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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第二章 目指すは王都グランディア
19/71

ふくらみかけ牧場

先日までのざっくりとした経緯を話すと……。



ある日異世界に転移した俺は、魔族と人間族の仲介をして欲しいと言われ、

なんやかんやして竜人族との諍いを収め、修道院のトラブルをなんとかし、

戦争が始まるといわれている王都へ行き、軍の進軍を止めるため、

王都行きの船に乗ったのだが……。



「まさか怪物に襲われて船が転覆するとはなあ……」



そう、海の魔物、クラーケンに襲われ、

転覆した船から辛うじて脱出。荷物も濡れてしまってはいるが、無事は無事だ。

部屋が無かったため、すべて持ち歩いていたのが幸いした。



とっさの機転――、ヒナの『魔力の檻』こと『球檻クラウン』が無ければ、

俺は海に叩きつけられ、死んでいたかもしれない。


聖騎士の職能はあくまで「悪意」からの防御。

たとえば、先のクラーケンの攻撃は防げても、バランスを崩して、海に落ちたり、

そのまま海で溺れた時も効果があるのかは、怪しい。


以前、ヒナが俺を襲ったとき、睡眠魔法として『休息リラックス』を使ったのがその証拠だ。

後で聞いた話だが、ヒナには上位魔法である『昏睡ディープスリープ』がある。

強制的に相手を深い眠り、現代風に言うならノンレム睡眠まで落とす強力な魔法だが、

こちらは攻撃魔法に分類されている。


休息リラックス』は攻撃魔法というより、むしろ回復魔法。

緊張している体をリラックスさせ、体の疲れを一気に取る魔法だ。


これで俺が眠ってしまったのは、異世界転移であらゆる事を一気に経験し、

心身ともに強い緊張状態、要するにめちゃめちゃ疲れていたからだ。例えるなら一日中朝から晩まで肉体労働をした後に、

家に帰って布団にダイブした時に近い。あの睡魔には抗えないものがある……。



しかし、そう考えると……、やはりこの旅、ヒナがいなければ俺は早々にリタイアしていたのではないだろうか。

出会いこそ突然だが、可愛いし、いい子だし……この子、最高の相棒パートナーなんじゃないだろうか。



「ふにゃ」



なんとなくヒナの頭を撫でてやる。

めちゃくちゃ嬉しそうだ。頬ずりしながら体を寄せてくる様は、さながら飼い猫の様だ。かわいい。



「いつもありがとうな……」


「えへへ、こちらこそ?」



普段は隠している尻尾をあらわにし、ぶんぶんと振る。

しっぽを振るのが喜びの証なのだろうか。ますます猫っぽい。



さて、こんなまったりイチャラブ展開ではあるが、状況は割と危機的だ。

理由としてはまず一つ、この島には人が住んでいる。しかも多数の強力な魔力反応、

つまり敵対すれば危険であるという事。


二つ目はここが孤島らしきこと。

周囲に港のようなものは見つからず、外部から人が出入りしている可能性は低い。

そのため、現状この島からの脱出手段が無いことである。



俺達はこれから、数日間、この地の住民達に見つからないか、

見つかっても交戦せず、それでいて生き残りつつ、脱出手段を探さなければならない。


現代日本ならスマホなりなんなりを使って助けを呼ぶのがセオリーだが、

ここには何も無い。


そもそもここに人がいる事を知っているかどうかさえ怪しい。つまり外からの助けは一切期待できない。

そのため、脱出で一番可能性が高いのは「ここの住民達に協力してもらって、脱出用の船を作る」だ。

まず言葉が通じるかさえ怪しいのだが……やるしかない。



「……お兄ちゃん!しゃがんで」



何かに気づいたヒナが耳打ちする。

静かにしゃがみ、草木にまぎれて周囲を観察する。


この島は中心を森で覆われているらしい。

セオリーどおりなら、ここを抜ければ集落がある……。魔力の反応もそちらが多かったらしいので、間違いではないという事か。


おそらく住民であろう、人間の声がする。



「……アンブエ、ルドエイン?アン?」


「イズ、コムハサイエ、アンドウィン」



何語だ……!?

しかし、明らかに何かを探している、このままでは見つかる……?

そう思い、何か打開策はないかとヒナを見る――、



「……古代ルドウィン、違う、現代フィリオ語、違う、エスペラント、カイドィニ、どれも違う」



ぶつぶつと何かを言っている、

まさか、今の会話を聞いて、使ってる言語を当てる気か……!?



「……フォアイ、アインム、アンバンディア」



ガチャン、ガチャンと武器を構える音、

まずい――、これは見つかったか?



「……ジ、ジアッ!」



いきなり立ち上がり、住民達に何かを発するヒナ。



「まさか……!」



「ティミッド、イオスパラッチ……、カブヘア、リオム!」



そうヒナが宣言すると――、槍を持っていた住民達は顔を見合わせ、

不思議な表情をしている。



「……『我が思いは響き、共鳴する。《伝心エコーズ》』」



ヒナが魔法を使うと住民達は焦ったが、

特に何も起こらないため、もう一度顔を見合わせ、話し始める。



『お前達は、遭難者か?何者だ?』



ヒナが魔法を使って、俺の手を握った瞬間から、

住民達の声が翻訳されて聞こえてくる。



『はい、私達は、乗っていた船が難破し、ここに流れ着いたのです』


『なるほど。事情は理解した』


『なので――』


『しかし、事情は事情だ。我々にも事情はある』


「えっ……!?」



そういうと、彼らは槍を構え、戦闘態勢に入る。



『お前らが嘘をついていないという可能性がない。

ここで殺してしまうことが、一番の安全だ』



まずい。


ここでこの二人を撃退する事は簡単だが、

そうすると集落と完全に敵対する事になってしまう。



「……ん?」



ふと、住民達の首に、雷のようなマークの首飾りがある。

おそらくロザリオのようなものだろう。

あれがもしかしたら、突破口になるかもしれない。


「ヒナ、彼らの首をみてくれ」


「首を?」


「あれで、どこの宗派とかってわかるか?」


「……あっ!」



そう。宗教には宗派があり戒律がある。

それはこの世界に来ても同じであることははっきりと理解した。

こちらの最大宗教はキリスト教ではないらしいが、それらしきものも存在しているようだ。

そもそも十字架のシンボルや、時課というシステムがある時点で、キリスト教かそれに準ずるものはあるはずなのだ。



「女神教!あれなら……」



彼らは未知数の敵である俺達を警戒し、

まだ距離をとっている。この状況ならこちらが有利なのに変わりはない。



『控えてください、御仁。使徒の前ですよ』



ヒナが雰囲気を変え、少し強いトーンでそう話すと、

一気に二人の顔色が変わる。



『使徒だと!?ふざけるなよ、我々を侮辱する気か!』


『我々の言語を使えるから何者かと思ったが、その言葉は聞き捨てならんぞ!』



激昂する二人に、ヒナはおかまいなしといった様子で続ける。



『彼は使徒。女神ペルセフォネーより神託を受け、この世界の調停者として顕現されました』



『……戯言を!』



「そういう事か!」



男の槍が来るよりも、俺の祈りのほうが早い!

女神よ!なんかいい感じの雰囲気を与えたまえ!



『……な、何!?』



男達のロザリオが光りだす。

これは『恩恵』と呼ばれる、俺の職能による能力の一つらしい。

周囲の聖なるものに恩恵を与えるらしいが、その効能はいまいちわかっていない。



『か、神の……!?』


『ま、まさか本物の……使徒!?』



攻撃をしようとしていた男はあわてて槍を放り捨て、

平伏する。



『も、申し訳ありません……!使徒様がまさかこんな所においでなさるなど、思いもよらず……!』



めちゃくちゃ効果はばつぐんだったようだ。

何とか血を流さず、切り抜けることができたようだ。



――――



そして俺達は村に案内され、簡単な食事を振舞ってもらい、

腰を落ち着けることができた。



『それでは、村長を呼んでまいります。しばらくお待ちください』


『わかりました』



俺は全く話せないので、ヒナが全て受け答えをしてくれている。

本当にすごいな……まさかこの世界にある言語全てを把握してるわけじゃないだろうな。


とりあえず大分時代をさかのぼった古臭い建屋だが、

俺とヒナの二人きりにしてくれたという事は、警戒は解いてくれたという認識で間違いないだろうか。



「おにいちゃん」


「ん?ああ、ヒナ、さっきのは本当に助かった、ありがとうな」


「ううん、私も喋るのに必死で、ロザリオまで見えて無かったよ。ありがとね」


「いやいや、こういう時の情報といえばやっぱ宗教がらみかなと」


「その発想、どこで身につけたの……?」



この世界をいくらか冒険してきて、ここが中世ヨーロッパにほど近い文化と歴史がある事はわかった。

そうなれば、最初に勉強しておくべきなのが宗教だ。

日本人は無神論者も多く、八百万の神という文化もあるため、

祈りや信仰というものに疎い傾向があるが、海外は別だ。

特にヨーロッパはそういった側面が強く、黒い歴史もいっぱいあるくらいだ。


そういった文化をベースに動けば、突然理解できないところでキレられてぶち殺されるという展開だけは防げる。

もっとも、この世界には多くの宗教があり、どれが有名かと言われたら良くわからないレベルだが……。



「でも、結果としては最良だったと思うな。神託の調停者、あれ実際ウソじゃないから、

疑われても大概は身の潔白を証明できるしね」


「本当神の遣いでよかったわ……」



最初こそ死ぬような思いをして大変な目にあったので、

自分でやりますと言った事なのに女神様ちょっとひでえな……みたいに思ったが、

今日ほど感謝した事は無い。

また朝のお祈りの時に感謝しておこう……。



「そだ、お兄ちゃん、お兄ちゃんにもここの言葉がわかるようにしてあげるっ」


「えっ!?そんな事ができんの!?」



いくらなんでも万能すぎないかこのサキュバス。

ていうか能力の幅広さがサキュバスじゃない。異世界チートって言ったらもうどっちかというと俺じゃなくヒナでは?



「うん、サキュバスが『吸収ドレイン』で相手の魔力や能力を吸収できることは知ってる?」


「な、なんとなく……」



サキュバスといえばドレイン、というのはこちらでも変わりないようだ。



「私のはそれにアレンジを加えた『反吸収アンチ・ドレイン』。自らの血肉を糧に相手に能力を付与するもの!」


「自らの血肉を糧に!?」


「うん、だからあんまり大げさな能力の付与はできないんだ……付与した分は減っちゃって

弱くなっちゃうから、こういう知識を渡す事くらいにしか使わないんだけどね」



知識を渡す……その渡した知識はどうなるんだろうか。

なんだかすごく難しい話をしているような……。



「……『我は思い、伝えし。連綿たる知識よ、祝詞よ、我が祝福の前に答えよ《反吸収アンチ・ドレイン》』」



いきなりヒナの真下に魔法陣が発生し、ヒナの体を包み込む。

そして、微弱な光がヒナにまとわりつく。



「これでオッケー、じゃあ、お兄ちゃん」


「お、おう……噛み付いて、血とか吸うのか?」



正直、乗り気になれないが……それでここの言葉を覚えられるなら、

まあ、仕方ないのか……?という複雑な表情をしていると、ヒナが「あれ?わかってなかったっけ?」みたいな表情で服を脱ぎ始める。



「お前ッ、何やって……!?」



ぷるんっ、と、ヒナのふくらみかけの果実があらわになる。

その美しいフォルム、ふんわりとしたやわらかさは、もはや国宝と言っても過言ではない。

じゃなくて……!



「はい、あーん♪」


「え」



まるで赤子でも抱き寄せるように、俺の顔を自分の胸に持っていくヒナ。

これ、まさかお前



「ね、お兄ちゃん……はやく、垂れてきちゃう」



そういうと、ヒナの胸から母乳が――、


母乳!?え!?いやちょっと待って!?


そういう……そういう事!?



「むぐっ!?」



ヒナの胸に口を押し付けられる。

零れ落ちた母乳が、俺の口の中を緩やかな甘みで満たす。



「うまッ……」


「ひゃ、あんまり喋らないで」


「ご、ごめん」


「ん……いいこいいこ♪」


胸を咥えながら喋るのは流石におかしいと気づき、黙ってヒナの母乳を飲み始める。

……めちゃくちゃ、美味い。何だろう、喉が渇いたときの麦茶というか、

幼き日に飲んだ濃い目のカルピスというか……とにかく、永久に飲みたくなるほどの味だ。

そうやってヒナの母乳を味わい、数分が経った頃、ヒナはすっごいえっちな顔をして、惚けていた。



「……ぁ、おわった?」


「ご、ごちそうさまです……」


「んー♪いえいえ。おそまつさまです?だっけ?」



めちゃめちゃ楽しそうである……。というか心なしか元気になっている。

俺の息子も当然元気になってしまったが、気合でねじ伏せた。

今はまだ立てない。すみません、ねじ伏せられませんでした。



「お兄ちゃん、反吸収がなくても、いつでも飲んでいいからね!」


「うぐっ……え、遠慮しておく!」


「えー!」



またイチャイチャしていると、村人が俺を呼びにきた。

どうやら長老のところに案内してくれるらしい。



――――



「使徒、という話は本当か」



単刀直入である。


長老は思っていたとおりの怖そうなおじいさんで、割と屈強な体をしていた。



「もし貴殿が使徒であれば、この無礼を詫びる。最後に一つだけ、試させて欲しい。あれを持て」



無事村人とも話せるようになったので、

大分会話がスムーズだ。さっきまではヒナに代弁してもらわないと何も喋れなかったし、手をつないでないといけないのも厳しい。

しかし試す、というのは一体……。



そういうと、奥のほうから馬かが連れられてくる。

こんなところに馬?移動でもするのか?と考えていたが……それは違った。

幼い少女に手綱を引かれてきたのは――、一角獣の獣だった。



「……ユニコーン!」



やはりその名はこちらでも有名らしい。

純潔の乙女にのみ懐くという、要するにすっげえ処女厨の獣だ。



「この獣は、純潔であるものにしか懐かぬ。

貴殿が真に純潔かどうか、見極めさせてもらおう」



待って欲しい、ユニコーンは伝説だと処女だけだ。

男が触っても平気なのか……?


しかし、今ここで断る雰囲気ではない。

一か八か、やるしかない……!



そうして俺が触りにいこうとした時、

なんと、ユニコーンのほうから俺に擦り寄ってきたのである。



「ブルッ……」



まるで「忠誠を誓いますよ、といわんばかりに、俺にすりより、頭を垂れるユニコーン。

その姿に、村長や村人達は大きな驚きを隠しきれないでいる」



「ま、まさか……本当に!?」


「あ、ありえない……齢30はこえているはず!」


「30をすぎても純潔……!?そんな人間がいたのか」



えっ


待って、何これ?



横を見るとヒナが「ふふん!!うちのお兄ちゃんはすごいんですよ!」みたいな表情をしているが、

これは全くすごいことではない。めちゃくちゃ恥だし辛いので、正直もう終わって欲しい。




「申し訳ありません!貴方様の力を試すような事を……!」



突然平伏する村長。やめてくれ、辛くなるからやめてくれ。



「い、いやたいしたことじゃありませんよ」


「ご謙遜なさらずに。聖騎士として30年もの長い間、禁欲を貫いた。

それは生半可なものではたどり着けぬ領域。御身こそ本物の使途である!」


「これは……宴の準備だ!」


「宴会だ!『儀式』は近いが、すこしなら構わんだろう!酒の準備だ!」



口々に騒ぎ立てる村人達。

あの、泣いていい?何で30まで童貞だったことをこんなにほじくられなきゃいけないのか???

俺が何かした?なにもしなかったからこうなった?うんそうだね!


まった、それよか今の……、


「儀式?」


「『儀式』についてはまたお話します。

まずは我が村の『巫女』とお会い頂きたい」



巫女……、

そうか、宗教があればそりゃ巫女もいるよな……。どういう子なのだろう。

もしかしたらめっちゃ美少女……普通にありえるが、期待してブスが出てきたときのハードルが高い。

落としてから行こう。



そして俺達は、巫女がいるとされる『神殿』と呼ばれる場所へ向かった。

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