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アレってそうなの? 

『 04 アレってそうなの? 』




先例が重なれば信じがたい現象も可能と思えてくるのでしょう。

年甲斐も無くそこかしこで呪文を唱え続けると一人、また一人と魔法が成功していきます。

その一人に俺もなった瞬間、「アチチ!」と俺はやっと指先から出した小さな炎を熱さのあまりに振り消していました。

その様子に皆が笑い声をあげます。

赤く軽度のやけどをした指先を俺は思わず口に咥えていると、若返った顔の永倉班長が声をかけてきます。


「いやぁ若い子はたいしたもんだ。皆次々成功してる」


そう言い自分も炎を出そうと挑戦する班長ですが、同じように呪文を唱えるものの反応もなくさっぱりな様子です。


「いったい何が違うんだべな~」


すると先ほど思いがけなく幻術を成功させた小場先輩が声を掛けてきます。


「班長、真似ではなく彼の言葉通りイメージが重要なようです。正確な呪文、正確な動作ではなく、起こしたいと願う現象の姿を意思で形作る、それが秘訣のようです」


そう言うと小場先輩が小さな炎の魔法を、しかも指先から10cmほど離れた場所に出して見せます。


「ちょ、先輩! それどうやるんですか!?」

「なに、簡単だよ。チャッカ〇ンだ」


チャッ〇マン。先輩が言うには、石油ストーブに火をつけるあのロングノズルのライターをイメージすればできるとのことですが…。

試してみました。


「出来た!」


先ほどのように指先ではなく、すこし間を空けて小さな炎を出すのに成功しましたよ!

先輩パネェっす。あざーす。

練習の為消してもう一度やってみれば、今度も難なく成功!

その様子を横から永倉班長がうらやましそうに見つめています。

班長も試しますがこの方法でもできないようです。


「なしてかな~」

「ならば今度はマッチを擦る動作をイメージしてみるとか」


小場先輩が悩む姿の班長にそう助言をすると、今度は動作は見せずに黙って班長を見守っています。

永倉班長が意を決めたように頷きます。

そしてパントマイムをするようにマッチを擦る動作をしてみせますがやはり何の反応もありません。

小場先輩がなにやら考える風。すると横から声が。


「出来た」


声の主は南野先輩、その彼は手にロングノーズのライターを持ち火を燈しています。

その南野先輩を見て永倉班長がため息をつきました。


「そりゃ本物のライター使えば火は点くわな」


その言葉に南野先輩は黙ってニヒルな笑みを浮かべています。

すると先輩はそのライターを自分のポケットに仕舞うと掌を上に向け開いて見せます。

何も無い掌、ところがその上にポンッとオイルライターが現れた!

先輩がライターのキャップを開くとシュボッっと火を点けます。

カシンッと蓋を閉じて火を消しまた開いて燈す。

今度はフッと息で火を吹き消すつもりが吹き消せずに蓋を閉じて火を消すとそのオイルライターを永倉班長に手渡しました。

永倉班長はライターの触感を確かめ「はあ~」と感心したように息を吐くと一言。


「こっただ事も出きるんだか~」

「逆に俺は火だけってのはできないですよ」

「それはひょっとして召喚というやつなのか? 例えばだが、冷えたビールを出すことは可能か?」

「ビールか、どれ試してみっか」


小場先輩の注文に南野先輩が意識を集中します。

皆が注目するその目の前で、先輩はその掌の上にパッと一本、水滴の付いた500サイズのビールを出してみせました。

ホレ、と差し出すその缶を小場先輩が受け取り言います。


「よく冷えてる」


先輩は缶ビールのラベルや底面の記載をよく確かめていくと納得がいったのかプルトップを開け匂いを確かめそれに口を着けます。

ゴクゴクと中身を飲み干していきます。その姿を見つめる南野先輩が、


「どうよ?」


と訊ねれば、


「うん、美味い。味も変わらない、本物だ」


と小場先輩も満足げに返事を返します。


「おめさんら昼間っから、俺にも一本だしてくれ」

「あ、先輩俺にも一本」

「ん~、仕方ねぇなぁ」


南野先輩の奢りのビールを飲みながらの練習となりました。




「班長、キツネ火出してくださいよ、キツネ火」

「キツネ火っておまえ人を妖怪扱いして、ホントこいつらは…。おっ、出来た!」


永倉班長の顔がどこかキツネを連想させることにちなんでそう冗談が出れば、なんと本人はその通りに魔法を成功させてしまいました。

班長の目の前に浮かぶ火の玉は、俺が出す小さな火とは違ってマジもんの浮かぶ火の玉。

きっと適度なアルコールが効いたんだと思う。酒で本性が出たんだな。


気の合う者気の合わぬ者それぞれ集まり不可思議な魔法という未知の技術を手探りで練習していく。

そんな時に騒ぎは起こりました。


「火事だぁー!」


唐突に響く大声に振り向けば黒い煙と炎が見えます。

メラメラと荷物が燃えていますよ!


「消火器持ってこーい!」

「水は無いかー! 火を消せー!」


火災の現場に皆が集まってきますが、誰も肝心の消火器を持っていません!

ペットボトルの水を振り掛けている人もいますが一坪ほどにも広がった強い炎にはその程度の水では焼け石に水です。

火の魔法を練習するなら先に水の魔法をマスターするべきだったんだ。

そんな今更な事を考えていれば、たぶん同じ事を考えていたのでしょう、燃え盛る炎に向け何人かが必死に指を向け「消化!」「水!」「ウォーター」などと叫んでます。


元の世界ならこのまま大火事になったと思う。

でも此処は本当に魔法の世界でした。

なんと上尾先輩の掌から水が迸ります!

水圧の低い水道ホースから庭に水を撒く程度の水量しかないですがそれは確かに火の中へと注がれ、火が弱まるかと思えばボワンと燃え上がった!?

先輩! それ水じゃ無いんじゃ…。

本人もそれに気づいたのか魔法を止めると大きく口を開けた驚いた顔で唖然としてる。あっ、今度は白鳥の手から水球が飛んでいった。

他にも何人かが水の魔法に成功しますが、勢いが足りずに足元をジャビジャビ濡らしている…。


結局火事は南野先輩の消火器が止めをさしました。

どうやら無事鎮火した様子。

薄桃色の消化剤に覆われた火元に近づけば焦げ臭い匂いに混じって酒臭い匂いがします。

勿体無い、火事になるまえに掘り出しておけば良かった。


火は一旦おさまったもののいつまでも白く煙は出続けています。

水の魔法を覚えた一応先輩である白鳥が定期的に水をかけていますが、なにやら妙な、なぜか直ぐに乾いてしまうように見えるのですが気のせいでしょうか?

すると同じ疑問にぶつかったんだと思う。小場先輩が水の魔法を使った人たちに紙コップを差し出し何かをする様子が。

眺めていれば疑問が氷解しました。

水の魔法を使った白鳥と斉藤が紙コップに注いだ水ですが、時間が立つとこれが綺麗に消えてしまう、もう跡形も無く。

逆に上尾先輩の方はいつまで経ってもコップの中に水が残っています。


「先輩、飲んでみてください」


そう言い差し出された紙コップを上尾先輩が不審な顔で受け取るとまず匂いを嗅ぎますが、その顔がまるで何かに気が付いたようにハッとしました。

差し出した小場先輩がなぜか笑っています。

それにつられて上尾先輩も苦笑いしながら口を付けると声に出しました。


「酒だこれ! それも大分強いぞ、焼酎の原酒か?」


すると小場先輩が別の紙コップを上尾先輩に差し出します。


「先輩、今度はビールを強く念じながら出してください」

「ん、わかった。ビールビールと…」


上尾先輩の指先からジョボジョボと黄金色の液体が紙コップに注がれていきます。

先輩、それ紙コップだと変なモノを想像してしまいますよ。

紙コップ一杯泡を浮かべて丁度溜まると小場先輩はそれを自分で飲もうとして、途中で止めると笑顔で白鳥に差出します。


「味見よろしく」

「えーー! なんすかそれ、ちょっと見た目的に微妙なんスけど」


これは流石に白鳥が嫌がりました。

なんやかんやと言い訳し断り続けていますが、小場先輩に一睨みされると逃げ切れぬと悟ったのか目を強く瞑って一気にそれを飲み干していきます。

でもその顔が途中から緩んだ。むしろ美味そうに見えます。


「うっす、先輩ゴチになりました。でもできればもう一杯」


そう言って紙コップを差し出した白鳥のことを上尾先輩が驚いた顔で見ていますが、やはり本人も心配だったんだろうなぁ。

苦笑いしてまた紙コップに注いでるけど、でもなんかアレは自分嫌です。


この後も皆で集まって水の魔法の研究をしましたが、どうやら水の魔法には二種類あるようです。

時間とともに消える魔法といつまでも水が残る魔法。

その事についてあの斉藤から注意事項を言われましたが、要するに魔法でできた水を飲むときには消えない方を飲めという話らしい。

そりゃそうだ。飲んだつもりの水が消えてしまったら喉の渇きが収まる筈もない。

でもそんな事を考えていたら変な事を思いつきました。もし上尾先輩の酒の魔法が時間とともに消えるタイプの魔法だったら…。

いやそれ二次会三次会どころかエンドレスの飲み会になりかねませんよね、むしろコッチで良かったのかな。



魔法の練習が飽きることなく続いています。

炎の魔法をいつまで経っても覚えられない者、新たな魔法に挑む者、それらを眺めながら酒盛りする者、色々居ります。

そんな中、集配の斉藤が新しく覚えた重要な技を見せると言い出しました。

皆の注目を受けるその目の前で、なんと彼は荷物を次々消してゆくではありませんか!


「き、消えたぞ!」

「光学迷彩か?」

「転送系の魔法?」


何人かがそう声に出しました。でも斉藤はそれに「少し違う」と答えます。


「これはアイテムボックスです」


アイテムボックス、その言葉に白鳥が声に出しました。


「あー! あのRPGなんかでポーションとか道具類を99個まで溜め込めるやつ!」


その説明で何人かはピンと来たようですが、古株を中心に何がなんだか判らない、といった様子。

かく言う俺もRPGはあまり手を出していなかった為よくわかりません。

すると小場先輩が疑問を口にしました。


「あれは魔法だったのか? ただの鞄をゲームの仕様として解釈したものかと思っていたが」


それに斉藤は首を横に振ると「違います」と堂々答えます。


「ただのカバンに99個もテントが入るのはおかしいです。ポーションだけならまだしもハイポーション、エリクサー、うちでのこづち、フェニックスの尾と複数種類を限界まで収めたなら当然人の運べる大きさではまとまるはずがありません。それに別のゲームではカバンではなく影に収容するものもありまして…」


彼はそう知らない人にはまるで判らない話を続けています。


「要するに亜空間に魔法という手段を用いて大きな倉庫を作り出していると。しかし其処への出し入れ方法が転送だとイメージが掴みにくいのではないかな。しかも複数の魔法を同時に操り維持するのは我々初心者には難しそうだが」

「イメージすれば可能です。だから実際やって見せましたし、僕が出来るのだから皆さんもやればきっとできるはずです」


斉藤はそう言うと、再び目の前の荷物をポンポンと消していきます。

そして「さあ」と、見ている我々にもそれをやってみせろと言うのですが。


「結局この魔法って収納の魔法なのか? でもいったい何処にしまってるのよ?」


そう上尾先輩より疑問の声があがりました。

やっぱり先輩たちわかっていません。

斉藤はそれに、


「そうです、収納の魔法です。しまう場所は亜空間です」


と真顔で答えるのですが、その答えに上尾先輩はじめ幾人かの者達は意味が判らん、といった顔をかわらず続けています。

ホント想像しにくいですよね~。すると小場先輩が代わりにアイデアを出してくれました。


「×次元ポケット、と言い換えれば理解できると思います」


その言葉に「ド〇えもんかよ!」と皆の口から声が迸りますが、どうやらその一言で皆さん判ったようです。もちろん俺もです。

論より証拠、とばかりに各人が制服のポケット、あるいは前掛けのポケットに意識を集中します。

脳裏に描いたあのTVの中の活躍の記憶、それを強くイメージし、魔法は理屈じゃない! とばかりに奇跡の技を作り出すべくウンウン唸っています。


「よっしゃー!」


早くも一人が成功しました。

到底入りそうも無い荷物が形を歪め小さなポケットの中に納まってゆく様は実際この目で見ると驚きを飛び越え奇妙な感動さえ覚えます。

実例を目にしイメージ力が増したのか成功する人が次々増えていきます。

そしてかく言う俺もなんとか成功! 

先に成功した先輩のポケットの中に広がる異次元空間を見せてもらい、出し入れのコツを聞いているうちに俺にもなんとなくですが出来てしまいました。そう出来てしまったものは仕方が無いです。


成功した人達が面白がって次々床に散らばる荷物を収納していきます。恐ろしいことに二時間もかからないうちに山高く重なり散らかっていたあの荷物が全部片付いてしまいました。

その光景に、


「こんな便利な魔法があるなんて…」


と永倉班長が甚く感動していますが長く運送業を勤めていた人ならばなおさらだろうな、と思いました。


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