第9話「眇の妖精」
遅くても毎週土曜か日曜には投稿していきたいものです。
一匹狼に捕捉される前になんとか森から出る事が出来た。
「酷い目にあったぜ……」
総司が疲れ果てた声でボヤく。
「あはは、でも楽しかったよね」
「ん……そりゃなー、リアルであんな連続技は出来ないしな」
確かに、あんな動きを現実でやれたらとんでもない。
木製猫車を押しながら改めてこの広い草原を見渡す、ネズミに2発3発と着実に攻撃を加えてる人、体当たりを受けてひっくり返ってる人、周りの戦いには目もくれず草むらから薬草を探す人、色々な人が思い思いに楽しんでいる。
「あれ……?」
草ネズミや草原ウサギと戦ってる人達に中に動きが妙に直線的な、カクカクした動きの人がちらほらいる。
「ん? あー、通常モードのプレイヤーみたいだな。ってそいやレイ、VRヘッドギア買えなかったんじゃねーの?」
あ、そういえば説明してなかった。
「電話の後帰宅したら姉さんが買ってくれてたんだ、ご褒美だって」
「おうおう、相変わらず愛されてんなぁ」
さっきまで一匹狼相手に死闘を繰り広げてたのが嘘みたいないつものやりとりに不思議な感じを受ける。
「まーねー、あ……やっと町に戻ってこれたね」
前方に低めの城壁が見えてくる、一部作りかけで少し心許ないけどここが僕らの本拠地だ。
――アイラさんのSSに写りました。
――撮影を許可しますか? 許可/頭部を保護/指定範囲を保護/全身を保護
「ん? SSの許可?」
なんだろ、プライバシー保護とかそういうの?
「お? SS撮影か、許可だとそのまんま、保護だと指定部分モザイクだな」
勝手にSS撮られてキャラ晒しとかの対策かなぁ。まぁいいや、許可。
改めて周りを見てみると風景を見てわいわい騒いでる人達が結構いる、あの内の誰かが撮ったSSに写り込んじゃったのかな。
「俺も複数きたわ、イイ男はつらいねー」
総司目当てでSS撮った人もいるだろうなー、腰に片手剣を挿して背中に大剣背負ってるイケメンとかかなり目立つ、装備が初期の布シリーズなのはご愛嬌だけどね。
……総司が複数撮られてるのに僕が1枚しか撮られてないのはやっぱり猫車押してるのが絵にならないからかなぁ、そうだと思いたい。
などと益体もない事を考えながら門をくぐった所でアナウンスが流れた。
――ノースランドの皆様にお知らせします
――隠しスキル《盗撮》を修得された方が現れました
――隠しスキルは一定の条件を満たさない限り修得出来ません
――また最初に修得した方にはボーナスもありますので色々と試して隠しスキルの発見に努めて下さい
――なお、用途によっては犯罪となり逮捕されペナルティが発生する場合がございますのでスキルのご利用には十分ご注意下さい――以上
「《盗撮》とかモロ犯罪スキルなんじゃね?」
総司が苦笑いしている、確かにねぇ。
「それでわざわざアナウンスに追記があったんだと思うけど……」
その時横手から騒いでる男の声が聞こえてきた。
「ちょ! なんやねん! 離せや!!」
なんか聞いた事のある声。
「スキル上げしとっただけやろ、離せっちゅうねん!」
訛りの強い男性が紋章の入った鎧姿の衛兵達にまた連行されてる。
「はいはい、話は詰め所で聞くから今回も大人しくなー」
そのまま男性は僕達の目の前を通って連れて行かれてしまった。
「なんだったんだ?」
「僕らが狩りに出る前にも連行されてた人だよね?」
あの喋りはきっとそう。
「だな……」
「んー、タイミング的に《盗撮》スキルをゲットしたのあの人じゃないかな?」
犯罪スキルっぽいし……。
「わかりやすいなー」
なんとなくしみじみしつつ居住区中央にある噴水へと移動した。
「さて、分配どうするよ」
時間がちょっとマズい気がする。
「夕食の支度あるから早めに済ませたいかも」
「お、そんな時間か、じゃあ……」
ギルドに納品して報酬が貰える尻尾を全部総司に預けて生産で使う肉や歯、毛皮等に草類を預かる。
「おし、んじゃ俺はギルドに納品して報酬確保、レイは素材使って生産して換金だな。分配は明日合流してからかな」
「スキル無くてまだ加工出来ないのが多いけどね、夕食後に何とかするよ」
木製猫車を出して今日の収穫を入れていく。
「スキル習得無理そうならスキル持ってる奴に売っても良いしな」
「それもそうだね、じゃあお先に……ってログアウトどうやるの?」
確認してなかった……ほんと浮かれすぎてる。
「宿屋に入ってベッドで横になればログアウト出来るみたいだな」
なるほど、妥当というか違和感はない、かな?
「確か一ヶ月は無料で入れるって話だから大丈夫だぜ、その後は宿泊料金いるらしいが詳しくはわかんね」
「ふーん、ありがと。じゃあまた明日ね」
「おーぅ、お疲れー」
総司と別れて商業区の大通りを小走りで進むと宿屋や酒場の看板が複数見えてきた。
ログアウトするだけとは言え変な所はイヤだし、何処が良いかなー?
"大食らいの風来坊屋"に"酒樽と胃袋亭"……どちらも荒っぽいお客が多そうな名前。
"永遠の揺り籠"寝たら起きられなさそうだし。
"雀のお宿"……んー、ちょっとベタというかネタっぽい?
お……"眇の妖精亭"かぁ。
石造りのがっちりとした3階建ての建物を見上げる。
「"眇の妖精亭"……ファナと妖精繋がりって事でここにしようかな」
店内に入ると質実剛健といった感じの白髪に白髭のドワーフっぽいおじさんが居た。
「おう、すまないが紹介の無い奴は泊まれないんだ。メシだけなら良いぞ」
あれれ、これは失敗した?
と、思ったらじっと僕を見ていたドワーフさんが相好を崩す。
「待て、妖精の祝福持ちじゃねぇか。泊まりか?」
ん? 妖精の祝福ってなんだろう?
「え、あ、はい、泊りです」
「そうかそうか、2階の一番奥の部屋だ。鍵持ってけ」
そう言うと鍵を放り投げてきた。
「ありがとうございます。えっと……レイです、お世話になります」
「おう、ドワーフのガンツだ。メシ食いたい時はいつでも言ってくれ。それと2階に手伝いがいるから細かい事はそいつからな」
ガンツさんにお辞儀をしてから横手の階段を上る、いい人みたいでよかった。
「ええっと、一番奥の部屋……と」
2階の廊下をキョロキョロと見回しながら歩いてると背後から声を掛けられた。
「お客さんかなー☆」
えっ、この声は……。
「いやー、もうここに泊まれるお客が出るとはねーってレイ?」
振り向くと当然ふわふわと浮いてる妖精の姿。
「……久しぶり? で、いいのかな?」
こんなに早く再会するとは、想定外ってレベルじゃない。
「宿屋いっぱいあるのに一発で遭遇とか、レイって凄いわー♪ あ、部屋はこっちねー☆」
ファナに先導されて一番奥の左手の部屋へ入る。
結構広めの部屋に丸い机と椅子、大きな箱に大きめのベッドが2つ。
「さってー、部屋の使い方とか教えたいんだけど……急いでる?」
「え……あ! うん、早くログアウトして夕食作らないと!」
唐突なファナとの再会で色々吹っ飛んでた。
「そっかー、じゃあ感動の再会は後回しだねー。ログアウトはベッドに横になってメニューからログアウトを選択してそのまま目を閉じてしばらくしたらOK☆」
なるほど、眠る感じでいいのか。
「じゃあ、悪いけど、また後で!」
ベッドに横たわるとメニューを開いてログアウトを選択、目を閉じ……。
「ねぇ、ファナ。じっと見られてるとちょっと恥ずかしいんだけど」
ファナが僕のお腹の上辺りで浮いてる。
「ほらほら、急いでるんでしょー? 気にしない気にしない☆」
うぅ、仕方ないか……静かに目を閉じる。
ベッドの感触が心地良い、いいベッドだなぁ、これ……。
空気が変わった気がして目を開くとVRヘッドギアを外して起き上がる、周りを見るといつもの自分の部屋。壁に力道山と吉永小百合のポスターが張ってあったりはしない。
「んー、楽しかった。さて支度しないと」
ベッドから降りて1回伸びをしてから階下へ、今夜は鶏肉のトマト煮の予定。
両親は今日も忙しくて帰ってこれないらしいので僕と姉さんと祈の3人分、頑張って美味しく作らないとね。
加 護:《妖精の祝福2》
目 標:
サフナの町周辺の採掘ポイント調査
《素材鑑定》《製薬》習得
専門書を見つけてスキル取得
プライベートダンジョンを入手