邂逅、王都神聖騎士団
船の旅は思いのほか心地よく、数日と言わず、半日足らずで王都の船着場が見えてきた。
どうやらあの島は王都からほどほどの距離にあり、さらには、国家として王都に従属しているらしい。
「意外でしたか?」
そう語るのは操舵手であり案内人のグルタスさんという人だ。
村の中では比較的細身のイケメンで、共通語が話せる数少ない人材でもある。
「我々の村は、通称、『龍の住む島』と呼ばれています。ふふ、そのままでしょう。
逆を言えば、それが我々の誇りであり、意義でもある。国家としての権利関係等、我々からすれば些事という事」
「へえ……、でも王都って強力って有名じゃないですか、それこそ侵略とかって」
「はは、それこそ杞憂ですよ、使徒様。彼らは我々が龍の守人である事は理解しているし、
龍に守られている事も知っている。見たでしょう?我らが神龍の偉大なる御身を。
あのお方に刃を向け、それでもなお怯まぬ豪傑達が、侵略等という小さき事を行いますかな」
「……確かに」
神龍は人間たちとの圧倒的な力の差を見せ付けた。
たった一つの咆哮で全ての人間の戦意を刈り取る、それだけの存在を前にして挑もうというものがいるだろうか。
「使徒さまは実感してると思うですけど、あのお方には神の加護さえ無意味ですからね。
加護によって守られる王都の騎士団さんたちが敵うとは思えないです」
「うう……確かにあのドラゴンさんはとっても、とっても怖かったですの……」
普段は元気でお転婆なエメリアも、流石に神龍の前では完全に萎縮し、借りてきた猫のようになっていた事を思い出す。
龍、ドラゴン……ファンタジーでは強力な存在であることが常だが、あそこまで規格外とは思っても見なかった……。
「ふふ、お兄ちゃんはまだこっちの事よく知らないんだもんね。ドラゴンといえば、あの神々と戦いを繰り広げた巨悪であり、
その世界を滅ぼさんとする圧倒的な存在だったんだから」
「そんなレベル!?」
「そんなレベル」
「でも神代は終わって……神々は人々の前に姿を現さなくなったんだろ。3次元がどうとか……。
なのに、何故ドラゴンは……」
「ドラゴンはドラゴンであって、神は神だからね。そのへんのお話は……私も長生きしてるけど知らないなあ……」
すると――、こん、と船が何かにぶつかる感触。
王都の船着場へ到着したようだ。
「これが王都……」
はるかに広がる雄大な町並み、あちこちから立ち上る蒸気と思しき煙、
神殿なのか、修道院なのか、あらゆるところに巨大建築物……!今まで見た町でも最も栄えており、
そして荘厳な町並みだ。これはインスタ映えする……!というのが率直な感想だ。
そして、行き交う人々も多い。船着場とはすなわち貿易の場。確かに賑やかになって当然とは言えるが……。
「……エメリア、船着場っていつもこうなの?」
「うーん……私が出発した時はこんなに皆様慌しくなかった気がしますわ。何かあったのでしょうか?」
「事件です……?」
明らかに人々の様子がおかしい。貿易とかそういうのではなく……問題が起きているかのような。
心なしか兵士の数も多い。
「……何か、事件でも?」
グルタスさんは流暢な共通語で兵士へ話しかける。
王都で問題が起きればほど近い場所にある村への影響も考えられるため、他人事ではすまない。
「ああ、龍の島の方か……いえ、ちょっと大変な事が起こりましてね……。
リーサイドとの定期便が今日になっても戻ってこないとか……」
「なんと……!」
定期便が戻ってこない!?それは大事件だ……。しかしリーサイドとは……なんだろう、どこかで聞いたことがあるような。
「……私達が乗ってきた奴だよ、お兄ちゃん」
「あっ、そうか」
完全に忘れていた。いや、本当ごく最近、数日前の話なのにすっかりと忘れていた……。
そうだ、俺はその定期便に乗るためにリーサイドに行ったのだ。決して修道院が目的ではなかった……。
町の名前とかマジで忘れていた。
「すみません、その船……俺達が乗ってた奴です」
「えっ!?詳しい話を聞かせてくれませんか……!?」
すごい食いつきである。
「はい、出航してから……半日くらいしか経ってないと思うんですけど、
そこでクラーケンに襲われて」
「クラーケンに!?」
「そうです。船底を破壊されて、あっさりと船は沈みました。
俺達はとっさに魔法で脱出しましたが、残っていた人はおそらく……」
「あ、ああ……!」
がくがくと震える兵士、認めたくはなかったのだろう……。
戻ってこないだけなら、リーサイド側で何かあった可能性もある。しかし難破したとなっては……。
「そ、そんな事が……、あの船には……王女様も……、あっ、
す、すみません、今のは忘れてください」
「えっ……王女様も!?」
「うう……この事はご内密に……市民に知れてしまったら大事です。
何より遠征を控えた今、他の兵達の士気を削ぐような事が……!」
「…………ちなみに、王女様の名前って?」
なんとなく―――、こういう展開には覚えがある。
やけに育ちがよく、屈強な護衛を連れていた、信心深い少女。
「はい?エメリア様ですが?それが?」
「…………………」
「呼びましたの?」
ひょこ、と後ろから出てくるエメリア。
もう驚かない。女神の加護で魔族が集まる、とは聞いていたが、こういうトラブルまで渦中の人になってしまうとは。
「え、エメリア様ーーッ!?」
――その兵士は、あとで他の兵士に結構しっかり怒られていた。
エメリアが行方不明になっていた事実はそうとうな極秘情報だったらしい。
――――
「それで、騎士様がばしっ!と華麗な剣術でその者を打ち倒し……、囚われの身であった私を救ってくださったのです!」
「おお、おお……そうか……!そんなことが……!無事で……無事でよかった……!
いやはや皆様……、この度は娘を助けて頂き、誠に感謝します」
「いえ……そんな、顔を上げてください」
グルタスさんと別れた俺達は、賓客としてもてなされていた。
しかしながらここの食事は豪華にすぎる……めちゃくちゃに美味い……。
この世界の食事は大体が雑なつくりをしていると思ったのだが、やはり王族貴族は格が違ったようだ。
「私は一国の王である前に、一人の父親です。感謝してもしきれません。
しばらく城を宿としてお使い下さい。路銀も必要な分だけ持っていってください」
「いやいや!?流石にそこまでして頂く訳には」
「はは、謙遜なさらないで下さい。そういえば、貴方がたは旅人でしたか、
王都への定期便に乗っていたという事は、何かこちらでお探しのものでも?」
「あ、そういえば……」
目的……、ここまでの道のりで色々ありすぎて忘れていたが、
俺はそもそも「火種」を探しにきたんだった。
そしてその火種とはもう発火寸前、既に王都神聖騎士団は既に進軍を始めて――
「そ、そうだった……!すみません、突然のお話で混乱されるかもしれないんですけど……、
自分は神の使徒で、この国に神からのお告げを伝えに来たんです!」
「な……!?それは本当ですか?」
「はい……といっても信じてもらうのは難しい――」
「あら、そんな事なくってよ?」
と、席を立つエメリア。
ここで俺が使徒である事を証明するって……?
「神さま、どうか、騎士様が……立派な使徒であることを……お伝えになってください……」
天に向かって祈りを捧げると、俺の体がふんわりと光り始める。
これは「加護」の一つだ。俺への加護は様々な効果を持ってこの身に現れるが、
その時体が温かい光に包まれるのが特徴である。
「いや、これじゃあ……」
流石に伝わらないだろ、と言い掛けた時、
王が目を見開き、人ならざるものをみる眼差しをこちらに向けていた。
「……えっ?」
「こ、この光……、我が、神聖騎士団と同じもの。そうか、では貴方も……私と同じ、使徒の一人だったという事ですか」
「えっ?同じ?騎士団?えっ?」
「騎士さま、お父様もね、あなたと同じように、女神アルテミス様のご加護を受けているの。
神聖騎士団はお父様から神の力を分けてもらっているのよ!ふふ、すごいでしょう!」
「マジで!?あっすみません言葉が……本当ですか!?」
「ああいえ、エメリアには変わらず接してやってください。そのほうが喜びますので」
「ええ!特別よ?ふふっ!」
かわいい。……っていやそうじゃない、
今……、女神、アルテミスって……!?
「今、女神アルテミスって……」
「ええ、我々王都グランディア。その始まりは初代の王グランディアが、女神アルテミスより加護を賜った事に始まります。
そして代々、グランディアを束ねる王家の長、つまりその王たる資格あるものに、歴代から加護が引き継がれるのです」
「……なるほど」
今まで感じていた違和感が、少しだけほぐれた様な感じがした。
そう、俺の職能「聖騎士」があまりにも強すぎる件についてだ。
以前の考察では女神ペルセフォネによるハデスとのエピソードというふんわりした所だったが、
女神アルテミス、これなら辻褄が合う。
そう――、女神アルテミス、すなわち『貞潔』の女神だ。
まさにそのまま、処女信仰、童貞信仰……とどのつまり「純潔」である事の信仰に、
これほど納得のいく神様はいない。さらにはアルテミスはペルセフォネの娘だ。
俺と話した女神がペルセフォネだったとして、何故アルテミスの加護も受けているのかはわからないが……、
無関係でない分、すこし理解ができる。
「――それゆえ、ローツレス殿のお話も信じられるという事です。あの光は神の加護で間違いない。
アルテミス様の加護を受ける……言ってしまえば私も使徒の一人ですからな。近しいものを感じました」
「自分も……すこし理解できた気がします。まだわからないところは多いですが」
「そうですか……しかし、お告げ、とは?神より賜った、と聞いておりますが」
「えっと……まず、自分は、世界の平穏のためというか、女神より、人類滅亡とか、
そういうのを防いで欲しいと言われていて」
「じ、人類滅亡!?」
「はい、このままでは世界は滅ぶらしくって……それを防ぐために、各地を回って色々してるんです」
「し、して……その、この王都グランディアへは一体……」
「ああ、えっと……、まだわからないんですけど……進軍によって被害が出るかもしれないので、
遠征をやめて欲しいんですよ」
「遠征、ですか……!?」
「はい、もう……出発してたんでしたっけ?」
「いえ、まだ現状は選抜部隊による調査を行っている段階です。本部隊による遠征はこれから……」
「よかった……!それでは、なんとか……!」
「むむ……それは、少し考える時間を頂きたい、私一人で決定していい事ではない」
「というと……何か、問題があるということですか?」
「これから我々が進攻しようとしているところが、『魔人十傑』がいるとされる場所です」
「魔人十傑……!」
その名前に、ピクリとヒナが反応する。
「彼らは強力かつ狡猾。正直な所、進攻などしたくないというのが本音です。しかし……」
「せざるを得ない、理由が……?」
「ええ、王都では今、商業の活性化のため、様々な施策を行っております。
その一つが道路整備、特にグランディアと周辺諸国を繋ぐ『奈落の谷』の整備です」
「奈落の、谷……?」
なんとも危なそうな場所だ……。
そんな名前が付くからには、何か逸話があるのだろうか。
「名前から察して頂けると思いますが、そこは魔人十傑が一人、『叡智』のサルガタナスが根城とする、
砦の近辺です。彼奴は人間などに興味はなく、攻撃をしかけてくることはありません、ですが――」
「もしかして、そいつの能力が、何か……?」
ぴくぴくっ、とヒナがすごく反応している。
同じ十傑だし、何か知っているのだろう。
もちろん、ここでは黙っていたほうがいいのは本人も理解しているだろう。
「実験の傍ら、近辺の魔物や植物に怪しげな魔法や、薬を使っているようで……。
谷に凶悪な魔物や、近辺の森にまで植物型のモンスターが発生しているという……」
「うっわあ……」
納得した。つまりサルガタナス自体はそんなに攻撃的な魔人ではないのだろう。
後でヒナに詳しい話は聞くとして、『叡智』って名前と魔物の強化というところから完全に参謀タイプか。
しかし、何故参謀役が本陣ではなく辺境の……しかも敵国の近くに根城を構えているんだ?
明らかに参謀を狙って攻撃されるに決まっているのに……いや、まさか、
――絶対に人間に制圧されない、という自信があるという事か?
『叡智』を関する程の相手だ。それくらいやってしかるべきだろう。
なるほど、次なる相手はこの『叡智』のサルガタナスとなるわけか。
「わかりました、王、私がそのサルガタナスを説得してみせましょう」
「誠ですか!」
「……正直、相手は『叡智』を関するほどの相手、まともに戦って勝てる相手とは思っていませんが、
相当に高い知能を持つ相手、交渉はできると思っています」
「しかし、昨日今日来たばかりのローツレス殿にそこまでして頂く訳には……」
「お父様!わたくし、名案があるわ!」
「エメリア、可愛いけれど今真面目な話をしているから……」
「ううん、その真面目なお話よ?騎士様に騎士団に入ってもらえば良いじゃない!」
「なっ……!?」
「神聖騎士団の条件は3つよね?『強き身体を持つ事』『挫けぬ心を持つ事』『純潔を貫く事』、
私、ちゃーんと覚えてるんだから!」
「た、確かに……ローツレス殿は全て満たしている……」
満たしてるんだ。てか1と2はわかるけど3お前……まあわかるけどさ!わかるけどさ!!
「しかしながら、ローツレス殿の意見も聞くべきであろう……。それに、
神聖騎士団の事は私だけでは決められん。現団長達にも意見を聞かねば」
「お父様ったらお堅いのね……」
「他国に比べれば、大分やわらかいと言われるのだがな……」
確かに、かなり話が通じる人で助かっている……。
割と最初から周囲に恵まれているなあとは感じる。今のところ初回で殺されかけたの二回くらいだし……。
あれ?二回も?
「ローツレス殿、騎士団への入団に関しては、少しご検討下さい。
明日、責任あるものをお呼びします。彼も我が国での功労者。貴方の様な一流の騎士であれば、
お互いに通じるところもあるものでしょう」
俺は一流の騎士じゃないんだけどな……。
しかしながら……なんとなく期待はしていた。
王都神聖騎士団、要するに皆俺と同じ、神の加護を得て戦う集団であり、
全員が(おそらく)童貞という事だからだ。
悩みとかも共有できるのではないか……とひそかにわくわくしていた。
――――
「貴殿がローツレス殿ですな!自分は神聖騎士団、討伐軍の団長を務めます、アーガイル・グレイトランドと申します!
是非とも今日は我が自慢の騎士団をご覧になってください!」
「よ、よろしくおねがいします」
――期待はガッツリ裏切られた。
ナヨっとした童貞集団が来るかと思ったがそんな事はなく、
団長を務めるこの男、アーガイル・グレイトランドにいたっては2mあるんじゃないかという大男で、
筋骨龍流ながら顔立ちははっきりとしたワイルド系のイケメンである。
お前なんだよ何で童貞やってんだよ……と言いたくなる。
しかも話によると神聖騎士団の半数以上は妻帯者、そうでなくても恋人等がおり、
俺の知っている童貞とは全く違うようだった。
「神聖騎士団は自らの子を成せません。それ故!孤児を引き取って我が子とする文化があるのです!
はっはっは!中々良い文化とは思いませんかァ!」
「うーん、確かに……」
こいつはうるせぇけど確かに良い文化である。
修道院の事を思い出すと、やはりこの世界では親に何かあったらすぐに孤児になりがちで、
さらには受け入れ先も少ない。リーサイドではシスターが善意で孤児院をやっていたから良かったものの、
人口もあちらとは比べ物にならない王都では話が違うだろう。
逆に言えばこの文化がなければ子供達はどうなっていたのか……という感じである。
「こちらが稽古場です!オイお前らァ!!客人だ!!一旦手を止めろッ!!!」
完全に体育会系の部活のノリである。
童貞ばっかで期待した俺は……。
「「「「ハッ!!」」」」
皆、訓練の手を止め、一斉にこちらを見やる。
それぞれ個性はあるが皆イケメンと呼べる分類で、
おおよそ陰気な感じはない。よく考えたらこの世界で神聖騎士団って公務員みたいなもんだし、
スケベな事しないし優良物件なのでは……モテまくってしょうがないのでは……?
こんな陽キャの集団のところなんて来とうなかった……はよ帰りたい……。
ていうかヒナ達とは別行動でむさくるしいし……。
なんでもエメリア曰く「女の子がこんな格好してちゃダメなの!私が見繕ってあげるから!!」との事らしい。
確かにヒナは常にローブで身を隠しているしな……理由は簡単、羽とかシッポとか、普段隠しているものがうっかり出たときのための対策だ。
頭からも出るらしい。羽。
「貴方がローツレス様ですね……!?お噂はかねがね!」
かねがねしてんの!?
「あのクラーケンを一撃で葬ったとか」
「自在に龍を従えるとか」
「竜人族を打ち滅ぼしたとか」
「身の丈以上もあるゴーレムを拳一つで葬ったとか……」
「すみません!?何か色々混じってません!?」
「ええ?でもエメリア様がそうおっしゃっておられたとか」
エメリアお前いつ振りまいた!?昨日の今日だぞ!?
「はは、皆の者、適当な噂に振り回されるでない、情報に踊らされる等、騎士にはあってはならん事だぞ」
「ハッ!申し訳ありません!」
おお、流石団長。しっかりしている。
「だが――、ローツレス殿がすごいという事は見ればわかるであろう!この覇気!そしてこの威風堂々とした態度!!」
「確かに……!!」
「本当だ……!」
「すごい……!」
いやお前ら真面目にやってる!?俺全体的にお前らより小さいよね!?
しかも剣技なら100%勝てないよ!?
「――ッチ、騒がしいと思えば、身元不明の怪しい旅人かよ」
少し離れたところから舌打ちと、
侮蔑の視線を俺に向ける、目つきの悪い騎士がいた。
「フレッド……お前!何をしていた!朝の祈りが終わったらすぐに稽古場に来いと毎日言っていただろう!」
「用事っすよ、用事。しかし何スかそいつは?ナンチャラとかいう旅人ですよね。
そんな奴に次の進軍を任せる気ですか?落ちぶれたもんですね。王都も」
「な……、貴様!王都を侮辱する気か!?」
「いえいえ、まだ侮辱してませんよ」
「ぬううう……こい!!決闘だ!!」
「団長!落ち着いてください!」
「しかしだな!!」
団長、こんなに血が上りやすくて大丈夫なのか……しかしこの嫌な奴を見て少し安心した。
やっと陰気で童貞っぽい奴と出会えた。なんか仲良くなれそうである。
「フレッドは剣の腕だけなら超一流ですよ……!この大事な時期に、団長がお怪我でもしたら」
「ぐっ……確かに……!」
「ハン、団長様も自分の身が可愛いってか?それじゃこの騎士団もここまでだな……」
「きっ、貴様……!!」
「剣が嫌だってんなら、『アレ』でもいいんだぜぇ?俺はよぉ」
「何!?貴様……アレをやる気か!?」
「俺は構わねえぜ……加護なんざなくても……強えからな!」
「正気か!?貴様という男は……!」
なんだか白熱しているところ、
ついていけてないので近くの騎士に聞く。
「アレって何ですか?」
「ああ、『アレ』というのは……騎士たちの間で秘密裏に行われている、
度胸試しの事なんですよ……考えるだけでも恐ろしい」
「ど、度胸試し……!?」
なんとも嫌な響きだ。1から10まで体育会系だここは。
「ええ、王都の中でも高級な売春宿に行って、行為をせずに戻ってくるなんて……」
「ひぇっ……やめろよ、怖いだろ……!」
ん?
今なんて?
「すみません、今なんて?」
「え?だから度胸試しですよ。これぜったい王には内緒ですからね?」
「それ見抜きしてもいいんですか?」
「ミヌキ?よくわかりませんが、純潔のまま帰ってくるだけですよ。時間いっぱい遊んで」
「奢りですか?」
「え?いや多分、ふっかけたのはフレッドなので……言えば出してくれるかと」
「……………団長ォ!」
「な、何でしょうか!?ローツレス殿!」
「ああいや、もう俺に敬語はいりませんよ、その勝負、俺が代わりに受けましょう!」
「あいわかった……ではなく!君、何を……!」
「オイオイいいのかよ!お前も聖騎士だろ!純潔を失ったらどうすんだよ!」
「いや、多分いけるし……あっお金は君持ちでいい?」
「ん……オイ、お前、本気でやる気か!?」
「えっ本気じゃないの」
「なんだって……!」
「アイツ正気じゃない」
「やる気だ……」
「あのフレッドを圧倒している……」
いや待って
なにこの展開。
「じょッ……上等だッ!!テメー後で吠え面かくなよ!1時間後、噴水広場まで来い……!一人でな!」
「おっけー」
「ま、待ってくれローツレス殿……!君がそこまで体を張ることは……!」
「いやほら……喧嘩を売られたのは俺ですし……!!」
「なんと……これが騎士道精神……」
違うと思う。
――――
1時間後。ていうかここ、時間って概念あるのね。流石蒸気機関まで使っているだけある。
クォーツ時計なのか、日時計なのか、それが気になるところ。ちなみに15世紀には振り子時計が一般的に普及していたとか。
そう考えると、17~18世紀の技術が散見されるここなら不思議ではないな。
「待たせたな」
そういって現れたのは目つきの悪い男――、フレッドだ。
腐っても騎士団。身なりは大変よく、稼いでいる事が見受けられる。
私服もこの世界的なオシャレなのだろう。ちょっとファッションが古くて固いが、
長い足とうまくマッチしていた。
「クク……これから行く場所は……王都でも屈指の場所だ。
怖かったら逃げてもいいんだぜ」
「120分コースでいい?お金大丈夫?」
「馴れ馴れしいなお前!120分コース……?ああ、2時間か。何故お前あえて言い直したんだ?」
「ごめんこういう所初めてだからワクワクしてて」
「初めてなのかよ!?それでよく勝負を受けたな!?」
「いや前から行ってみたいと思ってたんだよね」
「チッ……イカれてやがるぜ……。金は払ってある。お前には特別なコースを用意してやったぞ」
「なっ……お前それでクリーチャー出てきたら承知せんからな!!」
「クリーチャーがこんな所に出る訳ないだろ!何のための結界だ!」
あっ、クリーチャーはそういう風に訳されるのか。
こっちではすっごいブスって意味なんだけど……。
「――着いたぜ」
そこには、「夢の国」とこの世界の文字で書かれた看板が……!
おそらく名前どおりの場所なんだろう。
「受付で名前を言え。それぞれ個別に部屋に入り……、先に部屋から出た方が負けだ。
まあ、10分も持てばいい方だろうよ……クックック」
「指名は……」
「諦めろ。いやちゃんと可愛い子選んだから」
「なら良かった……いざ!」
「クク……俺の勝負を受けた事を、後悔するんだな……!」
――男のプライドをかけた(?)勝負が今始まる!




