休みの日って何ですか?
今更ながらの異世界モノテンプレ小説
『 01 休みの日ってなんですか? 』
世間一般的には祝日の朝でした。
でも俺はちっとも捗らない仕事に諦めの気持ちを抱き始めています。
フウとため息をつき腰に手を当て、ゆっくりとあたりを見渡します。
とてもじゃないが終わりが見えないです。
此処は俺が勤めている某運送会社のプラットホーム、そのホーム上には荷物が山となって溢れかえっています。
大型車6台程が接岸できる荷降ろしバースはその全てが車両で埋まっています。
雑貨を主に扱うこの会社は基本手積み手降ろし。
機械で降ろせれば楽なんですが、パレット※などは顧客がそれで出さない限りは使わせないのが社の方針。
「(パレットの分だけ)輸送効率が落ちる!」は社長の口癖です。
(※パレット 荷物を載せる四角い台。これに載せておけばリフトで運べる)
しかしその到着した荷物を積み出すべき畳一畳ほどの大きさの台車はとっくに品切れです。
平日なら配送トラックに積み込みを終えた空台車が新たな荷を積むため回ってくるのですが、祝日の今日に限ってはそれも望めません。
配達先の企業が休みなら当然集配職も休みです。
社も混乱を見込んで集配職の中から助っ人役を数人出してはいますが、それは助っ人というよりも無茶な荷降ろしをさせないための監視役をもっぱら務めているようです。
荷物を床にベタ降ろしなどしようものならたちまち彼等がやってきて怒られます。
そんなことを許せば明日の集配業務に悪影響を与える、だから台車の上に更に重ねろと彼等は命じます。
でも乗せるにしても既に荷物は山積みです。
頑張って背伸びして積み上げますが、こりゃ明日積む方も大変かもしれません。
それでも遠慮しないで載せますけどね。
俺は一台だけなんとか調達してきた台車に自分が運んできた荷を積み、ホームの各指定場所まで運び、倍の労力を重ねて、汗水垂らして、そこに居並ぶ別の台車に指示通り更に高く荷を積み替えます。
とにかく自分で運んできた10tの荷物を降ろし終えないと仕事をあがれません。
休みに入れないということです!
虎の子のたった一台しかない台車をガラガラと押しながら自分のトラックの荷台に戻ります。
まだ半分も降ろし終えていない天井までびっしり詰まった荷物の壁にうんざりしながらまた荷を降ろします。
降ろします。
とにかく降ろします!
体は汗を流し、心の中では涙を流しながら、またとぼとぼと集配バースに荷を押していきます。
その最中、新たにまた一台、大型トラックがターミナルに入ってくるのが目に入りました。
薄汚れた幌車、メーターが確実に二週目に入っている古い車です。
その車はいまだホームにさえ着けられない荷降ろし待ちの列その最後尾、前から数えて三番目に並ぶとエンジンを切りました。
ドアが開き、伝票片手の馴染みの巨体が降りてきます。
身長190センチ近くはありそうな同じ支店の小場先輩です。
彼もやはりうんざりした様子でホームの様子を眺めています。
「先輩、ずいぶん早かったですね」
本当は言葉とは逆に遅いくらいですが、あの先輩なら冗談も通じると、そう声を掛けてみれば先輩もそれに苦笑いしながら挨拶を返してくれます。
「おはよう、上に睨まれてるから指定通りに高速代ケチったんだよ。おかげでこの時間さ。まぁ午後には終わるだろう」
「午後って…」
聞けば昔、先輩のそのまた先輩が今日のような日になんと午後三時までかかって荷降ろししたとのこと。
先輩はそう自虐的に話を終えると片手をあげて事務所へと向かっていきました。
その背中を見て幾分気合を入れられた俺は作業を急ぎます!
午後までかけるつもりなんてありません! なんとしてでも昼前には仕事を上がりたい…。
心の中で血涙を流しながら疲れた体で重い荷を運び、降ろします。
延々降ろします。
そしてクソ重い化学薬品の袋物数十袋に積み替える気力も無くすとついに台車を手放しました。
予備の台車なんて無いので残りはネコ車(二輪台車)でチビチビ降ろすしかありません。
ネコ車を押していると、ふと荷降ろしバース脇に三台ほど並んで立てかけられてある空台車が目に入りました。
するとその脇に着けられた車の中から「おーう」と人を呼ぶ声が聞こえてきます。
仕方無しに荷台を覗けば、そこに先輩の浅田の姿が見えました。
小柄な浅田先輩は自分の背丈よりも大分高くに山盛りにした台車を引き出せずにいる様です。
その先輩が眼が合ったのを幸いに俺に手を貸せと声を掛けてきます。
「おぅ、丁度よかった、ちょっと手伝ってくれ」
「先輩、それ積みすぎですよ」
「台車無ぇんだから仕方ねえよ! いいから後ろからちょいと押してくれ」
あまりの重さに荷台の床板がいやなキシミ音をたてます。
抜け落ちそうな床をソロリソロリと労わりながら先輩と力を合わせて山盛りの台車を荷台より押し出していきます。
幸い同じ配送区域の荷物を纏めてあるそうでこのまま出せばいいそうですが、ありがとうの一言はあってももちろんそれだけです。
「ネコ降ろしか、大変だな」
先輩は俺の視線が台車に向かっているのに気づくと笑ってそう言いますがもちろん自分でキープしてある台車を譲ってなどくれはしません。
嫌味な目付きで言葉を掛けてくれるだけです。
「これはやれねぇぞ。こんだけ必要だから確保してるんだから。台車が欲しけりゃ自分で降ろして作ってきな」
無理です。
台車一台空けるにはそれを別の台車に積み替えなければなりません。
もっと早い時間ならまだしも既にうず高く積み上がった今の状態ではとてもじゃないが苦労が大きすぎます。
この分では本当にいつまでかかるのやら…。いっそ巨大隕石でも降ってきて世界が滅びれば楽になれるのに!!
そうイヤになりかけた時のことでした。
唐突に、ズン! と衝撃が体に走った気がしました。
いやそれは体だけではなくこの一帯がそうであったと、まるで強い地震のような衝撃が俺と建物を襲い、その直後には体が空中に浮く感覚が。
一瞬のうちに起こったそれらの衝撃的な感覚に俺の脳裏は真っ白に。
何も考えられなくなり意識もそのまま白い光の中に、溶けて……。