第2話「キャラクターメイキング」
「姉さん!」
箱を持ったまま隣の姉さんの部屋へ飛び込んだ。
「あらあら、レイ君ちゃんとノックしないとダメよ~」
いつもと変わらずニコニコしている姉さんにたしなめられた。
「あ、ごめん。でもコレ、プレゼントって……また女装しないといけないの?」
先月姉さんに頼まれて女装させられて、その……色々あったのだ。
「プレゼント……あらあら?」
僕が持ってきた箱に入ってる淡いブルーのワンピースを見て姉さんが首を傾げる。
「ん~?」
箱の中からワンピースを取り出してひとしきり眺めた後自分のベッドの上にある同じような箱を開け始めた。
「あらー、プレゼントはこっちでした~」
一昔前に流行ったお茶目なポーズを敢行してからベッド上にあった箱を渡される。
「えっと、ここで開けていいの?」
「どうぞどうぞ~」
かなーり脱力してしまったけど、本当のプレゼントはなんだろう……?
「って、これ……姉さん、いいの?」
「当然よ~」
箱に入ってたのはVRヘッドギア、今朝お小遣いが足りなくて買えなかった奴だ。
「折角のVRゲームですもの、レイ君にはしっかり楽しんで欲しいわ」
いつものニコニコとした微笑みではなく慈愛の篭った優しい笑顔の姉さん。
「……ありがと、嬉しい」
いつもいつも姉さんには助けてもらってる、今後ちゃんとお返ししてあげられれば良いんだけど。
「じゃあ、レイ君はこのままセッティングとかやっちゃって。お昼ごはんはお姉ちゃんが作っちゃうから!」
姉さんは腕まくりするとフリルがふんだんに付いたピンクの可愛いエプロンを手に1階の台所へと行ってしまった。
「お返しはまた女装撮影会とかになりそうな……うーん」
しばらく悩んでから気を取り直した僕は自室に戻ってVRヘッドギアとPCを接続するとマニュアルとにらめっこしながら昼食に呼ばれるまで設定に没頭した。
昼食の海鮮炒飯を食べ終えて一息をついた所で午後2時前、サービス開始まであと1時間と少しになった。
「緊張してきた……」
そわそわしていると宗次から通話がきた、どうしたんだろう……まさかまだソフトが届いてないとか?
「ん、宗次どうしたの?」
「公式サイト見たか?」
「見てないけど、何かあったの?」
「だと思った。オープニングイベントを円滑に進める為にキャラ作成とチュートリアルは2時から開放するってよ」
……それって。
「もうすぐログイン出来る?」
「そういうこった、じゃあ切るぞ。さっさとキャラ作らないとな!」
どうしよう、あと1時間だと思ってたらいきなりで戸惑うけどまずは……。
「姉さん、なんかもうログイン出来るみたいだからあとよろしくねー」
部屋の戸を開いて階下の姉さんへ声を掛けておく。
「は~い、いってらっしゃい! 楽しんでくるのよ~」
姉さんの返事を聞いてからベッドに横たわるとVRヘッドギアを装着する、あとどうするんだっけ……ダイブする操作に少し手間取りつつ操作完了。静かに僕の意識はVR世界へと潜っていった。
なんだろう、潮の香り……?
僕は、ゆっくりと目を開けた。
「ようこそ! ノースランドオンラインの世界へ!」
見た感じ狭めの部屋なんだけどなんか揺れてる……船の上みたい。
「早速だけどお名前教えて欲しいな☆」
って、キャラクターメイキング始まってる!?
「あ、えっと……レイです」
「レイだねー、口頭だと字がわからないからこっちに書いてねー」
「あ、すみません!」
お、落ち着こう、深呼吸ー……。うん、潮の香りだねってさっきから僕に話しかけてきてる相手! 凄い、妖精だよーちっちゃいなー可愛いなーふわふわ飛んでるよーそれに髪が綺麗なグリーン、ファンタジーだねー。
ってなんか意識が飛んでいってた。慌てて妖精さんが差し出した羊皮紙へ机の上にあったペンを使ってレイと書き込む。
「はい、ありがとねー。私の名前はファナ、宜しくね☆」
「よ、宜しくお願いします!」
緊張してる僕の目の前でファナは4枚の羽を羽ばたかせてクルッと横に一回転してポーズをキメてから少し真面目な顔になる。
「今の外見はVRヘッドギアの機能でスキャンしたキミ自身を投影してるんだけど、これは変更が出来るわ。髪型や長さ、髪の色、顔の造形に身長や体型、あと性別も!」
凄い、完全な別人にもなれるんだ。
「ただし、性別や体型を大幅に変えたりした場合は現実の肉体との齟齬で上手く身体を動かせない事があるから少しだけ感覚を調整する時間が必要になるよー」
なるほど、確かに身長が低い人が凄く背を高くしたりしたら身体のバランスとか慣れずにひっくり返しそうな気がする。
「わかりました、えっと変更する点は髪の色と長さ、あと目元をお願いします」
ファナの説明とアドバイスを聞きつつまずは目元、普段から優しい感じで気弱そうとよく言われるのでちょっとキリっとした感じにして……髪の色を藍色に、あとは目元を弄って男らしくしたから多少髪を長くしても女の子と間違えられたりはしないはず。
「ふぅ、こんな所かなー?」
一仕事終わったという感じで額の汗を拭う仕草をするファナ、チュートリアル用のAIだと思うんだけど良く出来てる。
「次は種族だねー。デフォルトの人族以外にも色々とあるよー☆」
ファナが最初とは逆の横回転をしてポーズをキメると目の前にウィンドウが開いて選択可能な種族のリストが表示された。人族、エルフ族、エルフ族(人族とのハーフ)、ドワーフ族、猫獣人族、犬獣人族、兎獣人族、リザード族、オーク族……あれ、兎獣人族からは字が薄くなってる。
「兎獣人族から下は未実装とかですか?」
こんな事聞いていいのかわからないけど聞いてみる。
「あ、それはねー1人目のキャラクターだからだよ。2週間後に解禁される2人目以降のキャラクター作成時に選べるの。ちなみに特定のクエストを達成したり特定の種族を《生物知識》で調べたらそこに載ってない種族が追加される事もあるからがんばってね☆」
2回転キメてからがんばってと言われても2キャラ目育成するかなぁ、ひたすら掘り続ける予定なんだけど。
「えっと……種族は人族で」
「んー、種族を人族以外にすると色々補正掛かるけどいらない? エルフ族にすると顔に美形補正かかって背が伸びてちょっと痩せて、ステータスもその分変わるよ。ドワーフ族は身長とAGI、INTにマイナス。横幅とSTR、DEX、MENにプラスだね☆ あとスキルで《暗視》がついてくるねー」
「凝ってるなぁ……」
僕の言葉にファナが3回転してからのドヤ顔でうんうん頷いてる。
「エルフといえば、レイ君は男キャラにしたから関係ないけど女性はエルフにするとおっぱいとお尻にすっごい強めのマイナス補正掛かったり☆」
……無駄に凝ってるなぁ、ほんと。
「色々面白そうですけど一人目は無難に人族にします」
「そっかぁ、りょーかい☆ それじゃお待ちかねー! スキル決めちゃおっか☆」
流れるような動きで3回転をキメると種族リストがスキルリストに切り替わる。あの回転とキメポーズは必要なんだろうか……。
「うわ、これも多いし選べないのがある」
戦闘系、生産系以外にも様々なスキルが載ってる……っていつの間にかファナが僕の肩の上に座ってリストを見ている。スキルリストに集中してたのもあるけど羽毛みたいに軽いから気付かなかった。
「この中から5つ選んでね☆ 習得順にスキルレベルは10、7、5、3、1になるよ。あと取らなかったスキルも該当する行動を繰り返して経験を積めば取得出来るからすぐ使ってみたいのを選んでもOKかな☆ それとスキルレベルが一定値以上の人から習う事も可能だよー」
ふむふむ、とりあえず鍛冶と採掘は必須として……耳元で話されるとちょっとくすぐったいし、ファナからは花みたいないい香りがする。
「《鍛冶》と《採掘》と……」
「それなら《細工》か《木工》があると良いかな☆ 鍛冶や採掘の道具は自分で作れた方が経済的ー。木材を得る為に《伐採》という手もあるけどこれはすぐに習得できるしー、それよりも《鉱物知識》大事☆」
知識系のスキルかな? あった、項目を指で触ると拡大される。
《鉱物知識》知識スキル
採掘可能な場所をおおまかに表示する
視界に入れた鉱物の名前を表示する
手で触れた鉱物の用途を表示する
初期選択時配布アイテム→銅鉱石、鉄鉱石、蛍石
うわ、これ取らないと何処を掘ったら鉱石が出るかも掘った物が何かもわからないのね。
「じゃあ《鍛冶10》《採掘7》《鉱物知識5》《細工3》《木工1》で5つかな」
「鍛冶と採掘は逆をオススメ☆」
いつの間にかスキルリストウィンドウの上に移動してたファムが宙返りしてドヤ顔決めポーズ、可愛いフリル付きのピンクの布がちらっと見えた。
「えっとね、《鍛冶10》《採掘7》だと初期配布アイテムが
・鍛冶基礎レシピ
・鍛冶用ハンマー5
・鉄鉱石100
・ツルハシ7
・スコップ4
で《採掘10》《鍛冶7》だと
・木製猫車
・ツルハシ10
・スコップ5
・鍛冶用ハンマー4
・鉄鉱石70
になるの」
「レシピよりも猫車の方が良いの?」
「レシピも猫車もお店で購入出来るけど猫車での運搬力UPはあちこちに影響あるから最初からあった方が色々楽だねー。それにスキルの7と10の差なんてあっという間に誤差になるし、レイが沢山ログインしてスキルをガンガン育てるなら……だけど☆」
今度は可愛くウィンクしてくれた。アドバイスだけじゃなく色々とサービス旺盛で凄いな。
「それじゃ《採掘》《鍛冶》《鉱物知識》《細工》《木工》でいこう」
ウィンドウの各項目を指で押して決定する。
「お疲れ様☆ レイはウィンドウを指で操作してるけど視線や声、思考でも操作可能だから覚えておいてね☆」
便利そうだけど誤操作しそうだし要練習かな。
「ありがと、ファナ。キャラクターメイキングはこれで終わり?」
「そだねー、じゃあ最終確認よろしく☆」
今度は前方宙返りからキメポーズ、やっぱりピンクだった。
名 前:レイ
種 族:人族 性 別:男
レベル:1
H P:151 M P:132
STR:10 VIT:10 AGI:10
DEX:10 INT:10 MEN:10
スキル:《採掘10》《鍛冶7》《鉱物知識5》《細工3》《木工1》
装 備:布の帽子、布のシャツ、布のズボン、布の腰袋、簡素な木靴
所持品:剥ぎ取り用ダガー、木製猫車、初級細工道具、初級木工具、銀貨10枚、スコップ5、ツルハシ10、鍛冶用ハンマー4、鉄鉱石79、銅鉱石9、蛍石3、インゴット/鉄30、狼の牙3、樫の丸太、楢の丸太
収納数15/30 限界重量149.5/216
重そうなアイテムが大量に……丸太2本もあるし、凄い。
「あ、えっと、これでOK、と」
露天掘への第一歩に向けてウィンドウの決定を指で押した。
1話から時間が開いてしまいました、アイテムやスキルの設定などまだ出てきてない部分の詳細をつめるのにかなり手間取っていますが今後ともよろしくお願いします。
また前回同様誤字脱字、文脈のおかしい箇所などありましたら教えて頂ければ幸いです。
5月26日に改行ミスと違和感のある部分の修正、メニューウィンドウ操作は声も使えるとの追記を行いました。
5月27日にステータス部分と初期配布アイテム数の修正、ファナの初期配布アイテム解説に加筆、インベントリ収納数、限界重量の追加を行いました。
6月9日に誤字修正と重複表記の削除、選択可能種族にエルフが2つあったのをエルフとハーフエルフに修正しました。
6月15日に機種依存文字の削除
2017年6月3日に会話文を一部修正、各種族名の表記を変更