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愛しき殺意 13

 不死である人形遣いの弱点とは…

 途端に飛び散る鮮血が近くの草を赤黒く染め上げ…鈍く灰色に光ると即座にグレイの身体へと吸い取られていく。

「ふぅ…まあ、こんなものでしょ」

 矢を引き抜いた時に千切れた服の下から無傷の身体が現れる。

「どうです? 自らの傷を癒す白魔導師、『人形遣い』は貴方達のやり方では倒せませんよ?」

 老将軍は小さく舌打ちして、眉を顰めた。

(確かに…白魔導師ならば自分の傷は自ら癒す事はできぬ。しかも障壁と治癒。二つの術を同時に使いこなすとは…ただの人形遣いというわけではなさそうだな)

 人形遣いとはいえ元は白魔導師。グレイは白魔導師としてはかなりの使い手、いや、高僧だったのだなと老将軍は理解した。

「ふん。御主が不死というならば、狙いを変えるだけの事。…次の矢を」

 老将軍は慌てずに、静かに次の攻撃を命じた。

「この矢は一味違うぞ。撃てっ!」

 唸りを上げて、しかし、ゆっくりと進む紅い矢の正体をグレイは即座に見破った。

「障壁を貫く魔矢? そう来ましたか」 (狙いを私ではなく彼女に変えたという事ですね)

 背後の障壁の中の少女の命を狙う魔矢…確かに破壊すべきはエァリエスが持つ魔石。

「…光の盾よ。呪紋を顕し魔を退けよ」

 唱呪が終わると同時にグレイが触れた所から広がる障壁の表面に白く浮かぶ呪紋。

 そして赤黒い矢が少女を包み護る障壁に到達すると…紅蓮の炎が障壁を包んだ。

 襲い来たのは魔法の炎を鏃に封印させた魔矢。

 予め封じられた呪法の炎が敵を貫くと同時に吹き上がる。軍事国家オーヴェマの得意とする呪法戦闘だった。

「え…?」

 少女は為す術もなく障壁の中で事態を見つめているしかない。

 瞬刻の後、急速に炎は衰えて消え…青白い痩せた男は何事もなく障壁の傍らに立っていた。

「申し上げたでしょう? 私にはそのような『通常の攻撃』は一切、無意味だと。狙いを障壁の中の彼女へ変えようとも…この障壁に物理攻撃はもちろん、魔法攻撃も一切通じませんよ。如何です? 滅多にないでしょう?」

 強がるグレイ。しかし、身体の端々に火傷の痕が見て取れる。

 だが、痕も見る間に癒っていくのは不死身の証ともいえた。

(物理障壁に退魔呪紋を施す…常時と瞬時の術二つではなく、常時の術を二つ連続して使いこなし、更に自分を防御した? いや、治癒したのだな。…若干、遅れたようだが。…なかなかやる)

 老将軍は対峙する相手の力量に感心した。

 障壁は大まかに二つに分類される。物理的な攻撃を防ぐ障壁と魔法攻撃を防ぐ障壁とに。同時に二つを防ぐ障壁を編み出せる者は極めて希である。障壁にもたれて人形遣いは飄々と挑発した。

「誰にも申し上げませんから、このまま撤退なさっては? 穢れた人形遣いとギルドの仕事を請け負って生きている剣術士の言葉なぞ、誰も耳を貸しませんよ。ご心配なく。あぁ、そうそう。将軍は故郷のレガスを攻めに行くのでしたね。どうぞ、そのまま進軍なさってくださいな。…さぁ?」

 片手を横後方にひらりと翻して、敵に撤退を促すグレイ。

 しかし、将軍は身動ぎ一つせずに陣椅子の上で薄笑いを浮かべている。

「…どうしました?」 相手の様子を訝るグレイ。

(まさか…知っているのか? …だとすると、やはり闇の剣を奪い返しに? つまり…この闇の剣は…やはり、かなりのレベルということか?)

 自身の危機よりも闇の剣へと心が動く。

「はっははははは。流石は堕ちた白魔導師、人形遣いなだけはある。二つの術を同時に使うというのも称賛に値する。だが…次の矢はどうかな?」

 合図と共に打出される魔矢は白く光っている。

(やはり『知っていた』かっ!)

「くっ…風よ。疾き風よ。我が身に纏い全てを弾け!」

 唱呪の後、即座に疾風がグレイを包み、襲いかかる矢の軌道を変えていく。


 …だが。


 すざざざさっと鈍い音が障壁の中にも響く。

 血飛沫を一つも出さずに総ての矢がグレイの身を貫き、薄汚れた光を残して姿を消した。

「それは魔術そのものを矢として具現化したモノ。味は如何かね?」

「グレイ…大丈夫なの? 大丈夫だよね? グレイ? 返事して!」

 障壁の中でグレイを呼ぶ少女の瞳に映るのは…地に崩れ落ちていく男の姿。

「あ…流石に、三つ目の術は…完璧には…操れません…ね」

 痩せ我慢の言葉を呟きながら崩れゆく男。

 その皮膚に…魔矢が貫き消えた痕から灰色のシミがゆっくりと、しかし確実に広がっていく。

「これを…人形遣いの弱点を知っているという事は…闇に…闇へと心を奪われましたか…将軍」

 遠く離れた陣椅子の上で将軍は醜く笑い、低い声が響き渡った。

「ぐわっはっはっは…。まさか聖なる術、聖癒の…浄化の術で元白魔導師が、人形遣いが朽ちらせる事が出来るとはな! しかも、どのように乱されようと必ず突き刺さる魔矢までもあるとは。流石は軍事国家オーヴェマの魔術顧問! 総ての呪法を知っていると豪語するだけあるわい。ぐぅわはっははっは…ハハハ」

 顔の影、皺が醜く盛上がり別人へと変貌していく。

「…遠操…の術? なら…ば…謀術の…使い手…闇の術…やはり…」

 絶えそうになる息でグレイは障壁にもたれて最後の力を両手に集めようとしていた。

「闇に心を…闇の…一族の…方達です…ね」

 その言葉に一番驚いたのは障壁の中のエァリエスだった。

「闇の…アレが闇の一族?」

 いつも考えていた。

 いつも思っていた。

 いつも待っていた。

 闇の一族。

 それが…

「魔に…心を…奪われて、この世を…魔王…に捧げよう…と…する方々…それが…闇の一族…ですよ」


 読んで下さりありがとうございます。

 光と闇の挿話集としては短編の2作目になります。


 これは13/16話目です。


 投票、感想など戴けると有り難いです。


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