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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第二章 目指すは王都グランディア
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一つの「仮説」

儀式は、村の中で行われる。


神龍がいる「麓」まで供物を運び、神龍を呼び起こす。


雄たけびを持ってその顕現とする。実際の姿を見るものはいない。その姿に威圧され、

そして供物となってしまうからだ。



巫女は、その供物とされ、神龍への忠誠として扱われる。

純潔の巫女、それこそがこの儀式の要――



……まあ、ここまではよくある話だ。

ここで少し「この世界」について改めて考えてみようと思う。


この世界ではやけに……処女、童貞といった『純潔信仰』が過剰である。

これは前の世界でも覚えがある。イエス・キリストの母、マリアによる処女懐胎だ。


本来人間は性行為による子を授かるもので、これは科学的な論理とは逆転してこそいるが、

聖書では一般的な事であり、イエスを信仰する対象たらしめる「奇跡」の一つであるとされている。


この世界にもキリスト教、またはそれに順ずるものが存在するというのは、

いくつかの証拠もあり、おそらく間違いないと言っていいだろう。


しかしキリスト教が存在するからとか、そんな程度の理由でここまでの純潔信仰が起こりうるだろうか?

答えはNOだ。あくまで処女懐胎はエピソードの一つ。俺が聖騎士として圧倒的な力を振るえる理由にはなり得ないだろう。


では逆に、ここまでの加護たらしめる信仰とは。

その背景として存在する「モノ」は何か。



ここで俺は一つの仮説を立てた。

それが「女神教」の存在からくる、信仰の力だ。



以前までの戦いを振り返ってみても、「祈りを受ける」ことによって俺、または周囲が恩恵を受ける事があった。

特に聖騎士である俺には効果的に出ていたようで、バルゴ戦なんかはかなり顕著だったように感じる。



この世界では「祈り」や、「思い」が本当に力となる、恩恵となる事が前提とすれば――、

その、祈る人数、信じる人数が多ければどうだろうか?



女神教、この宗教は一大宗教であり、信仰者も多い。

それはヒナから聞いたこの世界の常識だ。

彼らが漫然と「純潔は良い事だ」と考え続ければ、それは無意識のうちの魔力となり、恩恵となるのではないか。


その純潔を裏付ける……いや、もっと正確に言うのであれば、信仰対象は純潔ではなく「貞淑」のはずだ。



ヒナが言っていた女神ペルセフォネ。この女神は有名だ。ゲームでの登場回数も多い、

ファンタジーでは比較的人気がある。ゼウスとデメテルの娘で、実りをもたらす「豊穣の女神」村人からの信仰が厚いのも当然と言えよう。


彼女にはもう一つの一面がある。



それは冥界の王。ハデスの妻であるという事。


そのエピソードから、彼女は実りをもたらす女神としてと、冥府の女主人として、冬をもたらす象徴として描かれる……。

冥府。そう。丁度、死んだ俺の魂を使えたという事実もしっかりと入ってくる。



そして……かなり意外なエピソードかもしれないが、実はこのハデス、女性の扱いに慣れていない。

弟であるゼウスはもう神話でもぶっちぎりのプレイボーイであり、冥府の王というメチャメチャかっこいい肩書きがあるが、

ペルセフォネにどうアプローチしたらええんや……と悩む無垢な一面があるのだ……。



ハデスとペルセフォネ。最初こそハデスの拉致から始まる恋愛だったが、ハデスの身の上を知り、

お互いに愛し合い、おしどり夫婦となったかと思いきや……ハデスの浮気が発覚する!


ハデスは元々神話中ではプレイボーイ要素など全くなかったのだが……色々あってコキュートス川のニュンペー(下級女神)である、

メンテーに魅了されてしまう。


その事を知ったペルセフォネ、最初のほうの略奪だったりはどこへやら、マジギレを通り越して神ギレを起こし、

なんとメンテーを雑草に変えてしまうという衝撃的なエピソードがある。


この時の呪いは……この世界では「雷撃」のような形で描かれる。

そう、村の皆が持っていたロザリオの形と一致するのだ。



どこまでこのエピソードが伝わっているかはわからないが、

少なくともこの世界では浮気をすると雷撃で雑草に変えられてしまう、という感覚があり、

浮気とはそれすなわち不貞行為。つまりセックスの事を指すという事だ。



現代の感覚とは若干違うような気もするが……まあそういう事もあるのだろう。

なんだかこの世界の女性は全体的にたくましいなあと思っていたがつまりそういう感じだ。



女神教、女神ペルセフォネの信仰にかかる、『純潔信仰』はとどのつまり「貞淑たれ」という意味合いに近く、

本来なら処女、女性だけに適用されるような加護が俺みたいな童貞にも適用されてしまった、と考えるとしっくりくる。


むしろハデスのエピソードを考えるならば、貞淑であるべきなのは女性よりも男性、女性は他の男を取ろうものなら、

雑草にされますよという感じなのか……。



確かにこの仮説であれば、30年もの間童貞を貫いた俺は「貞淑の塊」みたいな事になっており、

そもそも女性優位、積極的な女性が多いこの世界で童貞を好き好んで守る奴なんてほぼいないという事から、

かなりの希少価値になっているはずだ。道理で規格外に強いわけだよ……。



というか神話といえばプレイボーイ、英雄といえば一夫多妻くらいのイメージだったので、

ハデスがシャイボーイで浮気エピソードもメンテーくらいしかない上に雑草に変えられたの流石にかわいそう……。



ちなみに当のペルセフォネは人間の赤ん坊アドーニスにガチ恋するとかいう、

おねショタならぬ乳母ショタを展開しているので、木になった人は調べてみて欲しい。貞淑どこいった?



……さて、ここまでの仮説が正しければ、一つ気になる事がある。



「神龍、処女かどうかとか関係なくない?」問題だ。



豊穣の女神が信仰されているのはわかる。

貞淑が重んじられるのもまあわかる。

きっとどこかでエピソードがごちゃごちゃになり、適当に人々に伝わってしまったのだろう。



が、これらはあくまで人間の信仰に関する話だ。

神龍は同じように女神教を信仰しているのか?

いや、そもそも信仰しているのであれば、巫女を食べるか?という話である。



なんせ貴重な純潔、そして神の残した妖精とも呼ばれる、

エルフである。大切に育て信仰するのはわかるが、食料にする意味は微塵もないはずだ。



ここでこの世界の「不自然に元の世界と一致する点」を上げて行きたい。

まず、衣食住の文化、言語体系、服装などが中世ヨーロッパのそれであるが、

俺が使ったようないくつかの四字熟語、ことわざなどといったものが近い文化としてあった。



そして生贄文化、これも確かに、元いた世界ではあるが、それこそ大多数は東アジア、

中国や日本の文化だ。北欧ではこういった行為は行われなかった……というわけではないが、アジア諸国に比べケースが少なすぎる。

特に「巫女」を生贄に捧げるのは日本の文化だ。神事にて巫女を人身御供とする行為は、地域によっては一般的である……。



つまりここはヨーロッパであってヨーロッパではない「どこか」であるという考え方が正しい。

おそらく元いた地球と似たような歴史を刻んだパラレルワールドで、

魔力という存在が決定的な違いとしてこの歴史をゆがめたのだろう。



これらの仮説、推論から導き出される、「神龍、処女かどうかとか関係なくない?」問題の答えは、

「ぶっちゃけ食べられたらなんでもええんんちゃう?」だ。



神龍は一言も巫女を捧げろとは言っておらず、何故ここまで頑なに巫女を捧げるのかと村長に聞いた所、

過去に供物が足らず神龍が暴れたことがあったから、とのことだ。


これは不用意に神龍をたたき起こして、それで飯が足りなかっただけなのでは、と推測。

そこで俺は狩りを多めに行うことで、「子供一人分」くらいの魔物と魔核を準備したのだ。



ヴォルカニクスも言っていたが「人間は魔力を豊富に摂取できる」という事、

またヒナから聞いた、「魔族は基本、魔力を摂取して生きている」という事。



つまり神龍は、強力なドラゴンの魔族。その体躯を維持するため、魔力、食物の二つが膨大に必要であり、

儀式とは「単に冬眠から覚めるタイミング」なのではないだろうか。



村を守る神龍に対して寒冷地帯の動物みたいな言い方をするのは失礼かもしれないが、

これはこれで合っている気がする。



そしてこれらの仮説を持って――俺は供物の一つとして麓へ到着した。

一緒に運ばれたユユは完全に硬直しており、顔からは表情が消えている。


自分がどうなるのかを理解している――、いや、俺が死ぬことを恐れているようにも見える。


もしかしたらユユは、以前……自分の目の前で大切な人を失ったんだろうか。

いや、おそらくそうだろうな。



遠く、村の方から太鼓の音、笛の音が聞こえる。

完全に日本やんけと突っ込みたくなるが、この異世界を理解するのには良いパーツなのかもしれない。



地響きのような音。


魔力なれしていない俺でも感じ取ることができる、強力すぎる魔力……!



その姿が、目の前に現れる――!



一瞬、山が動いたかと錯覚するほどの体躯。

その姿はまさしく伝説のドラゴンと称するにふさわしい迫力。


圧倒的なオーラ、人間をひとのみにできてしまうほどの巨大な顎。



これが……神龍。




ぎろり、と周囲を見渡し、供物を品定めするような目を向ける。

俺達と、目が合う。



ふん、と鼻を鳴らしゆっくりと口をあけ――





   ば   く   り。




先ほどまでそこで震えていたユユと俺は、

瞬く間に龍の口へと吸い込まれていった。





……。






…………。





――――

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