夢の中?
『 02 夢の中? 』
「皆が何事もなく普通に暮らせたならいいな」
「ああ、怪我なく健康に暮らせたらそれでいいや」
そんな声を聞いたような気がして、俺はその声のする方に眼をやります。
声の主は長倉班長に高橋班長でしょうか。
ふたりともそんな言葉を光り輝く相手に話しています。
するとその横からも声が上がりました。
「二人とも欲が無いな~。俺ならこうだな。パチンコで大当たりしますように!」
近藤先輩はそう言うと最後に手を合わせて光を拝みます。
先輩パチンコ以外に楽しみ無いんでしょうか?
その言葉に反応して課長の三浦さんが言います。
「近藤! お前結婚したんだし、いい加減にしたらどうなんだ? そんなんじゃ過労死するまで働いたって追いつかないぞ」
なにやら課長の説教が始まりそうな様子ですが近藤さんは余ほどに好きなのかその口からぼやきがこぼれてきます。
「それやめたらいったい何を楽しみに生きていけばいいのよ…」
すると今度は横から上尾先輩が声を上げました。
「楽しみっていったら酒と女だろ。女達侍らせて浴びるほど酒を飲みたいな~」
その言葉にぷっ、と何人かが噴出しました。
予想どおりの言葉を聴いた、という顔をしています。
その皆の様子に何かを言いたそうな上尾先輩を大先輩たちが笑顔で肩を叩きながら押し出すと光に告げます。
「オラゆっくり休みてぇだ」
「ああ、のんびり釣りでもしたいな」
小滝さんに川上さんです。その気持ちよく判ります、長時間労働ですものねー。たまの休みだけじゃ疲れとれないっすよ。
見知った会社の同僚達が次々光る人型に願いを告げていきます。
「女にもてたい」
この願いは白鳥。うん、わかりますわかります。小柄で痩せ型眼鏡の彼の風貌は例えるならば旧日本兵、これじゃあ女にもてるはずがないですよねぇ~。
「俺はこうだな。もっと大ーーきな体が欲しい。髪の毛もワッサワッサするほど欲しい」
これはあのチビでハゲな浅田先輩。体全体で願いをそう表現するとすかさず横から声が飛びました。
「願い事はひとつだろ! 欲張りだなぁ」
上尾先輩がそう浅田先輩に注意すると、浅田先輩も言い返します。お互いに言い合いになりました。
「おめえだって女と酒のふたつ言ったじゃねえか!」
「酒に女は付きものだろうよ~」
よくわかりませんがまあ確かにそうなのかもしれませんね。
浅田先輩は伺うように人型の光へとその顔を向けます。
光は何も応えません。
でもその様子に浅田先輩はこれを是と見たのか右手を高く上へと突き出し「やっりぃ!」と喜びの声を上げています。
この影響か、願い事も少しだけインフレ気味になったようです。
楠木先輩が腕時計を見つめながら悩む風に言いました。
「時計も欲しいけど背伸びしなくて済むように身長も欲しい」
そういえば先輩、上の方の荷物を降ろすときに背伸びだけでは足りずに台車に乗ったりして苦労してましたものね。
でも、身長と腕時計を同列に比べ悩むというのはどうなのでしょうか?
「銃や大砲撃ちまくりたい」
このぶっそうな願い事は南野先輩。そういや先輩イスラムゲリラが使ってるような車乗ってますもんね。しかも元自だし。
すると今度は名前を知らない若手の人がキョロキョロと辺りを見回し誰も願い事を言わないことを確かめると光に向かって言いました。
「ふっふっふ、みなさん良くわかっていないようですね。こういう場合には一点豪華主義! というわけで、ファンタジー世界で活躍できるチート能力ですよ! ふふふ、さて何にしようか…」
ワケガワカリマセン…。まあ、おそらくこれは夢か何かでしょうから判らないのも当然かも。でも夢と判ればそろそろ夢から覚めるのかな? 今度は小場先輩が声に出しました。
「いたずら好きなQに対抗できる力を」
先輩の言ってる意味がわかりません。
先輩はそのまま光をみつめていましたが再び先輩が言いました。
「ならば可能な範囲でそれに準じた力を」
叶わない願いもあるということでしょうか?
でも今度は大丈夫そうです。そして次は、うげえ! 支店長だよ! その支店長さんが一歩光へ歩み出ると言いました。
「立身出世」
うん、とてもわかりやすいですね。
そのように様子を見ていると、皆が振り向き俺のことを見つめます。
残りはお前一人だ、さっさと願い事を言え! と言う事ですね。
願い事願い事…、何を願えばいいのでしょうか。
夢の中でのわけのわからない願い事暴露合戦。
願い事と言っても皆さん本気で願い事をしていないような…。
まぁ髪の毛とかマジな人も居るようですがね。
さて、この場の空気を読んで目覚める前に何か願い事を唱えなけりゃならないようですが、さて…。