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ボーイング777

作者: yumix

彼は、旅客機がとても好きだった。

とくに、ボーイング777。(トリプルセブン)

いつも空を見ていて、トリプルセブンを見つけると、彼は「トリプルセブンだ」と立ち止まった。

彼は、将来パイロットを目指していた人で、旅客機の機種なら、かなりの高度でも見分けられた。

パイロットへの夢は、高校生のときに視力を悪くしてから、断たれていた。


入院先の、青い芝生の上にふたり寝ころびながら、空をいつまでも眺めた。

ちょうどそこは旅客機の航路になっていて、ひっきりなしに機影が行き来していた。

ふたりでトリプルセブンを探す時間は、とても楽しく、ゆったり流れていた。

早春のそよ風が、ふたりを包んでは通り過ぎていった。


「空港に旅客機を見に行こう」と提案したのも彼だった。

わたしは一回で快諾した。

彼は、空港に航空無線を持ってきた。必需品なのだという。

「まえに聞いてたやつが、機長が”オレのうな重に鰻がない!”っていうのが聞こえたことがあるって」

その話にわたしは大笑いした。

実際、航空無線を聞いてみると、略語の嵐で、それは英語でさえなかった。

でも、まったくわからなくても、滑走路をゆく旅客機と、無線の中で交わされる言葉の内容を想像するのは、とても愉快だった。

でも、なによりも彼と一緒だったのが、いちばん嬉しかったのだろう。


こうしてわたしと彼は、恋仲になり、そして、つまらないことで別れた。

ふたりとも病気だったので、余裕がなかったのだ。

男女の仲は、友だち同士のそれより脆い。


でも、いまでもわたしは、空にゆっくり移動する旅客機を見つけると、彼を思い出す。

わたしには、どれがトリプルセブンかわからないし、時代はもうボーイング787に変わってしまった。

彼はもうここにはいないけれど、あのとき、トリプルセブンを探した季節をわたしは忘れないだろう。

ほんとうに、パイロットになれたら、よかったのにね。

いまは、どこの空を眺めているのかな。

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