2-1 実験したから、実戦した
王様を倒した後、俺はアルダーランで数日過ごしたわけだが、その間、怠惰な生活を送っていたわけではない。
魔法の実験を行っていたのだ。
MP消費に関して、わかったこと。
魔法創造 250
火炎球 30 氷結雨 42
炎の矢 9 氷の矢 8
回復 7 回復2 15 回復3 30
身体強化も、創造した。
これは術の行使と継続で、それぞれMPをもっていかれるので、短期決戦用である。
もろ刃の剣になりかねない術だ。
実験を行っていたのは事実だが、使用できるMPには、かぎりがあり、回復には時間がかかる。
もっとも、効率の良い回復は睡眠だ。
わかってもらえるだろうか。
魔法の実験自体は、下手をすれば、一〇分もしない内に終わる。
後の時間は、寝ているか、休憩がてらに本を読んでいるかが、俺の一日なのだ。
誤解しか生まれない、というやつだ。
ちなみに、ミユキは、勇者として忙しく働いていた。
いやあ、怒られるよね、当然。
もう数日やれば、本気で命を危険を感じることになる、と俺は少しばかりびびった。
そこで、もう一つ魔法創造を行った。
便利バッグを作ってみました。
四次元な感じで、大容量の収納可能、食べ物いれても腐りません。
旅には必須アイテムだ。
もう、はっきり言って怖いです。
どんな原理か、やってる本人がわかりません。
継続しているはずなのに、MP消費がないことも謎です。
もしかしたら、この世界にすでにある魔法なのかもしれない。
でも、MPが250確かに減っていたから……。
とにかく、ブラックボックスだらけではあるが、便利バッグを二つつくることができたのだ。
これは、ミユキを喜ばせることに成功した。
やはり、女というやつは、いろいろと物がいりようなのである。
旅をすることを考えれば、そりゃあね。
幼なじみの怒りがそれて、俺としては、胸をなでおろした。
さて、長々と俺の思考を垂れ流したが、俺の目の前にひろがっている光景は、それを許してくれるような状況ではなかった。
俺とミユキは、武装したガラの悪い男たちに囲まれていた。
状況は、転移した直後だ。
転移の間の扉を開けて、外に出たとたん、危機的状況が現出した。
理由は何となくわかる。
転移先が変更されているのに気づかないまま、飛んでしまったのだ。
あの転移装置を使っていたのは、王様だ。
そして、王様が取引をしていたやつらが、俺の前にいる男たち、ということになる。
まっとうな取引ではなかったようだ。
「いったい、どこだろうな」
「知っている人に聞けばいいんじゃない」
「簡単に言うな」
「簡単でしょ」
「相手にならない感じ?」
「まったくね」
「じゃあ、やるか」
「最初からそのつもり」
それが、戦闘開始の合図だった。
「炎の矢」
四本の炎の矢が生まれ、武装した男たちに飛んでいく。
連続して、俺は、炎の矢を唱えた。
環境破壊魔法の火炎球と違い、何て便利な攻撃魔法だろうか。
炎の威力はたいしたことがない。
むしろ、当たった時の衝撃が強いのが、この魔法の特徴だ。
俺の前で、敵が次々と倒れていく。
強すぎる、俺。
まるで、俺自身、大魔法使いにでもなった気分だ。
「終わった。あっけない」
「え?」
俺が、振り向くと、二〇人近い男たちが、地面に倒れていた。
俺が倒したのは、七人。
大魔法使い?
短い夢だった。
「で、どいつに訊くんだ?」
「それは、シンの役目でしょ」
「俺?」
「そう。私の方は、簡単には目を覚まさないから」
「いやあ、俺もけっこうひどい感じだからな」
「じゃあ、どうするつもり?」
「戻ればいいんじゃないか?」
「戻れたらね」
ダメでした。
転移の術は、起動しなかった。
そうなると、彼らを治療して、話を聞きだすということになるだろう。
「向こうに、別の集団がいるけど、行ってみる?」
ミユキが、ミユターで、人間の集団を発見したようだ。
「ああ、そうだな」
「シンが倒したほう、火傷してるんじゃないの?」
「まあ、してるだろうけど。そんなにひどいくない。魔法の衝撃力で倒れているだけだ」
「ふーん、まあ、この人たちも悪いしね」
見ず知らずの人間に対して、いきなり剣をぬいて襲いかかるようなやつらである。
親切にしてやる必要はないだろう。
俺たちは、転移の間のあった祠のような場所から離れて、道を歩きだした。
とりあえず、ラマーラを引き続き目指すつもりである。
GPS機能って、便利なもんだったんだな。
異世界に来て、はじめてわかる科学の力。