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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第三章 「世界」の秘密
30/71

右に拳を突き出すと、相手を殴ることができる

――――



「おお、戻ってきたか!」


「すごい!さっぱりした顔をしている!」


「すこし石鹸の香りがする……」




戻ってきた俺は、むさくるしい集団にわいわいと囲まれる。


今まで散々女の子まみれで楽しかったが、これはこれでなんとなく楽しい。


前の世界ではあまり男友達に恵まれなかったので、同年代の童貞とはもっと語り合いたい。




「テメェ……どのツラさげて戻ってきやがった……!」



そして――仲良くなれそうな筆頭、フレッドだ。

彼はぶっちゃけあんまり顔もよくない。ちゃんと戻ってきて稽古をしていたと見えるのはすごく偉い。




「流石だなローツレス殿!あのフレッドが真面目に訓練をしているぞ……!」


「戻ってきてからずっとああでしたよね。クソクソいいながらちゃんと素振りやってる」


「やっぱり形綺麗なんすよねえ。勉強になる」



わいわい言われているフレッド。バカにされてはいるものの、剣の腕は認められているらしい。



「クソッ……剣なら、剣なら負けねぇぞ!俺が稽古をつけてやるよ!ルーキー!」


「おお、お願いしたい」


「はは!やる気があるな!しかしローツレス殿、いいのか?あいつはあんなだが、

腕は本当に確かだ。この俺でさえ何度か取られたことがある」


「特に集中力が高い時は強いよなあ」


「勝てない勝てない。むしろ勉強しに行く」


「あの通り打ち込めれば実戦でも使えそうだなあ」




皆、実力は高そうなのに、実戦経験は豊富ではないのだろうか……?


正直こちらはかなり実戦を経験しているので、むしろ稽古のほうが新鮮だ。


ユーリイは本気で骨を折ろうとしてきたし。




「構えろ、ルーキー。準備運動の時間は与えてやる」


「わかった。ちょっと柔軟させてくれ」




――そういうと、俺はラジオ体操を始める。




「……なっ?なんだその奇天烈な動きは!?」


「こっちの世界の柔軟は違うのか!?」



「はっはっは!!ローツレス殿は冗談も上手いな!」


「あいつびっくりするくらい面白いな!うちの隊に欲しい」


「ムードメーカーに一人欲しい、フレッドとも仲いいし」




「……な、め、やがって!!」



柔軟体操をする俺に――、一閃!


しかし、逆にそれでは剣撃は通らない!




「な!?今どうやった!?」




ざわつく周囲。



「今からだが変な動きしなかったか?」


「腕、ぐるっと回転してなかった!?」


「クラーケンの一種……?」



「気持ち悪い動きをするんじゃねえ!死ね!」




ダメだ。明らかにフレッドの剣には「敵意」が乗っている。


痛めつけてやろう、攻撃してやろうという気持ちが乗っている。


聖騎士の職能は、それにめっぽう強いのだ。



フレッドの高速乱打を、いともたやすく弾いていく。

最も、俺は全く見えていない。フレッドの剣捌きは上手すぎて、正直目でとても追えない。

聖騎士の職能なしではまるで勝てる未来が見えない。



「――フレッド」


「おしゃべりしてっと舌噛むぞボケァ!」



「真面目にやってくれ。勝負にならない」



「―――――ッ!」




フレッド、キレた!



ぷちん、という音がこちらにまで聞こえてくるようだ。


真っ赤になったその顔はもはや鬼か何かと見まごう姿。


恐ろしい表情だがちょっと面白い。



しかし、笑っていられるのもいまのうち、であった。




「―――そォかよ」




真面目な顔になり、ひく、と口を引き攣らせ――





上段!




思わずガードできたが、今のは危なかった。


流れるような上段斬り。姿勢が美しすぎて剣道かと思ったほどだ。




「今のを受けるか」




――こいつ、本気だ!


先ほどまでとは気迫が違う!



痛めつけよう等というしょうもない邪心のない、


修練された一撃。


続いての構えも、美しく、スキがない。


もしかしてこいつ、いい所のおぼっちゃんなんじゃ……!?



踏み込み、からのフェイント。


そして綺麗な横薙ぎ!手に持った木剣に強い衝撃が走る。




「がっ……!」



「終わりじゃねぇぞ」


振り切った回転力をそのまま利用した、ミドルキック!


姿勢を崩した俺は剣では受けきれず、そのまま飛ばされる――。



地面に叩きつけられた先、眼前に木剣の切っ先と、


邪悪な笑みを浮かべた……フレッドの姿が。



こいつは強い。そう確信した。





「おー、すごい、すごい」




ぱち、ぱち、ぱち。と、この空気に似つかぬ朗らかな声。


少年とも少女とも取れるような不思議な音程だ。



「やー、久々に着てみたけど、面白いものが見れた。

この騎士団も順調に育っているようだね」



明らかに上から目線でモノを言う少年……いや、少女?

実物を見てもまだ性別はわからない。服装からすれば男性のように感じるが、

男性にしては少し髪が長く、何よりもその中世的な顔。


とかく彫刻品、美術品かのように整った顔。

黄金比というものがあればおおよそこれを指すのであろう。

美しい金の瞳、いやみのない銀髪、透き通るような白い肌。


まるで天使――いや、悪魔とも呼べるような不気味なまでの美しさを携えた人物が立っていた。



皆「誰きみ?かわいいね!」みたいな表情だったが、一部、その人物に見覚えがあるのだろう。


特に、団長であるアーガイルさんに関しては、表情がめまぐるしく変わっていて、今は喜びだ。


驚き→恐怖→焦り→困惑→喜びみたいな変わり方だった。一人百面相だ。



「ゆ、勇者様!?どうしてここへ!?」


「その呼び方、慣れないね。いやほら、そろそろ問題でも起きるかなあと思ってね」


「勇者って?」



俺以外の騎士団も良くわかっていないメンバーも多いようだ。



「か、かのお方は……世界各国、あらゆる場所で武勲を立てた、この国、いやこの世界の誇りのようなお方だ」


「あ、あんなに可愛いのに……!?」


「見た目ではない……その実力は……いや、俺にもわからん!」



わからんの!?



兵達は口々に「かわいい」「いける」と言っている。

そうか、こういうところだし、しかもこいつら全員童貞だから、男いけるメンバーも多いんだよね。

女の子かもしれんけど。




そんな中、調子に乗った男が一人。



「は。辺境の勇者様が今更こんな所になんの御用だ?てめーの助けはいらねえよ。

魔人の討伐は俺達だけで十分だ」


「フレッド!」



アーガイルの喝が飛ぶが、そんな事はおかまいましだ。



「そんなひょろっこいナリで、剣が扱えるのか?魔法アリならわかんねーが、剣だけならこんなのザコだろ」


「ふふ、君、いいね。気に入ったよ。僕が稽古をつけてあげよう」


「あ?てめぇガキ……調子乗ってんじゃねえぞ?」


「そこの君、剣貸して」


「え、あ、はい」



す、と手に持った木剣を渡す。

手も華奢で柔らかい。本当にこれが、「勇者」なのか……?




「さ、おいでよ新兵君。一発でも当てられたら、君は今日から王宮近衛に昇格だ。

酒も女も浴びるほど手に入る」


「ヘッ……テメェひとつでそんだけ当てられたら嬉しいなァ!?」



言うが早いか、目にも留まらぬ踏み込みで距離をつめるフレッド。


木剣は既に勇者と呼ばれる少年の眼前に迫る。




――かに見えた。




いや、事実迫っていたのだ。



決して見間違えではない。


明らかにフレッドのほうが一手、いや二手は先だった。


踏み込み、振りかぶり、完璧だった。


辛うじて目で追えた部分だけの話だが、それは間違いない。





違っていたのは、結果だけだ。





「が……は……!?」



「新兵くん、君にすごい技を教えてあげよう。こうやって右に拳を突き出すと……相手を殴ることができる。

これを僕は『パンチ』と呼んでいる」



「なっ……!?」




いや何もすごくない……!?よ、な……!?


左手に木剣をすえたまま、右手を突き出すだけで、フレッドを吹き飛ばした?


フレッドが振りかぶるまでしか見えていなかったため、あの一瞬で何があったか、全くわからなかった。



「いやすごい、すごいよ。正直この実力、誇っていいと思うよ。君、普段からきちんと鍛錬してるね?体幹がいい

あとは経験と……技かな?才覚はあると思うんだよなあ」




普通すぎる旅人ルック、ともすれば若干ボロいそれを身にまとった彼……。


「勇者」という事、不可思議な言動、まさか……俺と同じ、「来訪者」……?

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