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ツキミ  作者: 千堂 光
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第二章―1 破壊

幼馴染水上との微妙な雰囲気になってしまった翔は

仁太に紹介されたゲーセンに向かうことにする。

そのゲームはやはりなにかが違っていた。



 「お昼どこにする?」

家を出たのはだいたい一時だ。昼時だ。

「いつものとこでいいんじゃないか?」

いつものとこは、俺みたいな貧乏学生でも行けるファーストフードの店だ。

バーガーはもちろん、ジュースだってそんなに高くない。

バーガー、ジュース、ポテト、サラダのセットでも五百円ちょいだ。

安いわりにうまいから、人気があって去年、店舗数が大手のファーストフードに次いで二位になった。

「いつものとこ? どこ?」

いつものとこで通じるのは、いつもだいたい一緒の仁太と井上、横井くらいだ。久しぶりに会った水上にわかるはずがなかった。

「あぁ、悪ぃ、悪ぃ。駅前のワンポイントだよ」

ワンポイントというのは、そのファーストフード店の名前だ。

「あ、ワンコね」

ワンコ・・・ワンまでわかるけど、なんでコなんだ?

「ワンコ?」

「そうワンコ」

 「なんでワンコなんだ?」

 「知らない。想像力じゃない?」

 要するにテキト―ってわけか。まぁ、名前なんてしょせん何でもありか。

 「ふーん。じゃあ、ワンコでいいな?」

 「いいよ。私、結構久しぶりだし」

 お嬢様といっても中学生だ。やっぱり、行っちゃうんだろう。

 「じゃ、決定な」

 水上がうなずき、笑った。

 俺もそういえば、久しぶりかな。一ヶ月ぶりって感じかな。久しぶりにあのチキンバーガーが食えるってわけだな。

 「ねぇ、翔ちゃん」

 「なに?」

 水上は、俺のちょっと早いペダルのペースに遅れながらもついてきている。

 「翔ちゃんってダブルバーガー好きでしょ?」

 ダブルバーガーっていうのは、普通のバーガーが二個重なっているバーガーだ。

重なっているといっても、肉を挟んでいるバンズの枚数は一枚少ない三枚だ。

肉二枚とバンズ三枚、ピクルス二枚でできていて味付けは濃いケチャップを使っている。

もう一つダブルバーガーには特徴があってトマトがないっていうことだ。

野菜不足を気にしてなのか、ワンポイントのバーガーには、一部を除いて全部にトマトが入っている。

その一部に入るのがダブルバーガーだ。

 「いや、あんま食べないよ」

 「え? ホント?」

 水上がびっくりした顔を頭に思い描く。自転車に乗ってるから、簡単には後ろを向くことができない。だから、言葉しかわからない。でも、なんとなく表情はわかった。水上はだいたい、いつも笑っているからだ。

 「うん、あんま・・・嫌いでもないけどな」

 「へー、意外。男子はダブルバーガーが人気高いのに」

 男子・・・要するに、俺だからではなく、俺が男だからダブルバーガーが好きだと思ったわけか。

そういや、仁太も横井もダブルバーガー好きだっけ。

 「じゃあ、なんだろうなぁ」

 「意外っちゃあ意外かな」

 「意外、ねぇ。うーん、じゃあ、フレッチェ! なわけないか・・・」

 「あぁ、違うな。フレッチェは井上だな」

 フレッチェ。サラダサンドだ。トマト、レタス、水菜・・・とにかくたくさん野菜が入ってるバーガーだ。でも、野菜だけでは出来ていない。

それだったら、売れていないだろうし、売ってもいないだろう。

サラダの中にベーコンが入っているのだ。井上いわく「さっぱりとしたドレッシングソースとベーコン、野菜のハーモニー」だそうだ。

一昨年出てから、女性の人気ナンバーワンだ。

 「へー、井上君はフレッチェなんだ」

 「そう、あいつはね。いっつもだよ。たまには、他の選べよなって感じだよ」

 「へー、それはそれですごいのかもよ」

「確かにな、俺は毎回違うしな」

「毎回違うの?」

行く度にチキンバーガーばっか食ってたら、さすがに飽きちまう。

だから、俺はチキンバーガーを二回に一回にして、その内の一回は違うメニューにしている。新メニューが出ても、チキンバーガーの日はチキンバーガーを食べる。

それが、マイポリシーだ。

 「あぁ、そうだよ。そうじゃなきゃ、飽きちまうだろ?」

 「そうかなぁ? 私は気分で決めてるけど」

 気分で決めているってことは、毎回違うものを頼んでるわけだ。とりあえず、つっこんどくか。

 「要するに、毎回違うの食ってんだろ?」

 「・・・」

 なんで無言なのかと思い振り向くと、水上は俺の自転車のペースに追いつけなくなり少し後ろを走っていた。

少し速すぎたのかもな。もう少し、ゆっくりにしてやるか。

「なに? なんて言った?」

「いや、なんでもない。ってか、速いか? ペース」

「うん! 思いっきり速いよ。こっちに合わせてよって感じかな?」

普通、相手にもう少し配慮して発言するだろう。ったく、しょうがねぇな。

「わかった。もう少し、ゆっくりな」

そう言って、俺は止めていたペダルをこぎだそうとした。

「ちょっと、待って」

「なんだよ?」

「謝らない?」

ったく、ホントにこいつは。

「へいへい、すいませんでしたね」

「はい、よろしい。じゃあ、レッツゴー!」

そいで、俺より先にこぎ始める。「早くしないと置いてくよ」の顔。こいつらしい腹の立つ顔だ。続いて俺もこぎだした。


俺らが向かっていた先は、仁太の言っていた例のゲーセンだ。

水上はほとんどのりで来たと言ってもおかしくない。

「今から、仁太が言ってたとこ行くんだけど、行くか?」

「え? どこ?」

「ゲーセン」

「お昼は?」

「おごらない」

「おごってもらわないよ。食べるのか? って言ってるの」

こいつのことだから、おごれとか言うのかと思った、そういうところが、お嬢様よりもそのへんの中学生を連想させている。

「あー、じゃあ、食うか」

そう言って、どこで食うのかも決めないまま自転車をこぎだしたわけだ。

この時間、人がいない道が多く横二列になってしゃべっていても注意もされないばかりか、嫌な目でも見られない。

だから、どこに行くのかとか話しながら目的地に行けるわけである。その辺は、予想済みだ。


「到着」

ゲーセンに着いたのは、一時十五分くらいだ。家から十分くらいかかったかな。

俺らは仁太の自転車があるのを確認してから店内に入った。

店に入るなり目に飛び込んできたのは、真新しい黒い箱だった。その雰囲気で、仁太が言っていたものがこれだとすぐにわかった。

「これ? だよね?」

水上もきっと同じく思ったのだと思う。単純な疑問だ。

「たぶん、そうだろうな」

これだ! と確言はできないけど、なんとなくこれだと思った。

マナーモードにしていたケータイが揺れ始める。仁太からだ。

「もしもし」

「・・・」

黙ったままで、反応がない。仁太と電話してるとよくあることだ。

「ゲーセン着いたんだけど・・・」

「離れろ・・・」

聞き取りにくい声だったけど、確かにこう言った。

「あ? なんだって?」

意味不明の言葉だったから聞き直すのは当然だ。

「もう一度言う・・・離れろ・・・」

離れろって何からだよ。主語がないからわからない。

これも仁太と話しているとよくあることだ。

「主語は?」

「・・・水上」

俺はとりあえず水上との距離を一歩分あけた。

水上は何が起こったのかと不思議そうにしている。

「どうしたの?」

「いや、別に」

「・・・もっと離れろ・・・」

指示通り水上から離れてやる。どうせ、後ろにいるのだろう。

見え見えだ。でも、そこをお互いにわからないふりをするのがなんとなく楽しい。

「いいか?」

「・・・」

―プー、プー、プー―

電話が切れるのとほぼ同時に仁太が水上の隣に現れた。

「ちーす、水上さん」

「あ、仁太君、おはよ。こんにちは、かな?」

俺と会ったときも同じセリフだ。水上はこういうやつだ。前からずっと。

 「あれ? 一人?」

 そこは俺もつっこまない。つっこんだら思いっきり空気が読めていない。

 「うん、そうだよ」

 こいつもこいつだ。さらっと言うところがなんと言えばいいのか・・・。

 「じゃあ、これから話題になってるゲームをやるんだけど、一緒にどう?」

 二人でやるゲームってケータイでも言ってたっけ。

 「うーん、じゃあ、一緒にやろうかな?」

 この辺でフォローしとかないと二人のペースに流されちまうな・・・。

 「あのさ、なんで二人用なんだ?」

 一瞬、仁太が俺をにらむ。

 「うん、うん、一緒にやろうよ」

 完全に無視だ。別にめずらしいことじゃない。

俺も仁太を無視するし、こうやって仁太も俺を無視する。

 「あー、でも、私、用事があって・・・」

 用事なんてない。あっても、何時間か後のことだ。

 「えー、でも、一回だけでもいいからさ」

 「あ、もう、行かなくっちゃ。ばいばーい」

 仁太が肩を落とす。寸劇の終了だ。

 「あー、もう、がっくりだね。はぁー・・・」

 「そんなに落ち込むなって」

 とりあえずのなぐさめだ。どうせ、すぐ復活するからな。

 「ただいまー」

 なんの用事だったのか一分経たないで水上は戻ってきた。

それを見て、仁太も復活する。どんだけ早い復活なんだか。

 「おかえりなっさーい」

 でも、かわいそうなことにこの声に水上は反応しない。寸劇の終わった後、仁太はほとんどいない扱いになっているのだ。

 「なぁ、それで、どんなんなんだ?」

 やっと本題に入れた。ったく、寸劇が長いんだよ。

 「それが、さっきも言ったけどさ、五感を使うみたいなんだよな」

 「五感?」

 「そう。耳とか目とか・・・まぁ、やりゃわかる」

 仁太はそう言って黒い箱を指差した。

 「やっぱりあれなんだな」

 「あぁ、なんかな、存在感が違うよな」

 ゲーセンの真ん中を陣取るそれには、吸い込まれるような黒に白い文字でPASTと書かれている。

「パストだってさ・・・どういう意味だ?」

ちなみに俺たちは来年、高校受験を控えている。

「大丈夫か? 過去だよ、過去」

 「へー、過去ねぇ、勉強になったよ」

 「うん、勉強になった」

 仁太の後についで、水上も声を挙げた。

 まぁ、知らなくたって大丈夫な単語だろうけどな。


読んでいただきありがとうございます。

この次からゲームの真相が明かされたりします。

できればそちらも読んでいただきたいです。

前話も読んでいただけると幸いです。


もし、よければダメ出しの感想をお願いします。


本当にありがとうございました。


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