だとか、

川が氾濫しそうとか、羊の様子がどうとかそんな程度だ。


天使としての仕事はもはやないようなものだが、それはそれで心地が良かった。

何も無いのが結局、一番いいのだ。



「そうだ、ルーくん、晩御飯食べてく?」


「前も言ったけど、天使は別に食事を必要とはしないよ?」


「娯楽としては食べるんでしょ?」


「まあね」


「なら食っていけよ、こいつのシチューは絶品だぜ」


「じゃあ頂こうかな」




――天使は食事をしない。排泄も無ければ、睡眠もない。

あくまで人間の形を模しているだけで、人間ではない。


神から供給される「魔力」によってその体が保たれるのだ。

魔力、とは…………、正直、僕も良くわかっていない。


この世界に存在する……何かだ。

それは神や、天使、または人々に呼応して、さまざまな現象を起こす。


僕もその一つ。所謂、「現象」なのだ。




――




「ん~……美味しいね、これ」


「本当!?えへっ、よかったあ」


「ナーヤはどんどんお料理が上手になるわね……いい事だわ」


「あっ、お母さん、お皿は私が洗うから……!」


「ふふ、気にしすぎよ」



サラは見た目には分からないが、今、ナーヤの弟を宿している。

僕らには性別も、どのような子に育つかもはっきりわかる……ん?


あれ……?サラの子の未来が……?何だ?


今日は少し、調子が悪いのかもしれない。




「ルーくん、どうしたの?」


「いや、ちょっと気分が悪いみたいだ」


「ナーヤ、もしかしてお料理失敗した?」


「ええ!?そんなことないよ!」


「いや、ナーヤの料理は美味しかったよ。また食べたいね。じゃあ僕は一旦天界に帰るから――」





そして扉を開けると、僕は大きな違和感を覚えた。




「……雨?」




「ヘンだね、ルーくん、明日は晴れるって……夜の間に止むのかな?」



「……いや」




天啓では確かに……()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。


なのに雨……雨、だと?




「嫌な予感がする」



翼を出し、天界へ戻る準備をする。



「ルー君、帰るの?」


「ああ、また来週には来るかな。火か、水の日くらいに」


「うん……!次はまた新しい料理、覚えておくからね」


「楽しみにしてるよ」



「じゃあね!」







――まさかそれが、彼女との最後の会話になろうとは。







「神よ、偉大なる神、その姿を!」



「騒々しいぞ、ルシフェル。何事か」



「天啓がはずれました。そして人の子の未来にて見えぬものが」



「……途切れたか」



「……はい?」



「準備をしろルシフェル、これから我々は、戦争をする」


「……戦争!?どういう事ですか!?」


「これより厳しい冬が三度訪れ――、あらゆる封印が解かれる。」


「まさか……予言が!?」



「そうだ。巨人族がこちらへ攻め込んでくるだろう。奴らを屠り、神々の時代を続けるのだ」


「……わかりました」





――そして僕は、天使として、あらゆる天使軍、

そして死せる戦士達を率い、軍備を整えた。



敵は強大。必ずしもこれで勝てるとは思えない。

しかしながら軍団長として、できうる限りを尽くした。




「そうだ、天啓――」



軍備にかまけて忘れていた。もう人間の世界では一年か二年が経っただろうか。

天界とは時間間隔が異なってしまうので、時々混乱してしまう。



仕事はひと段落した。

少しくらいならば――良いだろう。






――





「ナーヤ……?」




村には……誰もいなかった。

民家はもぬけのカラとなり、飼っていた羊や、犬の姿も見当たらない。


どこか別の場所へ移動したのだろうか。


そうして探し回っていると、かさり、と足元に何かが当たる音がした。




「……うっ!?」




骨だ。

それは布切れをまとった人間の骨。そしてこの骨の主こそが……。




「……そんな」




人々は、いや、あらゆる生物は息絶えていた。


後にフィンブルの冬と呼ばれる厳しい冬は、人々を、そしてあらゆる生命を死に絶えさせた。





「……………………」





もうあの頃の面影は無い。

そして僕が帰る場所は、もはや天界にしかない――





――





「神よ!その体で向かうつもりですか!」



「黙れ、誰に向かって口を聞いている」


「無理です!そのままでは、きゃつらに……フェンリルに殺されてしまいます!」


「たかだか狼一匹に恐れて何が軍神か!貴様は我を愚弄するというか!その愚かな魂……この場で追放してやろうぞ!」


「何を……!?」



「『堕ちろ』ルシフェル。貴様に帰る場所など……存在しない!」




「がっ―――」





暗転――




そして僕の魂は、その天使の器ごと、この地上へ落とされた。


しかし天使の証明としての六枚の翼はもうない。


僕はただの、魔力で作られた人形となって、地に落とされたのだ。




「神よ……!偉大なる神よ……なぜ……なぜこのような!このような、仕打ちを……!!」







あとの話は、本に書いてある通りだろう。


神々は巨人族との戦いの末、滅び、


巨人族もまた、姿を消した。



この惑星からあらゆる生命は消え去ったが――、新たに芽生えるものはある。




「……まだ、神は、いらっしゃるはずだ」



ここに見えなくとも。


地面から芽吹く双葉は、その生命の始まりを物語っている。




「もう一度創る……そして今度は……滅ぼさせない、絶対に……!」




そして僕はあらゆる生命を育て、


進化させ、


時には間引き。



今の「この星」を作り上げていった。




そうして数千年……いや数万年が経った頃だろうか。






――




「リーゼフォンはいるか」



「こちらに」



「新たな『来訪者』が現れた。お前の技を持って殺せ」


「承知しました」




人間と魔族、

そのバランスに不均衡が生まれた頃から――、お前らのような転生者、転移者、

総称して「来訪者」が現れるようになった。



全ての来訪者を抹殺するつもりはないが、できるだけ、死んでもらうようにしている。




「魔王様」


「何だ」


「何故、『来訪者』を殺すのですか?」


「奴らは危険だからだ」


「しかし、貴方様ならば造作も無い相手、捨て置いても良いのでは?」


「奴らがもたらす『文化』はこの世界をもう一度滅ぼすだろう」


「『文化』……」



「いずれ話す。お前らに話した『計画』の肝だ。良いかリーゼフォン、敵は素人ではあるが、

その力は神より賜りしもの、決して油断するな」


「承知しました」







――――――





「そ、そんな過去が……」


「まあ誰しも過去は色々あるものだ」


「魔王さん……悪い人じゃなかったです……?」


「善い、悪いというのは主観の問題だ。どちらでもある。お前にとっては善い者かもな」


「でも魔王様、まだ『計画』の事が見えてこないんだけど……」


「何?ここまで話して分からなかったか……。あまり僕の口から語りたくは無いが、

一言でいうなれば『終末兵器』の抹消だ」


「終末兵器……?」


「お前もわからないのか?お前の世界にもあっただろう。模造品というか……力の一旦というか」


「いや、そんな物騒な兵器は……」


「一発で国一つを滅ぼせる馬鹿げた武器があるだろう」



「……核兵器か!」


「あまりその名を口に出すなよ?」




終末兵器――、おそらくその名前からして、

世界を再度滅ぼすものとして扱われているのだろう。


確かに核兵器であれば、その規模のエネルギーを発生させ得る。



「問題なのはその『やり方』だ。こちらの世界には――、『魔術』がある」


「……そうか!」




核兵器は一般的に見て非常に恐ろしい大量破壊兵器だ。

しかし実際にはその核融合反応は、殆ど実力を出せていないのが実情だ。


核融合反応、E=mc^2(E=MCの二乗)の式で現せる。

この式はエネルギー(熱量)は、質量m×光速度cの2乗という事で、

光速は時速約30万km……。めちゃくちゃ分かりやすく言えば、人一人のエネルギーで、国を一つ滅ぼせるという事だ。




()()()()()()()という事か」


「お前……やっぱ殺しておこうかな」


「なんで!?」


「その発想が……その考え自体が危険だからだよ!あーもう……リーゼフォン、何で失敗したんだ……!?

楽勝で殺せただろこれ……!」


「とってもつよかったんで負けたんですヨー、手加減なんてしてませんヨー」



あっもしかして俺、手加減されてた……?



ちなみに反物質とは物質の対になるもので、

それを作り出すことによって完全なエネルギーへの変換が行える。


実際原子爆弾も50kgのウランうち0.7gくらいしか反応しなかったらしいのにあれほどの威力という事だ。

それが完全に反応したらどうなるかは、難しく考えなくともわかるだろう。



「北方に、新たな魔導兵器を作ろうとする集団を観測した。僕はこれからその殲滅に向かう。

その間にお前らは……王都の方を頼みたいんだ」


「王都にもその……終末兵器が!?」


「いや、まだ完成はしていない。しかし、異世界転移者の知識が既に入っている。

奴らが終末兵器に近いものを完成させるのは、時間の問題だ」


「……それが、『計画』なんですね」


「ああ。もうあらかた場所は特定しているが……細かいところはわからない。

王には言伝を伝えてある、これからお前らに……『王都魔法学院』に潜入して欲しい」


「学校に?」


「ああ。魔導兵器の手がかりは間違いなく学院にある。お前たちには学院で調査を行い、魔導兵器の場所を確かめてほしい」


「魔王様、その任務はとっても危険です。私達が快諾すると思っていますか?」



「……ふふ、どうせ、行くなと言っても行くだろう」


「でしょうね」




ふふ、と笑いあう魔王とヒナ。

ちょっといい雰囲気なのがモヤモヤする。なんだか元カレとのイチャつきを見せられてる気分だ。



「あ、ヒナ、そこのが嫉妬しているようだが」


「ええっ!?お兄ちゃんやきもち!?やきもち~!?よしよし!よーしよし!」


「前が見えない!抱きつくな!いや嬉しいけども!体勢をもうちょっと考えて!?」



「来訪者、無理なら断ってくれていいぞ」


「いや……流石に世界が滅ぶとか、そんな話をされて断るわけにはいかないでしょ」


「……お兄様!」


「だからお兄ちゃん好き!」


「ヒナだから、もうちょっと抱きつき方考えてイタッ」



「……人間のくせに、生意気だな」


「まあ、一度死んでるし……せっかくだから世界のために使いたいじゃん?」


「女神が、どうしてお前を選んだかわかるような気がするよ。お人よしめ」


「はは、よく言われる。まさか異世界に来てまで言われるとはな」






――その後俺達は、無事サルガタナスの砦近辺に結界を張り、

安全に人々が通れるよう、道路を舗装した。

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