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なんか色々出てきた

『 05 なんか色々出てきた? 』



魔法とは本当に便利なものだと思います。

あのうず高く無秩序に積み上がった荷物の山が、汗水たらしてヒィヒィ言いながら運んだ荷物の山が、今は綺麗さっぱり姿を消しているのですから。

今は石畳に薄く積もった砂と埃を、浅田先輩が大団扇で扇いで吹き飛ばしています。


「南野先輩、あの団扇って先輩が?」

「ん? 俺じゃないぞ」


都合よく現れた大団扇にてっきり南野先輩の魔法かと思えば違うようです。

祭りの大団扇には季節はずれですが運んできた荷物の中にあったのでしょうか?


荷物が消えたことで見つかった物があります。

あきらかに俺達が運んできた物とは違う物が次々見つかったんです。

出てきた物は鈍く鉄色の輝きを見せる鎧兜に刀剣類。

それがこの建物の大広間の中央に、山となって重なっていた荷物の下に埋もれていたんです。

小場、南野、白鳥、楠木といった先輩達がこれを念入りに見定めます。

先輩達が班長たちと何かを話します。

するとそれに班長達も頷き、皆に聞こえる大声が響き渡りました。


「みんな集まれ~」


高橋班長の大声に集配セールスドライバー運行(大型ドライバー)関係無く皆が集まってきます。

そうして集まったところで今度は永倉班長が、皆に注目の眼を向け声に出しました。


「ここにあるような鎧兜に刀、他にも指輪や貴金属類、とにかく我々が持ってきた物では無い物、それらを例のなんたらポケットに収納していたならみな出してけろ。この事態さ究明するのに必要だから皆協力さしてけろ」


その言葉に顔色を変えた人たちを永倉、高橋班長が睨みつけます。

若返った顔で睨まれるのもなんか微妙です。

素直にこの世界のアイテムを幾人かが出していくと、睨まれた人達も仕方がないな、と隠していた荷物を出し始めます。

すると出てくる出てくる、鎧兜に刀はもちろん、金貨銀貨に宝飾類まで次々出てきました。

みんな意地汚いです。でもきっとまだ何処かに隠していますよ、きっと。


すると先ほどの四人の先輩達が中心となって武器防具を揃えていきます。

先輩が動いているのに見ているだけでは拙いと、手伝うついでにこの事について聞けば、どうやら人数を割り出す為との事。

人数? それってこの建物に、この鎧兜を着けていた人達が居たってことですか? でも死体は無かったし、武器防具だけ置くにもこの場所には向かないような…。

鎧は金属片が取れてバラバラな状態。

とてもじゃないが復元できないので胸当てだけを頼りに数が判るようにします。

刀はなぜか鞘が無く、余った金属片は一箇所にまとめて山にしました。

一見してゴミ山ですが、いずれも錆などは無く最近まで使われていたような鈍い光沢を纏っています。


疑問を感じながら作業を続けていけばその作業も終わりを迎えました。

かなりの数があります。鎧兜は60人分を超えているでしょうか。

防具と武器の数が微妙に合わないけど、これはやはりまだ誰か隠し持っている人がいるのだと思う。

金貨銀貨宝飾品も小さな山ができるほどあるけど、それを入れる袋が無いのはどうしたことだろう。


「みんな、もう隠し持ってねが? 浅田くーん、確かキミはなにも出していないようだけど、持ってるならはよ出して」


若返った永倉班長の顔が体の大きくなった浅田先輩にそう迫ります。

ちなみに浅田先輩はブリーフ一丁の姿から前掛け姿になっています。

あれだけ荷物があっても着られる服が見つからないそうです。

その浅田先輩が顔を赤らめると視線をずらして恥ずかしげに小さく言葉に出しました。


「お、おれ、例の収納の魔法まだ使えないから」


その言葉に同じ路線のメンバーよりプッと噴出す声が聞こえました。

浅田先輩がそれに敏感に反応すると声をあげます。


「今笑ったの誰よ? 絞めてやるからちょっとその顔出しな!」


もちろんそれに応じて進み出る者などいません。

皆シラを切ると浅田先輩の顔を生暖かく眺めています。




建物とその周辺に残されていた品々、それを見る斉藤が悩んでいます。

宝飾品をその手にボソボソと呟いています。


「このティアラはきっとこの国の姫様のもの。召喚した勇者を説得するためにこの場に居たのだと思う…。他の鎧兜はきっとその護衛、でも魔法使いの杖が見当たらない。宮廷魔術師抜きで、姫様だけで召喚を行った? いや、強大な力を持つ姫巫女が召喚を行う話はけっこうあるはず、おかしくはないか…」

「ところでこれらの持ち主は何処へ消えたんだ? 死んだにしても死体も残ってないなんて、有り得ないよな」

「先輩、この鎧兜って誰かが着てたんですか?」

「ああ、見つけた時の様子を考えたなら、それが一番しっくりきそうなんだよな」


そう疑問が高橋班長の口から飛び出します。

南野先輩の口振りでは多くの鎧兜がまるで着用者が倒れたような状態で見つかったそうな。


「しかしこの鎧には共通して欠損部分がある。装甲を固定する為の留め具があるはずだが、それがどの鎧にも付いてない。金属だけを残したかのようなこの状態では着用は無理かと」

「まさか金属を残してスライムに溶かされたとか?」


小場先輩と斉藤が考えを出し合います。

でも真相はどうにも判らないといった風ですね。




荷物が消え床が綺麗になると途端に服と体の汚れが目立ち始めます。

水のボトルで顔は拭いてはいますがそれだけです。

するとやはり気になっていたのだと思う。先輩達の一部が集まり、外に面している石柱の傍に一列に並ぶと始めましたよ。


「せんぱーい、イキマスヨー。本当にいいんですねー?」

「いけっ、白鳥。構わんからブチかませ!」

「うっひょうう!」


先輩たちパねえっす。

もう水の魔法を使いこなしてますよ。

洗車をするみたいにウォータージェット洗浄です。

魔法の水だから乾かす必要もないですよ。もちろん俺もその列に加わりました。

そうしたら洗浄の列に若返った大先輩達も並びだしたんです。


「おぅ、頼むわ」


そう言い、背中を見せる相手に先に洗浄を終えた白鳥、斉藤に加えて小場、楠木といった先輩達が練習がてらに水の魔法を放っていきます。

練習を積んだからなのか、先ほどの火事の時よりもあきらかに水流が強いです。


「うおおお! ちょっと、強い…」

「いだだだだ、痛いよ! おまえら、ワザとやって、うばっ!」

「やめ…、もっとやさしく…、考えてやってくれよぉ」


川上さん、近藤さんが悲鳴をあげます。

その脇で変な泣き言言ってるのは現業※の小滝さん? 若返っている為、声を聞くまで誰だかわかりませんでしたが、あの時ホームに居た人が皆居るみたいです。(※現業 ホーム上で荷物の整理を受け持つ役割)

文句を言い出したその顔に水が集中します。

上からは大きな水球が形を崩して降ってきます。

大先輩達は一挙に濡れ鼠。文句を言いかけた浅田先輩の毛髪とパンツに水流が集中すると…。

浅田先輩が怒った!


「おめぇらしつけぇぞ!」


手を振り上げ、振り向く浅田…、のパンツが破けた。Pーックビッツ、ぷっ。

股間を女々しく押さえた浅田先輩が先輩達に一歩踏み出すと、蜘蛛の子を散らすように先輩達が逃げていきます。

若返った大先輩を交えてキャッキャと水遊びする姿は冷静になってみると妙なものがあります。

見た目は大体同じぐらいなんですけど、なんかなぁ…。


走り疲れ、立ち止まって荒い息を吐く浅田先輩に南野、小場の二人の先輩が近寄っていきます。

浅田先輩は黙って二人を睨む風。

その浅田先輩に南野先輩が何か畳んだ布のようなものを渡そうとすると浅田先輩が睨みながら言いました。


「なんだよ、それ」

「ふんどし。いつまでも一物振り回したままじゃ拙いだろうと思ってさ」

「ふんどしだぁ! てめぇふざけんな!!」

「せっかく用意してきてやったのに、その言い方っちゃねぇべ!」


浅田先輩の物言いに南野先輩が切れかけます。

その横に立つ小場先輩は冷めた目で二人のやりとりを眺めていますが、その小場先輩が言いました。


「不要なようなら戻りますが」

「そうだな! 要らぬおせっかいだったようだしな!」


そう言い二人が戻りかければ途端に浅田先輩が下手にでました。


「あ、待った。言葉が悪かったのは謝るからちょっと待ってくれ」


その言葉に立ち止まり、浅田先輩を見る二人の様子は冷ややかなもの。

浅田先輩はその二人に手を合わせると拝むように色々何かを語りかけていますが…。

結局ふんどしを使うようです。


「おう浅田! マワシか、いいな! どれちょっと貸してみろ」


長く伸ばした濃紺色のふんどし、それに気づいた大先輩達がニヤけた顔で寄ってくると、なにやら締め方についてアレコレと口を出してきます。

その言葉に従い浅田先輩がふんどしの一端を肩に乗せるように押さえると、大先輩の川上さんと小滝さんがなにやら色々解説しながら浅田先輩の股間にふんどしを回していきます。


「ちょいと此処で押さえていてくれ」

「ん、こうだか」


尻の上を小滝さんが指示通りに押さえます。

腰周りを一周した布をその押さえた箇所で中に通して折り返すとぐるっと一回巻きつけ仮止めをする。それが出来たなら、最初に肩に乗せていた一方をまた股間に通して後ろでぐるぐると…。


「そうじゃね、こうだよ」

「ん? 違うのか。ここをこうして」

「あ~、もう。貸してみろ」


船頭多くして船山を登る。

アレコレと幾人かが口出ししながら上手くいかぬと何度かやり直しをすると、それでもなんとか様になるものが出来上がったようです。

絞めあがったふんどしの上に荷作業で使う前掛けを付けると川上さんがパンッと尻を叩きました。

笑みを浮かべた顔が言います。


「よし出来上がったぞ。相撲取り一丁あがりだ」

「どれ、その長ったらしい髪の毛も縛っちまうべ」


大先輩達に囲まれた浅田先輩は借りてきた猫のように大人しい。

その顔には嫌がる素振りが見えますが、それでも結局逃げ出せずにいるとついにはポニーテイルのようなチョンマゲ姿が出来上がりました。

纏めてもなお長い髪、それを「切るべ」と誰かが言い出すと途端に浅田先輩が暴れ始めます。

どうやらどうでも髪の毛は切らせないつもり。

イヤイヤをするように振り払うと立ち上がり様逃げ出してしまいました。


「おーい、飯にすんべよー」


ふんどし騒ぎが終わるのを待ちかねたようにそう声が掛かりました。

向こうで上尾先輩が手を振っています。

時計を見れば12時をもう過ぎていました。

昼前までに上がるという目標はなんとか達成できていたようです、ただし見知らぬ場所でですが…。


「飯だ飯だ、飯にすんべ」


そう大先輩達がさわぎながらゾロゾロと移動を始めます。

俺もそれに混じって金魚の糞、後ろを付いていきました。


昼飯はパンでした。

適当に取ってくれ、との声に箱の中から菓子パンを二つ掴み出します。

クロワッサンにデニッシュ、名古屋から運んできた品です。

その隣に行儀良く並ぶ豆乳パックをひとつ手に取ります。

これは豊橋支店でよく出る品。それらを抱えて逃げ出そうとすれば、


「おーい、唐沢ー何処いくんだー」


と名指しで呼ばれてしまいました。

少し赤い顔をした上尾先輩が、来い! とばかりに手を振っています。

仕方無しに先輩の傍へと向かいました。


ブルーシートの上に段ボールを敷いて作られた席には酒と肴が用意されていました。

京都支店から出る日本酒、一升瓶がデンデン! と何本も置かれ、横浜支店の臭~い輸入漬物や魚の缶詰に肴の乾物数種他、ポテチやビール缶も並んでいますが昼飯というよりもどう見ても野外での飲み会の用意です。


「先輩~、これいいんですか」


荷物の片付けは一段落しましたが、それだけです。

まだまだやることはあるんじゃないかと、そもそも顧客の荷物に手を付けてしまっていいのかと心配になってそう訊ねましたが、先輩達の返事はそんなものはどうでもいいとばかりの開き直ったものです。


「いいんだ~、どうとでもなれだよ。それに止めようたってもう止められるもんじゃないぜ」


そう言うと上尾先輩がシートに座る大先輩達に視線を移しました。

20代後半から30代前半の姿に若返ったどこか見覚えのある顔立ちが、良く知る訛り言葉を交わしながらオヤジっぽく酒盛りを始める姿は妙な違和感を覚えます。

しかし外面はどうあれアレの中身はオヤジ達、人生に疲れた酒飲み達です。

その唯一の楽しみを奪うことは俺なんかじゃ到底無理。

たとえ小場先輩が正論で挑もうとも、「なに固ぇこと言ってんだよ」の一言で無視されることは想像に難くはありません。

上尾先輩が此処に座れと自分の隣をポンと叩きます。

もうこうなっては逃げられないと観念してその隣に腰を下ろそうとしたその時、俺は視線の隅になんとかしてくれそうな相手を見つけると彼に振り向き、救いの手を思いっきり目で求めました。

パンを取りに来た南野先輩が俺に気づきます。

俺の情けない顔と、となりの上尾先輩という組み合わせにおそらく気づいてくれたんだと思います。

笑みを浮かべてこちらへ近づいて来てくれますが、するとほろ酔い加減の上尾先輩が彼に声を掛けました。


「おう、丁度良かった。おめぇもこっち来て飲みなよ。なに? 尻が冷えると痔に障るからダメだぁ~? まぁ、そういう事じゃ仕方ねぇな…」


ああ! せっかくの助け舟が水平線に消えていく…。

南野先輩はポテチと缶詰を手にするとそのまま向こうへといってしまいました。


「じゃあ飲もうか。まずは駆けつけ三杯な」


そう言うと上尾先輩が酒のメーカーロゴの入ったグラスに日本酒を注いできます。

あまり日本酒は好きじゃないと言っても、せっかくだから飲め! 美味いぞ! と全然話が通じません。


「俺が飲み方教えてやっから。まずは肴を舐めるように一口、そしたらすぐに酒を迎えに行く。さぁやってみろ」


仕方なく言われた通りにやってみました。

そしたら確かに思っていたよりは美味いと感じましたよ。

そしたら「イケる口だね」などとなんやかんや言われて色々チマチマと別の肴の組み合わせを試しながら空き腹に本当に駆けつけ三杯ですよ。

もう俺ダメです…。


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