第20話「草原と森と先行組と」
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――4月30日午前9時08分(リアル午後3時08分)北の草原
城門を抜けて草原へ、昨日と人は同じくらいかな?
少し前を行く総司達を追おうとした時だった。
「ぬわーーっ!!」
ドスンと音を立てて少し離れた場所に人が落ちてきた。
かなりびっくりしたらしくリアちゃんと雀さんが反射的に僕にしがみついてきた、2人とも涙目だ。ちなみにリアちゃんの腕の中に居たウサギのメーニュは何処かへ逃走してしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
大の字になっている黒装束の男性に近付こうとすると。
「ふぬーん!!」
掛け声とともに飛び起きた黒装束の男性がこちらを向いた。
「《受け身》があるので大丈夫で御座る!」
黒覆面から覗く目がキラーン☆と輝いてこちらへ右手の親指を立ててくる。
「お気遣いかたじけなく。拙者修行中ゆえ失礼するで御座る」
2、3回小さくジャンプしてから助走、そのまま城壁を駆け上がっていく……。
「えぇっ!?」
10m以上あるほぼ垂直になっている城壁の半ば辺りまで一気に駆け上がっていって失速、バランスを崩してまた僕らの目の前に大の字で叩き付けられた。
「今ので《受け身》が上がったから大丈夫で御座るよ!」
即座に立ち上がって右手の親指を立ててきた。ちなみにリアちゃんと雀さんは完全に引いてしまって僕の後ろに隠れようとおしくら饅頭状態だ。
「では!」
「ちょっと、ストーップ」
足元がフラついていたしHPバー的にも死に戻りしそうなので引き止めて覚えたての《水魔法》"生命の水滴"を使ってHPをある程度回復させた。
――《水魔法》が0.1上昇しました→.1.1
「おお! かたじけのう御座る。この御恩はいずれ!!」
親指を再度立てて僕らから距離を取ると城壁を見上げながら「身体が沈む前に足を前へ……」「角度が……」「いやいや助走を……」と一人反省会を始めだしたのでそっと離れる。
「色んな人がいるんだね」
怯えていたリアちゃんと雀さんの頭を優しく撫でると少し落ち着いたみたいだ。
しかし改めて見回してみると城壁からロープを垂らして登攀と降下を繰り返してる人やフリークライミングをしている人が何人もいる。
みんな楽しんでるんだな、なんか嬉しくなってきた。
「っと、遅れすぎた、追いかけようか」
2人の手を取って3人で一緒に走る、ちょっと楽しかったり。
先行する3人に追い付いたけど、ちょっとピリピリしてる……?
「どうかしたの?」
訳がわからないので聞いてみる。
「あー、あれあれ」
総司が歩きながら目線だけで草原に立っている他のPCを指す。
わ、鉄装備のPCだ、先行攻略組って奴なのかな?
様子を見る限りかなり緊迫した感じで辺りを警戒している。
「なにしてるんだろ?」
ぐるっと見渡すと同じ鉄装備のPCがそれなりの間隔を空けて何人もいるのに気が付いた。
かなり殺気立った感じで周りを見ているのでまたリアちゃんと雀さんが怯えてそれぞれレアさんと茶釜さんに引っ付いてしまった。さっきまでは僕と手を繋いでたのに……ちょっと寂しい。
「そろそろ草大ネズミの湧き時間ですからね、鉄装備の連中は複数のPTでそれぞれが草原に広く散って索敵、草大ネズミが出現した瞬間に単独で攻撃、散ってたPTメンバーが集まるまでは鉄装備の防御力で耐え切るって戦法で草大ネズミをグループで独占してるんですよ」
茶釜さんが説明してくれた。組織力と資金力でのボス独占かぁ、物凄いね。
「オークション形式で一般プレイヤーに1戦いくらでPT枠を売って資金稼ぎもしてるようで……買う人も買う人ですが、買わないとほぼ戦う機会が得られないですので買う人を責めるわけにも行かず」
うーん、なんか殺伐としてるなぁ。
あ、草大ネズミが湧いた、即座に近くに居た鉄装備が一撃を入れてそのまま防御体勢に入る。
辺りにいたPCからは怨嗟の声や舌打ちがちらほらと聞こえる、これがずっと続くとちょっと酷い事になりそうだよね。
「ま、これで1時間は平和な草原ね。ほんと嫌になるわ」
レアさんがイヤな気分を払拭する為かリアちゃんを抱きしめて髪を撫でたり頬ずりしたりしてる。
「……姉さん、元気出すー」
リアちゃんがレアさんの頭を撫でてる、仲良しだなぁ。
2人を見て和んでいると近くに湧いた草ネズミに黒い球体が複数直撃した。
これは見た事の無いエフェクトだ、闇魔法かな?
見ていると中学生くらいの少年がひっくり返って動かなくなった草ネズミに手際良くとどめを刺していった。
「なんだろ、MP削って気絶とかそういう感じかな?」
わ、今度は光の球を使ってる、魔法はまだ"生命の水滴"しか使ってないけどやっぱり面白そうだ。
「そいえばレイは槍系のスキル持ってたっけ?」
「えっと、まだ覚えてないね」
雀さんがビクッとしてこちらを恐る恐る見てくる。
「使った事あるから大丈夫だと思うよ」
インベントリから青銅の槍を出してクルッと回してから軽く素振り。
「いけるね」
近くにいた草ネズミに槍を真っ直ぐ突き込む、当然一撃だ。
「うん、いい槍だ。ありがとう」
雀さんが顔を赤らめて照れてる、可愛いな。
森への道中草ネズミや草原ウサギ相手に試し斬り、基本の突き、払い、槍を回して反対側の石突での打撃、使いやすいなぁ。
――これまでの経験で《槍》がレベル1相当に達しました
――有効化しますか? 有効化/保留
数匹倒した所で習得、有効化、と。
「OK、スキル習得したよ」
「え、早くない?」
レアさんが声を上げた、リアちゃんも茶釜さんもびっくりしてる。
僕と総司と雀さんはレアさんの声に首を傾げてる。
あれ、なんだろこの反応の違い。
「レイさんはさっき使った事があるって言ってましたけど、それはNLOでですよね?」
「え? 違いますよ、NLOで槍を使ったのは今が初めてで」
「……リアルで槍使ってるんですか?」
茶釜さんがちょっと引き気味に聞いてくる。
「ええ、武道場みたいな所で少し経験がある程度ですけど」
「あぁ……ひょっとしたらリアルで経験があるとスキルの習得や伸びが早い可能性もあるかもしれませんね」
それって技術的に凄すぎないかな?
「ある程度決まった型に合った動きをしたらスキル経験値にボーナスとかそんな感じでしょうけど」
「あぁ、無茶苦茶に振り回すよりきちんと動いた方が効率良くスキルが上がる、ならありがたいですね」
んん?
「僕と総司はわかるんですけど、雀さんは?」
大人しそうな子だけど武道経験者?
「ん、と、学校で、なぎなた部、だから……」
なるほど、薙刀部か。ちょっと袴姿に薙刀を持った雀さんを想像してみる……いいね!! とか思っているといきなり大声が聞こえた。
「チャージ……………………スラッシュ!! あたんねーーーー!!!」
戦技、かな? 片手剣を持ったPCがノンアクティブの草原ウサギの近くまで寄って戦技を使ったけど溜めてる間にウサギが何処かへ跳ねて行っちゃったみたいだ。
「アレねー《片手刺突剣》にも似たような戦技があるけど、どうやって当てるのかわからないのよね」
レアさんが処置無しって感じで肩をすくめた。
「うーん、相手のバランスを崩したりダウンさせた隙に溜めるとか?」
あと、他には……。
「拘束系の魔法で動きを止めるってのもアリだよな」
そういえば総司は"風の戒め"って魔法使ってたよね。
「あとは溜め時間を短くするとかどうよ、威力は落ちるだろうけどな」
「はぁ? どうやって短くするのよ」
レアさんが呆れたような声を出す。
「総司総司、アレって気付いてる人まだ少ないと思うんだ」
「あー、それもそうか。俺だってレイが居なかったら気付いてなかったしな」
「アレってなんでしょうか?」
茶釜さんが興味を持った、なんだかんだで検証好きっぽいよね。
「人前じゃアレなんで一匹狼相手に、かなぁ?」
「そーなるな、試してみたい事があるし早く行こうぜ」
総司達が先行して僕も付いていこうとしたらリアちゃんに革鎧の裾を引かれた。
「ん?」
振り返るといつの間にか逃走していたメーニュが戻って来ていたようだ。
「……これ」
メーニュが咥えていた草をリアちゃんが受け取って僕に渡してくれた、《植物知識》で見てみる。
【植物】草原の薬草 価値2 重量0.01
サフナの町周辺に生えている薬草
回復ポーションの材料になる
「おぉ、凄い。メーニュは採取出来るんだ」
「……メーニュ、えらい?」
メーニュを抱き上げたリアちゃんがちょっと誇らしげだ。
「うんうん、メーニュも飼い主のリアちゃんもえらいぞ」
青銅の槍をインベントリに入れてから右手でリアちゃんの頭を、左手でメーニュの頭を同時に優しく撫でると2人とも嬉しそうに目を細めた。
《動物調教》便利そうだし時間が空いたら取ってみようかな?
しばらくクラスメイトとそのペットの撫で心地を堪能していると今度は雀さんに皮の鎧の裾を引かれた。
「レイ、さん……みんな、行っちゃう、よ?」
「あ、ごめんごめん、行こうか」
名残惜しいけど撫でるのを止めて移動を開始、前を行くレアさんの視線が怖い。
色々あったけど無事に森の入口前に到着した。
「着きましたね、では準備をしましょう」
少し緊張した声で茶釜さんがインベントリから自分の木製猫車と6人分の斧を出す。
「あ、すみません! 伐採に来たのに斧持ってくるの忘れてました……」
昨日次来る時は斧を持ってこようってメモったのに完全に忘れてた、ちゃんと準備してないのが色々響いてるのを実感しつつ反省。
「いえいえ、今回は私からの唐突で無理なお願いでしたし、これくらいはこちらで持ちますよ」
茶釜さん真面目過ぎるというか、うーん。
「じゃあまずは外縁部の伐採を中心に、一匹狼が近付いてきたら僕と総司で迎撃、で」
再度みんなと方針を確認。
「よし、行こうか」
一歩を踏み出した瞬間森の中怒鳴り声が響いた。
「お前らそこで何やってんだ!!」
森の中から鉄装備に身を固めた男が2人出てきた。
「茂みの中に4人と森の奥に6人の12人……いや、気配消した奴が1人木の上で13人だな。対人戦はまだ未実装だが油断するなよ」
総司がPT用のチャット機能で注意を促してきた。
うーん、平和裏に行きたい所だけど。
「あのー。森の外縁部の木を切りにきたんですけど、どうかしたんですか?」
レアさんが前に出てやってきた鉄装備の男に話しかける。
「えっ、あの、その、ですね。うちのリーダー達がボス戦やってるんですよ」
いきなり美少女エルフに話し掛けられてキョドってる。気持ちはわかるよ、レアさん本当に可愛いし。
ベラベラ喋り始めた男にもう1人が肘鉄を入れて黙らせようとしてる。
「いてーな、男2人はともかく女の子たちむちゃくちゃレベル高いだろ、怒鳴り散らして追い払うよりも心象良くした方がイイって絶対」
小声のつもりなんだろうけど、こっちまで聞こえてる……というか男2人?
「俺と茶釜さんじゃねーの?」
総司がニヤニヤしてる、おのれ……。
「そ、そりゃー俺だってあの赤いリボンの子とかドストライクだけどさ」
茶釜さんが噴いた。他の女性陣も肩を震わせて笑いを堪えてる、おのれ……。
「あー、えーと、それでですね。ボスの攻略法とか見て広められたら困るんで近付かないで貰えると助かるんですよ」
「えーっ、外側で木を切ったりとか、薬草拾ったりとかもダメなんですか?」
ホント、リアルの彼女からは想像しづらいノリで喋ってる。
「ううっ……ちょ、ちょっとリーダーに相談してみますっ」
上目遣い食らったかな? 強烈だもんなぁ。2人組が慌てた様子で森の中へ戻っていく。
「レアさん、フォローありがとね。先行攻略組とは派手に揉めたりしたくなかったし助かったよ」
「いいのよー、でも私の可愛い可愛いリアを撫でまわしてた件については後でじっくり話を聞かせてね♪」
うぅ……場の流れでつい撫でちゃったからなぁ、頭を抱えてると昨日も聞いた一匹狼の咆哮が森に響き渡った。
――これまでの経験で《状態異常耐性:恐慌》がレベル1相当に達しました
――有効化しますか? 有効化/保留
むむむ、有効化で。
「おい!! 森の中の気配が一気に減った。こっちまで来るぞ!」
即座にインベントリから青銅の槍を取り出して構えた。他の皆は……マズい、咆哮をモロに食らって動けなくなってる。離れてたから回復は早いと思いたいけど、これはちょっと。
「クッソ、先行攻略組のリーダーとか言うヤツは何やってんだ」
総司も青銅の大剣を抜いて前に出る。
「なっ、なんだよこれぇぇぇっ!!」
さっきレアさんに鼻の下を伸ばしてた鉄装備が森から転がり出てきた。
「避けて!!」
直後森から飛び出してきた大きな影の攻撃を避ける事も出来ずに吹っ飛ばされて動かなくなる。
「おいおい、昨日の奴よりデカくねぇか?」
「一回りサイズが違う……ね」
――〔サフナの一匹狼/害獣〕
《生物知識》だと昨日と同じ表示だけど……強敵のはずだ。
《片手剣11.6》《片手刺突剣3.4》《片手鈍器3.1》《蹴撃2.4》
《投擲/片手剣1.0》《投げ2.2》《回避2.7》《武器受け3.4》
《地魔法1.0》《水魔法1.1↑》《火魔法1.0》《風魔法1.0》
《光魔法1.0》《闇魔法1.0》
《採掘10.7》《鍛冶10.4》《細工3.0》《木工1.0》《裁縫1.0》
《製薬1.0》
《耐暑2.5》《耐寒2.1》《身体バランス3.6》《ランニング1.3》
《握力3.0》《殺気感知11.0》《解体1.1》《運搬9.4》
《荷車革命10.0》
《生物知識6.8↑》《鉱物知識7.0》《植物知識2.8↑》《武器鑑定4.6》
《防具鑑定8.1》《食材鑑定4.3↑》《素材鑑定3.8↑》
《槍1.0》←NEW《状態異常耐性:恐慌1.0》←NEW
余剰:1




