6話
以前言っていた試験ですが無事合格できました。
嬉しいです。
それでは6話目。
どうぞです。
-カラマ共和国・ルクレイン領:定めの神殿:神託の間-
共和国とは国自体が国民のものとする君主が存在しない国家である。
言うならば皇帝と呼ばれる絶対者によって統べられる帝国とは対極の位置に存在する国家と考えられる。
とはいえ、やはり国としての機能を果たすには国民全体の主義、主張をまとめる機関が必要となる。
そのためにも各地域ごとに代表者を選出し、議論を重ね国としての方針を決めていく。
その代表者達が現在一同に会している。
そんな中、ただ1人少し離れた位置で立っている女性がいる。
あまり背丈は高くないが目を惹くのは地面に達するまで真っ直ぐに伸びている髪である。
色素を何も含まない白とでも言うべきか。
透明に近い真っ白な髪は膨大な魔力を保有しており、治まりきれないのだろう。
淡い光に包まれており常に空気中に魔力を放出している。
その光景にばかり目がいってしまうが容姿にもまた目を惹かれる。
失明したのであろうか?
瞳は閉じられているが誰もが一度は見惚れる美しさだ。
服装は和服と洋服がうまく織り交ぜられた独特のもので不思議さの中に神聖な雰囲気すら感じられる。
彼女の名は『イメリュク・ドトーナ・アニシング』。
ここ、神託の間の所有者である巫女である。
神の言葉を聞くことができると言われる神託の巫女であり、代表者ではないのだが発言権は持っている。
更には決定権まで持ち合わせているのだからその地位は共和制の国家体制の中でもトップと呼べるものである。
代表者達にしても参加してもらいその見解を聞きたいに違いない。
だが今回に限ってイメリュクは不干渉を貫いていた。
最終的な判断は巫女に委ねられるとはいえ議題が議題なだけに代表者達は不満を抱いているようだ。
今回の議題は…帝国方面にて発生した膨大な魔力の流動。
計測された魔力値は中規模な戦と同等のものであった。
内乱の可能性を提示する者もいれば、戦争の準備をしているのではないかと危惧する者もいる。
そんな会話さえもイメリュクの頭の中には一切入ってこない。
(どうして…。)
思考を占めるのは疑問と困惑。
(どうして私は知らないの?)
過去にも他国の不審な動きの際、代表者を集め皆で話し合い情報をまとめ国の方針を決めたことは何度もあったが、その全てにおいて神託が下っていた。
だが…今回はそれがない。
これほど大規模な出来事ならば神託が下っていることが当たり前であり、神託に依存し続けてきた結果、現状は心が壊れてしまってもおかしくないほど取り乱していた。
だからだろうか、普段の精神状態ならば決して選ばない判断をしてしまった。
帝国との戦争に向けてという名目での軍備拡大、巫女による議題の決定権の廃止。
これらの決定に対して国民は何の抵抗もなく受け入れた。
なにせ巫女が決定した政策だ。
それは帝国との戦争が確実なものだと証明しているに他ならないが、神託さえあれば心配はないというのがカラマ共和国での一般的な考え方なのだ。
実際には神託が下ったわけではなくイメリュクの自暴自棄な決定ではあるのだが、その事実さえ知らなければ不満などでるわけもない。
代表者にしてもそれは変わらず、その決定に異議を唱える者などいなかった。
-ゲイル魔国領:首都ルヴァイ:王城-
鬼や天狗、吸血鬼や淫魔などの文明をもちえ、姿が人間に近い者のことを魔族と称する。
モンスターの上位存在と捉えられることが多いがそれは間違いであり、彼らは人間と共に生きることを選んだ、モンスターからすれば裏切り者なのだ。
だが、現在は共に生きる人間との間に大きな亀裂が入っており外交も内政もままならない状態にある。
事の発端は人間の間で新たに信仰されはじめた教えによるものだ。
人間を至上の存在とし、他の存在を否定する歪んだ思想。
名を『ベンター教』という。
その思想に賛同し魔族を、そしてエルフを、モンスターを駆逐しようと独自に動いているものまでいる。
魔族にとって救いなのは帝国と島国である灯国には全く賛同者がいないことだ。
言わずと知れた強国である帝国やそれに対抗し得る灯国が動けば文字通り駆逐されかねない。
魔族とて決して弱くはない。
鬼の力、天狗の速度、吸血鬼の特殊能力、淫魔の誘惑、他にも多数の種族が存在しそのどれもが人間には持ちえない能力を有している。
だがそれらは圧倒的な力を前にすれば無力に等しいものであり、帝国も灯国もその圧倒的な力が存在しているのだ。
だが、今後もそれらの国に賛同者が現れないとも限らない。
故に魔族の王『スティング』は悩んでいた。
ベンター教徒にとって魔族とは敵対の有無に関わらず駆逐する対象であり、友好な関係を築き上げていた人間が治める隣国とも争いが絶えない状態に陥ってしまった。
これだけでも重要な問題だ。
だが、そこにきて帝国方面にて膨大な魔力の流動が確認された。
帝国までも敵と化した。
そう考える者がいても不思議ではない。
「やれやれ…どうにか民の不安は抑えることはできたが問題は山積みだな。」
愚痴をこぼすかのような言葉しか出てこないことに自覚している以上の疲れを感じるものの机に束ねられた書類に目を向けるスティング。
ここは彼の実務室であり、ここ最近は会議室との間を往復する毎日で自宅に帰ることさえできない。
彼は本来、血が空気に触れ固まった際の黒くも感じる赤色の少しばかり長い髪を後ろにまとめ、細身の眼鏡をかけた外見をしているのだが、いかんせん忙しい毎日をおくっているため髪は乱れ細身を通り過ぎ少しやつれている。
「ベンター教徒の対応、帝国で発生した魔力の調査、今後我が国のとるべき道…耐えがたい重圧だな。だが…」
一度、呼吸を挟み改めて言葉に出す。
「だが、護らねばならん。民のためにも。そして、我が子の為にも。」
スティングは魔族の中では若いほうにある。
それでも王としてやっていけるのは類いまれなる政の才によるものだろう。
そして彼には先日初めての子供が産まれた。
次世代の王の誕生に国民は自らのことのように喜び、毎日のように感じていた不安は一時的にだが振り払われていた。
だからこそ民も子供も護りたいと心から思うのであった。
-ミリタリーヌ国領:首都エメラルダ:王城:王子私室-
森に住まい自然を守る。
それがエルフの存在意義であり誇りでもある。
だが、この自然の定義は一般のものとは少しばかり違う。
まず自然と聞いて考え付くものは環境的な意味としてだろう。
美しい森、清らかな水の流れる川、淀みのない空気。
それらは確かに自然であり、大切なものだ。
だが、エルフの考える自然とは異なるものである。
どれだけ木を伐採されようとも、どれだけ川を、大気を汚染されようともエルフはそれを受け入れる。
もしもエルフという種が他種族の手により滅びようとも、それもまた自然なのだと受けいれる。
これがエルフの自然である。
つまり自ら状況の改善や改悪を行うことはなく全てに身を任せる、それがエルフの本能である。
これらを考えればルルアは特殊なのかもしれない。
ハーフとはいえ、ユウに師事し目的に向かって進もうとしているのだからエルフの行動としては考えにくいものである。
だが、それはルルア1人ではなかった。
(先の魔力は間違いなく同胞のものだった。あれほど激しい魔力を用いるなど一体何事なのだ?最近はベンター教などという危険な教えも広まっているらしいが、まさかその被害に?くそっ!何にしても情報が少なすぎる!父上もこれぐらいの事など気付いているはず、何故動こうとしないのだ!)
自ら前へと進む意志を持つ異端のエルフ。
ミリタリーヌ第二王子『ガルド・ラル・レイトナル・リーヌ』
ミリタリーヌ国では必ず二子を儲けられ第一子にはミリタの姓を、第二子にはリーヌの姓をそれぞれ与えられる。
そして、王として即位した者はミリタリーヌの姓が与えられる。
その際、王と成りえなかった者は姓を奪われる。
歴史上、リーヌの姓を持つ者が王として君臨することはなく、一般的なエルフならばそれもまた自然なのだと考えるだろう。
だが、リーヌの姓を与えられたものには必ずある傾向が浮き出てくる。
ガルドがそうであるように前へと進む意志を持っているのだ。
よって歴代のリーヌの姓を持つ者は皆国を出た。
この日、今代のリーヌもまた国を出ることとなる。
(父上、母上、兄上、私には黙って全てを受け入れることなどできません。助かるかもしれない人を目の前にして何もしないなど、受けいれではなくただ無慈悲なだけではないですか?あの魔力を放った同胞が何者なのかも、力になれるかもわかりませんが…行ってきます。)
これは偶然なのだろうか?
ミリタリーヌ国では成人の儀は22歳で行われ王へ即位する権利を有する。
ガルドの兄は本日がその成人の儀であり、そのまま即位することを選んだ。
よって、現在ガルドはリーヌの名を失っているのだ。
ならばただのエルフとして国を出ることに何の問題もないだろう。
かくして、国を捨て、名を捨て、ガルドという名前だけを手元に残し若きエルフは旅立つ。
その誰よりも長き耳に誇りを、誰よりも逞しい肉体に信頼を宿し目的の人物のもとへ…。
-灯国領:首都日:上空-
他国との外交を完全に絶ち独自の文化を築いた和の島国であり、帝国に対抗することができる唯一の国と言われている。
だが、土地の9割が山で占められている特殊な環境による食料不足や、人口の少なさによる兵不足が問題に浮上する。
おそらく長期間の戦争となれば敗北は免れないだろう。
とはいえ、もともと灯国には戦争という概念が存在しない。
それはそうだろう、争う必要がないのだから。
少ない土地をわざわざ海を越え奪いにくる国があるだろうか?
豊富な資源が存在するというのならば話は別だが、有用な資源など見つかっていはいない。
では、戦争という概念がない国が何故強大な帝国に対抗することができるのか?
それは、非常に簡単な理由である。
国を守護するドラゴンがいるのだ。
この場合はドラゴンではなく龍と言いかえるのが適切かもしれない。
なにせ、灯国では守り神として敬われているのだ。
守護龍『ツィートリス』
守り神の名である。
ドラゴンとは異なる蛇のような長く碧き身体に雷を常に纏う、灯国を覆い尽くすほど巨大な正に威風堂々といえる姿である。
守護龍と呼ばれてはいるが、その本質は破壊にある。
身体そのものを鞭のように用いた打撃はそれだけで小さな島を沈めてしまう。
圧縮した魔力を口から放てば海が割れる。
雷鳴を轟かせれば世界が終わる。
言い伝えに過ぎないが事実であればそれは天災である。
そんな天災は現在、自らが守護する領域を離れ人間では到底到達できない程の高度にてある一点をにらみ続けている。
『…』
どうやら、視線の先にある何かを危惧しているようだ。
その金色に輝く瞳には焦りの色がみてとれる。
『…どうやらまだ目覚めるまでには至っていないようだな。』
そう呟くと視線を外し灯国へと舞い降りていく。
先程までの焦りは消え、瞳に映るは人々が生活する日常。
『我は護る。優しき世界を。愚かにも美しい死せる者を。』
その光景を心から護りたいと願う守り神は一言呟くといつもと変わらない日常へと戻っていく。
ただただ灯国を守護するという日常へ。
-帝国領:帝都:皇城:謁見の間-
世界は3つの大陸で形成されている。
1つ、モンスターの楽園であるセメト大陸。
1つ、カラマ共和国やゲイル魔国、ミリータリーヌ国、他にも無数の小さな国々が治めるスベラキア大陸。
そして最後の1つ、帝国が治めるブルトゥラ大陸。
他にも灯国等が治めている無数の島々もあるのだが大陸という分類にはできない。
規模を見てみれば2:1:4といったところだ。
つまり帝国領はとてつもなく広大な大地だといえる。
広ければそれだけ政治はうまくいかないものであり、どれだけ有能なトップであろうと全ての土地の管理などできるわけもなく他の者に任せるしかない。
そして任された者の手腕によって土地の良し悪しは変わってくる。
中には自らの利益を求め圧政を行う者もいるだろう。
だがそれは知性を持つものならば仕方ないことでもある。
誰にでも欲はあるもので、それを手に入れられるとすれば多少の罪悪感など微塵もかけない者が多数だろう。
しかし、それは容認されていいことではない。
故に誕生したのが十二騎士という特殊機関である。
ブルトゥラ大陸の12方に配置された帝国最強の12柱の騎士。
彼らは国を護る盾であり剣であり不正を暴く裁判官でもあり、その活躍により貧富の差は他の国々と比べても格段に軽いものとなっている。
もちろん、全ての不正を取り押さえることができているわけではないが、彼らの存在が帝国を支えている大きな支柱となっていることは間違いない。
その十二騎士には存在しないはずの13人目が存在する。
12柱の役割が治安維持だとするならば残り1柱はその存在理由そのものが違う。
だからこそ、彼は皇帝の前へと姿を現した。
大聖堂のような装飾が施された謁見の間には1つしか座がない。
そしてそれは皇帝の座でしかなくそれ以外の者は全てひれ伏す。
国民から英雄視されている十二騎士であってもまた、それにあてはまる。
しかし、たった1人例外が存在した。
それが13人目の十二騎士『サイト・シュツルム・フェイル』である。
黒髪黒瞳で短髪、身を包む衣は旅人のそれであり到底騎士には見えない、あえて言うならばどこにでもいそうな特徴のない容姿の男性である。
一見すると何も突出する点はない彼だがその名前が問題だ。
フェイルとは初代皇帝の名であり、皇族ならば必ずその名を有するしきたりがある。
つまり、サイトは皇族である。
だが、彼は一介の騎士となり帝国へと忠誠を誓った。
そして現在、あまりにも礼に欠いた態度で皇帝と向き合っている。
まず、頭を下げていない。
「フフ…お久しぶりです。サイト様」
どこか妖しい笑みを浮かべ語りかける幼さを残す女性。
長い歴史を誇る帝国の第41代皇帝『エミリア・シュツルム・リ・メウェーヌ・フェイル』である。
ショートカットの美しい金色の髪、深いエメラルドグリーンの瞳、白く透き通る肌、美しさをそのまま形にしたとしか形容できない容姿をしている。
着用している純白のドレスの鎧と相まってその全てが眩いばかりの輝きを放ち国民には神皇帝として崇められ、他国には初代皇帝フェイルと同等の存在として君臨する、絶対的な支配者と認識されているようだ。
「旅の途中にも関わらず迅速に帰還くださったこと、申し訳なく思うとともに大変頼もしくも感じますわ。先程まではどちらにいらっしゃったのですか?」
「セメト大陸へと渡ってました。ここに来るまでにだいたいの国の状況は探ってきましたので後で確認してください。ああ、それとただいまです。」
低姿勢な皇帝に対して適当に返す騎士。
誰がみてもおかしな光景だが2人にとっては当たり前なのか、気にした様子はない。
問題をあげるとすれば、サイトの発言にある。
セメト大陸とブルトゥラ大陸は海路であれば10日、空路でも4日はかかる程離れてた位置関係にある。
更に帝国はブルトゥラ大陸の中心部に位置しており、セメト大陸から帝国まで移動するにあたって必要な日数は最低でも5日である。
その距離を数時間で、他国の情勢調査さえ行ったうえでの帰還などと通常であれば到底信じられるものではない。
だが、13人目の十二騎士であるサイトはそれをやってのける。
「ええ、お帰りなさいませ。本当に頼もしいことです。さっそくですがサイト様、今回の件についてどう考えられますか?」
「あの魔力は俺たちとは違うものでしたから、多分考えている通りだと思いますよ?」
「そうですか…では、審判の日は近いということですね。」
「多分ですね。鍵は導師と神子とドラゴンでしたっけ?」
「その通りです。どの者が現れたのかはわかりませんが、希望はでてきました。存在しない最強の騎士、サイト様。私事ではありますが、使命達成の為もう少しの間お付き合いください。」
「当たり前ですよ。ここまできたんです、最後まで付き合わせてもらいます。」
エミリアはある使命を帯びて命を授かった。
それは1人の人間には到底抱えきれるものではなく、幼少の時代には重圧に負け自ら命を絶とうとしたことが何度もあった。
もちろん、周囲の人間に止められることにより未遂で終わったのだが、度々起こる自殺願望は徐々に人々を遠ざけて行った。
そんな中、ただ1人彼女の傍を離れなかった男がいた。
それがサイトである。
使命を知って尚変わらず接する態度に徐々に惹かれていき、やがて淡い恋心を抱くまでに至った。
当時の次期皇帝という立場が邪魔をし想いを伝えることはできなかったが、そのサイトへの想いが使命につぶされない強い心を形成していった。
だが…
「ありがとうございます。最後まで…ですね。」
歪んだ強さなのかもしれない。
彼女の微笑みには一切の感情がなく、ただただサイトを空虚な瞳で見つめているのであった。
-帝国領:陽光の街アジール:ラトラスの森:中央部:似非空間-
「大体の動きはこんなところ。」
「ふむ、大体は予想通りだが…俺が介入した影響とかはどうなんだ?」
「全くない。世界が動き出す経緯と、この狼との関係は違ってるけどタイミングは同じ。でもこれから少しずつ出てくるはず。」
「そうか。ルルが死なないように介入してるんだから影響は出てくるに決まっているな。」
2人はどこにいても根底が繋がっているため離れていても共にいるようなものであり、逢いたいと思えば魔法など一切使用せず、距離も関係なく逢うことができる。
そして、現在ユウが固定した似非空間にはいつの間にかユキが姿を現し身体を密着させながらの会話をしていた。
内容はユキの調べによる世界中全ての動きについてだ。
ルルアとドートの戦闘が大規模だったことは言うまでもなくユウにも理解できるところであり、となれば国が動き出す可能性が高い。
世の中、まず必要なのはやはり情報だろう。
把握できれば動きようはいくらでも出てくる。
「帝国と灯国、それとミリタリーヌ国は一応は不干渉だろうな。ゲイル魔国もそこまでルルアに絞った動きは見せないだろう。問題なのはカラマ共和国か…あの国にもベンター教は布教してるんだったな?」
「うん。まず、軍のトップがそれ。」
「まず、間違いなく狙われるな。…エルフの魔力を一時的に封印して角に宿っている魔力を循環させてみるか?あれなら純粋な魔力の塊だからいくらでも誤魔化しはきく。」
他人の魔力の循環を操作するなど熟練の魔道士や術士でも容易にできることではない。
ましてや、それが純粋な魔力ともなれば不可能に近い。
魔力とは常に乱れ、同じ流れになることはありえない不規則なものであり、一定の意志に基づいて指向性を統一することで魔法や術といった現象を引き起こすことが可能な力である。
内容量に違いはあれど誰にでも宿っている魔力だが、宿主によってその性質は異なる。
人間には人間の、魔族には魔族の、エルフにはエルフの魔力の性質があり、不規則な流れの中にも統一された部分は存在する。
純粋な魔力とはそれらに含まれない何一つ統合されていない荒れ狂う力でしかない。
ユウはそれを当たり前のように操作できる。
間違いなく異常なことである。
この技術の更に上にいけば魂の根源に大きく関わるものもあり、ユキが各国の動きを調べた方法もまた魂の根源に大きく関わっている。
「…随分熱心。」
「本当の弟のように感じてきてな。」
「そう…私とどちらが大事?」
「愛情と兄心は比べるものじゃないと思うぞ?」
「…ごめんなさい。」
「謝ることじゃない。あまり気持ちを伝えない俺も悪いんだろうしな。」
「っ!?」
突然の出来事にユキはついていけなかった。
ユキの目の前にはユウの目がある。
それは言葉通り目の前でありおのずと唇も近くに…否。
唇と唇が接触している。
ほんの1秒にも満たない一瞬のキス。
「知ってると思うがこれが俺の気持ちだ。これはいつまでも変わらない。」
「うん…。」
若干の照れを含んだ優しい笑みを浮かべるユウ。
真っ赤に染めた顔を隠すかのようにユウの胸へと顔を寄せるユキ。
これらはルルアとドートが目覚めるまでの出来事である。
読んでいただきありがとうございました。
次話も読んでいただけると嬉しいです。