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愛しき殺意 11

 少女を襲ったのは…

 なんとか立ち上がり、ひょこひょこと少女の後を歩き始める。

「あ、そうそう。もう一つ聞こうと思ってたんだけど…」

 不意に立ち止まり、エァリエスはグレイに尋ねた。

「この剣って何なんだい? 知ってるんだろ?」

 黒き剣をグレイに突き出し応えを求めるエァリエス。

 草原を渡る風が少女の髪を吹き流し、左顔の傷を顕わにして右眼を隠した。左の碧の瞳だけが見つめている。

 グレイは痛みを忘れて暫く動きを止めて考えて…応えた。

「…いいですか? 想い出さないで下さい。新しく記憶して下さい。いいですね?」

 覚悟したグレイは真剣な面持ちで少女に念を押す。

「…え?」

 何の事か、何の意味か判らず、エァリエスは戸惑いの色を隠せない。

(思い出す? 何を?)

「その剣が…その剣は『血を吸い地に死を満たした時に魔王、復活する』と幾多の古文書に記された魔剣の一つ。ある伝承文書には『あらゆる物を斬り裂き、大地をも、炎をも、大海をも、風をも両断し、総ての力を破壊する。そして天より顕れる光の…え〜と、光の使者を破壊する時、魔王が全てを支配する』と…」

「魔王が復活…する? 光の使者…を破壊する…この剣が? 魔王? 復活? 光の…杖じゃなくて? 尼僧…じゃなくて?」

 虚ろな瞳へ…碧い左の瞳に黒き紅が差し…碧から深紫へ…さらに深紅へと変りかけ、少女は片手で顔を抑える。

(いけないっ!)

「させません! 断じて! 例え貴方を殺めようとも。決してっ!」

 慌てて、繕う言葉に、不用意な例えを挟んでしまった。

「アタシを…殺す? 殺す? アンタが?」

 深紫の虚ろな瞳が…碧く冷たい視線へと戻り…疑惑の影が差す。

「あ…いや。ただの例え話というか決意表明というか…形容句というか…ですが…」

 グレイは碧き瞳に戻った事に安心しながらも『最も簡単な方法』を思わず口にしてしまった事を後悔し、ただ狼狽えるだけだった。

「なるほど。判った」

 昨夜までの無表情な冷たい顔に戻りエァリエスは静かに向き直った。

「え?」

「それで前から…エムル国から付きまとってたんだな? 魔王を復活させない為に…」

「あ…いや。いえ…」

「違うのかい?」

 無表情な顔でエァリエスは乞うような声でもう一度、問い直した。

「いえ…。いや、確かにそうですが…」

 元白魔導師の言葉に…少女は瞳に失望を浮かべて…悔やむように閉じた。

「判った…わかった…もう、いい…」

 くるりと背を向け、少女はゆっくりと歩みを始めた。

「結局、信じられるのは…自分だけということだな…」

「あ…エァリエスさん?」

 応えず歩みを進める少女にグレイは追いすがった。

「違います。あなたが信じて…信じていいんです。あなたのこれまでの生き方を…これからも…これからの生き方も」

「退けっ!」

 眼もくれず進むエァリエス。

「ちょっと、待って下さい…ぐっ」

 前に回り込み、エァリエスの歩みを止めようとしたグレイの動きが急に止まった。

「…どうした?」

 流石に不審に思いエァリエスが尋ねた時、グレイの口から赤黒い液体が零れ落ちた。そのまま崩れるグレイの背に数本の矢。

(敵! いつの間にっ! 囲まれているっ!)

 辺りを見回すと木々に隠れた兵士達がゆっくりと姿を現した。

 兵装から軍事国家オーヴェマの魔兵士とすぐに判る。グレイに刺さっている矢羽根の一つにもオーヴェマの紋章が描かれている。

「な…に?」

 既に幾多の国で賞金首とはなっていたが、オーヴェマではまだなってはいない。しかも…その国、政府からの依頼を受けてレガス国のシュタイン将軍の言質を取りに行ったのだ。

「なんだ? オマエ達は! オマエ達から攻撃される謂はない! アタシは…」

 グレイを庇い前にでて両手を広げてエァリエスは叫んだ。しかし…彼女に向かって非情にも次の矢が放たれた。


 かきん


「…え?」

 矢が彼女の胸を貫く事はなかった。

 既に張られていた障壁結界が軽い音と共に矢を撥ね返した。振り返るとグレイが地面に伏したまま術を放っている。

「駄目ですよ。仮にも傭兵のリストの上位に名を連ねようとする者が攻撃されて身を隠さないとは…評価ランクが下がりますよ…ぐふっ」

 ゆっくりと血を吐きながら立ち上るグレイ。

 支えようと走り寄るエァリエスはすぐに障壁に行く手を遮られた。

「え? グレイ…あんた。障壁の中にいないじゃない…」

「ええ。咄嗟の事だったので…まぁ、問題ありませんよ」

 基本的に…白魔導師は障壁を同時には一つしか作れない。

 従って障壁の外にいるという事は…彼自身が無防備な状態にある事を意味していた。

「早く、早くコイツを解呪して! そして、もう一度…」

 障壁の壁を叩き、叫ぶエァリエス。しかし、グレイは冷静に応えた。

「駄目ですよ。彼らがその瞬間を見逃す筈がないでしょう? それに優秀な指揮官も御出でのようですし。ねぇ…そうでしょう? シュタイン将軍!」


 読んで下さりありがとうございます。

 光と闇の挿話集としては短編の2作目になります。


 これは11/16話目です。


 投票、感想など戴けると有り難いです。


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