第8話「森の獣と猫車」
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一匹狼の立体的な攻撃に翻弄されて焦燥感がじわっと広がってきているのがわかる、このまま負けて死に戻ってもこれだけの強敵相手だ、かなりのスキルUPをしてるはず。所詮ゲームの勝ち負けだし無理をする必要はない。
でも小さい頃からプレイすることを夢見てたVRMMOだからこそ死力を尽くして勝利したい、負けるのは嫌だ。
「総司! 意地でも勝つよ!!」
弱気になった自分に喝を入れる為に大声で叫ぶ。
「よっしゃ! それでこそレイだ! 少しだけ時間稼いでくれ!!」
総司には何か奥の手があるのかな?
ここは幼馴染の言葉を信じて踏ん張ろう、右手に持ったツルハシを強く握って前に出ると一匹狼を睨みつける。
一匹狼はこちらが気合を入れなおしたのを察したのかまた咆哮をあげようと身構えた。
「させないっ!!」
サイドスローで右手のツルハシを投げつける!
叫ぶために踏ん張っていた一匹狼は避けられず脇腹にツルハシが直撃した!
「てぇい!」
一気に突っ込み取り出した2本目のスコップを叩きつけるもののギリギリで回避される。どうやら投げたツルハシは柄の部分が当たったみたいで大きなダメージには至っていなかった。
「なかなか漫画みたいに華麗で格好良い戦いとはいかないね……」
まぁ、スコップとツルハシで白兵戦してる時点で華麗じゃないけどさ。
反撃を警戒した一匹狼が横の木を蹴って飛び上がる……右、左、右、左、ここだっ!!
飛びかかってくるタイミングに合わせてカウンターでスコップの突きを入れる、いい感じ。かなりこいつの動きの癖が読めてきた気がする。
こうしてやり合ってる間も後ろで総司の「こうか?」「あれっ?」「お!」とか声が聞こえてくる、あっちもぶっつけかぁ。
また飛んできた……右、左、右、ひだっうぇっ!?
「いたたた……」
いきなりタイミングを変えてきた、こいつ賢いぞ……。
咄嗟にスコップで防御したけどスコップを跳ね飛ばされて少し右腕にもらってしまった。
3本目のスコップを右手に、2本目のツルハシを左手に持つ。総司はまだかかるかなぁ、どうだろうか……右、左ここっ!!
「よし!」
一匹狼が飛ぼうとした木を先読みしてツルハシを投げつける。木の幹に突き刺さったツルハシの柄に一匹狼が激突、悲鳴を上げて落下した。
「総司、まだっ!?」
叫びつつ起き上がって頭を左右に振ってる一匹狼へ突進してそのまま飛び蹴り!
わずかにかすっただけで躱された、勘弁して!
でも無理な回避で体勢が崩れてる、蹴った右足が大地に着いた反動で振り向くとその勢いを利用して右手のスコップを横薙ぎにした。
良い手応え、追撃で左手に3本目のツルハシを出して上段から叩き付ける! 一匹狼の右肩に突き刺さった。
タフな一匹狼も流石にこれは効いたみたいで吠えながら暴れはじめる。
あまりの暴れっぷりに僕も大きく後退せざるをえなかった、ツルハシも右肩から抜けて地面に落ちてる。
間合いが離れて一息つこうとした瞬間に一気に向こうから突っ込んできた。
「うぇぇぇっ!?」
斜めに叩きつけてくる強靭な前足をかろうじてスコップの柄で受け止めた、油断は一切させてくれないらしい。
「せぇいっ!!」
一匹狼を受け止めたまま両手でスコップを思いっきり振り抜いて近くの木の幹へ投げ飛ばす、激突させれば時間が稼げる!!
しかし投げ飛ばされた一匹狼は空中で体勢を整えると木の幹を軽々と蹴ってこっちへ飛び掛かってきた。
「無茶苦茶だ!」
振り抜いた勢いのままスコップを手放して両手をフリーに、喰らいついてくる一匹狼をギリギリまで引き付けて左手を前に出すと同時に木製猫車をインベントリから取り出した!
さっきは偶然だったけど今度は完全に狙っての猫車カウンター!!
「よっしゃあっ! 待たせたな!!」
後ろで総司の声が聞こえた、間に合った……しかし左手の手応えが軽すぎる。
一匹狼は木製猫車の側面に着地して激突してない、カウンターを読まれてた!!
「ヤバっ……なんてね!」
一匹狼が猫車を足場に再跳躍しようとする瞬間、猫車をインベントリに戻す、足場が消えて一匹狼が空中で完全に体勢を崩した。
「|"風の戒め"(エア・バインド)!!」
総司の声と共に風が動く、一匹狼の身体が硬直して受け身も取れずに地面に落下。
「全力でいくぜ!」
僕が慌てて離れた所に風のエフェクトをまとった総司が一気に突っ込んできて一匹狼を〈切り上げ〉る。
「そぉーーーりゃっ!!」
軽々と浮いた一匹狼にとんでもない速度で連続攻撃を叩き込むと最後に直突きで吹き飛ばした。
「くっそ、まだ倒せてねぇ! レイ、後は任せた! |"戦の追い風"(エア・ライド)」
総司の風魔法でいきなり身体が軽くなる、魔法って凄い!
「やあああああっ!!」
吹っ飛ばされた一匹狼へ風をまとって突撃、右肩から激突すると左手に出した4本目のツルハシを叩き込む。大きくよろめいた一匹狼へ間髪入れず顎に膝蹴り、怯んだ隙に頭部を掴むと右脇に一匹狼の首を抱え込んで後ろに投げ飛ばした。
「これで! どうだ!!」
地面に叩き付けられた一匹狼に5本目のツルハシを叩き込むと戦の追い風の力を借りて大きく跳躍! 無防備な腹へ両足を揃えて踏みつける。
「レイ! まだ生きてる!!」
MPとスタミナが尽きてへたり込んでる総司の声と同時に一匹狼の闘志が漲った目に気付く、追い打ちを……っ!!
――希少猛獣"サフナの一匹狼"の初討伐に成功しました
――経験値+300、ステータスに10ポイント割り振れます
――経験値が一定量に達したのでLvが4上がりました→Lv9
――ステータスを8ポイント、レベル10未満のスキルを4レベル上げる事が出来ます
――《片手剣》が5.4上昇しました→11.6
――スキルUPに連動してSTRが3上昇しました→19
――スキルUPに連動してAGIが3上昇しました→20
――スキルUPに連動してDEXが2上昇しました→17
――《片手刺突剣》が1.3上昇しました→3.4
――スキルUPに連動してAGIが1上昇しました→21
――スキルUPに連動してDEXが2上昇しました→19
――《片手鈍器》が3.1上昇しました→5.1
――スキルUPに連動してSTRが3上昇しました→22
――《蹴撃》が1.4上昇しました→2.4
――スキルUPに連動してAGIが1上昇しました→22
――《武器受け》が2.4上昇しました→3.4
――スキルUPに連動してDEXが1上昇しました→20
――《回避》が0.4上昇しました→2.7
――スキルUPに連動してAGIが1上昇しました→23
――《身体バランス》が0.5上昇しました→3.6
――これまでの経験で《投擲/片手剣》がレベル1相当に達しました
――有効化しますか? 有効化/保留
――これまでの経験で《投げ》がレベル1相当に達しました
――有効化しますか? 有効化/保留
――条件を満たしたので隠しスキル《荷車革命》が修得可能です
――修得しますか? 修得/保留
一気にログが流れる、僕は頭上に掲げていた木製猫車を地面に下ろすと尻餅をついた。
「お疲れーぃ」
MP枯渇で気怠げに総司が声を掛けてくる。
「トドメひでぇな、おい。なんだっけ、レイの親父さんのレトロゲーコレクションにあった2D対戦格ゲーの技だっけ? エジプトのファラオみたいな奴のダウン追い打ち攻撃だよな」
あー、うんうん……。
「何か追い打ちしなきゃ! って思って咄嗟に思いついたんだよね、父さんの薫陶の賜物だなぁ」
あの時僕は自分の頭上にインベントリから木製猫車を出してそれを受け止める事で重たい木製猫車の落下衝撃を追い打ちにした。
「勝てて良かったけど、色々上がりすぎて何が何だか……」
《投擲/片手剣》と《投げ》を有効化。
――《投げ》が1.2上昇しました→2.2
――スキルUPに連動してSTRが1上昇しました→23
「……なんか隠しスキルが出てる《荷車革命》だって」
――《荷車革命》を修得しました
――《荷車革命》が3.2上昇しました→4.2
――スキルUPに連動してSTRが1上昇しました→24
――スキルUPに連動してVITが1上昇しました→12
――ノースランドの皆様にお知らせします
――隠しスキル《荷車革命》を修得された方が現れました
――隠しスキルは一定の条件を満たさない限り修得出来ません
――また最初に修得した方にはボーナスもありますので色々と試して隠しスキルの発見に努めて下さい ――以上
「わ、なんか全体アナウンス来ちゃったね」
「なんかすげーな、レイ」
へたり込んだまま一匹狼に剥ぎ取り用ダガーを刺す。
「凄いといえば、総司の魔法凄かったね!」
あんなに素軽く動けるとほんと楽しい。
「おー、あれな。戦技が覚えてなくても使うと会得出来ただろ?」
……ん?
「ひょっとしたら魔法もいけるんじゃないかと思ってな、色々試したらいけたわ。
ギリギリ間に合ったってトコ」
「出来なかったらどうするつもりだったの?」
総司が不思議そうな顔をする。
「俺とレイならなんとかなったんじゃね?」
なんというか、うん、がんばろう。
重たい体を引きずってあちこちに落ちてるスコップとツルハシを回収。
「しっかしまー、これで大物もいなくなったし邪魔されず採取出来っかな?」
総司がこっちにやってきて一匹狼に剥ぎ取り用ダガーを突き立てた、キラキラと光が舞って一匹狼が消えていく。
「そうだね、軽く採取したら戻ろう。流石にボロボロだし」
思いっきり伸びをして一息ついた瞬間、森の奥から狼の咆哮が聞こえた……。
「レイ、今のって……」
「いやー、まさか……ねぇ?」
――《殺気感知》が0.2上昇しました→11.0
――スキルUPに連動してMENが1上昇しました→19
「うーん……」
聞いた事のある足音と感じた事のある殺気……総司と顔を見合わせると同時に頷く。
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
「レアボスの癖に即湧きかよぉぉぉぉっ!!」
僕達は全力で森を出て草原へ駆け出した。
名 前:レイ 種 族:人間 性 別:男 レベル:9
H P:201→82/251 M P:222→266/266
STR:16→24 VIT:11→12 AGI:17→23
DEX:15→20 INT:13 MEN:18→19 余剰:24
加 護:《妖精の祝福1》
スキル:《採掘10》《鍛冶7》《鉱物知識5》《細工3》《木工1》
《身体バランス3.6↑》《生物知識2.1》《殺気感知11↑》
《耐寒2.1》《回避2.7↑》《片手剣11.6↑》《片手刺突剣3.4↑》《片手鈍器3.1↑》《蹴撃2.4↑》《武器受け3.4↑》《解体1.1》《食材鑑定1》《植物知識1》
《投擲/片手剣1》←NEW《投げ2.2》←NEW《荷車革命4.2》←NEW
余剰:8
ちなみに作者は某和風MMORPGで相模の一匹狼という小ボスをPT全員がぼろぼろになりつつもなんとか倒したら即湧きしてみんな必死で逃げたという実体験があります。