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1-5 そりゃ、簡単には帰れないよね




 炎が視界を埋めつくした時、俺は足をもつれさせて、転んだ。

 ミユキのばか力が原因だ。

 しかし、今は、グッジョブ。

 俺の上を炎が通りすぎていく。


 俺は、床を転がった。

 膝をついて、体勢を整えると、位置確認を済ませる。

 頭がくらくらとした。

 手に杖はない。

 落としてしまったようだ。


 後ろから、男の「熱いいいぃ」という悲鳴が聞こえた。

 ざまあ。


 部屋の角では、禿頭のじいさんが、姿を現していた。

 慌てて、呪文を唱えはじめている。

 焦った宮廷魔導師の姿から、俺はわずかであるが時間の猶予が与えられたことを知った。


 どうする?

 ファイアーボールか?

 でも、あれは威力がありすぎる。

 それに、MPの問題がある。

 MPがゼロになったら、どうなるんだ?


 長々と考える時間はない。

 俺は賭けに出た。


「小粋な火炎球ファイアー・ボール


 くらりとする強い喪失感。

 小さな炎球が三つ現れ、一直線に宮廷魔導師に向かっていた。

 凄まじい速度だ。

 そのスピードは、俺が最初に放った火炎球ファイアー・ボールの比ではない。


 俺の制御力があまかったのだろう。

 火炎球ファイアー・ボールは一つだけが、的をかすめた。

 後は、壁に激突する。

 火炎球ファイアー・ボールは壁をえぐって、小爆発を起こした。

 威力は、わりと小さ目だった。

 だが、老人を失神させるには、充分だったようだ。


 隣に人の気配が立つ。


「機転の利いた戦い方だったろ?」


「どこが? 無様なだけだったけど」


 ミユキが俺を見おろしていた。


「おまえの方は?」


「負けるわけないでしょ」


 視線を投じると、床に大の字になって、泡を噴く大男がいた。

 まあ、相手が悪すぎたな。


「最初だから、まったく危なげないのは、当然よね」


「危険を認識できてないだけだろ」


「え、どういうこと?」


「鈍感ってこと」


「誰が」


「俺ではないよ」


 俺は、ステータスを確認した。

 MPが1だった。

『魔法』の欄に、『小粋な火炎球ファイアー・ボール』が新たに加わっている。



 さて、結末はと言うと、何とも中途半端なものとなった。

 さすがに王と宮廷魔導師が悪事を行っていた、などと公表するわけにはいかなかったのである。

 事態は、内々に処理された。

 アルダーラン国では、人事を刷新、王子を中心とした新しい体勢が敷かれることになった。

 王は、病気療養である。

 宮廷魔導師のことは、俺の耳には入ってこなかった。

 誠実な王子も、厳格な処分を下した、ということだろう。


 一方で、勇者様ご一行の名声は高まった。

 盗賊退治を王子が大きく宣伝したのだ。


 王の事情を隠すためとはわかっていたが、俺は快く協力した。

 恩を売れるのなら、高い内に売っておいた方が良い。

 それに、苦労するのは、ミユキなのだ。


 勇者ミユキ、などと、俺の幼なじみは呼ばれるようになった。

 俺ならば、こんなはずかしめは耐えられなかっただろう。

 だが、やつは、特に苦も無くやりきった。

 女優にでもなれるんじゃないだろうか。


「じゃあ、そろそろ帰るか」


「そうね、そろそろ別のところに行きましょうか」


「噛みあっていないようだけど?」


「教えてあげるけど、こっちに呼ぶ方は比較的簡単だけど、戻す方は難しいそうよ。それが、できるのは、一握りの魔法使いのみだって」


「聞いてないぞ」


「今言ったでしょ」


「おまえ、いつから知っていた?」


「来てすぐ」


「いつだ?」


「シンが、気絶している時」


「けっこう、長いこと気絶してたのか、俺って?」


「感謝してよね。不気味に突っ立たままの幼なじみを見捨てなかった、私に」


「ホラーだな」


「あなた、私が何も考えずに、この世界を楽しんでいると思ってる?」


「いや」と答えたが、そう思っていた。


「ふーん、まあ、いいけど」


 疑わしげな視線と口調を、幼なじみは、俺に浴びせてきた。

 俺の心が読まれている。


「ラマーラは、かなり栄えているらしいから、何か情報を得られるでしょ」


「ラマーラね。とにかく、動くしかないか」


 俺は、ミユキに同意して、旅立つことを決意した。




 転移の間へとつながる部屋に、俺とミユキ、そして、王子とその護衛がいた。


「お世話になったね。そして、迷惑をたくさんかけた。いや、今も、かけているな」


「まあ、しょうがないんじゃないの。殿下のせいじゃないし」


 俺は、答える。

 この王子だけが、俺に対して、話しかけてくるのだ。

 この世界の住人で、唯一、俺を一人の人間として認めてくれる存在と言っていいだろう。


「そうです。私たちは、充分な褒賞をいただきました。ラマーラへの紹介状もいただき、ありがたく思っています」


「そういってもらえると、こちらも少しは肩の荷がおりようというもの。しかし、こちらの世界へと呼んだ責は消えやしない。何か困ったことが生じたら、私を頼ってくれ。有益な情報をつかんだら、私も、二人に何とか伝えるとしよう」


「殿下、もう硬い話はその辺でいいよ」


 俺の物言いに、王子の後ろに控えている騎士たちが、さすがにざわついた。というか、その前から、ずっと凄い目で俺は睨まれている。

 王子は、それを手で制した。

 器のでかさを感じるね。


「何かあるのかい?」


「俺のほうからも、しっかり伝えておきますよ」


「そうしてくれるとありがたい」


 王子は、小さく笑った。

 実は、ランドパール王子はラマーラの王女と、良い仲なのである。

 競争相手はいるらしいが、まあ、頭一つ王子は出ているらしい。

 さすが、イケメンだ。


 王子は、これから、国のことにかかりきりになるので、王女へのアプローチはなかなか難しいものになる。

 というわけで、自称マブダチの俺は、王子の応援を、ひっそりとするつもりだ。

 遠くから見守るくらいの勢いで。


「なんのこと」


 と、隣で囁く声を、俺は無視した。

 男の友情に口出しはさせねーのだ。


 痛い。

 ――痛いです。

 ミユキさん、つねらないでもらえますか。

 あなた、今、とんでもない怪力の持ち主なんて……。

 戦闘力8000なんで……。


 こうして、俺とミユキは、転移の間から、ラマーラへと向かうことになったのだ。


 扉を開けると、俺とミユキは転移の間へと足を踏みいれいた。

 思ったよりも、ひろい。

 王様と戦った部屋くらいはある。


 清冽な空気に満ちた部屋に大きな魔方陣が記されていた。

 四方には、聖獣の彫像がある。

 俺とミユキは、中央に進み、魔方陣の中心に立った。

 魔方陣が起動し、俺たちは、光に包まれた。








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