第16話「百合の花と委員長と相談事」
ある程度書き上げてからお風呂に入って脳内で書き上げた内容を推敲すると良い案が浮かぶ事が多いです、不思議。
先日友人達とガンダム展行ってきました、堪能しましたよー!!
そして2万PV達成しました、ありがとうございます。
――4月30日(金)午前7時頃 自室
雀の鳴き声が聞こえる、いつもの自室のベッドの感触と共に目が覚めた。
「起きたらNLOの中だった……とかそういう事はないかぁ」
少し残念なような、いやいや宗次に影響されすぎだよね。
身支度を整えて制服を着込んでから階下へ、朝食を作っている姉さんと挨拶を交わす。
あとは朝食が出来るまで日課になってる玄関前の掃除だ。
「ふぁ……」
あくびが出てしまった、流石にちょっと睡眠時間が足りてない。でも仕方ないよね、楽しかったし。
掃除が大方終わった辺りで向かいのアパートから女性が出てきた。
「宍戸先生おはようございます」
僕や宗次のクラス担任宍戸夏芽先生。
「鈴賀君おはよう」
いつもピシっとした姿勢でスーツを着こなしている美人教師は校内の人気も高い。
「今日は少し眠そうね、夜更かし?」
「あ、はい、ちょっと新しいゲームが楽しくて、つい」
「いつもと違うこういう鈴賀君もレアね」
クスっと笑うと近付いてきて曲がってる襟元を直されてしまった。
年上の女性に情けない姿を見せた事と襟元を直される時に感じた宍戸先生の体温や品の良い香りにちょっと……いやいや、かなり赤面。
「楽しめる事があるのは良い事よ、ではまた学校で」
長く綺麗な黒髪をなびかせて宍戸先生は行ってしまった。
後ろ姿に見惚れる事しばし、そろそろ時間だし祈を起こして朝食にしよう。
宍戸先生にペースを乱されてしまったけどなんとか持ち直した。
朝が弱い祈をなんとか苦労して起こすと姉さんが用意してくれたベーコンエッグとトーストを平らげる。
一息ついた所で制服に着替えた祈がリビングへ降りてきた……動いてはいるけどまだ寝てる。うん、毎日の事だから気にしない。
祈の朝食を用意し終えた姉さんからいってらっしゃいのハグを受けて玄関から外に出た。
うちは学校から結構近い、のんびり歩いて通えるのが素晴らしい。
今日もいつも通り鞄を片手にのんびり歩く、前方に見慣れた看板が見えてきた。
【突然の異世界召喚に備えたい人! 勇者として生きて帰還したい人は是非当道場へ!】
"異世界帰り"を自称する佐治先生が開いている佐治道場、エキセントリックな謳い文句の割にダイエットコースや健康増進エクササイズコースなどなどそつなく世間のニーズに合わせたコースを完備しており門下生は老若男女問わず幅広いのが特徴だ。
もちろん宗次は異世界召喚サバイバルコースだ、一時期僕も付き合わされたけど日本で言う武芸百般から外国の格闘技や武術、兵法や内政学などの座学、ジャングルや砂漠を想定したサバイバルまで"地獄"以外に表現が出来ない無茶苦茶厳しい訓練だった。
……NLOで役立ってるから無駄ではなかったと思いたい。
「おはよう!」
道場前で待っていた宗次に声を掛けられた。
「おはよう、朝稽古お疲れ様」
宗次は毎朝ここで稽古をしてから学校に通ってる、僕にはちょっと真似出来ない。
「戦技や魔法強化とかで一段レベルの高い動きを体験したせいか身体が軽くて軽くて、佐治先生が驚いてたわ」
開口一番ウキウキとした口調の宗次。
「……ますます戦闘民族っぽくなってきたね」
嘆息混じりにそう告げると宗次は嬉しそうな顔をした、処置無し。
「そうそう、あの後ギルドとか周ってスキル本いくつか売ってるの確認したよ」
「お、マジか!」
「でも、読んでスキルを得ると消えちゃって回し読み出来ないみたいなんだよね」
「なんだそりゃ、ケチ臭いな」
「それと持ってるスキルを更に伸ばすような本は見当たらなかったよ。持ってないスキルを覚える為の本しか無いっぽい。まぁ全部を確認した訳じゃないけどさ」
「そこまで美味い話は無いって事か」
宗次が苦笑い。
「そうだね、あと総司が使う予定の魔法やスキルを聞いてなかったから総司の分は購入してないよ」
「あ、すまん、育成方針伝えてなかったな。今日の稽古は夕方からになったから昼飯の後自分で回ってみるわ」
うんうんと1人で頷いてた宗次がいきなり顔を上げた。
「そうだ! 町を見て回ったんだったらアレ無かったか?」
アレ……ってアレかぁ、ほんと宗次は全くもって、うん。
「無かったよ、というか図書館と一緒で出来たばかりの開拓地に孤児院なんてある訳無いでしょ……」
僕の言葉と同時に宗次が額に手を当てて天を仰いだ。
「くっそ! ファンタジーと言えば貧乏教会が孤児院やってて管理してるシスターが巨乳美人は定番だろ!!」
通学中の他の学生達もいるのになんてことを大声で……大慌てで10歩ほど離れた。
「玲治おっはよー!」
「……レイ君、おはよ」
と、そこに背後から元気な声と控えめな声が聞こえた。
「おはよう友薙さん、長谷さん。今日も2人仲良しだね」
手を繋いだまま声を掛けてきた2人の女の子、活発で長い黒髪をポニーテールにしてるのが友薙桃さん、控えめで長い黒髪をストレートに流してるのが長谷友香さん、2人とも僕のクラスメイトだ。
「あっれ、今日も俺をスルーか百合カップル」
2人に気付いた宗次がやってきた。
「どうせまたエロい妄想を口に出して玲治が引いてたんでしょ? このエロショタ!」
162cmの僕より少し背の高い友薙さん(本人曰く同じ位)が150cm代の宗次へビシッと指を突きつける。
「くっ、その通りだったけどショタ呼ばわりは止めろと言ってるだろ! とももも!!」
ともなぎももでとももも、らしい。
「それと! はもももは俺を誘拐犯を見るみたいな目で見ない!!」
長谷さんにはもが1つしかないけど友薙さんに合わせてるそうな、宗次の感性はたまによくわからない。
「あーもー、大声出さないの。長谷さん怖がってるでしょ」
宗次の剣幕に怯えて友薙さんの後ろから顔だけ出してる長谷さんがちょっと可愛い、とか不純な事を思いつつ2人の間に入る。
「友香ーショタっ子がうるさいから先行こっかー。玲治、また教室でねー」
「……うん、レイ君、またね、そーじはうるさい」
仲良く手を繋いだまま2人は先へ行ってしまった。
「ショタって言うなー」
「なんか2人は相性悪いよね?」
「ちょっと背が高いからっておのれ……」
まぁ宗次も佐治道場に来てるお姉様方や下級生達の受けはかなり良いんだけどね、前者はひたむきな所が可愛い!
後者は小柄なのに体格に優る相手にも怯まず立ち向かう先輩って素敵!
という事らしい。
あそこまで宗次と口喧嘩してる女性は彼女くらい、かなぁ?
「やー、でもまぁ喧嘩はほどほどに、ね」
一騒動あったけど無事に教室へ到着、席は宗次の後ろなのでそのままNLOの話題。
「んー、石納入クエなぁ……あんま気にしない方が良いと思うんだよな、俺は」
教室に入る前くらいに石納入クエをやってる人が少ない事を宗次に話したんだけど……。
宗次が指を一本立てて話しだす。
「まず第一にモンスターの町襲撃イベントがあるかどうかわからない点。まぁある可能性の方が高いとは思うけどな? ただNLOの活動拠点ってサフナだけだろ?」
それは確かに、黙って頷く。
「迎撃に失敗して町がモンスターに蹂躙されたらゲームの根本が崩れるよな?」
「ゲーム開始して船から降りたら廃墟でした、ってなっちゃうか」
「そうそう、まぁ、あると前提したとして、だ」
指の2本目を立てる。
「イベント発生フラグが何処にあるか、だな」
「えっと、運営さんのスケジュール次第じゃないの?」
僕の言葉に宗次が2本の指を揃えて左右に振る。
「それはある程度成熟したネトゲの場合だな、NLOは自由度もかなり高い、運営の想定よりも生産やスローライフ目当てのプレイヤーが多かったらどうなる?」
「蹂躙されて終わる可能性が出てくる、ね。まぁ襲ってくるモンスターの数や質を下げてバランスを取るとは思うけど……」
「まぁ普通はそうだわな。でだ、時限式イベントの可能性を否定する訳じゃないがサーバー内で狩られたアクティブモンスターの数、ボスモンスターの討伐数、特定のエリアへのプレイヤーの到達率、各プレイヤーの習得している戦闘系スキルの数やレベル、城壁の完成度とかをフラグにしている可能性もある訳だ」
「え、そこまで考えを広げちゃうと何をしても襲撃イベントが起きそうな気に……」
考え過ぎだとは思うけどね。
「あー、まぁそういう考え方もあるけどな。逆に考えようぜ、何をやっても襲撃イベントが起きるなら1つの事に執着せずに自分のやりたい事や長所を伸ばしてイベントに備えるんだ、と」
「ひたすら城壁修復に拘って石納入ばかりやった結果それがイベントフラグだったら城壁以外に何の準備もないままイベント突入するハメになる……かぁ、うーん」
「レイは真面目に考え過ぎなんだって、折角のVRMMOなんだし楽しくやろうぜ!」
結局は楽しもうって事に帰結するんだよね、うん、悩み過ぎは良くないか。
「確かにそうだよね、楽しまないと」
ちょっと胸のつかえが取れたかな?
納得した所に友薙さんと長谷さんがやってきた、変わらず手は繋いだままだ。
「さっきから聞いたけど2人ともNLOやってるの?」
長谷さんも後ろでうんうん頷いてる。
「え、うん、やってるよ。ひょっとして2人も?」
「……うん、やってる」
「エルフの美少女姉妹!って事で名前も揃えたのよねー♪」
美少女のくだりで長谷さんが耳まで真っ赤になった、流石に恥ずかしいよねって友薙さんも少し頬が赤い、自分で言ってて照れてたら世話がないなぁ。
「そっかぁ、て事は2人とも素顔のままでプレイしてるんだね」
僕の言葉に教室全体の動きが止まった。
そのまま30秒ほどの静寂を経て宗次の
「うはぁ……」
という感嘆とも呻きともつかない声をきっかけに友薙さんと長谷さん2人の顔や耳どころか首筋まで真っ赤に染まり教室全体が元のように動き出した。
「……お前は相変わらずナチュラルに凄い事言うよな」
宗次が呆れた声を出して苦笑いしている。
「なんか僕変なコト言ったっけ?」
「いや、別になんも? 正直は美徳だよなって話」
真っ赤になったまま硬直している2人を宗次がニヤニヤしながら見ている、なんだろ……本当に変なこと言ったつもりはないんだけどな、実際姉さんや祈を見慣れてる僕から見ても2人は可愛いし。
しばらくして予鈴が鳴った。
「……はっ!? え、予鈴?」
予鈴の音をきっかけに友薙さんが再起動した。
「はーもー、毎回突然くるから心臓に悪いわー。2人とも学校終わったらログインするの?」
「うん、僕も宗次も学校から帰って昼食を済ませたらログインするよ」
宗次も頷く。
「じゃ、顔合わせやっちゃいましょ。スタート地点の桟橋で魚料理振る舞ってる漁師風のPCがいるはずだからそこの周辺にゲーム内時間の午前8時半位でいい? PC主催のバザーも港でやるらしいからついでに見て回りたいのよね」
バザーがあるんだ、ツルハシやスコップとか金属製の猫車とか補充出来てないから買いたいな、あと武器防具も忘れずに。
「了解、2人が一緒にいるなら目立つだろうし合流は楽だよね」
「まーねー、ちょっと友香いい加減帰っておいでー! 席に戻るよー」
未だに硬直してる長谷さんの手を引いて友薙さんは後ろにある二人の席に戻っていった。
意外と身近な人もNLOやってるんだなぁ、びっくりだ。
などと感慨に耽っていると隣の席の女の子と目が合った。
「おはよう委員長、ごめんね騒がしくしちゃって」
おかっぱ髪に黒縁の眼鏡を掛け姿勢よく座った彼女にキっと睨まれる。
「おはようございます、鈴賀君。いつも言ってますが私の名前は志橋早希です、委員長ではありません」
うぅ、またやんわり叱られてしまった。わかってるのになぁ……実際クラス委員長だしついつい言っちゃうんだよね。
前の席の宗次が肩を震わせている、僕と委員長のやりとりを聞いて笑いを堪えてるな、きっと。
そうこうしてると宍戸先生が教室に入ってきた、今日は金曜日だけどGWって事で午前中で終わりの特別日程だし明日以降は連休だ、早く帰ってNLOがやりたい。
さくっと授業やGWの確認事項も終了。
宍戸先生からハメを外しすぎないようにと注意があったけれど先生自身がちょっと浮き足立ってるように見えたので説得力が無い。GW中は恋人と旅行にでも行くのだろうか……美人だしなぁ。
「レイ、帰らねーの?」
ぼんやり考えていると宗次に声を掛けられた。
「あ、ごめん、行こうか」
立ち上がった所で教室の一角から黄色い悲鳴があがった。
「お?」
宗次が教室の入口に目を向ける。ああ……2年の志条君か。
長身のイケメンが教室を覗いて誰かを探すようにキョロキョロしている。
「あいつたまにああやってるけど誰を探してるんだ?」
「あー……うん、誰だろうね」
教室の隅でジャンケンをして勝利した子が駆け寄って行って話しかけている。
「相変わらず志条君は人気だねぇ」
「ま、俺のファン層とは真逆だから別に」
スポーツ万能で長身のイケメンと格闘技万能の小柄なショt……いやいや、うむうむ。
志条君は話しかけてきた子に丁寧な応対をするとお礼を言って教室を離れていった。
「……ゴミ箱のゴミ捨て忘れてるね。捨ててくるから宗次は先に帰っててもらえるかな?」
「あー、じゃあ14時半に港の桟橋な? 先にログインしてスキル本とか雑事を片付けとくわ」
「うん、悪いね」
あまりゴミの入ってないゴミ箱を片手に校舎裏へ歩いて行く。
ちょっと薄暗くなってる焼却炉の影から長身が姿を現すと一礼してきた。
「レイ先輩すみません、呼び出してしまって」
「いいよ、持ちつ持たれつ、友達なんだし」
笑ってゴミ箱のゴミを焼却炉の中へ移す。
「あの、ですね……レイ先輩はNLOされてます?」
「あー、うん、OK、言いたい事は把握した。」
志条君がきょとんとしてる、結構レアな表情かも。
「商業区にある"眇の妖精亭"って食堂兼宿屋知ってる?」
「え、いえ、分からないです」
「大通りにある石造りのお店の1つでね、看板でてるし……わからなくてもスイーツが美味しくて女性NPCのお客が多いお店だから聞き込めばすぐわかると思うんだ」
「はぁ……」
「誰が聞いてるかわからないここで話すのはマズい相談でしょ?」
志条君の表情が引き締まる。
「ええ……そうですね」
「今から帰って昼食摂って一服してからログインしたら何時くらいになる?」
「急いで午後1時過ぎくらいでしょうか」
「じゃあ、午後1時半から2時の間くらいに"眇の妖精亭"でどうかな、そこに泊まってるから多分親父さんにも融通がきくと思うしお店の個室で話を聞くよ」
「すみません、わざわざ場所まで用意して下さって……」
律儀にお辞儀をしてくる後輩、真面目だ。
「キャラ名と外見は前やってたTDOと一緒かな?」
「あ、はい。TDOでのギルドメンバーも大半がついて来てくれたのでそのままです」
「おっけー、親父さんには伝えておくからレイの紹介で来たって言ってね」
「はい! 宜しくお願いします」
「じゃ、あとはNLOで」
志条君と別れてゴミ箱を教室に戻してからちょっと駆け足で帰宅、今回も姉さんのハグがお出迎え。
楽な服装に着替えて姉さんが作ってくれた焼きそばを食べつつ今日のNLOでの予定を頭の中で整理しておこう。
7時頃、ログインしてお風呂など身支度を整える
7時30分~8時頃、志条君の相談に乗りつつ朝食
8時~8時半、港のバザーを下見してから宗次と友薙さん、長谷さんと顔合わせ
8時半以降4人でバザー見物、出来れば武器防具と採掘道具の購入
……終わり?
この後どうしようか、みんなで狩りかな?
友薙さんと長谷さんのプレイスタイルを把握してないからなんとも言えない。
多分志条君はついてこないだろうし、あとは3人と合流してからだね。
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2015年3月9日
一部手直し。
12月13日
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