3-3 俺もチートになりましたよ!
三時間ほど歩いただけで、東の洞窟は見つかった。
入り口は、人ひとりが入れる程度の大きさ。外からのぞけるのは、せいぜい、三メートルほどだ。
俺は、洞窟へ入る。
やはり、視界は悪い。
「光明」
小さな光球が俺の杖の先に宿った。
迷子になりはしないか、心配しながら、俺は、洞窟の奥へと足を進めていく。
ひやりとした空気が漂っているが、特に、気配は感じなかった。
さて、俺は、実験というか訓練というか、そういったものを、青龍の聖殿に宿泊する間、行っていた。
そこで、ステータスをあげるのに、最適な方法を、俺は発見した。
身体強化である。
これをやると全体的にあがるのだ。
無理やり全力以上のものを引きだすために、身体と脳が、数段上の力の出し方を覚えるのかもしれない。
いっきに、力を使うことで、神経の道のとおりをよくしている感じだろうか。
どうやら、長い時間効果を継続したほうが、ステータスの上昇につながるらしく、俺は、身体強化3ではなく、ノーマルの身体強化をして、走ったり、筋トレをしたりしていた。
その成果が、これである。
HP 182/182
MP 538/540
称号 幸福者
ちから 91
たいりょく 94
すばやさ 134
かしこさ 270
うんのよさ 40
攻撃力 136
防御力 194
特殊 魔法創造 250
魔法
光の断罪 80
爆裂炎 56 破滅の剣 50
火炎球 30 氷結雨 42
小粋な火炎球 30
炎の矢 9 氷の矢 8
光明 4
回復 7 回復2 15 回復3 30
身体強化 発動に30 五秒で1減る。一分で12。 三割増し。
身体強化2 発動に40 五秒で2減る。一分で24。 五割増し。
身体強化3 発動に50 五秒で4減る。一分で48。 一〇割増し。
限界強化 発動に60 五秒で8減る。一分で96減る。ステータス三倍。
装備 賢者の杖 魔道のローブ 精霊のリング
戦闘力で言うと、330しかない。
だが、たった十日でこの成果。
チート。
まさに、チートではないか!
しかも、じいさんから最後にもらったあの腕輪、精霊のリングは、MP消費を半減してくれるという超すぐれものなのだ。
他の装備も、攻撃力や防御力をアップするだけではなく、ステータスを上昇させる効果をもっていた。
いやあ、我ながら、強い。
強すぎる。
ミユキには、及ばないが、そこらのボスクラスなら完封してしまうのではないか。
ああ、ちなみに、新魔法が四つしか増えてないのは、ステータスがあがるのが楽しくて、そちらに夢中になってしまったからだ。
三〇分くらい歩くと、ついに、魔物が姿を現した。
俺は遭遇する魔物たちを、炎の矢や氷の矢で倒しながら、洞窟の深部までたどりついた。
やはりと言おうか、当然というべきか、そこには、これまでとはあきらかに様相の異なるでかい魔物が陣取っていた。
ようやく、俺の成長が試される時が来たのである。
たった、十日で成長も何もないとの意見もあるが……。
尾の先まで含めれば、四メートルをこえる大きさである。
見た目は、ワニだ。
手足が多少長く、俺の目からすると、バランスを欠いているように見える。
といっても、地球基準なので、もしかしたら、こちらの世界の魔物ワニの方が、物理的に身体のバランスは良いのかもしれない。
ワニが動いた。
「身体強化3」
俺は、ワニの尻尾を避ける。
「炎の矢、氷の矢」
炎の矢が四本、氷の矢が四本、たてつづけにワニに刺さった。
身体強化3バージョンの炎の矢なので、威力はあがっているはずだが、ワニも頑丈だ。
その程度では、戦意の喪失などすることなく、怒りを熱くさせて、俺にむかって、跳びこんできた。
さすが、ボス。
「破滅の剣」
俺の右腕に、剣の重みが加わる。
黒い虫が集合しているかのように、点滅を繰りかえす不定の黒剣が俺の右手に生まれた。
俺は、ワニの攻撃を避けざまに、剣を振るった。
ワニの右肩部分を破滅の剣が斬り裂く。
破滅の剣によって、できた傷口から、浸食が始まり、肉を腐食させ崩壊させていく。
ワニが暴れた。
痛みにもがいている。
「小粋な火炎球」
小さな三つの火炎球が生まれ、凄まじい速度で、ワニに直撃した。
爆発と高熱がワニの身体を暴れまわる。
数歩、俺に方へと動いた後、ついにワニは消滅した。
完勝である。
俺は、さらに奥へと進み、壁にみっちりと群生した赤い苔を見つけた。
約束の「紅龍の苔」だ。
俺は、以来の品を袋にいれると、帰路へと着いた。
町に戻り、女に「紅龍の苔」を見せると、合格をもらえ、紅龍の宝玉譲ってもらった。
たいした時間を要さずに、俺が戻ってきたこと、さらに、試験を達成していたことに、彼女は、驚いていた。
簡単ではない試験を余裕で突破できる力を、俺が持っていることが、これで証明されたわけだ。
まだ、MPに余裕があったので、身体強化を使って、訓練した後、その日は、さびれた聖殿に宿泊させてもらった。
翌朝、俺は、彼女に宿賃を払う。
彼女は拒否しようとしたが、無理やりわたした。
この世界で、俺の最初で最後の親友の王子からもらった報奨金の八割である。
なかなかの大金と言えた。
俺が、太っ腹なわけは、もう、日本へと戻る日が近いからだった。ミユキの到着を、大魔導師の家で待っていれば、帰れるはずだ。
そんな理由を知らない、さびれた聖殿の女は、とても俺に感謝してくれた。
しかし、まあ、二割を残すあたりが、しょせん俺が、保険をつくりたがる庶民でしかない、ということだろう。
こうして、俺は気分よく、大魔導師カール・ワイラスのもとへと、戻ったのである。