表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/21

3-2 簡単なお使いとそうでもないお使い




 光がおさまると、俺は、綺麗な部屋に移動していた。

 最初に転移をした「転移の間」に似た雰囲気だ。

 俺は、正面にある大きな扉を開いた。

 そこには女神官がいっぱいいた。

 全員の注目を集めた後、俺に放たれたのは、彼女たちの攻撃的な視線だった。


「何者です!」


 俺はあっさりと包囲される。

 鋭い視線が投じられ、後から現れた女神官は、メイスを手にしていた。

 このままでは、視線以外の攻撃をされそうだ。


「あやしいものじゃありません」


 俺は、両腕をあげて、しょうもないことを言った。

 だが、こんな時に、他に何と言えばいいのやら。


「あやしいものにしか見えません」


 だろうね。

 どうやって、誤解を解こうか、と俺は思案した。

 とにかく、口を閉じたら、ダメだよな。


 誤解は、あっさりと解けた。

 俺の力ではない。

 俺の会話は意味がなかった。当たり前だが、幼なじみの名は、まったく轟いていなかった。

 何が、突破口になったかと言うと、カール・ワイラスとかいう、大魔導師である。

 あのじいさん、本当に凄いらしい。


 まず、じいさんお手製の霊符タリスマンを見て、女神官たちの態度が変わり、カール・ワイラスの名で、俺を見る目が変わり、その目的を告げると、完璧に扱いが変わった。


「これが、青龍の宝玉ブルー・オーブです」


「協力、感謝します。カール・ワイラスには、僕から伝えておきます」


 俺は青龍の宝玉ブルー・オーブを偉そうな女神官から受けとり、早くも、最初のお使いを成功させたのである。


「カール・ワイラス様とは、どういったご関係なのでしょうか」


「弟子です」


「そうなのですか」


「はい」


 最初に関係をきかなかったのは、気をつかってくれたのだろうか。

 どういう気の使い方であったのかは、気になるが、とりあえず、一つ目の宝玉オーブは手に入れた。


 俺は、その日、聖殿に泊まらせてもらった。

 深夜、MPが回復したことをいいことに、ひそかに、魔法の実験をしたのだが、ひそかにはなっていなかったらしい。

 翌日、皆の俺を見る目が変わっていた。

 なかなか厳しい目であったが、俺は、実験のために、それから、十日ほど連続して聖殿に宿泊した。


「本当にあの人、カール・ワイラスのお弟子なのでしょうか?」


「最初から、どこかおかしかったですし」


「本当に、青龍の宝玉ブルー・オーブを渡して良いのでしょうか」


 気を使われていたわけではなく、どうやら俺は、最初から、疑われていたらしい。

 日頃の行いの悪さだ。

 というか、本格的にやばそうだ。

 俺って、そんなにあやしい風体なのだろうか?

 急いでいるわりに、十日も泊まったら、充分あやしいやつだ。

 反省。

 偉い女神官の目が、凄くこわいので、俺は、青龍の聖殿から去ることにしたが、その前に、軽く情報収集をする。

 紅龍の聖殿の場所を訊ねた。


「紅龍の聖殿ですか? 協力したいのですが、わかりません」


「知らないんですか?」


「はい。他の聖殿との交流はほとんどないのです」


 白の聖殿が、廃墟になっていたことだけは、彼女たちも知っていた。

 原因までは、わからないということだ。

 白龍の女神官の中に、不浄な者がでた、と噂があるが、真偽のほどは、定かではない。

 自分たちの目で確かめることはしなかったという。

 現代社会と同じく、希薄な人間関係であるらしい。


「本当に感謝しています」


 最後に、しっかりとお礼を言った。

 いろいろご迷惑をかけたようなので、せめて最後は、真摯に、だ。


「カール・ワイラス様によろしくお伝えください」


「わかりました」


 俺は、転移した部屋に入ると、あの単語を言った。


「発動」


 慣れた感覚が、俺を包む。





 次に転移した場所は、外だった。

 大丈夫かよ、あぶねーな。

 壁の中にはまって、命を落とすとかいう、転移でありがちな罠に、俺は今さらながらに気がついた。

 昔作ったということは、今は、違うかもしれないのだ。その場所が同じ状態で保たれているという保証はどこにもない。


 まあ、とりあえず、大丈夫だったので、先へと進む。

 少し歩くと道に出た。

 どっちに進むべきか悩む必要はなかった。

 すぐ近くに町が見えたのである。

 おそらく、あの中に、聖殿があるのだろう。

 うまいこと時流にのって、栄えた聖殿のようだ。

 町に入るのに検問されるということもなく、というか、そもそも、この町には防壁がなかった。

 魔物モンスターに対して、どのような防衛手段を講じているのか、他人事ながら、不安になる。

 すんなりと、町へと入り、少し歩いたところで、嫌でも目につく建物があった。

 いかにも、お金がかかっていますというたたずまいだ。

 完全に世俗にまみれていて、権勢と金銭の臭いがする。

 予想どおり、紅龍の聖殿だった。

 これは、大魔導師の後光もきかないかもしれない。

 俺の予感は当たった。


「何のことかわかりかねますな。うまいことを言って、私たちからお金でもせびろうというのですかな」


「どこから、お金の話が?」


「聖殿の宝玉オーブを、奪っていこうというのでしょう。いったい、宝玉オーブをどうするおつもりです?」


「聞いてなかったんですか? 魔王を封じるために、もちいるんです」


「魔王を封じる? そのような話、聞いたことがありませんな」


「カール・ワイラスをご存じないのですか?」


「大魔導師の名を騙る者は、いくらでもおりますね。さあ、それでは、出ていってください。私たちも、暇ではないのです。あなたのような浅ましい方の相手をしている時間はありません」


「お金を捧げる人が望みですか?」


「私たちは何も求めていませんよ」


 なかなかがめつい拝金主義者のようだ。

 カール・ワイラス、本人に出馬してもらわないかぎり、協力をあおぐことは不可能だろう。

 俺は、紅龍の聖殿から出た。

 この町は、中心に聖殿があり、その周囲に宿屋やさまざまな店が立ち並んでいる。

 聖殿から離れるほど、ランクが落ちるようだ。

 そのランクが最下位と思われる場所に、あやしい建物があった。

 祠のようなものがあり、頑張れば、聖殿に見えなくもない。

 こういう場合、成功している方が偽物で、こっちのさびれている方が本物ということが、よくあるのだが……。

 俺は、あやしい建物の中へ、とりあえず入ってみた。


「何かようでしょうか?」


 女性が一人立っていた。

 粗末な着衣である。

 あちらとは、まったく違う。


紅龍の宝玉レッド・オーブを探しているのですけど、ここにありませんか?」


「ありますよ」


「……そうですか」


 あっさりと言われて、俺は逆に警戒してしまった。


「じゃあ、こちらが、本物の紅龍の聖殿なんですか?」


「本物も偽物もありません」


「そう……ですか?」


「はい。ところで、あなたは、なぜ、紅龍の宝玉レッド・オーブを必要としているのでしょう?」


 俺は、事情を説明した。


「わざわざ、黄金龍の聖殿へ、宝玉オーブを集めるなどと聞いたことがありませんが」


 あのじいさんがいるところが、黄金龍の聖殿ということはないだろう。

 おそらく、近くに聖殿があるのだ。

 それにしても、あのじいさん、何で黄金龍の聖殿のことを俺に教えておかないかな。

 無用な疑念をもたれてしまった。


「あっちの神殿と、同じことを言いますね」


「そうですか? でも、本当のことです。宝玉オーブは各聖殿にあれば、それだけで、充分魔物を封じる力があるはずです」


「――この辺りに、魔物があまりいない理由も、それですか」


「はい。宝玉オーブが聖殿にあるかぎり、その周囲で魔物は力が発揮できません。だから、魔物は近づいてこないのです」


黄金龍の宝玉ゴールド・オーブだけじゃ、封印しきれないくらい、魔王の力が強くなっているということなのじゃないですか?」


「そうでしょうか」


「たぶん」


「それにしても、大魔導師とはいえ、ただの人間が、そんな強力な魔王の力を抑えられるものでしょうか?」


「実際に抑えているから、そうなんじゃないですか」


「そうでしょうか」


紅龍の宝玉レッド・オーブを譲ってもらえますか?」


「試験を受けてもらいます」


「試験ですか?」


「はい。難しいことではありません。ここから、東に行ったところに洞窟があります。その奥に、紅竜の苔、と言われる赤く輝く苔があります。それをとってきていただけますか?」


「わかりました」


 この試験をパスしたからといって、何の信頼が生まれるのだろうか。

 謎である。

 彼女も、俺に対して疑いの目を向けていたのに、こんなことで、納得していいのだろうか。

 よくわからない。


「言い伝えなのです」


「大変ですね」


 昔の人は、ちゃんと未来のことを考えて、言葉は残してほしいものだ。

 俺の表情から、俺の言いたことを彼女は察したらしい。苦笑を忍ばせた。

 それにしても、絶対に、簡単なお使いじゃないな。

 しかし、認めてもらうには、やらなければならないのだろう。

 むしろ、わかりやすくていい。

 本音を言うなら、強敵の存在は、今の俺にとって、望むところである。

 俺は、さっそく東にあるという洞窟へ向かった。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ