異世界転生ものの女神様は大体可愛い
――――――――――――
「目覚めましたか?」
「…………」
綺麗な女性だ。金髪のロングヘア、外人さんだろうか。よく見ると瞳も薄緑で……顔立ちもなんとなく日本人離れしている。
「あの、えっと……言語、間違っていませんか?これ……日本語、ですよね?」
「…………」
ここは……、そうか。天国か。俺は死んだ。そしてきっと、あの女の子を助けて死んだので、
神様が天国につれて来てくれたのか。
「もしもーし、聞こえてますか……えっと?ここって聴覚とか……関係ないですよね……?体は仮初めのはずだし……」
「あっ大丈夫です聞こえてますよ」
「ひゃい!?」
驚き方がなかなかにキュートだ。お茶目な所もあるのだろう。
「ああ、えっと、聞こえていたなら……よかったです。人間さん」
「人間さん……」
「あれ?人間さんではなかったですか?」
「いえ、そう呼ばれるのが始めてなので……」
「ああ、そうですよね……えっと、これは、根無……ネ、ナシ?さん?ですか?」
「はい。根無草太です」
「珍しい名前ですね……?この、日本、という国ではよくあるんですかね……?」
「いや、日本でもめちゃめちゃ珍しいと思います」
「ですよね!はーよかった……安心しました」
ホっとする動作までいちいち和むなこの神様。
「そうだそうだ、本題です」
本題とは……天国でこれから暮らすことに対するルールだろうか。
「貴方は異世界に行って頂きたいのです」
「なんと」
異世界だと。あのよくある異世界転生ファンタジーってヤツか。
そうか……、トラックにはねられたもんな。そりゃ異世界くらい行くか。
「ええと……その様子だと、なんとなく事情は察して頂いているみたいですね」
「はい。私の世界では……そういう創作物が多かったんです」
「へえ……!それはそれで興味がありますね。また、見てみますね……」
「ぜひ」
今ならネットでサクサク小説が読めるようになったからな。
いい時代になったものだ。
「貴方には、私の持つ能力の中でも……かなり強力な部類の能力を渡します」
「ほほう……」
「それは『破邪』と呼ばれる能力で、職能として『聖騎士』に分類されます」
「破邪……つまり、邪悪な敵を倒す、って事ですか?」
「能力自体はそういうものです、ただ……」
「ただ?」
「貴方には、仲介者になって頂きたいのです」
「仲介者」
「はい。魔族と人族を繋ぐ、架け橋のような立ち位置」
「……えっと」
「あー……そうですよね、いきなり言われても、って感じですよね」
そうだ……。ぶっちゃけ、異世界転移、したい。
チート能力ですごいことがしたい。しかも聖騎士。かっこいい。
やはり心は子供、動くことがある。ただ……。
「俺には……その能力を使いこなせる自信がありません」
「…………」
「おそらく、お話だけ聞くに、かなり強い能力なんだと思います。
それを使えば、きっと異世界でも生きていけます、ただ……、
私はそれを使ってしまうと、自分の欲を強くしてしまう」
そう、俺のような意志の弱い、30年間何も行動できなかったような人間が、
そんな力を持ってはいけない。きっと自分のために悪用し、世界を悪い方向に導く。
「……私は、そうは思いません」
「……え?」
「すみません、失礼だってわかってはいるのですが、貴方の人生は見させてもらいました。
平凡で起伏のない、ありきたりな人生だと思います」
「ありきたり……」
流石に人生を見通されてありきたりはショックだ……。
「ああいやっ、そういう事ではなくてですね!?よくある人生ではあるんですが……その、
貴方はずっと、人を傷つけずに生きてきましたよね?」
「親は結婚しない30歳息子に傷ついてると思うんですけど」
「そういうお話ではなくてですね……!!」
ちょっとおこのようだ。申し訳ない。
「貴方は、波を立てず、人々が傷つかないよう努力し、30年生きてきた。
これはとても……立派なことだと思います」
「…………そう、ですか」
「あっ、えっと……だ、大丈夫ですか?」
「え?」
気づけば、涙が出ていた。
この30年、ずっと人に認められず、日陰者として過ごしてきた。
こんな風にほめられる事なんて、人生で一度もなかった。
不思議だ。生きてきた30年よりも、死んだ後のこの瞬間のほうが、生きた心地がする。
「……だから、貴方にやって頂きたいんです。異世界の、魔族と人族の仲介を」
「具体的には、何をすればいいんですか?」
はっ、と驚いたような顔をする女神。
俺の返答から、意図を汲んでくれたようだ。
「やって、頂けるのですね」
「ちょろいかもしれませんが……そうまで言って貰えるなら、断る理由はありません」
「そう、ですか……」
心底安心したという顔をしている。異世界転移というのは、そう気軽にできるものではないのだろうか。
「きっとあれもこれもとお願いすると、大変なことになってしまうので……、
貴方には、各国を渡り歩き、戦争を防いで欲しいのです」
「戦争を!?それは結構大事じゃないですか!?」
「そうかもしれません、ただ、戦争が起きる前のきっかけというのは、非常に些細なものなのです」
「きっかけを……」
「はい。人間を生贄に捧げる習慣だったり、趣味で魔族狩りをする人間だったり……。そういったものが代表的な『火種』です。
貴方はこれをみつけて、対処して欲しいと考えています」
「そのための能力が、先ほどの『破邪』……」
「はい!女神が与えし『聖騎士』の職能は、あらゆる人族、魔族による悪意から、貴方を守ります」
あらゆる『悪意』をすべて自動で防げる、といった感じらしい。
実質無制限のオートガードではないだろうか。確かに異世界チートものらしい能力だ。
「それとささやかですが……身体への加護をお渡しします。素手でも盗賊程度なら渡り合えるでしょう。
本物の騎士や、魔人達が出てきたときは、職能を使ってください」
「……わかりました、俺は、なんというか、手近な村とか、そういうところをちまちま守っていけばいいんですか?」
「はい!これはその……申し訳ないのですが、女神の加護のせいで……貴方の近くに、魔族は集まります」
「な、なるほど……」
知らない所でイベントが進行してたりすることはないみたいだ……。
安心はできないが、まあ良しとしよう。
「よし……じゃあ、契約成立ですねっ!今の貴方は思念体ですが、
こちらから異世界に行けば、そちらで体が構築されます」
「思念体だったんですか!?」
「ここは3次元空間の人間が入れる場所ではありませんでしたから……擬似投影した思念で呼びたてちゃってすみません」
「なんだか色々付いていけてないんですが……」
「まあ、それが普通だと思います。……あ、そろそろ、時間みたいです」
黒い、穴……?影のようなもやっとしたものが大きく開いていくのが見え、
少しずつ、俺はそこに吸い込まれ―――――。
「あ、言い忘れてましたが……」
え、まだ何かあるの?
「貴方の職能は純潔故の力です!その純潔を失えば……職能は失われるので、
気をつけてください!」
えっ?
マジ?
と、そこまでが女神との記憶である。
――――――――――