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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第二章 目指すは王都グランディア
18/71

船と庶民

――出立の日。



想像してたよりも三ヶ月程早かったが、思いのほか準備に時間はかからなかった。


結局家賃は余裕で支払う事ができ、学校というコンテンツによって市長とのパイプを手に入れた修道院にとっては、

地元の地主など敵ではなかったという事だ。


そんな事よりも……。





「ぶぇぇ……ひっ……もう、いっちゃう、のぉ……?」



ボロ泣きしながら裾を掴んでくるミルフィ……。



「ミルフィ……そんなに引き止めては迷惑だろう」



すっ、と手を出すユーリイ。

流石お兄ちゃん的立ち位置なだけあるな。



「でもウィードさん……心変わりしてやっぱりここに残りたいと言うなら今のうちですよ。

ミルフィがこんなに悲しんでますよ……」



前言撤回まで2秒かからなかったわ……お前……さわやか聖騎士キャラどこいった。

帰って来い。



「……ミルフィ」


「……ふぁ」



後ろからそっとミルフィにハグするシスター。



「貴方はこの2週間でとっても逞しくなりましたね。お裁縫も上手になって、

子供達に勉強も教えられて、酒場で働く事までできるようになるとは思ってませんでしたよ」


「……」


「今の貴方なら、ウィードさん達がいなくても、修道院のために頑張って……、

いつか二人が帰ってきたとき、すてきな修道院でお迎えができますよね」



気づけば、ミルフィの手は俺の裾から離れていた。



「……はい、シスター!わたびっ、私は強い子なので、

えがっ、笑顔でお見送りがでぎます!」



まだ若干涙目だが、ずいぶんと元気になったみたいだ。



「…………死なないでね」



ずっと黙っていたシーナが、一言、搾り出すように。



「また美味い酒でも持って来るよ。その時は飲み明かそう」



ぐっ、と拳を付き合わせる。

名残惜しいが、そろそろ時間だ。


見えなくなるまでずっと手を振ってくれた皆を見ながら、船は王都に向けて出発した。




――――




「意外と狭くて汚いんだな……」


「まーねぇ……王都についてから掃除するって聞いたし」



王都への定期便、というだけあって中々でかくて概観が豪華な船である。

しかしながら、一部の特別待遇を除き、乗客は雑魚寝、部屋も無いという割とプライベートに欠ける待遇だ。

てっきり一人一部屋あるものかと思っていたのだが……。



「それでも空いてる方なんじゃないの?割と場所空いてるみたいだし」



確かに。ごちゃごちゃしている割には一部空いているところがある。

俺もキャンセル待ちで乗れたようなものだから、逆にキャンセル客が出たからなのだろう。



「おお?兄ちゃん達知らねえのか?今日は大時化の話があったから、

結構次の便まで待つって奴が多かったんだぜ。それでも決行する船長にゃ中々度肝を抜かれたがな」



知らないおっさんが丁寧に教えてくれた。

なるほど。そういう背景もあるのか……。



甲板は割と広く、談笑する人々で溢れかえっていた。

そこにいる人は様々で、身分が違うだろう事はもちろんの事、人種も違うであろう人がちらほら見かけられる。



「うさ耳……獣人か!」


「あれ?お兄ちゃんの世界にも獣人って概念があったの?

てっきり人しかいないと思ってたけど……」


「いや、その通りっちゃその通りなんだけどな。創作で出てきたんだよ。

漫画とかではよくあるんだよ」


「想像力が豊かなんだね……あと獣人って本人達に言っちゃダメだよ。割と蔑称みたいなものだし」


「うっ……助かる……なんて呼ぶのがいいんだ?」


「あそこの子だと兎人とか……最近は『進化人』とも呼ぶらしいね」


「『進化人……文字通り、人から進化した存在、って事か」


「そそ、ベースは人間なんだけど、魔族とかと交配したり、後天的に魔族になったり……色々かな」



後天的な魔族とかいるのか……、ていうか魔族と人間が交配するとかそんなのあるのか。

夢が広がるな……いや俺はできないけどさぁ。



「ふと思ったんだけど……ニアドロイアとかと比べて……人間以外の種族多くないか?」



竜人族と一緒に旅こそしていたが、基本村や町には人間が多かった。

王都への定期便があるリーサイドでもあまり見かけなかった。



「王都はね、亜種への差別が少ないの。割と実力主義な所があるから」



なるほど。だからこぞって王都に行きたがる……という事か。

聞いた話だが、王都には学校もあれば銀行もあると聞いたので、割と先進国って感じなのだろうか。

電車とか車ないかな~……とちょっと期待してしまう。



「まあ私も殆ど行った事ないから伝聞なんだけど……」


「王都こそ色々あるんじゃないのか?図書館とか……」


「確かにその通りなんだけど、あそこ結界強くて……入りにくいの」




忘れてた。


こいつそういえば……アレじゃん、魔王軍幹部、魔人十傑、『惑わし』のリーゼフォンじゃん。

人間軍からすれば敵もいい所、倒すべき仇敵……そりゃ総本山は入れないわな……。



「って、待った、これから王都行くけど大丈夫なのか?」


「だってお兄ちゃんが手を繋いでてくれるでしょ?」


「は?いや、そりゃ手繋がないと迷子になるかも……いやそういう話じゃなくて」


「そういう話なんだよ。難しいかもだけど」


「はい……?」


「かいつまんで話すけど、お兄ちゃんと手を繋いでいる間、私は『眷属』として扱われるの。

お兄ちゃんが神の信託を受けた、使徒とか、そういう立ち位置で、私はそれに付き従う……ありていに言うと手下みたいな」


「何その設定……初耳なんだけど」


「私も初めて話すよこんなの……女神から直々に信託もらって世界救いに来るの相当レアだからね?

自分の立ち位置ちゃんとわかってる?」




知らなかった……。


いや異世界チートって大体なんかすごいってのは知ってたけど、

今回みたいなゆるい奴でそんな重要なポジションだったとは……。




「ない、ないっ、ない~~!!!」



ふと、少し離れたところから女の子のわめき声が聞こえてくる。


声の主は狼の頭をした屈強な兵士と、硬そうな鎧に身を包んだ屈強な兵士に庇護されているように見える。


明るめの茶髪にゆるくウェーブがかかっており、着ている服は一見してわかるくらいに豪華だ。

きっといい所の子だろう。



「ロザリオがないの!ねえ!ヴォルフ!見なかった!?」


「お嬢様、落ち着いて……我々が探しますので」



ヴォルフと呼ばれた狼人が、あわてて周囲を探し始める。

余程大事なものなのだろう。手伝ってあげよう。そう思い周囲を見渡す。



「丁度いいじゃん、加護、使ってみたら?」


「へ?」



ヒナからの良くわからない提案に、思わず「?」となる。



「神の加護を得ている聖騎士はね、周囲に恩恵を与えることができるの。

例えば私を眷属にして、光の加護を与えてくれたりね。ためしに神に祈りを捧げてみて?」


「その加護で王都の結界を突破する感じなのか。祈り?うーん……」



神様……なんか女の子が困ってるみたいです。

助けてあげたいんですけど……うまいことしてください。



これでいいのか……?



祈りっぽいポーズをして、女神様にお願い事をしてみる。

すると――、



「あ、あれじゃない?探し物のロザリオ」



ふと、何かが光っているのが見える。

これが『恩恵』って奴なのだろうか。



「そ、近くにある聖なるものに、自らの加護を分け与えるの。

神の加護を直接貰った人しかできない芸当だからね」


「何気にすごいな……俺が神の使いってバレたらやばいんじゃ」


「大丈夫。この世界自称・神の使いが死ぬほどいるから。今さらだよ」



すごく納得した。

そういう感じなんだな。そういえばいたわ。日本でも、神の声が聞こえますとかいうやつめっちゃ胡散臭かったわ。




そしてロザリオを拾って……女の子にわたッ



ガチン!



「貴様、何者だ、お嬢様に何か用か」



こええ~……。

狼人はいきなり手元に出した槍で俺を威嚇する。



「い、いやこのロザリオ……探し物かなと」


「あーーーっ!!!」



俺の手からロザリオをひったくる。



「……どうやって見つけたの!?やるわね庶民!褒めてあげるわ!

褒美として私の配下にしてあげてもよくってよ?」



そういう感じのキャラ!?



「すまない、人間、すこし早とちりがすぎた……。

お嬢様、その物言いはあまりよくないですよ」



狼人のほうがむしろ丁寧だった。めっちゃ紳士的やん。

見た目で男は皆狼みたいに思ってごめんな。


そして横の甲冑はマジで喋らんな……こわ。



「ごめんなさい庶民の方、お気を悪くなさらないで?

私の失せ物を見つけたのだから、光栄に思いなさい?」



しずしずと謝る女の子。

丁寧なのか失礼なのか……。でも顔はかわいい。年齢はシーナたちより少し下、13歳くらいだろうか。

見た目年齢だけならむしろヒナのほうが近いのか。



「お褒めに預かり恐縮です。お嬢様。

貴方様のお役に立てた事、この身に余る光栄です」



と、こんな感じでいいのかな?



「まあ!庶民にしては礼儀がなってる!気に入ったわ!

ねえヴォルフ、これ、騎士団に入れましょうよ!」


「お嬢様、騎士団はそういう感じで増えるものではありません」


「ええ……ケチなのね?」


「お嬢様、そういう言葉をどこで覚えてきたのですか……?」


「うふふ、レディーに詮索は野暮よ?」



小生意気だが可愛く、それでいてしっかりとした教養があるようだ。

やはりいい所のお嬢様は違うな~……なんてニヤニヤしていたらヒナにめっちゃ足をつねられた。

びっくりする程痛い。




「……ッ!お嬢様!」


「――、お兄ちゃん!」



狼人とヒナ、その二人が「何か」に気づき、

声をかけた瞬間、あたりが突然暗くなる。



そして雨が降り出し、雷鳴が聞こえる。

風が強くなる。



「ヒナ、これは……」


「呼んじゃったみたいだね、構えて」



「お嬢様、ガングの後ろに!」


「う、うん!」




剣を構え、あたりを見回す。

乗客たちは突然の雨にあわて、船内へ非難する。




「……まずい」


「え?何が――」




そういうが早いか、俺の前の()()()()()()()()()()()()

ギリギリのところで加護が働き、

俺は後ろに吹っ飛ぶだけで済んだ。しかし。



「船底をやられた……クラーケンかッ!」



その言葉に答えるがかごとく、現れたのはばかでかい烏賊の魔物――!

RPGおなじみ、クラーケンだ。



「おにいちゃん!この勝負は私達の負け!

なるべく被害を抑えなきゃ!」


「負けって、何でだよ、あのイカを倒せば――」


「下!」


「あっ」




そう――今の一撃は船を貫通していた。

徐々に水が船に入り込み、浸水している!



「やべえなこれ、乗客も……」


「ガング!お嬢様にスフィアだ!奴を倒し、この船から逃げるぞ!」



ガングと呼ばれた甲冑は無言で頷き、お嬢様に魔法をかける。

お嬢様はわたわたとあわてるだけで、何が起きているのかわかっていないようだ。




しかしあのイカ……出てきてからあんまり動いてない?

何か、たくらんでいるような……




『―――κύμαΕίναι』



……え?

今の声、音、は……。



「お兄ちゃん!伏せて!『閉じ込めよ球体よ!《球檻クラウン》』!!」



がちゃん!と魔力の檻ができて、俺とヒナを閉じ込める。

いや!?こっちじゃなくない!?敵を閉じ込めないと……!





違った。



その瞬間、俺は転覆する船を見た。


ヒナのとっさの判断が無ければ、海にたたきつけられていたであろう自分達の代わりに、

藻屑と消える木箱を見た。




「うおおおおーーーーッ!?」





俺達を入れた球体は……一気に海を駆け巡る!





――――





「……な、なんとか」


「逃げれたな……」



船ごと強襲されるという大ピンチを経験しながら、すっごい気持ち悪くて吐いた意外にダメージはほぼなかった。

やはりこれが歴戦を生き抜いてきたサキュバスの知恵……。



「お兄ちゃん大丈夫?怪我してない……」



心配してくれる顔もかわいい……。



「ありがとう、しかしこれからどうすっかな……」


「まずはここがどこか、だよね……」






――そう。俺達はあのあと流され続け、


未知の島へ漂着していたのだ。




「流石のヒナでも知らないか……」


「ここ、地図にも載ってなかったような気がするよ……」





俺達は、果たして王都に辿り着けるのか……。

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