2-8 俺の勝ちだ!
広間に侵入したボスと戦うのは、俺と、勇敢な兵士三〇人だ。
兵士たちが、ブーラドに向かって、挑んでいく。
彼らはおそらく、俺の魔法に期待している。
期待せざるを得ないだろう。
今のところ、魔法でしか魔物を倒せていないのだから。
俺だってその期待には応えたいが、攻撃のエネルギー源となる魔力がもうないのだ。
「あなた、ブーラドを倒せる自信があるの?」
「もう、魔力がほとんど残ってません」
「そう。ファーレン」
ローザが、一人の兵士を呼んだ。
「あなたに託すわ」
「わかりました」
ローザはファーレンという兵士に何かを渡した。
「何をするつもりです?」
「見ていなさい」
俺は言われたとおりに見ていた。
だが、内心では、どうやって、時間を稼ぐかを考えていた。
そう、倒すことは早々にあきらめた。
ミユキが自由な時間を手に入れるまで、粘ることにしたのだ。
どうにか、兵士とうまく組んで、動けないだろうか。
兵士たちはともかく、俺の方は、魔法援護の経験がない。
効果的な連係というのは無理だろう。
じゃあ、俺の魔法はどうか?
火炎球や身体強化、炎の矢で、やりくりしなければならない。
手数ならば、炎の矢や氷の矢ということになる。
だが、やつにしてみれば、これらの魔法はうっとうしい蚊くらいにしか感じないだろう。
簡単に追いつめられて、俺が終わりだ。
先程の兵士が、吹っ飛ばされた。
その時、兵士の手から、何かが飛んだ。ローザが手渡しものだろう。
「まずい」
ローザが短く叫ぶ。
失敗である。
というか、兵士たちに被害が出始めている。
これ以上、時間の浪費は許されなかった。
動かなければならない。
「あれが、奥の手だったのだけれど」
「どういうことです?」
「あれは、転移の術が封じられている霊符なのです」
「起動の方法は?」
「術者が触れた状態で、発動と言えばいい」
「魔力もいらないんですか?」
「誰にでも扱えるものよ。わが師にだけ作れるものです」
自慢は今はいらない。
「ブーラドに貼り付けて、発動させる。発動させれば、転移まで二、三秒時間があるから、その隙に、離れるのです」
「跳ぶ先は?」
「師のところよ。あの方なら、ブーラドも倒してくださるはず」
「迷惑をかけるけど、それしかないな」
「でも、もう、無理だわ。落ちている場所が悪い」
ブーラドのすぐ傍に霊符がある。
少なくとも二度は攻撃をかわさなければならないということだ。
霊符を拾うためと、相手に接着するため。
やるしかないだろう。
一度は避けられる。
その方法は思いついた。
だが、もう一度は、どうする?
案はなかった。
それでも行くしかない。
俺は、走りだした。
こんな賭けでしかないマネは、本当は嫌なんだが、できるやつが俺しかいないのだ。
「彼を援護しなさい」
ローザが兵士に命じる。
彼らは懸命に戦っている。
だが、まったく相手になっていない。
ただし、ブーラドの目をわずかな時間ではあるが、引きつけてくれた。
俺は、霊符を拾った。
兵士の援護により、一度目の攻撃は、受けることすらなかった、
感謝だ。
ブーラドに気づかれた。
かまわず、俺は突っ込む。
ブーラドが腕を伸ばしてきた。
「身体強化」
俺は、加速し、対象を見失ったブーラドの攻撃は、空を切った。
予定どおりだ。
俺は、やつの脇腹に、霊符をはりつける。
「発動しろ!」
霊符が薄く光った。
「俺の勝ちだ」
ブーラドの手が俺に伸びてきた。
俺は、避けようとしたが、身体強化をかけていても、やつは、余裕で俺の動きについてきた。
やられた、と思った時、俺の視界が急に高くなった。
やつは、俺を殴らずに、捕まえたのだ。
握りつぶすつもりなのだろう。
だが、その前に、俺とブーラドは光に包まれ、その場から消えたのである。