エピローグ 儚いものと今あるもの
瞼を開けても、数秒間、私は呆然としていた。
身体は柔らかな感触に包まれている。
ベッドで寝ているようだ。
私は笑ってしまった。
どうやら、夢を見ていたらしい。
長いような短いような冒険の物語だった。
シンならともかく、自分がそんな夢を見るというのは、驚きだ。
私は、周囲に目を向けた。
勉強机や本棚、壁にはブレザーの制服がかけられている。
ここは、私の幼なじみの部屋だ。
身体を起こすと、半分開いていた窓から、ちょうど風が吹きこんできた。
今は、夏の足音がかすかに聞こえる季節。
風は優しく踊っている。
私は、シンの背中を見た。
彼は、座って、ゲームをしていた。
でも、画面はかたまっている。
どうやら、フリーズしているようだ。
シンもまったく動かない。
「うきょ!」
奇妙な声をあげながらシンが、身体をびくりとさせた。
「あれ? ああ、戻ってきた――ミユキ!」
シンが振りかえる。
感情豊かな表情から、彼が、私のことをとても心配していることが伝わってきた。
「どうしたの?」
「いや、戻ってきた時のほうが、落ち着いているって……正しいのか」
シンは小さく頷いている。
でも、すぐにシンは、落ち着きをなくした。
そわそわとしだす。
「どうしたの?」
「いや、あのさ……」
「なに?」
「だから!」
何かをふんぎるように、シンが大声をあげた。
私は黙って彼を見つめる。
「俺は、あのさ、魔法は、もう使えないけど、でも、ミユキを守るから……たぶん」
なんで、そこで、たぶん、なんだろう?
シンらしいけど。
「俺とつきあってくれ」
「魔法ってなんのこと?」
「え? ちょっ、げ、まさか、夢落ち! ちょ、待て、魔法はまずい。そのキーワードはアウト!」
挙動不審だ。
小さな声でぶつぶつ言っている。
「となるとだぞ。それ以前に、告白もなしだ。我ながら願望が強すぎて、こえー。まあ、告るのはオッケーか。でも、今回は……」
心の声をぶちまけている幼なじみを見ながら、私は笑った。
もう少し、あたふたするシンを見ていよう。
それから、ゆっくり話せばいい。
話すことはいっぱいあるのだから……。
チートな幼なじみと魔法使いの俺 完




