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本当に作るんですか?

『 09 本当に作るんですか? 』


魔法の練習など色々とやりまして時刻は時計でいうと11時頃となりました。

太陽もかなり高くに昇っており日本とあまり時差も一日の時間も変わりが無いように感じます。

そうしたなか、永倉班長がやってくると皆に声がかかりました。


「トイレの傍さ皆集まってけろ」


例の話だと思って永倉班長と一緒にゾロゾロと歩いていくと、現場では我々が最後のよう、あのアル中軍団も含めて皆集まっていました。

人が揃ったのを見て、小場先輩が声をあげます。


「揃ったようなので始めます。注目!! これより野外におけるトイレの使用法について説明をします。説明することは主に二点! ひとつは野外でのトイレ使用区域について。もうひとつは野糞の仕方について」


野グソの言葉に皆から笑いの声が出ます。

先輩は皆が落ち着くのを待つと話を続けます。


「これら二点は皆さんの健康を守る点において重要な事柄ですので、病気を防ぐ上でも非常に重要ですからきちんと頭に入れてください。まず指定場所について」


そう言うと小場先輩がロープで区切った場所を指し示します。

大はこの定められた場所ですること。ここでの生活が長期に及ぶようなら定期的に指定場所を移動することなどを説明します。


「ここまで何か質問はありませんか? はい斉藤さん」

「大は外でしないと拙いんですか?」


ドっと笑い声が。

やはり皆さん外で用を足すのには違和感があるのでしょう。もちろん俺もですが。

この質問に小場先輩は至って真面目に答えます。


「トイレの中でしても構いませんがお勧めはしません。なおどうしても、というならば掃除をしても結構ですが飛沫を吸い込み病気になどならぬよう十分に対策を取った上でお願いします」


すると話の途中で永倉班長が皆に意見をしました。


「ちょっとその件で補足するけんど、便所の掃除を決して下の者に押し付けたりしねえよに! 見てもらえば判んだども、非常ーに汚れてんだわぁ。しかもそっただ使い方をしたのは誰かと言えば、そこは追求さしないけんども皆さんひとりひとりに覚えがあるはずだから。そういうことで便所を使いたいなら使いたいと思う人たちで掃除してけろ!」


永倉班長の言葉に皆が押し黙ります。

さすがは組合の分会長、ジジイ連中にも文句を言わさないです。


「他には? はい川上さん」

「大はそこの枠内でするとして小は何処でやればいいんだ?」

「場所は特別指定しませんので建物の“外”でするようお願いします。決して昨夜のように建物内の壁や柱などにはしないよう重ねてお願いします」

「犬じゃないんだからするわけ無いよなぁ」


川上さんが周りを見ながらそう言うと、何人かが恥ずかしそうに苦笑いします。

ゲロだけじゃなかったんだ。

それ以上質問が無いことを見ると小場先輩が真顔で言います。


「ではこれより野糞の仕方を展示説明します。展示要員、前へ!」


“野糞”という言葉にまたドッと笑いが響きます。

その笑いの中を白鳥がこちらも真面目に背筋に一本芯の入った動きで皆の前に出ると気をつけの姿勢をとります。真剣な表情です。


「右向け~、右!」


小場先輩の号令が響き渡ります。

笑い声やおしゃべりをかき消す程の声量、それに瞬時に応えてザッ、ザ、と白鳥が普段からは想像のできない節度ある動きを見せます。

皆の笑いとおしゃべりも止まりました。

その目の前で、90度向きを変えた白鳥を指して小場先輩が説明をします。


「まず最初に溝を掘ります。長さは45~60センチ、深さは埋めた際用便が隠せる程度。白鳥、実施」


すると白鳥が靴のかかとで一本筋に溝を掘ります。

砂地なのですぐに掘れます。

そこで小場先輩がいったん動作を止めると再び解説に入ります。


「ここは砂地ですのでこのように簡単に掘れます。硬い地面の場所などではスコップ等が必要になることもあると、頭の隅にでも覚えておいてください。次、白鳥、構え!」


すると白鳥が溝をまたいでしゃがむと用を足す姿勢となりました。

その姿に再び見る側から笑いが漏れますがやっている白鳥は真剣です。

小場先輩が片腕を挙げ静まるように求めると再び説明に入ります。


「このように、掘った溝の後端に合わせてしゃがむようにしてください。次、白鳥、ふんばれ」


すると白鳥が声を漏らしました。


「う~ん」


と力みながらしゃがんだ姿勢のままで左右の足をすり出すように徐々に前へと動いていきます。

そのユーモラスな動作にたまらず笑い声が皆より上がります。

小場先輩がその場を静めると動きの意味を解説します。


「このように、大をしながら前へと徐々に移動していくのがこの野外における用便のコツです。そうする理由はわかりますね? 白鳥、起立! ここまでで何か質問はありませんか?」


手が上がりました。

ニヤけ顔で見ている浅田の横、酔いの抜けていなさそうな上尾先輩が手を上げニタニタ笑いながら質問をします。


「それ、しゃがんで前へ行く必要あんのかよ? 深く穴掘っとけばいいだけの話じゃね?」

「では実験してみましょうか」


そう言うと小場先輩が上尾先輩を手招きました。

ニヤついた浅田先輩が軽く上尾先輩の尻を叩くと、上尾先輩がトイレの指定場所へと、小場先輩の目の前へとプラプラと歩いて行きます。


「では上尾さん、好きな場所でいいですから実施してみてください。ああ、真似だけで結構ですので」


そう言うと、上尾先輩が地面と次いで小場先輩を見ると、


「スコップは?」


と口に出します。


「まずはスコップ無しの状況で」


そう言われると、上尾先輩は困ったように地面を見ますが、結局白鳥と同じように踵で浅く地面に溝を掘りました。

それを途中で小場先輩が止めるといつのまに出したものかスコップを手にしたまま言います。


「常にスコップ等掘る為の道具があるとは限らない、といった事がお解かりになられたでしょうか」


上尾先輩が頷きます。

なぜかギャラリーからは拍手が沸きます。

その上尾先輩にスコップを渡すと言います。


「では今度はスコップで好みの深さまで穴を掘ってみてください。くれぐれも用便用の穴だということを忘れないよう」

「わかってるよ」


スコップを受け取った上尾先輩が砂の地面に穴を掘っていきます。

踵で掘ったよりも大分深い穴ですが、柔らかい砂地ということもあって穴は直ぐに掘りあがります。


「こんなもんかな~」


穴を掘り終わった上尾先輩がそう言いながら穴を見ていますが、そこへ小場先輩がスコップを受け取りながら言います。


「ではその穴の上に用便をするようにしゃがんでもらえますか? もちろんポーズだけで、本当にしなくて構いませんから」


上尾先輩が本当にやるのかとニタニタ笑いながら穴を指差します。笑顔で頷く小場先輩に上尾先輩も「仕方がねぇなぁ~」と言いながら用便をたす構えを取ろうとしますが…。


しゃがみ、用便をたす構えを取る上尾先輩ですが少々苦しげに見えます。

砂地に掘った穴はまたぐのには少々大きすぎるようで、これではいかんとポーズを取り直そうと、その場に立ち上がろうとすればたちまち穴の縁が崩れだします。

足を取られた上尾先輩がバランスを崩しかけました。

すると小場先輩が解説を始めます。


「見ての通り、柔な砂地に深い小さな穴を掘るのは難しく、また掘れる場所では地面が硬く労力を多く使います。道具も常にあるとは限りません。その変のバランスを考えると簡単単純な方が良いという話でした。この他注意事項としましては、

一、用を足したなら必ず埋めてください。

一、一度使った場所は二度は使わず位置をずらして別の場所で用を足してください。その為には端から使ってください。

一、誰かが用を足していたならばできれば待つなど時間をずらして配慮してください。

 ここまで何か質問等ありますでしょうか?」


すると小滝さんの手があがりました。


「それ用足した後だけんど、埋めなきゃダメだか? 埋めたらもう何処だか判らなくなんべ? だったら乾かしてまとめちまった方が良ぐねぇだか?」

「露出したままだとハエ等昆虫を介して疫病の蔓延に繋がる恐れがあります。それに対する簡易な対応が埋めるという手法ですが、理想を言うなら可能であれば纏めて処理した方がいいとは思います。場所については使った箇所に目印に棒など立てておけば良いかと思います。他には?」


こんどは近藤先輩の手が上がりました。


「それ衝立かなんかで姿を隠すようにはできないかなぁ。いや、自衛隊と違って俺たちはそのこういった野外でする経験が無いものでさぁ」

「出るもんも引っ込んじまうってか」


川上の野次に皆よりどっと笑いがおこります。

でも正直こうオープンな環境では俺もキツいです。


「その辺は賛同者で上手くやってくれるのであれば反対はしません。ついたて等の目隠し、あるいは簡易トイレを新たに作るという方法もありますが、問題はきちんと管理できるのか? という点にあります」


そう言うと小場先輩が今あるあの建物に、あの汚れきったトイレに目をやりました。

計画的に使っていたなら、たとえニーハオトイレであってもトイレとして使えたのでしょう。

それを無秩序に使い汚したのは誰か。

それを考えたなら、どうせまた失敗するのだろうと最悪の事態に向けて割り切った小場先輩達の計画も妥当なものに思えてきます。


小場先輩のトイレについての説明はこれで終りとなりました。

もっとも終わったからといって皆が直ぐにバラバラになるでもなく元もとのトイレの場所から少し離れた場所に二三人、あるいは何人かが輪となって集まり話をしてたりします。

もちろん話の中身はトイレの話、今説明にあった野グソについて「ほんとうにやるのかよ」と茶化すか、あるいは真剣に新しいトイレの設置について話し合っているようです。

浅田、上尾、近藤といった昨日の酔いの残る元中年達はどうやら野グソを覚悟した様子。

もっとも酔いの残る体で面倒ごとは御免とでも考えているのかもしれませんが、指定場所を指しては「シートで目隠しだけすればいいか」などと手間の掛からないやり方を相談しているみたいです。

一方、小滝、高橋、斉藤、楠木、といった面々は元もとのトイレと建物の間の空間を指差しては何処にトイレを作るのがいいかなどと話し合っているようです。

元自の三人は、こちらはもう用は済んだとばかりに建物へと向かっています。


さて、俺はどうするかですが、面倒なのはご免と帰りかけたところを呼び止められました。


「おーい唐沢。おまえ今帰ったならトイレ使わせないから覚悟しとけよ」


声を掛けてきたのは高橋班長。

俺、班長と違って集配じゃないのになんで名前知ってるんですか? 

しかたなくUターンです。Uターンしながらもちろん言うべきことは言います。


「俺、元自じゃないですから野外にトイレなんて作ったこと無いですよ」

「ああ、わかってるよ。それに連中ならトイレなんて使わずにキジ撃ちだ。とにかくいいからこっち来いよ!」


どうやら労働力としてアテにされているようです。

楠木先輩や斉藤なんかもこっちゃ来い~と手を振っているし、仕方無しに合流しました。

果たしてどうなることやら。



あれからもう三十分も経ったでしょうか、いまだにトイレをどのように作るのか揉めています。

出された案はいくつかあります。たとえば周りを囲う壁にしても、

・骨組みを組んでブルーシートで覆う案。

・荷物用のパレットを立体的に組んで簡易に個室を作る案。

・木製パレットや台車をバラし、重量物用の角材で柱を組み個室を作る案。

と、それが本当にできるかどうかという問題は抜きにして、なんらかの個室を作ることは確定のようです。


で、ここからが問題の〇ンコを溜める部分。アイデアは幾つか出ました。

・穴を掘ってポットン便所を作る案。

・穴は掘らずに小型のバケツに溜める案。

・便器部分に亜空間に通じる門を開いてンコを亜空間に捨てる案。または魔法による遠隔地への投棄等。


特に三つ目のものは斉藤が実現化を目指して頑張っているようですが、今のところ成功の目処は立っていないようです。

ということで現実的な案としては、ポットンか、それともポータブルトイレかの二択ですが、やはりどちらも問題があります。

地下に穴を掘るポットン方式では砂地という柔な地盤が問題だとか。

要するに穴を掘っても崩れる、という問題です。

上尾さんが身を持って示してくれたアレです。

穴は掘ったはいいが、トイレごと穴の中に崩れ落ちたのでは冗談にもなりません。


次にポータブルトイレ方式ですが、使う人数が多いと直ぐに溜まるという問題と、他にもお釣り等様々な不快なことが予想されます。

ポータブルトイレを加工し、魔法の水と組み合わせ、トイレから少し離した場所に流し溜めるという便槽的なプランも出されましたがこれも我々にトイレの加工と配管の水密施工ができるのか、という問題にぶち当たってしまいました。


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