2-7 四度目だって戦ってやる!
俺は、まず、自分の状態を確認した。
HP 28/28
MP 280/340
一日で、すでに、三度戦闘を行っている。
MPは回復していない。
だが、俺の攻撃力では、魔物は倒せないのだから、遠距離からの攻撃に徹するしかないだろう。
戦闘力500に、俺の魔法がどれくらい通るのかが、問題だ。
おそらく、炎の矢は難しい。
火炎球と氷結雨が主力となるはずだ。
ちなみに、MP消費量は、それぞれ、30と42であり、コストは高い。
火炎球では、基本的に一体しか倒せない。
氷結雨は広範囲攻撃だが、確実に倒せなければ、MPの無駄づかいになりかねなかった。
削ったところで、とどめを刺すすべは、やはり、魔法しかないのだ。
俺は、王宮の兵士たちの力を、最初からあてにしていなかった。
王子とその一行たちが戦っていた姿から、今回の魔物の相手にならないことはわかっている。
「ちょ、なんで、まだ、こんなにいるんですか?」
ベランダよりもひろい、広間で戦おうと考えた俺の目の前には、いまだ、逃げ惑っている人たちがいた。
ドレスが邪魔して動けない、ということではないと思うが。
「こちらに向かっている兵士たちと、逃げている人たちが重なっているようね」
「もう、すぐそこまで来ています。ローザさんも、逃げてください」
「あら、復活したのね」
「ホントに、こっちに来ているやつは、やばいんです」
「ええ、でも、王族が逃げるわけにはいかないでしょう。ちゃんと、弟は逃がしたから、王家の血は、つながるわ」
「覚悟しているんですか?」
「ええ、それに、私、魔法使いなのよ」
「え?」
「戦う力を持っているの。私の師は、大魔導師カール・ワイラスよ」
「凄いですね」
いったい、誰だよ、カール・ワイラス!
「ええ、いざという時には、とっておきもあるから」
会話ができたのは、そこまでだった。
ついに、魔物たちの襲撃が始まったのである。
今日、四度目となる戦闘の幕があがった。
俺は、ベランダに戻る。
ミユキはすでに、戦闘に突入していた。
おそらく、こちらの状況を知っていて、魔物を多く引き受けるつもりなのだ。
最初に数体があっさりと倒されたことで、二体のボス級魔物が、早くも戦いに参戦する。
ボスだとしても、通常ならばミユキの相手ではないはずだ。
だが、ミユキは、こちらをかばいながら、しかも、同時に多数を相手どりながら、戦うという不利がある。
ボス二体は、ザコ魔物を壁にしながら戦う、という血も涙もない作戦を、当たり前の用にとっていた。
「火炎球」
渦巻く炎球が生まれ、空中にいるザコ敵を焼きつくし爆発した。
近くにいた魔物も巻きこまれたが、命を燃やしつくすところまではいっていない。
「あなた、今のが火炎球? 威力が強すぎるわ」
隣で、大魔導師の弟子が何か言っていた。
俺のMPは250。
「俺がやつらにダメージを与えるから、ローザさんはとどめの魔術をお願いします」
「――ええ」
「氷結雨」
天空に先の尖った氷が無数に生まれ、魔物たちに降りそそぐ。
四、五体の魔物が消滅した。
当たり所が悪かったか、集中的に攻撃を受けたのだろう。
残り一〇体ほどが傷つき、怒りの視線を俺に投じてきた。
隣を見ると、ローザはまだ呪文を唱えている。
やはり、本家の魔法は、長い呪文が必要らしい。
もう一度、俺が唱えるべきか?
ローザの呪文の種類がわからない。
一体のみに有効な魔法であるのなら、こちらに飛んでくる魔物はさばききれない。
それにもっとも大きな疑念は、威力はどうなのか、ということだ。
俺の火炎球への驚きようが、ローザの魔法に対する信用を、俺から奪っていた。
氷結雨をもう一度唱えようとした時、ローザの呪文が完成した。
「爆裂炎」
空中にいた魔物たちの中心で、突如炎が生じた。
一瞬にして、炎は膨らみ、爆発を起こす。
轟音が空気を揺らした。
七体を消滅させ、三体ほどが、まだ、こちら向かってきていたが、虫の息である。
「炎の矢」
一体が消滅したが、二体は、まだ、こちらを狙ってくる。
「炎の矢」
二体に二本ずつお見舞いすると、ようやく、魔物は消失した。
「凄い呪文ですね」
「後、二回が限度よ」
「それは……」
MPは190。
魔物はまだ、うじゃうじゃいる。
八〇弱はいるんじゃないだろうか。
ローザとのコンビで戦った場合、今やったようにスムーズに攻撃が成功したとしても、魔物討伐数は合計で四〇をこえるくらい。
俺のMP残高は、106となる。
うまくいったとしても、ミユキに半数ほどの魔物の負担をかけることになってしまう。
このやり方であってるのか?
魔物たちは、ミユキに向かうだけではなく、王宮に直接突入を開始した。
俺の肩に何かがぶつかった。
ローザが、呪文を唱えながら、攻撃の催促をしているのだ。
そうだ。
とにかく、数を減らさなければ、犠牲者をだすことになるし、ミユキの負担も軽くならない。
俺は、氷結雨を唱えた。
魔物たちが数を減らしていく。
何とか距離を稼ぎながら、俺たちは戦った。
俺とローザの急造コンビは、うまくやった方だろう。
だが、魔物は、12体ほどしか消滅させられなかった。
合計で27。
さらに、王宮内に、20体以上の魔物が侵入している。
兵士たちも戦っているが、互角に渡り合える者はいない。
すでに犠牲者もでていた。
広間は、魔物に八割がた占領されている。
だが、あきらめるには、早い。
まだ、俺にはできることがあった。
つい先程、威力抜群の魔法を俺は見ていた。
ローザの唱えた呪文を俺がやればいいのだ。
もとからある魔法だ。魔法創造には当たらない。
MPが限界まで持っていかれるということはないだろう。
「爆裂炎」
広間の中央で、炎が天井まで膨れあがり、魔物たちを巻きこんで、爆発した。
暴風が広間を攻撃的に支配する。
暴風が去った後には、破壊の跡が残されていた。
「炎の矢」
五体まだ、動いている影があった。
俺は、連続して炎の矢を唱えて、王宮内の敵を全滅させた。
MPの残りは、32だ。
これで、魔物の数は最初の半分を切っているはずだ。
俺は、ベランダへと走った。
ミユキはまだ戦っていた。
ボス二体も、傷を負いながらも、健在である。
体力が多いタイプなのかもしれない。
魔物の数は、残り一四、五ほど。
勝ち目が見えてきた。
「あれは、ブーラド」
「今さら、ボスの名前なんていいよ」
「違う、あれは、常に三体で動いているはずよ」
「なんだって!」
壁が壊された。
広間に姿を現す大きな影。
三体目のボスである。
今、俺が唱えられる最大魔法は火炎球。
そして、十秒限定の身体強化だ。
あまりに、心もとない攻撃手段。
「ボスだからって、今度は逃げられないな」
逃げたくなる気持ちを、俺は、無理やり抑えつけた。