謎の少女の襲撃
俺は今自宅の布団の中にいる。
結局昨日はあのままOLを路上に放置して一目散に家に帰った。
後ろから「お待ちくださいにゃ~、ご主人様にゃ~」と聞こえたけど無視して帰った。
何も出来ないなら生き地獄もはなはだしくまたそこに留まる理由も無かったからだ。
今日は休日。
最近残業続きだったので今日はお昼過ぎまで寝る気満々だ。
あったかい布団で時間も気にせず寝れることの幸せは他の何物にも及ばないという俺の理論は只今自らの身をもって証明中である。
いや~、昨日の出来事なんて寝て忘れてしまおう。きっとあれは悪い夢かなんかだ。いやどっちかというと良い夢か。
ピンポーン
そんなことを考えているとチャイムが鳴り響いた。
まぁいつも通り新聞か宗教団体の勧誘だろうから無視をする。
あの手のものは一旦出ると中々終わらないということは一人暮らしを始めた最初あたりで身を持って体験しているので同じ二の舞は踏まないと決意していた。
しかしチャイムは鳴り続ける。
ピンポーン ピンピンポーン ピピピポーン
連続で鳴らしてくる始末だ。
たちの悪い悪戯だ。
こんな古びたアパートにやって来るなんて暇人だなとあざ笑う。
ここで出てしまうと悪ガキの思惑通りになってしまうので我慢する。
ピピピピンポーン ピンピンポーン ピンピンピンピピンポーン
流石にしつこ過ぎる。
リズムゲームの様になってきているではないか。
俺の幸せな時間をこれ以上邪魔されたくないので仕方なく追い返そうと布団から出る。
愛しい布団との別れを惜しんでいると大きな音と共に俺の家のドアは吹き飛ばされた。
玄関から部屋まで一直線なので飛んできたドアが俺の左頬をかすめる。
俺は呆然とその場に立ちすくむしかなかった。
飛んできた扉のせいでかすかに頬が切れ血が畳に滴っていたが痛みを感じる余裕も無い。
次第に畳には血のシミが広がっていく。
扉はそのままの勢いで窓ガラスを突き破りベランダに引っかかっていた。
体感時間だと二,三十分の様に感じたが実際には数十秒たった頃、ようやく事態を把握し始まる。
何者の仕業なのだと恐怖で震える足を一歩一歩ゆっくり玄関に向かって進めていく。
俺がいったい何をしたんだっていうんだと思いながら玄関を見るとそこには十二,三歳ぐらいの幼い少女が立っていた。
その少女は黒を基調としたドレスを着ている。
レースやフリルなどの装飾は一切なく簡素で品格を感じられた。
また腕部分は手首近くまでスカートは膝下まであり肌の露出は最低限に抑えられている。
靴はロングの編み上げブーツで全体的に地味めなゴスロリといったように見えた。
顔までは良く見えず目を凝らしていると少女がゆっくりゆっくりこちらに近づいて来る。
靴を脱がずにそのまま廊下に上りこつこつと音を立てながら来る姿は恐ろしく今すぐ逃げたしたい気持ちで一杯だった。
やばい、やばい、やばいと焦りながら壁に掛けかけてあったバットを手に持ち構える。
そして部屋に入り込んできたのと同時に思いっきり振りかぶった。
しかし少女は瞬時に反応し左手でバットを掴むと俺の顔をじっと見つめてくる。
幼く見える顔立ちに対比して真剣な眼差しで見てくるので思わず見とれてしまった。
そして少女が軽く微笑むと同時に俺の体は投げ飛ばされ気が付けば床に寝っ転がっていた。
首元にナイフを突きつけられ死を覚悟し今までの思い出が走馬灯の様に駆け巡っていく。
死ぬまでに一度でも良いから彼女でも作りたかったなと後悔の涙を流しているとぐ~と腹の鳴る音が聞こえた。
そして俺の上に少女が倒れ込んできた。
「お腹が……空い…………た……」
消えるような小さな声でそう呟く。