3-6 世はすべて事もなし、みたいな……
話す暇もなく、ミユキは、そのまま魔王に戦いを挑む。
ミユキは、武器を持たずに、徒手である。
彼女は最初から全力でいっていた。
空振りをするだけで、魔王の後ろにあった木が破壊される。
ミユキと魔王の周辺は、二人の戦いの余波で木々がなぎ倒されていた。
頂上決戦だ。
「無事だったみたいね。でも、どういった状況なのかしら」
「ローザさん、様」
ローザと、他に俺の知らない二人がいた。
戦士、僧侶、魔法使いと、そろっている。
まるで、勇者ご一行だ。
ローザだけは、俺の傍にとどまり、残り二人は、俺を素通りして、魔王に向かっていった。
「カールじいさんは、殺されていて、魔王は、宝玉を三つ食べて、パワーアップしている状況」
「――師が? なぜ、宝玉が」
「あの二人は、ミユキとタメをはれるんですか?」
「え? 無理よ。彼女と互角に戦える相手なんているはずないわ」
「いますよ」
「どこに?」
「あそこ」
魔王はミユキの攻撃をしのいでいた。
いや、余裕をもって、戦っているのが見てとれる。
まずい。
互角ではなく、魔王のほうが上だ。
戦いに参加しようとした戦士風の男と神官風の男は、何もできないでいる。
期待はできない。
俺のMPは、残り167。
「ミユキ! そいつの数字は?」
俺は叫ぶ。
ミユキは、魔王と距離をおいた。
「25000」
返答が鋭い声で発せられる。
ミユキの連れてきた三人は、その数字の意味を理解しているようだ。
勝てない、と表情に書かれていた。
だが、俺は違う。
「おまえの数字は?」
「8921」
「もらったな」
俺の呟きに、隣にいたローザがいらだちまじりの視線を向けてきた。
何を言っているのだ、という不審の目、いや、憐みの目か?
「数字が大きすぎて理解できていないの?」
「魔法使いは攻撃呪文を唱えるだけが役目じゃないだろ?」
まだ、何かローザが問いかけようとしていたが、かまっていられない。
時間をかければミユキが危ない。
「身体強化3(ブースト・スリー)」
俺は、ミユキと魔王との戦場に近づいた。
このまま戦っても、もちろん、俺など邪魔にしかならない。
戦いに参加するわけじゃないのだ。
「ミユキ」
俺の呼びかけに応じて、ミユキがこちらに跳んできた。
俺はミユキの肩に触れる。
「限界強化」
ミユキの身体が燐光を放った。
成功だ。
「後は、任せて」
ミユキも、俺が何をしたのか、理解したようだ。
幼なじみの強みか、以心伝心ってやつだ。
ミユキは、地面を蹴ると魔王に突撃した。
俺のMPは110。
ミユキが、戦える時間は最大で、約135秒。
二分以上あれば、倒せるはず……だよな。
ミユキが攻勢に出た。
あきらかに、魔王の表情が変わる。
やつも、ミユキのパワーアップを察知したらしい。
ミユキの一撃を、魔王が右腕で受けた――瞬間、腕が爆発するようにして、弾けとんだ。
魔王はうめき声をあげながら、ミユキから距離をおこうとするが、それを許すほど、ミユキはあまい女ではない。
彼女は距離をゼロにしたまま、攻撃を続けた。
魔王が何とか避けているが、すべてを避けきることはできない。
ミユキの拳が触れた、魔王の各部は、確実にえぐられた。
俺は、魔王の動きに違和感を覚える。
いくらなんでも、やられっぱなしすぎやしないか?
何かをたくらんでいるんじゃないか?
一瞬だが、戦いの攻防の中で、ミユキが、指先で天を示した。
俺は、空を見あげる。
黒い球体があった。
やろう、あれで、いっきに片をつけるつもりか。
MPの確認をしている暇はないが、まだ、30秒もたっていないだろう。
余裕はあるはずだ。
「限界強化」
連続で、
「光の断罪」
黒い球体を、光の立方体が抑えこむ。
数秒の攻防の後に、光は破れ、闇が地上に落ちてきた。
あっさりと、俺の全力は台無しになった。
ミユキはまだ戦っていた。
たとえ、ミユキが援護に来ようとしても、魔王が逃しはしないだろう。
あれの処理はこっちでやるしかない。
「ローザさん、宝玉は?」
「あるわ」
俺は、ローザさんから黒龍の宝玉を奪いとり、闇の球体へ向かって、思いきり投げた。
大きさの異なる黒と闇の球体は、触れた瞬間に、天に稲妻が走るように、黒い閃光と轟音をまきちらす。
高さ30メートルのところで、黒い放電現象が、数十メートルの範囲で起こった。
音と閃光がやむと、黒い小さな球体が、地上へと落ちてくる。
黒龍の宝玉だ。
俺は、きちんと宝玉を両手で受けた。
そして、断末魔が、世界にこだましたのである。
魔王の最期を、俺は見逃した。
俺が目を向けた時には、魔王は身体はほとんど消えかけていた。
ミユキに視線を投じると、幼なじみは、大きく肩で息をしていたが、こちらにむかって、ピースサインを送る余裕を見せていた。
凄すぎだ。
ついに、魔王を倒しやがった。
たぶん、俺の幼なじみは、今、世界を救った……。
こうして、俺とミユキの戦いは終わったのである。
魔王が消えた後には、宝玉が三つ残っていた。
俺が一つ、ローザがもう一つ持っているので、ここに五つすべての宝玉がそろったことになる。
「そろったところで、何だ、という話だけど」
俺は思ったことを、口にした。
「でも、並べてみたら、何か起こるんじゃない」
ミユキの提案に、とりあえずのってみる。
五つの宝玉が地面に並んだ。
ちなみに、残り三人は、まだ、魔王との戦いを思いおこしているらしく、呆然としたままである。
いろいろと思うところはあるだろう。
そっとしておく。
「やっぱり、何も起きないな」
「掛け声が必要なんじゃない?」
「掛け声? 龍王たちおいでなさい、とか?」
もちろん、反応はない。
「いでよ、龍王」
ミユキが叫ぶ。
もちろん、反応は、な――あった!
宝玉から、それぞれ、黄金、青、赤、白、黒の光が放たれ、天空にむかって、輝きが伸びていく。
天空を五匹の龍が埋めつくした。
いや、待て!
何十メートルもある巨大生物に見おろされるというのは、恐怖以外の何ものでもない。
「世界の平和を救いし者。何を望む?」
展開が早すぎる、というか、目の前の龍で頭がいっぱいだ。
問いになんか、答えられない。
「私たちをもとの世界に戻してください」
隣で、しっかりはきはきと答えとるやつがいる。
幼なじみが答えとる!
こいつ、肝も座っとる!
「よかろう」
黄金の龍の言葉が耳に響くのと同時に、俺の視界は真っ白になった。
俺の視界は、真っ白になってばかだ。
目が悪くなりそう……。
いや、それよりもだ、ミユキに、こくは……。




