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不思議な爺さんとの出会い 

裏通りはまるで時が止まったように雑音ひとつなく大通りの喧騒とは打って変わって静寂に包まれていた。

この裏通りは今の会社に勤めてから時々使用しているが通行人にすれ違ったことは一回も無く穴場の抜け道として自分の中で重宝している。仮にこれを教える人がいたらそれは人生初の彼女だけだと決めていた。


今日も相変わらず人がいないな~なんて思いながら歩いていると対向から初老の男性が歩いてきた。上は黒一色のコートを着ていて下もまた黒のズボンを履いている。靴は黒の革靴で全身黒で統一していて唯一違う色だったのは白髪を混ぜた髪ぐらいだった。


深夜に人通りとは珍しいと思いながら気にも留めず歩き進めていると急に体が石の様に硬直する。

まさか金縛りか……、でも起きているときになるとは聞いたことが無いぞ……と冷や汗をかきながら考えていると初老の男性が近づいてくる。


助けを動かない口で求めていると男性が耳元に近づいてきてそっと呟いた。


「女にモテてみたくはないか?」


女にモテたことのない年齢=彼女いない歴の俺は恐怖に怯えながらもついつい聞き入ってしまう。


「お前に女を虜にする力を授けてやろう。

 どう使おうがお前の自由だ」


気が付くと俺は冷たいコンクリートの路上に横たわっていた。

不思議がりながら起き上がると首元の謎の痛みと体の奥から滲み出るような力を感じる。

こんな固いところで寝たから体が寝違えちゃったのかなと首を傾けていると向かいから女性が歩いてきていた。

女性は上はスーツに下はタイトスカートを穿いていてその服装から仕事帰りのOLということが安易に推測できた。

また黒髪のロングに顔はきりっとクールな顔立ちをしていてまさに出来る女っていう風格をしていた。


今日は珍しく通行人が多いなとのんきに思っていると脳内に謎の声が響く。


「前から歩いてくる女の首元にその牙で噛みつきなさい。

 そうすればあなたが長年望んでいたことになるでしょう」


謎の声は優しく落ち着いていて女神のようだった。


気を失うだけで無く幻聴までも聞こえるとは今月は働きすぎたのかなと反省をしながら再び歩く。

しかし幻聴で言っていた牙とは何のことだろうと気になり歯を触ってみると手に地味な痛みが走った。

いたっ!と思わず呟きながら手を見てみると血が赤い糸の様に手を滴っている。

俺の犬歯ってこんなに鋭かったけ?と疑問に思っていると再び謎の声が響く。


「いいからさっさと噛みつけや!!

 そもそも人の犬歯がそんな鋭い訳ねーだろ。

 折角人が丁寧に頼んでやっているのによ」


頭の中に響く罵声&怒声。

その声は殺意に満ち溢れていて思わず身震いしてしまう。

先までの女神のような声に比べて悪魔のような声で同一人物とは思わなかった。


仮に指示に従って噛んだとしてもどのような噛み方をしても警察の御用になる未来しか見えない。

言い訳も噛みついてしまったからにはよっぽど良い人でしか伝わるはずがなかった。


そんな訳でまた無視をすることを決めた俺は歩き始めた。


「さっさとしなさいよ!!

 ほら、あの子もう行っちゃうわよ!?

 男なら一気にいっちゃいなって、そんなんだから生まれて一度も彼女が出来ないんだよ」


一番言われたくない点を最後の一言で指摘されてしまい色々振り切れてしまう。

謎の声との対話と葛藤ですっかりOLは俺を通り過ぎてしまっていた。

その為、後ろからそっとゆっくり近ついでいく。

そしてOLの背後まで着くと思いっ切って首元に思いっ切り噛みついた。


「キャッ!

 いきなりなにするんですか、この変態!

 警察に通報しますからね」


そう絶叫しながら全力で振り払われた。

思っている以上に強い力で振り払われた俺がそのままの勢いで尻餅をつく。


「いてててて……

 あっ、すみません。

 えっと……、知り合いだと思ったものでついついやってしまいました。

 本当すみませんでした。

 警察だけには通報しないでください」


地べたに頭をぶつけそうなほどの勢いで土下座をする。

会社で学んだ土下座をこんなところでするなんて思いもしていなかった。


しばらくしていたが何の返答も帰ってこないのでこの言い訳流石にきつかったか……と思いながら頭を上げるとそこには顔を惚けさせて両足を内股にしもじもじさせているOLの姿があった。


「えっと……、えっ、ちょ、えっ」


思いがけない事態だったので呆気にとられ情けない声しか出ない。


時間にして五,六秒ぐらいたっただろうか。

OLの頭からもぞもぞとケモノ耳が生えてきた。

どんどん伸びていって適当な長さまで延びたら成長が止まった。

その耳は髪の毛と同色の黒色の毛に包まれていて最初から生えていたと言っても違和感が無いぐらい馴染んでいた。


呆然とその場にへたり込んでいると今度は尾てい骨付近からしっぽがにょきにょきと生えてきた。

そのOLはタイトスカートを穿いていたがそれを突き破ってしっぽは生えてきた。


当て続けに起こる理解不能な現状の数々に思考が追い付かずにいるとOLは四つん這いになる。

俺は地べたに座っていたため目線が合う。


OLの目は潤んでいて頬を赤らめながら蕩けるような表情で顔を覗きこんできた。

俺は思わず恥ずかしくなり立ち上がる。


「何なりとご命令下さい、ご主人様だニャ~」


何言ってんだ?こいつと思わず思ったがあまりに媚びたような甘ったるい声で言われるものだから下半部が熱が出たように熱くなり思わず前かがみとなる。


「どうかしましたかにゃ?ご主人様」


本能には逆らえず思わず手が出そうになるが何とかかろうじて理性を保つ。


俺が噛んでからなのか?あの老人は俺にそんな素晴らしい力を授けてくれたのか?

まさかそんなはずわ……などと混乱しているとOLが俺の足元に寄って来た。


「大丈夫ですかにゃ?愛しのご主人様♡」


そういうと俺の足元に頬を摺り寄せてくる。

流石に俺の理性は音を立てて崩れ落ち襲い掛かろうした時だった。

再び脳に謎の声が聞こえた。


「そうそう、女性にHなことをすると体の内側から爆発して木端微塵になりますから気を付けて下さい。

 文字通り身を亡ぼすことになりますよ」


その言葉は心を打ち砕いた。

こんな目の前に美人が寄り添ってるのに何もできないとは死んだほうがましだ!


俺の悲痛な叫びはOLの鳴き声と共に夜の街へと消えていった。





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