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昭和ネタですか?

『 17 昭和ネタですか? 』




魔法万歳!


再び元の木阿弥とばかりに散らかりまくった荷物ですが、小場先輩が例の収納の魔法を使ってまたたくまに整頓し直してくれました。


もうここまでくると唖然として見守るしかできません。

労働力なにそれ? な世界です。


俺たち労働者は整然と並んだ荷物の列の前に並ぶと「どうだ!」と言わんばかりに支店長を眺めます。

班長二人に説教をくれていた支店長も今はこの魔法の威力に怒る言葉さえ失っています。


その支店長ですが、ドヤ顔の俺たちをチラ見しながら、整然と並んだ荷物の列を確かめていきます。

ちいさく頷いては「これだけあれば…」などと独り言が漏れ聞こえてきますが、支店長に金魚の糞のごとくに付き従う二名の班長たちも荷物を指しながら、「見ての通りしばらく生きていくには十分な食料が…」などと説明をしております。


そうした少し退屈な時間を経て、三人は俺たち労働者の前に立ち並びました。

もちろん支店長を一番前にして、残り二人は半歩後ろに下がった社内の身分を感じさせる立ち居地です。

支店長が言いました。


「皆、形を崩して集まってくれ。作業ご苦労、約束した時間からは多少オーバーしたが一応目標を達成したということでこれはなによりだ。そしてこの荷物だが、今後はこの俺が管理する。無論皆にも必要な分は分け与えるつもりだが、それら管理業務については二人の班長に当ってもらうことになる。では二人とも、先ほど指示した通りに。それと斉藤だったか、君はちょっとこっちへ来てくれ」


支店長はそう永倉、高橋両班長に命じると斉藤を連れて離れていきます。

二人は少し離れた場所でなにやら話をする様子。

それを見ていると班長達が言います。


「斉藤だが支店長も魔法の事とか興味あるようだから色々習うんだろ」

「あー、そっちは置いといてこっちの事を。この荷物の事だけど、支店長命令で今後はこのまま、例のポケットの魔法で仕舞わず出したまま管理するって事になりました。これには皆さん意見もあると思うけど、支店長が言うには「公平性を確保する」と、そういう考え――」

「なんだよそれー!」

「まさかそんな建前信じたのかよー!」

「おっいいじゃん。これで安心できるな」


班長の言葉も終わらぬうちに色々皆さんの意見が飛び出してきます。

文句を言う人、それとは逆に良いぞ、と喜ぶ人。

途端に五月蝿くなり始めたこの場を班長達が治めます。


「静かに! 皆ちょっと静かにしてけろ。皆色々と意見はあると思う。したどもいまここで騒いだってどうにもなんねがら。支店長さ意見さ通すのも皆の意見として一旦纏めた上で班長さ通して持って来い、と既に言われてっがら聞き分けよくしてけれ」

「それと今のに補足。ただ単に俺がこうしたいから、というのはダメだぞ。きちんと根拠が無いと受け付けてくれないからな。上尾さん、わかりましたか?」


高橋班長が最後にワザワザ上尾さんを名指しで呼んでそう念を押します。

要するに飲酒に対するけん制ですね。

でも班長たちの目論見と違って上尾先輩はそれほど困っているようには見えません。

小さくつぶやき声が聞こえてきました。


「いいもんね~、自前で魔法で出すから」


そうですよね、上尾先輩魔法で酒が出せるんですよね。

ですから物資の統制はむしろ上尾先輩の力を強めることになりますよね。




やることもなくなったので解散となりました。

あとは各人自由行動、もっとも出来ることといったら集まってグダグダ喋ることしかできませんけどね。


そんな気だるい時間ですから少しでも面白そうな物事へと眼が行きます。

すなわち斉藤による支店長への魔法指導。

皆さんぐるりと取り巻くようなことはしませんが、気の合う仲間で数人ずつ集まっては今行われている魔法の特訓へと眼を向けています。


斉藤はこの前の火事の影響でしょうか、水の魔法を最初に教えています。

支店長の目の前で実際に魔法で水を何度も出して見せるなどしていますが支店長はこの水の魔法をまだ出せてはいません。


まあ今まで魔法の無い世界で長く生きてきたのですから、そう簡単には出せないですよね。


周りで見物している元中年親爺たちもやはり見ているだけというのは性に合わないのでしょう、二人のやり取りを見ながら自分達でも魔法の練習などをしていたりします。


その中でも大先輩の川上さんなんかはもう苦労も無しに水の魔法を扱えるみたいですね。

逆に浅田の元ハゲはかなり気張っていますけど全然出せる気配が無いです。

だっせー。


そうした時間がしばらく続いていましたが、斉藤と支店長はとうとう水の魔法を諦めたようです。


そして次は火の魔法。

斉藤がまずは指先に小さく魔法の火を灯してみせます。

支店長はそれを驚きの目で見つめていましたが斉藤にあれこれ質問をすると自分でも試してみますがやはり上手くはいかないようです。


支店長は魔法の才能に乏しいのでしょうか。

水、火、風、と試してきましたがいずれもダメなようです。

むしろ周りで見ている側が成果が上がっています。


回りのギャラリー達も支店長がこの分野にあまり才能が無い事を見取ってか少し舐めた風。

じっと見守る、などという雰囲気は既に消えうせ、ワイワイガヤガヤ、駄弁り声が満ちています。


大先輩たち親爺連中がいままで出来なかった魔法を成功させるたびに「出来たー!」の声があがります。

その声が上がるたびに支店長が敏感に反応していますが、これかえってプレッシャーになっていますよね。


支店長は終には風も諦め、次は何をと思えば今度はなにやら斉藤が上手くいっていない様子です。

斉藤が石造りの建物の外、乾いた砂に手を当て何かの魔法を使おうとしていますが不発なのか何も起こりません。


すると斉藤が一言支店長に話しかけると一人で走ってきます。

そして南野先輩の前へ来ると言いました。


「南野先輩! たしか土の魔法得意でしたよね?」

「俺? 得意じゃ無ぇぞ」

「え? だって投石の魔法を」

「ありゃ別もんだ。石なら白鳥、おまえ出来るよな?」

「ええ! 俺っすか?」

「で・き・る・よ・な?」

「押忍! 不肖白鳥土魔法を指導させていただくッス!」


白鳥がそう体育会系のノリで応えると斉藤を伴い支店長の側へと向かいます。

彼はそこでなにやら指示を、周りで生暖かく見守っていた大先輩たちに声をかけます。


白鳥は大先輩達をも使うとその場に土台に乗せた大きな長方形の石を用意させました。

浅田先輩が壁からポンポン落としていたのと同じぐらいのサイズの石の建材ですね。

その石を指し示してはなにやら説明する様子ですが…。

どうやら実演に入るようです。


白鳥は砂の上に置いたその石の前に構えを取ります。

両足を肩幅に開いたコレは空手家が瓦や氷を割るあのパフォーマンスですね!


そして「ハッ!」っと一声気合を入れると演武のように手刀を石に打ちつけ!


打ち付けるマネだけでしたね。

ペタリと石の上に手刀を打ちつけるマネだけして終えると、おそらくこのようにやるんだよと、説明しているようです。

ところでそれって土魔法なんですか?


特設演武会場では支店長ではなくなぜか浅田先輩が石割りに挑戦するようです。

支店長は白鳥の指導に素直に応えるでもなく見ているだけ。

いえ、浅田先輩に向かってなにやら指示を飛ばすと先輩もそれに応じてどうやらこの無理難題に挑戦するようです。


浅田先輩が先ほどの白鳥のように、まるで空手家のように構えます。

気合を発し、白鳥とは違って拳を硬く握り締めると打ち付ける場所を確かめるように何度もゆっくり石に向けて振りかぶります。


おそらく「早くやれ!」とでも声が飛んだのでしょう、浅田先輩が動きを停めると支店長の顔を見ています。

その顔が再び石へと向くと…。

狂ったような奇声をあげ振りかぶりました!


寸止めせずに拳が振りぬかれると石を叩く音が鈍く聞こえたような気がしました。

でも石は割れません。

浅田先輩は構えを解くと顔を歪め、しゃがみながら打ちつけた拳を左手で押さえています。


現場では白鳥が走ると小場先輩を連れてきました。

先輩は浅田先輩の様子と石を見るとなにやら言っています。

おそらく「馬鹿」といった類の言葉かと思いますが、それでも治療はしてくれるようです。


ほんの三分程で治療は終わると小場先輩は用は済んだとばかりに帰ろうとしますが支店長が呼び止めました。

支店長は石を指差しては小場先輩に何かを指図する様子。

どうやら浅田先輩の代わりに魔法をやってみろと言っているようですね。


その小場先輩ですが、石を指ですっとなぞるとポンッと叩きます。

するとポロッっといきました。

石の端およそ1/8程がまるでカットされた羊羹のように綺麗に分かれ砂上に落ちています。


支店長と浅田先輩が驚きの顔でソレを見つめています。

かく言う俺も何をどうしたのかわかりませんが土魔法って石も切れるんですね。

俺にできる空気で石を撃ち出す魔法なんかとは大違いです。


役目は終わったと、特設演武会場から小場先輩が姿を消すと、現場では支店長が考え込んでいます。


「なにをどうすればこういった事ができるんだ…?」


こぼれ出た言葉にギャラリーから反応がありました。


「理屈なんてどうでもいいだろ。考えたって判るもんでもねえし」

「んだんだ、呪文でもなんでも唱えたらいいんだ」


その言葉に支店長がぐっと押し黙りました。

何かを考えている風ですが、周りで見守るギャラリーたちは考えるより早く口から言葉を垂れ流す人達ばかりです。


「呪文ってあれだか? 魔女っ子なんとかって娘っこ達が喜んで見てたやつだが?」


大先輩である小滝さんがそう呟くと脇に居た浅田先輩が主題歌の冒頭部分を歌い始めます。

魔女っ子ではなく魔法使いの方ですね、ソレ。

アニメではなくテレビまんがと言われていた時代の代表作、放送を見たこと無い俺でも知ってる有名な曲です。


ギャラリーの親爺達が悪乗りしながら呪文の言葉を歌うように唱えます。

出てきた魔法は水であったり酒であったり花火であったりと色々ですが、皆さんこの呪文でも魔法は使えるようです。

いえ、ひょっとしたらこっちのやり方の方が高度な魔法を使えるのかもしれません。

あっ、例外がいました。

浅田先輩、この方法でも無理なようです。


支店長は顔が真っ赤に染まって口から言葉が出ない感じです。

恥ずかしいとでもいうのでしょうか? いえ、若返ったとはいえいい年した大人が魔女っ子の呪文とか恥ずかしいですよね。(笑)


支店長が声を上げました。


「他に方法はないのか! いい年した大人が子供の漫画の呪文だなどと、恥ずかしくてできんわ!」


すこし苛立たしげな声がそう響きました。

やっぱり恥ずかしいようですね。

周りのギャラリーの方から声があがりました。


「大人向けならアレしかねぇだろ、ピロピロピンって鼻を動かすやつ」

「おめぇ、それ娘っこの方だなや。奥様の方は口を左右に動かすんだず」

「あの姑さんはどうやって魔法使うんだっけ?」


親爺たちの青春時代。

再放送見て知ってますよ、観客の笑い声が聞こえてくるホームドラマですよね。




現場では再び石割が始まりました。

といってももうさすがに浅田先輩が素手で挑戦するようなことはありません。

先ずは斉藤が魔法でなんとかしようと石に挑みますが、魔法によるものと思われる怪しげなエフェクトこそかかるものの石は変わらぬ姿でそこに在り続けます。


これって相性なのでしょうか? そういえばトイレ作りの時、斉藤が失敗したとか言っていましたね。


その斉藤がとうとう諦めると、支店長になにやら言っております。

斉藤はその場にしゃがむと小石を拾い上げ、それを例の収納の魔法で出し入れしてみせるとその石を支店長に渡しながら言います。


「支店長、別の空間に仕舞うイメージです。魔法でなくても手品でも忍術でも超能力でも未来科学でもなんでもいいです、コレならソレが出来る! と思える自分の中のイメージです!!」


どうやら次は例の収納の魔法に移るようですね。

斉藤の魔法を否定するかのような開き直った教え方ですが、魔法が苦手ならかえってそっちの方が良いのでしょうか?


一方石が空いたことでこちらは周りで眺めていた元親爺連中が口と手を出してきました。


「これ、割ればいいんだか?」

「おい近藤! おまえ黙ってみてないでちょっと手本見せて来い」

「ええ! 俺?! どお~れぇ~い」


ついに今までおとなしく見学していた近藤さんが出てきました。

纏う雰囲気を時代劇に出てくる用心棒の先生に変えた近藤さんが、剣を逆手に構え抜くと眼にも留まらぬ速さで二度三度と石に斬り付けます。

此処で見つけた大振りの剣ですね、アレ。

 

キンキンカキンッと音がし、スチャリといつのまにか刀身を鞘に収めた近藤さんですが直後、ドスッ、とその背後わずかな場所に、尻を掠めるように光るものが上から落ちてきて刺さりました…。


あれ折れた刀身ですね。

近藤さんは「む、無念…」などと呟いていますがなんだったのでしょう?

なんだかいつのまにか土魔法じゃなく力技で割ることが目標になっていますよね。


「これ力技じゃあ○ーパーマンでもなきゃ無理だんべ…」

「だなぁ、でなきゃ10万馬力のロボットでもなきゃぁ無理だなぁ」

「10万馬? そうか!」


小石を掌の上で遊ばせていた支店長がそう声を上げました。

何かに気づいた風のその顔を自分の右手に向けると、その手を握り締めます。

するとその手からパラパラと砂のようなものが零れ落ちていきます!


支店長はニタリと不敵な笑みを浮かべると、おもむろに石の前に進み出て構えます。

しかしその手には武器がありません。


素手。


支店長はしばし、目の前に固く握った拳を見つめていましたが。


「よしっ!」


と一言、気合を込めると石を殴りつけました!!

直後、ガゴン、と鈍い音がし、石が二つに割れ落ちました。


シンッ、と今まで騒いでいたギャラリーが静まりかえります。

信じられない! と呆けたような顔で皆がポカンと口を開けて支店長のことを見つめています。


支店長はあの浅田のように見苦しく拳を庇うようなこともありません。

残心を解くと言葉を失ったギャラリー達をドヤ顔でゆっくり眺めていきます。

斉藤が傍に寄ると訊ねました。


「それは肉体強化の魔法ですか?!」

「肉体強化? そうか、これも魔法なのだな…。だがこれはいいぞ!」


支店長はそう言うと、今割ってみせた石をひょいと持ち上げてみせます。

アレって半分でも100キロ近くあるんですよね? それをポイッって放り投げてみせますが、せいぜいバスケットボール程度の重さにしか感じてないってことですか!?






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