月明かりの下でひもぱんを
……先日までのあらすじ。
竜人族と和解して、ロリサキュバスと旅して、
ヤンデレサイコパスの金髪美少年騎士にボコボコにされてます。
人間とは思えないような引きつった笑みを浮かべる彼は、
おおよそいつものユーリイとはかけ離れていた。
俺が知っているユーリイと言えば、真面目で堅物、正義感が強く、仲間思いで、
時々変な方向につっぱしってしまう、愛すべきタイプの主人公という感じだ。
しかし今の彼はどうだろう。恩人とも呼べる俺をひたすらに痛めつけ、
本気で足を折ろうと執拗に狙ってくる。狂った、というよりも明確な理由があるのだが……。
「食事は俺が運びますし、シーナやミルフィも体を拭いたり、甲斐甲斐しくお世話してくれると思います。
暇なときはずっとシスターがお話に付き合ってくれると思いますよ」
人間らしからぬ笑みを浮かべた彼は、ゆっくりとそれでいてスキのない動きで俺に近づいてくる。
先ほどから距離をとってばかりいるせいで、後ろはもう壁、これ以上こちらには逃げられないし、
逃げてもおそらく、無駄だ。
こいつはここで倒さねばならない。
そうしないと何度だって立ち上がり、俺をここに留めようとしてくるだろう。
ならばそれは俺が止める。
むしろそのために俺はここにいるといってもいい。
剣を構えなおし、走る。
そして剣を大きく振りかぶり――、まっすぐに斬りつける!
「バカ正直すぎますよ!」
もちろん読まれている。あっさりと俺の剣は空を切り、
横っ腹に剣の腹を思い切りぶつけられる。
――と、ここまで俺の予想通りだ。
「……なっ!?」
横っ腹にぶつけられるのはめちゃくちゃ痛かったが、
痛いだけだ。別に骨が折れたわけじゃない。こんなときのためのインナーアーマーだ。
ユーリイの剣をつかみ、自分の剣を逆手に持ち直す。
体を抜く暇を与えず、ユーリイの手を柄部分で殴打する!
「が……はっ!?」
あまりの激痛に思わず手を緩めるユーリイ、そこで素早く剣を奪い取り、
持ち直した剣を首に突きつける。
「勝負あり、ってところか」
いや本当はぜんぜん勝負ありではない。
真剣ならカッコついたかもしれないがこれは木剣で、
そもそも真剣なら俺の体は数等分され、おそらくは修道院の皆で仲良く分けられるくらいになってしまうだろう。
しかしこういうのは雰囲気が大事なので、「勝ったぞ???」みたいなドヤ顔でユーリイを見る。
「ぐっ……」
よし、ちゃんとイケてるな。ここでユーリイがパンチとキック主体の肉弾戦をスタートしたらどうしようかと思ってた。
マジでまともにやって勝てる気がしない相手だからな……。こう、何かお前に足りないのは心だ見たいな展開にして有耶無耶にするしかないっていうか……。
「……俺の負けです。すみません、こんな事に付きあわせて」
「いや……お前も、思うところがあったんだろ」
なんとか和解をする事に成功したようだ。
これで安心して眠れる。
「実は……ずっと迷ってたんです。これを渡すことを」
そういって差し出してくるのは一つのチケット。
王都行き……と書かれている。
これは……まさか?
「明日の出航、不在者が出たみたいです。僕は酒場で働いてたので……都合よく乗船券を入手できました」
「ユーリイ!お前……!」
優しすぎる……!やっぱり根はいい子だったんだ!
お兄さん嬉しい!
「でも、そんな急ぐことなかったのに。俺は別に3ヵ月後でも……」
「騎士団が動き出しました」
「え?」
「酒場で聞いてしまったんです。王都神聖騎士団が、魔王軍討伐に向けて軍を進めることを」
「な……!?」
王都神聖騎士団――。聞いたことがある。魔王軍が警戒する、俺と同じ『聖騎士』達で構成された、
対魔族決戦兵器とも呼べる集団だ。
その実力はさることながら、なによりも魔族に対しての決定的なまでの強さから、
王都では最強との呼び名も高い。
彼らが動く、という事は人間もいよいよ本気だという事だ。
「ウィードさんは戦争を止めるために旅をしてる、って聞きました。
それならこの進軍は早めに止めなければまずいと思ったんです」
確かに。既に魔族と人族の確執は止められないところまで来ているが、
これは戦いの火蓋を切って落とすようなもの。王都が魔人十傑の一人でも打ち倒せば、そこで戦争が始まる。
「――止めないと。ありがとう、ユーリイ」
「……いえ。お別れは寂しいですけど、無事戦争を止められたら、またきて下さい。
王都からの定期便で来れるので、次は三ヵ月後くらいですかね」
そんなあっさり戦争とめて帰ってこれたら流石に話が早すぎるが、
まあそれはそれでできたらいいよね……という感じだ。
確かに修道院ではお世話になったし、また用事がなくとも顔出しはしたい
というか平和になったらここに住みたい。
そうして俺はユーリイと別れ、明日の準備をするべく部屋に戻った。
ヒナに明日出発する事を伝え、荷物を纏める。
魔結晶はかなりの金額を今回換金して使ったはずなのだが、まだ割りと残っていて重い。
明日の乗船で邪魔にならないといいが……。
そんな事を考えつつ、俺は眠りについた。
――――
そして朝――、ではない。夜だ。
寝つきが悪かったようには思えないが、どうしてか起きてしまったらしい。
ずしり、と感じる重み。これは自分の腹の上に何かが乗っているという事だろう。
この部屋は俺とヒナの二人しかいない。ヒナのやつめ、ダメと言ったのに俺の布団に潜り込んできたという事か。
「ヒナ、とりあえず自分の布団に――」
「ごめんね、起こしちゃったよね」
え?
聞こえた声は、ヒナのそれとは違うが、
聞き覚えのある声――。だんだんと、目が慣れてきて、月明かりに照らされた彼女はえへへと笑う。
「おはよう、ウィード。……来ちゃった」
「まだ深夜だぞ……シーナ」
薄っぺらいネグリジェに包まれた彼女の体は、
殆ど線が浮き出ており、下着を着けていないことを理解するには十分だった。
流石にパンツは履いていると思うが、この世界でのパンツはヒモパンが一般的という、
どうしてか扇情的な世界観であるのだ……。
「明日、行くんでしょ。お見送り……なんだけど、少し気が早かったかな」
気が早いどころではない。まだどっぷり深夜だ。
まあ実際のところ、体感4~5時から起き出してお祈りする生活も慣れてきたので、
日の出と同時に起きるという事を考えれば、あと数時間という所なのだろうが……。
「実は、欲しいものがあってね」
「欲しいもの?」
「うん、それで……ウィードにお願いできない、かなって」
ずいぶんと可愛らしい事を言う。
最初はうっせーボケカス死ねみたいな口調だった子が、ここまで可愛らしくなったのは本当に良く頑張ったと自分を褒めたい。
間違いなくこの世界における俺の功績と言えるだろう。
「ああ、いいぞ、ただし、俺にできる範囲でな。あんまり高いものとかは買えないぞ」
「大丈夫、お金のかかるものじゃないから……」
そういいつつごそごそと何かをするシーナ。
暗がりでよく見えないがこれは……えっ、まさか。
ぱさり。と俺の顔にに布が置かれる。
「――赤ちゃんが、欲しいの」
俺の顔の上に置かれたそれは、まごうことなき、下着、パンツ、着衣物……!
ほんのりとシーナの暖かさ、女の子の匂いが漂い、さらになんかこう……しっとりしている!?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ!?どういう――」
「えっ?ウィードなら流石に意味はわかるよね……?これが、欲しいの」
そういって俺の息子に下半身を押し付けるシーナ。
忘れていた、この子はそうだ……そういう子だった!?
「だっ、ダメだシーナ、女の子がそんな簡単に……!」
気持ちは嬉しい。俺もこの世界では合法といわれる15歳の女の子を存分に味わいつくしたい。
そりゃ合法な上に向こうからウェルカムなんて状況は俺の30年を探してもどこにもなかったのだ。
しかし――、今は、今だけは状況が悪い。
「簡単、じゃないよ」
そう語るシーナの表情は、暗くてよく見えなかったものの、真剣そのものに感じた。
「迷惑になるんじゃないかって……、行くべきじゃないって……思った。
でも、ユーリイから話を聞いて、明日、もう、行っちゃうって……」
「……」
搾り出すように言葉を紡ぐシーナに、どう返していいかわからなくなってしまう。
彼女はここまで、勇気を振り絞ってきてくれたのだ。
それに返さないのは……男として、人としてどうなのか?
これはロリコンどうこうではない……男として、プライドのもんだ……、
じゃなくて!
現在の俺は聖騎士、つまり童貞を捨てることがそのままゲームオーバーにつながるのだ。
それ故童貞は捨てられない、それ故ここで子供は作れない、そう説明しようとすると、
ぐっ と口をふさがれる。
「……ぷぁ」
甘ったるいシーナの唾液の味が、まだ舌に残るようだ。
俺の下半身に当てられたそれが、ほのかに湿ってきている事が何となくわかる。
こ、これは……耐えられ、ない?
「……ね、しよ?」
「……っ!」
ダメだ、この魅力……っていうかこれ『魅了』入ってないか!?
頭がくらくらしてきた、これは、もう……!
「ぴぴーっ、離れてください、お兄ちゃん独占禁止法に抵触しました」
――俺の相棒の声がした。それにしても、
この現代風な言い回し……。ずいぶん俺の記憶を見てきたらしいな。
「ひっ……ヒナちゃん!?起きてたの!?」
「ごめんねシーナちゃん。実は最初入ってきた時……もっと正確に言えばドアの前で、
『いける、大丈夫……うん!今日の私、かわいい!』って自分を鼓舞してた時から見てた」
「ああああああああっ!!?」
シーナが恥ずかしさのあまりへたり込んでいる……。
俺の胸に顔をくっつけないで。胸も当たってる。
「シーナちゃんを邪魔したくはなかったんだけど……流石にお兄ちゃんも危なかったし、うん……」
「ふぐうう~~……」
シーナがぷるぷるしている……。
「シーナちゃん、お兄ちゃんは『聖騎士』なの。この意味が……わかる?」
「聖騎士、それってユーリイと同じ……!」
「そう」
待ってさっきから王都神聖騎士団とかユーリイとか聖騎士多すぎない?
そんなもんなの?この世界そんな感じなの?俺の価値?
「でもウィードは今年で30歳ってこの前……」
「――そう」
いや待って、俺の童貞暦ほじくるのやめない?そしてシーナは下着を着けよう?
「……そんな、30歳まで純潔を貫けるなんて、そんな強い意思を」
「そうなの。私も信じられないけど、お兄ちゃんは本当に、30年間、
女の子との繋がり、なんならこんな触れ合いもなく過ごしてきたの。
信じられないかもしれないけど、事実なの」
「……ッ!」
絶句するほど?
泣いていい?
「ごめん、ウィードがそんな大変な人生を歩んできたなんて、あたし、知らなくて……」
待って?この世界での童貞そんな難しいの?
ていうか童貞ってそんな感じの扱いなの?マジ?
異世界来て始めての元の世界ではこんなの当たり前でしたよ俺TUEEEがこんな事で……?
もっと技術的な事とかそういうのが良かった……。
「い、いや別にいいよ……大したことじゃないし」
「……!」
その言葉にはっと口を押さえ、涙ぐむシーナ。
いや待って?そんな?何かこれ俺がすごい辛かったけど無理したみたいになってない?
「……部屋に、戻るね、あと、あとね、もし、その、
旅が終わって、力を使わなくて良くなったら」
ベッドから降りるシーナ。無論ノーパンだ。
パンツは俺の顔の上にある。
「その時は……あたしに……その、貴方のを、ちょうだい?」
そういい残すと、さっと部屋を出るシーナ。
困る。今のは……困る。お前、そういうキャラじゃなかったじゃん。
そんないじらしい感じではなかったじゃん……。
一発シコってから寝るか、と息子に手を伸ばしかけたその時、
じぃぃ……と凝視する相棒の姿。
で、できねぇ……。
俺の禁欲生活がもう一日延長される事になったようだ……。