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伝導少女はただ願う     【一章】

作者: 古村

あらすじにも書きましたが、この作品は

「伝導少女と廃墟と空と」http://ncode.syosetu.com/n7126x/

という作品の続きです。

それを読まなければおそらく、意味がわかりません。


 電話が鳴る。深夜のリビング、廊下へ出ようと恭平が扉を開けようとした時だった。


 背後の、ダイニングデスクの上に放置したままの、黒塗りの携帯電話が鳴る。


 部屋から出るために電気を消し、扉の取っ手を掴んだばかり。


 恭平が恐る恐るといった体で振り返ると、予想通り恭平の携帯電話が、非通知特有の軽々しい機械音を立てて啼いている。そして光を上げるその画面が、光のない室内で怪しく浮かび上がるようであった。


「……………………」


 携帯電話――スマートフォンの更に進化したもの――は与えられた仕事をこなしただけだが、恭平はまるでそれに罪があるかのごとく忌々しそうに掴み取る。なんだか無駄に驚いた自分が恨めしい恭平だった。

 

 とりあえず、電話の画面を見つめると『非通知』と表示されている。つまり、通常どこからのコールか解らない。しかし。


 恭平の携帯電話は、恭平がわざわざメカメカしく改造を加えているため、非通知で電話をかけようが、その電話番号、GPSによる所在等が余すところなく表示されるようになっているのだ。


 そして、その情報表示を見てみると。


 そこに表示されていたのは。



『SUPERCONDUCTEDCONNECTERDEVICE=1・《PN》AI』

 


 という文字列。兎にも角にも、恭平はまず我が目を疑った。


 二千二十九年現在、使用されている電話番号というものは、四、六、五の計十五ケタの数列である。ちなみに、恭平の携帯電話番号は『0990-173939-22462』である。もちろん、そんな電話番号は二千十一年現在の電話番号にはつながらない。


 それはさておき。


 つまり、この非通知の通信相手はこの携帯電話相手におおよそ電話とすら考えられないデバイスで通信を仕掛けている、というわけなのだろう。個人用のコンピュータですら、十年も前には電話番号とGPS座標固有値を持つようになったご時世である。そのどちらにも、表示されている英字の列は該当しない。そもそも、こんな固定値を持つ媒体は存在しないのが通例だろう。


 などと考える間も、五月蠅く電子音は鳴り続く。鳴り止む気配もなくいい加減に五月蠅いので、恭平は腹を括り電話に出ることにした。従来、無謀は彼の性分なのだ。


 通話(CONECT)、と書かれたアイコン(タッチパネル)を選択、若干震える指先でそのアイコンにタッチする。指先が震えた理由は、おそらくは寒さだけではないだろう。室内は十分に寒いのだが。


 安っぽい電子音が止む。


 それを恐る恐る耳元に持っていくと、初めに聞こえたのは当然のごとく、声だった。


『お願いがあります』


 その声は、そんな風に言う。どうにも、とにかく無機質な声だった。なんとなく、恭平の脳裏に浮かんだのはあの少女である。無機なる少女――『アイ』――


「……っ!」


 声は、出ない。お前はアイなのか、と声にして確かめたいが恭平の喉はそれを許さない。


 すると、彼女の声が再び言う。声は相も変わらず無機。ガラスの彫像だろうか。凍土だろうか。


『そう、ワタシという生物は、アイと銘打たれています。アイ、アイで構いません。それ以上でも、それ以下でもありません』


 なんだ、それは、と心の中で呟くのは恭平。それに応えるのは、やはり機械音声を通したアイの声。なぜだろう、電話越しなのにまるでそれを経ていないかのように恭平にはクリアに聞こえた。


『ワタシのパーソナルネームはアイ。実験上与えられたデバイスネームがアイ。そういうことです』


 相変わらずの無機質な声は、なぜか少し苛立ちのようなものが混ざっている気がした。


 それにしても、脳に直接響く気がするほど不思議な声である。


 ところで、と恭平は思い至る。


 この女は何と言った……?


『アナタ――キョウヘイが今、考えているコトは紆余曲折を経ずにそのまま正解です。ワタシはあの第八実験槽にいたヒューマノイドインターフェース・プランタイプS.C.C.P。重ねて言いますが、解析コードネームは、『アイ』です』


 何を強調したいのかは分からないが、確かに彼女は『アイ』なのだろう。恭平の推測では『AI』ゆえの『アイ』だ。もちろん、推論の範囲だが。


 そして彼女の言葉の中に、恭平が思い当たったことはいくつか。


 まずは『実験槽』

 それは、あの研究施設の奥底で無機質な空を振り撒くあの実験槽が、そっくりそのまま当てはまるだろう。アイの実験槽以外にも、あの研究施設内にはいくつか、破壊された研究槽はあったが、おそらくそれは該当していないのだろう。あの実験槽は、アイにはなんともお粗末だ。


 次いで『S.C.C.P』

 それは、彼があの施設から持ち帰ったノートに書き留められていたあの英列そのままではないか。


 最後に『ヒューマノイドインターフェース』

 それは、要するに、アンドロイドのようなものだ。とは言っても凄まじく高度なもので、そんなものを生み出すのに智を注ぐぐらいならば超能力者を探し出した方が早い、と揶揄される程に高度な研究だ。


 これについては恭平にはかなりの知識量があった。


 人工で、機械体などにアクセスできる独立した『情報統率生命体』を生み出すという計画。そもそも計画自体は、十年程度前に生み出されている。しかし、それから『技術的な壁』や『倫理的な壁』、さらには『恒久的平和の壁』などといったものまで様々な壁が計画には付きまとった。


 それらにより一度は政府に潰されたりもしたのだ。今回潜入した研究施設もその該当区画。まさか、操作に踏み入った大人たちはあの部屋を見つけられなかったのだろうか。


 計画の内容自体は極めて単純なのである。


 早い話が、自立して生きたコンピュータだ。

『思考をし』『言葉を発し』『人類と変わらない外見を有し』それに加え『触れることもなく電子機器を統制し』『人間の思考レベルでの電気信号を受信し』『一定条件下では世界最強の情報兵器となり』得る。


 実際に、研究の前期で仮定されていた性能を二千十九年の時点で所有していれば『十六分』で世界を制圧することが可能、との演算結果すら叩き出された始末。


 机上の空論だ。そう、そのままそれで終了すればよかったのだ。列強の大国すらが、易々とスルーしたものだ。


 だが、試作の形とはいえ完成していたとは。恭平の脳内は、そこで驚くという事象に達した。


 当時は『S.C.C.P』なんて名前ではなく『アンドロイズデバイス』などといった研究名だったのだ。


 そんな恭平の驚きにもかまわずにさらに電話口の声は語る。


『もう言う必要もありませんが、ワタシは今、電話というインターフェイスを仲介に、アナタの思考を受信して話をさせていただいています。御存じの通り、コチラは言葉を発せる状況ではありません』


 それで、電話特有のわずかなノイズすら存在しないわけだ。


 驚愕と同時に合点も行ってしまった。


 それでは、恭平自身が言葉を発することもないのだろう。

 そう言えば、名乗ってもいないのに自分の名前は間違えることなく呼ばれていた。

 ちなみにここまでの電話での会話と呼んで正しいのか果てしなく怪しい対話は五分以上続いているが、あまりにもとんでもない展開に恭平の感覚器官は、寒さへの対応を放棄したらしい。


 

 と、ここで恭平はとある疑問に至った。


 初めの、『お願いがあります』とは一体どういう意味なのだろうか、というシンプルな疑問だ。正直に言って恭平はまったく自分の預かり知る圏外だと、この事態を認識していた。一方、飽くなき彼の好奇心は既に、この後に始まる自慢のコンピュータ『廃墟』での『S.C.C.P』に関する作業の事へと暴走気味だが。



『お願いがあると、そう言いました』



 彼女の声は相変わらず氷を水に浸すかのように無機的だが、その声音は少しだけ、変わった気がする。それは果たして恭平の勘違いだろうか。もちろん、恭平に確認する術はないが。



 この会話の主導権は、彼女以外の誰のものでもない。



 一般的かどうかはかなり怪しいが、それでも所詮一般市民でしかない恭平に、そんなものが得られるはずもなかった。そう、たかが恭平ごときには。

 


『ワタシを、助けてください』



 氷を水に浸すように穏やかな声は、水面に氷を映すように美しい声に変わった。

 その裏にあるのは恐らく――『切望』――



 待ち望まれたのは恭平だろうか。



 それとも。


可能な限り短期間で書き上げます。

続きにも、乞うご期待。

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