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愛しき殺意 14

 少女への殺意の意味とは…

「そんな…アタシ、知らなかった…」

 頭を抱えてエァリエスは跪く。

 敵を…老将軍を呆然として見つめながら。その様子を見てグレイは途切れる息で励ました。

「はは…当然…です。存在…を…知るのは…光…の…白魔導師…の高僧…だけ…ま、…私も…そこに…名を…連ねて…いたから…知っている…だけですから」

 灰色の染みが全身を被い、グレイの姿を霞ませていく。

「どうして…どうして? 知っているならどうして言ってくれなかったの?」

 泣き叫びグレイを詰問するエァリエス。

 それは問いの応えを求めたのではなくグレイの存在を確認する為。

「門外…不出…なんですよ。白魔…導師の…高僧に…伝わる…伝説…ですから…」

 エァリエスはグレイの言葉を想い出していた。

「『血を吸い地に死を満たした時に魔王、復活する』…剣に血を、いえ、命を吸わせたら…魔王が復活する…その時が近づく? …なんて事を…アタシがそんな事を」

 今まで、幾多の血を吸わせてきた事か。

 自らの身を守る為とはいえ、何も知らなかった事とはいえ、自分の行為が…過去の自分を許せなくなっていた。

「大丈夫…です」

「何が? 何が大丈夫なのよ! アタシは…アタシが魔王を復活させようとしていたのよ!」

「だから…大丈夫…なんです。……今までの…少なくとも…私が…私と…出会って…からの…分…は、私が…消して…ましたから…それに…あなたは…あなたへの…呪いは…呪いの…幾つか…は昨夜…封じ…ましたから…あなたが…闇に…囚われ…ない限り…生きて…いる限り…魔王が…復活する…事は…ない…んです。だから…彼らが…あなたを…消し…に来たんです。…闇の…剣の…所有者を…変える…ために…来た…んです」

 一つの言葉を発する間にも、グレイの身体は霞んでいった。障壁にもたれる身体の重みをも感じられなくなっていた。

「所有者を…変える?」

「グックックッククククク…ソウデスヨ。オ嬢サン、アナタニハ用ガ無ナクナッタンデス。折角ノ演出ヲ…ソノ男ガ台無シニシテクレマシタカラ」

 既に別人へと変貌した将軍の顔が地の底から響くような声で二人に死を宣言した。

「ダカラ、死ンデ貰イマス。御心配ナク。あなたガコノ将軍ニ殺サレレバ、我ラガ宝剣、闇牙ハ将軍ガ引キ継グコトニナリマスカラ。コノ戦好キナ性格。必ズヤ我ラノ期待ニ応エテクレルデショウ」

 エァリエスの脳裏に浮かぶ老婆との出来事。

 剣術を教わり旅をしながら、賊に襲われ…傷ついた老婆を『楽にするために止めを刺してくれ』と言われ…その通りにしたことを。

 エァリエスは敵の言葉と自身の記憶でグレイの言葉を理解した。

「アタシを殺して引き継ぐ…つまり、所有者を殺した者に闇の剣は…取り憑くのね? グレイ。ねぇ? そうなんでしょ?」

 だが、グレイは応えず力なく笑うだけだった。

「あんた…馬鹿だよ。アンタがアタシを殺すというのは…所有するため。闇の剣を…奪うため…なんでしょ? 刃物が持てない身で…闇の剣を持とうというのかい?」

 刃物が持てない者が所有者となる。

 それは闇の剣にどのような変化をもたらすのか?

 所有するのは魂を糧とする穢れた人形遣い。

 だが、刃物を持つ事が出来ない元白魔導師が持つ。それは、彼ら闇の一族にとって是となるか非となるのか…知が及ばぬ出来事。

 無謀な賭けといえる。

 だが…それはグレイ自身の命を賭けた…剰りにも危うい行為。


 そして、今、エァリエスはグレイの言葉の意味が…真意が判った。

 それはエァリエスを殺し、自らも死を選ぶ事なのだと。


 魔王の復活させる方法の一つを封じるだめの…命をかけて魔王の復活を阻止するという意味だと。


「クククク。貴女ハソノ男ニ幾ツモノ呪イヲ解カレテシマイマシタカラネ。ソレニ、ソノ薄汚イ男ガ纏ワリツイテハ剣ニ血ヲ吸ワセテハ貰エマセンカラ、コレデハ折角、機ガ熟シテイルトイウノニ…」

 将軍は…いや、魔物は両手を握り締めて如何にも口惜しそうだった。

「…機が…熟す?」

 未だに全てが呑み込めないエァリエスの頭の中に不意にグレイの声が響いた。はっきりと。

「数年前、光の杖の所有者が顕れたんです。誰も持ち得なかった光の杖を持つ者が…。それは『魔王が復活する時、復活した魔王を打ち倒す為に顕れる』という伝説どおりに。その伝説の言葉を…彼らの立場で逆に解釈すると…」

 グレイは障壁からずり落ち、地に屈していた。

「魔王の復活…魔王が復活する時が近い?」

「ソウダ」

『そうです』

 地から響く声と頭に響く声が同時に応える。エァリエスは頭を障壁の向うのグレイに近づけようと壁に押しつける。

『そんなにしなくても大丈夫ですよ。私の声は…遠声術は距離に関係ありませんから』

「遠声術?」

 やっとエァリエスは頭の中で声が響く事に気がついた。

『この術は奴らが将軍を操っている術の簡単なヤツです。御判りでしょう? 闇の術とは光の術。つまりは白魔導師の術は全て闇の術へと変貌するんです。術者が使うまま…術者の気分…その時の嗜好によってね。だから…人形遣いは…』

「人形遣いが…嫌われるのね?」

『そう。その時の気分次第で闇にも光にも姿を変え、人を惑わす。だから…私は…』


 読んで下さりありがとうございます。

 光と闇の挿話集としては短編の2作目になります。


 これは14/16話目です。


 投票、感想など戴けると有り難いです。


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