小悪魔系年上妹ヒナちゃん
異世界に来て改めて実感した事がある。
前回の靴擦れ、腰を痛める件もそうだが……、この世界で一人は「寂しい」という事だ。
割と生き延びるのに必死だったことから、ヴォルカニクスとの魔結晶探索まではその場のノリで来てしまったが、
あの後一人で依頼をこなすことに不安がなかったと言えば嘘になる。
なんというか、話し相手がいてくれるだけでもずいぶん違う。
それが可愛い女の子ならなおさらだ。
「ふ~ん、お兄ちゃんはそんな感じでこの世界に来たんだ……」
にこにこしながら俺の話を聞き、時折俺の質問に答えるリーゼフォン。
演技……とは思えない、無邪気な子供のように楽しそうだ。
「さっきからすごい楽しそうだな……そんなに面白いか?」
「うん!面白い!それもあるんだけど……」
「それも?」
「私、ずっと一人だったからさ。お屋敷にいた頃はいろんな魔人達がいて、
それも楽しかったんだけど、サキュバスとして独り立ちして、冒険者を屠ったり、十傑になってからは……うん」
そういえば、こいつ以外のサキュバスっているのだろうか。
魔王軍でもこういうのは確かにイレギュラーなんだな、と理解できる。
「お兄ちゃんはさ、私と同じ『異端者』だからさ」
「『異端者』……」
「そ。本当の意味で、仲間ができたーって感じがするの。いつも結局、部下か、上司か、同僚って感じだもん。
命令系統を円滑にするための会話はあっても、そこに心は介在してなかったんじゃないかな」
幼い顔をして中々達観した意見を……いけない。忘れていたがこいつは2000歳、大分目上だった。
「そうか、忘れてたけどずいぶん俺より年上……敬語とか使ったほ」
「だめ!!!」
くい気味である。
「だめったらだめ!お兄ちゃんはお兄ちゃんなの!妹にするみたいにして!
できる限り甘やかして、大事なところで叱って、そしていざという時はかっこよく守って!」
「指示が具体的だな!?」
絶対何かの影響を受けている。
少女マンガ……はないとして、伝奇か何かだろうか?
この時代は活版印刷の技術が発達しているのは見てわかるので、伝記や小説があってもおかしくはないな。
「わかったわかった。妹みたいな感じで扱うよ」
こんな感じがいいのか?と頭を撫でてやると、ふにゃっとした表情になる。
「うぇへへ……もっと……」
かわいい……。
「あ、そういえば」
「なぁに?」
「お前の事、なんて呼べばいい?恐らくリーゼフォンだと十傑である事がわかってしまうから……あだ名でも」
「うーん、十傑って事がバレるのはいいんだけど、確かにリーゼフォンだと他人行儀だよね。家名だし……そうだ!
じゃ、真名を伝えるよ!」
「真名!?いいのか!?ていうかそっちこそ普段呼びしていいのか!?」
「確かに真名だと普段呼び難しいから……あだ名で呼んで!私の真名は『ヒナルティア・クォーツ・リーゼフォン』
お父様から賜った、由緒正しき自慢の名前なの!」
名前を聞くといよいよお嬢様感が強くなってくる……本当にいいとこのお嬢様なんだな。
「真名は流石に言っちゃまずいから、『ヒナ』って呼んで!」
「一気に小さい女の子感が……!?」
ヒナちゃん……!少女にありがちな名前トップテンに入るレベルじゃないだろうか……。
まあ響きが可愛いのでよしとするか。
「お兄ちゃんは大丈夫だと思うけど、私の真名は喋らないようにしてね!
実はこれバレちゃうと、無理やり使役されちゃうこともあるから……!」
なんだそのエロ同人御用達みたいな設定は。
強制主従とかとことんスケベブックに向いてるな……。
「他の種族は知らないけど、サキュバスにとって真名は唯一絶対。動きを封じられて、
額に向けて強い魔力を注がれながら、『契約』を使われて、そこで真名を言われると、
もう私の力では二度と解呪できなくなっちゃうの。だから気をつけてね!」
「そこまで詳しく説明する必要があったのか……!?」
いやそこまで聞いてしまったら、俺はいつでも従わせる事ができると、いう事に……。
「うん。だってお兄ちゃんになら、いつでも従うよ?連れて行ってくれるなら、下僕でもなんでもいいもん。
結局『契約』は距離が離れると無効化する系統の呪文だから、一緒じゃないと意味ないしね」
そこまでか……。
最初は罠を警戒していたものの、もうここまで来ると信じてもいいのかもしれない。
先ほどの真名に関しても嘘ではなさそうで、理由としては、真名を宣言した瞬間、
明らかに魔力が上昇したのを感じ取ったからだ。いわゆる真名解放って奴だろうか。本気モードで使うんだな、あれ。
しかし先ほどから呪文や解呪等、色々な知識がすらすら出てくる。流石この世界に精通していると言うだけある。
そういえば、一つ気になっていたことがある。
「なあ、転移魔法ってないのか?空間転移みたいな奴」
「転移魔法……?」
「えっと、場所と場所を繋いで一気に移動する、みたいな……」
「ごめん、意味はわかるんだけど……お兄ちゃんが、どうして?」
「へ?だってあると便利じゃん」
「…………ぷふっ」
「何で笑った……!?」
「お兄ちゃん面白いね!転移魔法は神代の領域、私達普通の魔人じゃ絶対に無理だよ~。
逆にお兄ちゃん、その言い草だと転移魔法の可能性を信じてる?」
「いや、俺の世界だとこう……ファンタジーではあるあるだったんだよな」
「そっちの世界だと、転移ができたの?」
「うーん、転移ができた、っていうとヘンだけど……すごく早い乗り物があったなあ。
時速800kmとかのすごい奴。飛行機って言うんだけど。ドラゴンみたいなもんか?」
「ど、ドラゴンを普通の人間が乗り回してたの……?ひこーきっていうの?」
「ああいや、それは速さの話で、馬がざっくり40kmくらいだから……、えっと、馬の20倍くらい早い乗り物があるんだ」
「馬の20倍!?……確かに、それだとワイバーンとかが近そうだね……。しかも空飛べるの?
いいなあ、便利そうだなあ……私もそっちの世界がよかった」
「ああ、いいところだぞ。基本的には安全だし、なんというか、生き死にを心配しなくていい」
「へえ、素敵だね……いつか、行ってみたいな」
「もし俺が……元の世界に戻れる事があったら、一緒に行けたらいいなあ」
「うん!約束ー!」
ふ、と小指に暖かいものを感じる。
「これは……?」
「ん?『願いの指輪』だよ。お兄ちゃんは……そっか、魔力がないところから来たんだっけ。
こっちでよくやるおまじないなの」
「へえ、そんな文化が」
「うん、大切なお願いをするとき、相手の右手小指に魔力のわっかを作ってあげるの。
すぐ消えちゃうんだけどね」
所謂、ピンキーリングって奴か。確かに、現代でも願いとか、そういう意味合いだった気がする。
こういう俗文化も面白いものがあるな。
「……お兄ちゃん、止まって」
いきなり、目つきが鋭くなる。
まさか。
「敵……そこっ!」
詠唱もなしに、手元で発生させた魔力の風を思い切り放る。
遅れて飛び出てきた、凶暴化した植物の魔物に命中する!
「ギュギゲッ!?」
魔物も、いきなり何が起きたかわからず、魔核が転がり落ちる。
とてとてと魔物のところへ向かい、魔核を回収。封をして皮袋にしまう。
「ん、いこっ」
「お前……めちゃくちゃ強かったんだな」
「え、こんなの強いのうちに入らないよ。言ったかも知れないけど、
私、多分十傑でも弱っちい方だよ?強いのはヴォルカニクスとかああいうのを言うの」
いやヴォルカニクスが強いのは知ってる。
やっぱりあいつ強かったんだな……。
「私の強みはサキュバスとしての職能、『魅了』とか『困惑』だね。
それだけなら他の十傑にも引けを取らないというか……そういう戦いならまず、負けないかな」
あの凶悪な魔人十傑に対して「負けない」宣言をするという事は、
余程自信があるという事なのだろう。
しかしながら、これだけ個性の強い面々が集まる魔人十傑というのは、
全員揃ったらどれだけすごいのだろうか……。正直、もう勝てる気はしていない。
逆に、冒険開始から既に、2人は味方になってくれそうなので、
これはもう、魔人十傑を全員仲間にする方向性で動いた方が早いのでは……?
そうこう話しているうちに、馬車の発着場へ付いた。
一旦ニアドロイアへ戻り、準備を整え、今後の方向性について話していきたい。
もっとも、俺はというとこの世界について何も知らないので、
ヒナの知識便りみたいなところがあるのだが……。
――――
「戦争の火種……まためんどくさいの探してるんだね」
「自分でも厄介ごとに巻き込まれたのは自覚している……」
宿屋にて。今後の動きを決めるため、まずは俺の目的について話していた。
「火種なんてそこらじゅうにあるからなあ……お兄ちゃんが言ってた人間を食料にする文化もそーだし、
なんなら逆もしかりだしね~……」
「確かになあ。どこから解決していけばいいのか……」
「手っ取り早いのは王都じゃない?」
「王都」
「うん。王都グランディア。かなりの国力を持つ一大国家。私達魔族が警戒する場所のひとつ」
「そういうのを待ってた……!」
「あとはお兄ちゃんが行けば勝手に問題が起きるからちょうどいいね!」
「むしろ行かないほうがよくない!?」
「いいんじゃないの?いずれ発生する脅威だと思うし、先に叩いておけば」
「決まりだ、じゃあ近いうちに王都に出発するか」
「ここからだと定期便のある町まで移動する必要があるよ」
「定期便?」
「うん。船で行くからね。王都は」
なるほど。馬車で定期便のある町まで移動して、そこから船での移動か……冒険っぽくなってきた。
「なら馬の手配からかな。もう買っちゃったほうが早いね。お兄ちゃん、乗馬の経験は?」
「……ないです」
「……しばらく練習しよっか」
かくして、王都へ向かうという目的は決まったものの……先は長そうである。




