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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第二章 目指すは王都グランディア
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巫女として

儀式までの間、単にダラダラしているのはどうにも性に合わず、

村の仕事を手伝うこととなった。


修道院の時もそうだが、やはりもてなされているだけでは住民とも仲良くなれず、

問題が見えてこない。

ここに着たのは偶然かもしれないが、やはり「火種」があるのではないかと引っかかっているところがある。



「―――使徒様、向こう」


「ああ」



俺には良く見えないが、ユユは魔力視認の力によって、遠方の敵、死角の敵を即座に発見することができる。

その力を使い、今は魔物狩りをしているところだ。



「そりゃッ!……外したか」


「へたくそですね」


「辛辣だな!?」



剣だけでは不便だろうと、住民から弓矢を貸してもらっているが……これがまた当たらない。

訓練で的に当てることはできるようになったのだが、やはり動く的は話が違うようだ。



「……てい」



ゆっくりとユユが手をかざし、魔力弾の様なものを狼型の魔物にぶつける。

実際の狼より大型で、牙が凶悪だ。ヴォルカニクスが「ウルフ種」と呼んでいた気がする。


魔力弾によって動きの鈍くなった魔物に、近づいて弓矢を当て、

さらに短剣で止めを刺す。綺麗に仕留める事ができた。



「ユユは無詠唱で魔法が使えるのか……、それも巫女の力か何かか?」


「……?何を言ってるです?元々魔法に詠唱はないですよ?」


「……え?」


「もしかして使徒様は、魔術の事を言ってるんですか?」


「魔術と魔法って違うの……?」


「はいです。魔法は魔力を使う事全般で……、魔術は人間が編み出した効率的な魔法の使い方です。

詠唱を行うことによって地脈や精霊の力を借りて、少ない魔力でより強力な魔法を使うことができます」


「知らなかった……」


「使徒様、本当に何も知らないんですね……ユユでさえ知っていたのに」


「ははは……面目ない」


「でも、それはそれで不思議です。ユユにもっと、他の場所の事を教えてください」


「まあそれくらいで良ければ」



ユユは知的好奇心がすごい。とにかく昨日も、ヒナやエメリアを散々質問攻めにしていたくらいだ。

やはりというか彼女は孤児であり、奴隷として密輸入されそうになっていたところで、

今回の様に船が難破、住民達に救われて、今に至るらしい。


エメリアの時との態度の違いは一体なんなんだろう……非常に気になる。

ここでは流れ着いた人間は食べるのが一般的なのではないだろうか。



「というかユユを連れ出してよかったんですか?」



と、ふと疑問に思った事を、狩りに同行してくれた村長に尋ねる。

普段は村長も出ないらしいし、ユユも出ないらしい。



「はは、確かに。普段はユユを神殿から出すのは危険でしょうからね」


「今日は大丈夫とかそういう日なんですか?」


「いえ、()()()()()()()ですよ、使徒様」


「……俺が?」


「ええ、貴方は昨日の決闘にて、あの力自慢のバルゴを一蹴した。

今、村で貴方の力を認めてない者等おりません」


「そこまでの事だったんですか……」



確かにバルゴは今まで戦った中でも強い部類に入るだろう。

しかしながら比較対象が強すぎることと、昨日は不自然なくらい強くなってしまっていたので、

何故かあっさり勝ててしまった。普段の俺なら苦戦してもおかしくはなかったはずだ。



「神殿は結界があり、安全だからあそこにいてもらっておるだけです。

結局村にも魔物が来ることはあります。とどのつまり、貴方の横、今この場所が一番安全だという事です」


「それはちょっと大げさなのでは……」


「大げさな事ではありません。何より、ユユが『行きたい』と言ったのですから。

その思いくらい、叶えてやりたいでしょう」


「なるほど」



ユユは少し照れくさそうに俺の横に隠れる。

巫女という存在は、超越した存在でありながら、村人から敬われ、大切にされているであろう事が感じられる。

しかし……この違和感はなんだろうか?ユユは村人から……、あまりにも、()()()()、接されているような……。



「そういえば、ユユ――」



最初聞きそびれた『儀式』の話を振ろうとしたとき、

ユユが珍しく大きな声を出す。



「使徒様!前ッ……走ってきてるです!」



遠くからザクザクと森を駆け抜けてくる音がしたかと思えば、

その数秒後、俺達の横を何かが掠めていった……!


とっさにユユを抱えて飛んだが、これは方向を間違ったら即死ではなかったのだろうか?

あきらかにこちらを狙ってきている……!



「気をつけろ使徒様ァ!あいつは『主』だ!」


「主……!」



森によくある、その森でもっとも強い魔物の事をよくそう呼ぶ。

運が悪かったのか、それとも俺が呼んでしまったのかはわからないが、嫌な相手と出会ってしまったようだ。




「ブルルルッ……!」




でかい……!俺の身の丈ほどもある巨大な猪。この森に似合わない図体は、

木々をなぎ倒しながら進みつつも機動力を維持するというとんでもない馬鹿力の持ち主のようだ。


村長、そして一緒に狩りに来ていた男達が武器を構える。

そうだ、こんなところでユユに傷一つでもつけたら大変だ。村人達は俺を信じてユユのわがままを聞いてくれたんだ。



「来い、デカブツ……!」


「ブルルッ!!!」



呼応するかのようにこちらに走ってくる猪。

軌道がわかっていれば当てられる!



「ブグルルルッ!!!」



放った矢は見事に猪の片目をつぶすことに成功……したが、その突進は止まらない!


躱しきれずふっとばされ、近くの木に叩きつけられる。


ダメージは……少ない、それよりも。



「ユユッ!」



俺がふっとばされたことにより、

すぐそばにいたユユは魔物の格好の的だ。なんとかこちらに意識を向けねば。



「こっちだ!来いや雑魚がッ!!」



言葉が通じないのはわかっているが、

煽りながらナイフを投げる!

刺さりはしなかったが、当たっただけですこし傷をつけられたようで、

猪がこちらに向き直り、突進の準備を始めた……!



「ブルルルッ!!!」



「使徒様……!お願いです、神様……使徒様を、守って……!」



ユユの祈りが通じたのか。

突然俺の体がほんのり光だし――力がみなぎる。


腰にすえた長剣を抜き、一閃。

真っ二つ……とまではいかなかったが、見事に猪の体を切り裂くことに成功した。



「おお……!」


「すばらしい……これが神の使徒の力」



うめき声を上げ、崩れ落ちる猪。

この馬鹿でかいの、持って帰るのだろうか……。


まず裁く前に魔核抜かないとな……そう考えていると、

腹の辺りに衝撃が走る!


まさか……次の敵か!?油断――、ではなく、

小さいエルフ。ユユが俺に抱きついていた。



「ユユ……?」


「ま、また……」


「また?」


「また、ユユの前から、いなく、なるのかって……思って……怖くて……」


「……あ」



そうだ。ユユは孤児で、ここに来る前に一度……親と離れ離れになったはずだ。

その時がどうだったかは知らない。村を焼かれたかもしれないし、

戦争をしたのかもしれない。なんにせよ、彼女にとって別れは辛いものだったのだろう。



「はは、俺は大丈夫だ。いなくなったりはしない……とはいえないけど」



ユユはこの村の巫女で、俺は旅人である。

きっとどこかで別れが来るのだろう。それは理解している。あまり期待を持たせすぎるものではない。



「大丈夫ですよ、使徒様……ユユにとって、貴方は永遠になりますよ」


「……はい?」


「さ、これを捌くのを手伝っていただけませんか、この大きさだと、男手がいくつあっても足りない」


「あっ、わかりました」



……これ、俺神への捧げ者として殺されるパターンなんじゃないのか?

そう感じ、手持ちの武器を改めて確認した。



――――



今日の一件から、ユユはすっかり俺に懐いたようである。

最初からなんとなく人懐っこく感じていたが、そういう訳ではなく、同じ神の使徒だから、という理論だかららしい。


巫女が神のお告げを聞く、『神託の儀』にも特別に参加させてもらえる事になった。

神官を名乗る村人からも、神の加護を感じると太鼓判を貰った。



「……―――」



ユユがどこの言葉かわからない言葉をぶつぶつと女神像に向けて話す。

この教会ではシンボルは十字架でなく、雷のような形をしている。

ヒナに聞いた話だが、ここのシンボルは神罰の雷、悪事を働いたものに神が落とした雷をモチーフにしており、

それを持っている事により、自分は悪事をしておらず、敵対するものは神罰が下るぞ、という事らしい。なるほど。



そうしていると、ユユが何かに耳を傾け始める。


これが神のお告げ、という奴か。実際に目にするのは始めてだ。




――愛する我が子達に、最愛の祝福と、加護を――



神の声らしきものが頭に響く。

これは巫女の力なのだろうか?こうして頭に響いてくる程となると、流石に信じざるを得ないのだろう。



――ってあれ?聞こえてますか?これ――



神様?めっちゃ口語になってますけどいいんですか?



――あっ、聞こえてますね。ソウタさん……いえ、使徒よ、私です!私!――



えっ!?待って、これ名指し!?俺!?

いや俺に女神の知り合いなんて……いる!!



「もしかして、女神様……!?」



――そうです!ああ、よかった……その様子だと、無事、竜人族の襲撃を撃退できたのですね?――



「いや、撃退というか、なんとかしたというか……?」



――魔結晶を使って人間を食べさせるのをやめたのですか?なるほど……!やはり貴方に頼んで正解でした――



「し、使徒様……もしかして、女神様と、お話してる、です……?」


「え、うん……話せるとは思わなかった」



そういえば神官もこの世にあらざるものを見る顔してるし、ユユもすごいびっくりした顔をしている。

この場はそういうものではなかったのか……!?



「ここは女神様との談話室ではないですが……お話できるならば、是非、していって欲しいです。

本来私達の仕事は女神様のお告げを聞くことで、こちらからは語り掛けられないのです」


「そうなの!?」



――そうなんですよ。人々の声を聞くことは……私達女神には造作もない事なのですが、

聞こうとすると土や虫、そしてマナや精霊の声も聞こえてしまって……――


「俺の声はなんで通じるんですか?」



――それは、一度実際に会ってお会いしたからですね。魂の色合い、魔力の波長を実際見たので覚えていますよ――


「そういうふわっとした理由なんだ……」


「後でユユにも教えて欲しいです……、使徒様、もうすぐ神託の儀が終わってしまうです」


「マジか、女神様……お告げください!」



――ああ、確かに……!再開に喜んでる場合ではありませんでした。えっと、伝えます――



「はい!」



――貴方はこのまま王都に向かい、『王都神聖騎士団』と接触してください。彼らを止めねば、戦争が始まります――



「わかりました」



――あ、あとですね、王都の周りに不穏な影があるのと……十傑の入れ替わりがあるのと……えっと、えっと――



「女神様、巻きで!色々一気に言われてもわかりません!」


「……使徒様!?女神様に対して無礼がすぎるです!?」



――そうですね、最後に、神龍と出会ったら、良くしてあげてください。彼らはずっとこの地を守ってきた、良き者達です――


「わかりました!」



――……



「あっ……」



女神様の声が聞こえなくなる。

しかし何度聞いても心が安らぐ、心地よい声をしている。



「……」



ユユ、そして神官がすごい目でこちらを見ている。

確かに話し方は雑だったかもだが仕方ないだろう時間がなかったんだ。



「……女神様の神託の話、本当だったですね」


「まだ疑ってたのかよ……」


「……いえ、数々の非礼をお許しください。なんなりと罰は受けます」


「いや、頭を上げてくれ……俺はそんな偉いものじゃないから……」


「……はいっ!貴方ならそう言ってくれると思ってたです!」



そう言うと、何故か抱きついてくるユユ。

この子、好感度一気に上がりすぎでは?



「ずいぶんと懐きましたね」



神官も同じ事を思ったらしい。



「この子は人懐っこいんですかね……?」



ユユの頭を撫でながらたずねる。

そうすると、神官は不思議そうな顔をして、返す。



「いえ。むしろ余所者に対しては嫌悪感が最初に来るような子ですから。

嬉しかったんでしょうね。神の存在をはっきりと知覚できるのは、村ではこの子だけだった。

時折お告げが我々に聞こえないのをいい事に、適当な事を言ってるのではと、心無い事を言われたこともあります」


「なるほど……」


「貴方の存在は、この子にとって、自分がおかしくなく、間違ってない事を証明するような……、そういったものなんですよ」


「ゆ、ユユは別に懐いてなんて……」



反論しようとするも、俺の服から手が離せない。

べったりとくっついた体を離そうとする気がまったく見えない。



「……使徒様は、特別です」



そう言うと俺の体に顔をくっつけ、ふんすふんすと匂いをかぎ始める。

やめてくれ。俺の服は大分ボロくなってるから……あんまりいい匂いしないから!



――――



そうして、俺はお告げで聞いた内容を、そのままユユ達に話した。

村人にもふんわりと伝えた。



「神龍……」


「ユユ、知ってるのか」


「知ってるも何も、この島の守り神であり、次の『儀式』でお供え物を捧げるお相手です」


「……マジか」



なるほど。うっかり俺がそれを知らず、強いドラゴンだ!とか言って倒してしまっていたら、

大変な事になっていたのか。


そういえばこの島、海からの侵略者みたいなものが来る気配がしない。

空や海からの侵略に対し、神龍はその存在感を持ってして村を守っているという事か。



「儀式……俺もお祈りをすればよかったんだよな。ユユもそんな感じなのか?」


「はい。ユユも……ユユもこの村の巫女として、神龍様の血肉となり、永久に島を加護します」



「……は?」


「そういえば、お話していませんでしたね。この村の巫女は、代々、数年に一度の儀式で代替わりするのです。

先代はそこで、神龍様のお供え物となります。純潔の巫女の血肉が、お供え物の一つですから」


「……お前、それって」


「しきたりらしいです。ユユはこの村にずっとお世話になってきました。怖いですけど、それが村のためになるなら」


「……ッ」



そう話すユユの目には、既に何の希望もない。

俺が神龍を倒すことができるかもしれない、という事実はあるが、今先ほど、

女神によって直々に釘を刺されたところであり、何より、神龍を殺してしまえば、

この村がこの先どうなってしまうかわからない。



「使徒様、ありがとうございます」


「ユユ……」


「ほんの数日でしたが、すごく楽しかったです。私の魂が昇華して、生まれ変わったその時は、

またお話を聞かせて欲しいです」


「…………」



覚悟を決めた少女を前にして、かける言葉は見つからなかった。






――そして、儀式の日がやってくる。

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