7話
少し更新が遅くなりました。
それでは7話目。
どうぞです。
帝国領:陽光の街アジール:ラトラスの森:中心部-
瘴気に満ち溢れているラトラスの森は夜の訪れが早い。
陽樹が植えられていないこと、それ以上に森そのものが光を拒否していることが要因としてあげられる。
だが、現在ラトラスの森の中心部はルルアとドートの激しい戦闘により木々が一切ない状態である。
よって、中心部から半径3キロの戦闘被害区域以外は深淵の闇といったところだ。
そんな場所に似非空間から降り立ったユウ
「さすがに周りはもう真っ暗だな。」
『仕方あるまい。変異した陽樹は光を嫌う。』
ユウの呟きに反応したのは寝ていたはずのドートであった。
ドートは銀色に光る体毛に包まれ未だ寝ているルルアを起こさぬようそっと立ちあがるとユウの目の前までゆっくりと近づいていく。
『して、貴様のようなただの人間が何の用だ?』
完全なる敵意を持ってユウと対峙するドート。
その姿はまるで子を護る親といって差支えないものである。
「そこで寝ているのは俺の弟兼生徒でね。いや、弟子か?まあどちらでもいい。ちょっとばかり悪い夢を見ているようだから起こそうかと思って出てきたしだいだ。」
『…っ!?なるほど、ただの人間ではないようだな。この子がこれほど強いのも納得できる。その夢とはこの子に…ルルアにとって悪い影響を及ぼすものなのか?』
ドートは間違いなく強い。
その力もそうだが心もまた真っ直ぐに立ち続ける巨陽樹のように折れることのない強さを持っているだろう。
そして、強さとは相手との力量を感じ取れるものでもあり、ドートの野生の勘と合わさって自身とユウとの差を感じ取っていた。
とはいえ感じ取れたのは氷山の一角ではあるのだが…。
そして、ユウのルルアに対する感情もわずかなりとも読み取れたために素直に話しに耳を傾けることにした。
「間違いなく悪いものだな。ルル自身には関係のない悪夢なんだがな…。」
『何か知っている口ぶりだな。』
「まあな。ドートといったか?ルルが子供と重なるなら知っておけ。ルルが目標とするものは復讐だ。」
『…私と同じか。』
「まぁ、ルルから直接聞いたわけじゃないがな。とはいえほぼ間違いない事だ。あぁ、それとこのことは他言無用で頼む。ルルから言ってくるまで俺は知らないことにしておきたいんだ。」
『いいだろう。』
「それじゃあ、夢の中に行ってくる。自然と起きるまで絶対に起こすなよ?」
『何?』
突然ユウの周囲から光があふれ出した。
その光に一瞬目を奪われ、気付けばユウは消えていた。
実際に悪夢を見ているのか苦しそうにうめきをあげているルルアを心配しながらも、ユウの言葉が枷となり起こすに起こせない状況で待つしかドートに選択は残っていなかった。
-???:夢の中-
生物がその一生を終えるのは大きく分類分けすると2つある。
1つは魂のすり減りによる死亡…寿命。
1つは肉体のすり減りによる死亡…自殺や殺し。
病気によるものや、老衰によるものかもしれない。
事故かもしれなければ、意図的なものかもしれない。
それらはどれだけ否定しても必ず訪れる、生きとし生きる者の避けられぬものである。
だが、今この場で広がっている光景はそのどちらにも属さない特異なものだった。
「ヒッ!助けてくれ!!身体が!!」
「やめろっ!!返せ…返してくれーーー!!」
「おとうさん…お…とう…さん?…イヤーッ!?」
死ではない。
それは個の消滅。
人々が、植物が、全ての生ある者が光の粒子となる。
(また…この夢?)
粒子は皆一点を目指しゆっくりと動き出す。
(僕が(私が)初めて見た(最後に見た)光景)
一面が光に包まれ、やがて音が消え…形あるものも消えつつある。
(僕が(私が)生まれた(消失した)場所)
やがては大地さえもその姿を光へと変える。
(ああ…僕は…(私が生んだ、育んだ子供たち))
大地の光もやはり一点を目指し動き出す。
(どうして何も(消えていく…喰われていく))
その先にあるものは。
(感じないのだろう…(私自身ももう…))
光を覆い尽くす闇。
((…きっとあれを殺せば))
それは様々な生物をむりやり繋いだかのような異形の捕食者。
((全てが…))
世界全ての光が捕食者によって消えていく。
もはや誰も居なくなった世界。
やがてはその世界さへも消えていく定めなのだろう。
空間が徐々に歪みを見せ始める。
「全く…世話がやける。俺が誰だかわかるか、ルル?」
そんな中不思議と声が響き渡った。
(にい…さん?(お爺様…))
「意志にお爺様と呼ばれる筋合いはない。…しかし、まだこんな幼い頃だったのか。」
おそらくはルルアなのであろう幼子を抱きとめるユウ。
その姿は幼子といえどエルフの象徴ともいえる長き耳をしっかり確認できるものであった。
だがルルアに本来あるべきもう1つの特徴がない。
それは、角。
幼子のルルアの額にはそれらしきものは何も確認できない。
「何にしても今は脱出が優先だな。すぐにこの悪夢から覚ましてやるからじっとしてろ?お前も連れて行ってやるから離れるなよ。」
(うん(はい))
ルルアが、そして同時に聞こえる声が了承の返事をする。
すると、周りに消えたはずの光が集まり、眩いばかりに輝きだし空間の歪みは消え、徐々に崩壊していく。
悪夢からの目覚め。
それは、夢という空間の消滅と同義である。
つまり、今の状態はユウが引き起こしたものだと考えるのが妥当だろう。
「さて、もう戻っても大丈夫だな。」
空間が崩壊していく光景を見て、ルルアが目覚めつつあると判断するユウ。
現実への帰還を考えるユウだがふと目にとまるものがあった。
「…神々を超える獣か。」
まるでその場全体が一枚の絵であるかのように空間と共に崩壊していく捕食者。
その視線の先にはユウがいる。
お互いに視線を合わせているように見えるが、実際にはそれは見当違いである。
これは夢であり、捕食者もまた夢の一部。
ルルアの記憶の再現であり、捕食者の視線の先にユウはいない。
「実際に逢うのはもうしばらくしてからだな。大丈夫。お前は救われる…じゃあな、鵺。」
ユウの言葉を聞くと、目を閉じ崩壊に身を任せていく捕食者、鵺。
本当に生きているかのような行動だが、やはりそれは作り物であり本物には成りえない。
鵺が完全に崩壊する頃にはユウの姿はどこにもなかった。
-帝国領:陽光の街アジール:ラトラスの森:中心部-
ルルアが目を覚まして最初に見た光景は雲ひとつなく広がる大空。
そして一面に広がる星々だった。
複数の色の輝きを放つそれは、太陽の恩恵を間接的に地上へと分け与えてくれる。
大きな輝きを見せるもの、小さく影で輝くもの、見えていない輝きもあるだろう。
だが、どれもが空と溶け合うかのような美しさを演出していた。
「…キレイ。」
故に出た言葉は当然、その光景の感想であった。
銀色の毛に包まれながら大空を見つめるルルア。
どうやら、ドートは改めて体毛でルルアを包み込んでいたようだ。
『目覚めたか…。』
呟き程度の声量だったのだがドートにはしっかり聞こえていたようだ。
いや、密着している状態の為わずかな動作に気付いたのかもしれない。
ルルアと同じように空を見上げながら言葉を続ける。
『本来ならこの地は陽樹の影響で星は見えぬ。だが、この森の木々が作り出す闇が影響する場所ならば話は別だ。…本当にキレイだな。私たちでは到底作り出せるものではないだろう。』
「…そう…ですね。でも…壊すことは簡単なんです。」
『む?』
ルルアの言葉に違和感を覚えるドート。
ほんのわずかな時間の付き合いでしかないとはいえ、勘の鋭いドートはルルアの言葉がらしくないと感じることができた。
事実それは正しかった。
ドートの体毛を丁寧に身体から離し、そのままほんの少しの距離をとるルルア。
「こんばんわ。導かれし者。」
((導かれし者?何のことだ…だが、不思議と心に響く…。いや、今はルルアに何がおこったかだ。まるで別人だ、雰囲気も魔力も何もかもが違う。私を遥かに超えた力をもっている。))
「お答えしましょうか?」
『…心を読んだのか?』
「いいえ、顔に書いてありましたので。」
『…では、答えてくれ。』
「もちろんです。」
柔らかい笑顔を浮かべるルルア。
だが、その笑顔も普段のルルアとは違う異質なものに見える。
「まず、自己紹介ですね。私は…いえ、私もルルア・クルツ・マドランヌです。」
『私も、ということはやはり私と闘ったルルアとは別人ということか?』
「正解です。私は…コレです。」
ルルアが指で示したものは…角。
突然のルルアの豹変により気付けなかったドートであったが、意識を角に向けてみると一目見てわかる変化があった。
封印処理を施された角は不気味に輝いていた。
ドートがそれを認識すると、大きな鼓動音までもが聞こえ始め徐々に大きくなっていく。
「この子に寄生して生きながらえた別の意志です。とはいえ、この子も私の力により生きている状態ですので共存と言い換えたほうがいいかもしれませんね。」
尚も大きくなり続けていく鼓動音。
それは封印がとけつつある事の前兆であり、事実封印式が書かれた札は亀裂が入り始めていた。
それを無視し説明を続けるもう1人のルルア。
「私が表層に現れたのはおそらくお爺様が仕組んだことだと思われますので答えは持ち合わせていません。」
『…お爺様?』
「はい、先程夢の中でもお会いしましたのでその時に何か手を加えられたのではないかと思います。もうじきお見えになるのではないかと…噂をすればですね。」
途端、倒れこむルルア。
すると森の奥から先程ルルアの夢の中へと入って行ったユウが現れた。
『貴様だったか…夢の中に行くと消えたかと思うと今度は角の祖父だと?彼奴は、貴様は何者だ!いや、それよりもルルアだ!ルルアはどうなった!!』
「まあ、待て。説明するからそんなに睨むな。」
次々に起こる常識を疑いたくなる出来ごとにドートも限界寸前だったのか、ユウに癇癪を起してしまった。
「まず、角の封印を解こうとしているのは俺だ。少しばかりエルフにとって行動しにくい世の中になるからその対策の為に角の魔力を利用させてもらう。とはいえ、利用するのは一部でいいから封印は再度閉めた。」
『なるほど…再度ルルアが倒れたのはその為か。』
「そうだ。命に問題はないから心配するな。じゃあ、始めるぞ。」
ユウが右手をルルアへと向ける。
すると、周囲に広がっていた角から漏れ出た魔力の質の変化が始まる。
純粋な魔力の質を色で表わせばまさしく透明である。
それが、黄へと着色されていく。
『これは…人間質の魔力』
ドートの言葉通り純粋な魔力の質を人間のものへと変化させるユウ。
それと、同時にルルアの本来の魔力が徐々に体外へと漏れ出る。
その色は緑。
『まさか、魔力質そのものを入れ替える気か?』
「その通り。言っておくが無理なことじゃない。抜き出したエルフ質の魔力も人間質の魔力に変化して戻しておく。急に保有魔力が増えて慣れるまでは大変だろうがルルなら問題ないだろう。」
完全にエルフ質の魔力が体外へと排出、そして人間質の魔力に変化され、角の魔力から変化させたものと合わせてルルアの体内へ戻されていく。
『信じられん光景だな…だが、魔力の生成は変わらずエルフのままであろう?それはどうするつもりだ?』
「それも問題ない。ルルにはエルフと人間の生成器官があるみたいでな。エルフの方を閉じれば回復速度は遅くなるが慣れてくればほとんど変わらないぐらい生成できる。よし、終わったぞ。これで少なくとも戦闘で感知はされないだろう。」
『…。』
もはや常識を飛び越えた技術をいとも簡単にやってのけるユウの異常性に、角に宿る意志が何者なのか、その意志とルルアとの関係性等、問い詰めたい事が全てが吹き飛んでしまっていた。
少しばかり呆然としながらルルアを眺めるドートと、ルルアだけでなくドートの容体も視るユウ。
1人と1匹に問題が見当たらないことを確認すると森へと歩を進める。
「さて、俺はもう行く。」
『待て!貴様、名は何という?』
「そういえば名乗ってなかったな。俺はユウ・アヤマ。ルルアの兄兼先生だ。そうだ、1つお願いがあったんだ。ルルが起きたら召喚獣についてもう一度考えてやってくれないか?」
『その必要はない。もう答えはでているからな。』
「それはよかった。さて、今度こそ行くとするかな。じゃあな。」
簡単な挨拶で場を去るユウ。
再び呆然としてしまうドートであったが再びルルアを包み込み眠りについた。
その時のルルアの顔は穏やかな安心した顔だったため悪夢は覚めたのだろう。
今は、どのような夢を見ているのだろうか?
「今度は良い夢を見ろよ。」
仲良く眠る1人と1匹を気配を消し眺めるユウであった。
読んでいただきありがとうございました。
次話も読んでいただけると嬉しいです。