肉体的にも精神的にも健康なんてベリーハード
1年に1度、いや、2度ある。ドキドキの一大イベント、健康診断。
この日為に1、2週間ダイエット、禁酒、禁煙をしている人は多いだろう。
そして健康診断が終了したあかつきには盛大な宴が繰り広げられる。
そもそもそんな、付け焼刃は何の意味もないのだがやってしまう人は多い。
かという私もその1人なんだけどね。
たまに、健康診断前はおろか要精密検査の診断が出ても動じず自らのスタンスをつらぬく剛の者もいるが。
40代半ばにもなると20代、30代にできていたことができなくなり、20代、30代にしてきた無理が体に如実にあらわるようになる。
そして悲しいことに同級生の訃報も一人、二人聞こえてくるように……
働き盛りだからこそ健康には人一倍気をつけなければいけないのだが、働き盛りだからこそ健康をおろそかにしてしまう。
以上、戒め終わり。
「こんにちは。みなさん。古賀真理子と申します。本日はボディメカニクスの基礎から学んでいきたいと思います」
今日は介護職員向けの講義の仕事。
「腕力任せだったり、不安定な体勢での介助は自分も利用者さんも危険さらします。支持基底面を広くし重心を低くし、てこの原理を使いましょう」
教科書に書いてある基本的な作法を教えていく。
介護職と腰痛は切っても切れない関係だ。
ただでさえ定着率の低い職種なのに肉体的な苦痛ではやめてほしくない。
講義も終わりに近づくと私が必ず言うことがある。
「仕事で無理をして老後を楽しめないと損です。だからこそ体に負担をかけない技術が必要なのです。それと自分が高齢者になった時、どうありたいか、介護職員にどうして欲しいのかを考えること。自分か苦しい時に行うケアは利用者さんにも苦しみを伴います。やめてください。本当に苦しい時は逃げたっていいのですよ。私なんて逃げっぱなしですよ。」
と言うようにして
「ですが、礼儀と感謝は忘れずにね」
と付け加える。
講義を終えて。帰ろうとしたら
「あの、少しご相談したいことがあるんですが」
講義を聞いていた、20代後半ぐらいの女性に声をかけられた。
心なしか疲れた顔をしているように見える。
「なんでしょうか?」
「肉体的にも、精神的にもしんどくてその場合はもう辞めた方がいいのでしょうか」
先ほど私が言った言葉に反応してくれたのかと不謹慎かもしれないが少し嬉しくなる。
これだけでは彼女の考えていること、言ってほしいことが分からないのでジャブを入れる。
「今現在、あなたは肉体的にも精神的につらいんですか?」
言っている内容を反復して返答する。
「人手が足りなくて週に3回夜勤で腰痛がひどくて、でも私が休んだらみんなに迷惑がかかると思うと精神的にもつらくて、もうどうすればいいかわからないんです」
女性の言葉に
「肉体的にも精神的にも健康。なんて言うのは簡単ですけど、実際には難しいベリーハードですよね。そこまで思いつめているのなら上司の方に夜勤を減らしてもとかはできないのですか?」
と返してみる。
「でも、人手がたりなし、そんなことしたらみんなに迷惑がかかるし、嫌われます」
彼女は職場で嫌われたくないのかな
「あなたが頑張っていることみなさんもわかっていると思いますよ」
「でも……」
しばらく沈黙が続く。
「私は、あなたに10年後も20年後も介護職でいてほしいです。今無理して健康を害して続けられなくなってほしくありません。一つの職場で5年勤めて退職後、職種変更するより、何度か転職して10年介護職にいるほうがいいんですよ。ぶっちゃけ、出入りが激しいから多少転職歴があってマイナスになりにくいですしね」
自分の意見を見ってみる。
「でも、介護職自体がしんどいなら行動した方がいいと思います。一番大事なのは自分。その上で周りに礼儀と感謝は忘れずにいれば大体はやっていけますから」
「話を聞いていただいてありがとうございました。すっきりしましたいろいろ考えてみます」
女性は荷物をまとめ帰っていった。
この程度ではアドバイスでは問題解決には至らないけど、少しでもすっきりしたのなら嬉しいな。




