2話
主人公の戦闘は設定上どうしても短くなります。
それではどうぞ。
-帝国領:陽光の街アジール:ラクラス通り-
陽光の街アジールの観光をしていたルルアがユウから集合場所の念話を受けたのは、本来なら空が暗くなっていてもおかしくないような時間帯であった。
にも関わらず静寂の闇を眩いばかりに照らし出すラクラスにより昼間とほぼ同じ…とまではいかないが、通常では考えられないような明るさを保っていた。だが、そんな中でもひと際明るく輝く方角があった。
そう、常陽の見える方角である。
山と見間違えてもおかしくないその巨大な陽樹は輝く雪ともよばれる小さな無数の光玉に囲まれ悠然と立っていた。その光景は陽光の街に恥じぬ幻想的なものであった。
この光景にルルアは素直に喜びを浮かべたのだが同一化している妖精にとっては少々問題があるようだ。
“「ごしゅじんさま~あそこには行きたくないですよ~」「俺も嫌だ!」「…正直に申し上げますと私もあまり行きたい場所ではありません。ですが、主が行かれるのであれば私達はそれに従うのみです。」”
同一化していてもルルアとの会話はできるようで、妖精は3人とも常陽のもとへ向かうことを拒否しはじめた。
とはいえ、悪いことをした子供が家に帰るのを嫌がっているようにしか見えない。
「どうしてそんなに嫌がるのかはわからないけど、あそこに行かなきゃどうしようもないから我慢してくれない?」
ルルアとしても3人に嫌な思いをさせたくはないが、ユウが待ち合わせ場所に指定したのだから仕方ない。
頭の中で騒ぐ妖精たちをよそにルルアの足は確実に常陽へと向かっていった。
-帝国領:陽光の街アジール:巨陽樹「常陽」:枝の先-
ルルアについての話を終え、ひと息ついた後のこと。
それはイオシスからの提案であった。
「模擬戦をせぬか?」
ルルアへの念話を済ませ、後は待つだけだと思考を休ませようとしていたユウにとってはあまり歓迎できない誘いであった。だが、納得はできる。導く者であるルルアの師、ユウの実力がどれほどのものか。導かれし者としてはやはり気になるところであろう。
「突然だな。まあお互いに実力を確認しておくべきか…いいだろう。だが、場所はどうするんだ?俺はともかくイオシスの実力だったら地形が変わるぞ。そこのところは大丈夫なのか?」
ユウから視たイオシスの実力はアルテアを超えていた。それはつまりギルド最高戦力以上の実力だということである。
「それについては心配いらんぞい。じゃが、解せんのう。お主とてワシと同程度の実力じゃろうに。」
同程度の実力であると断言するイオシスに対しユウはわずかに微笑む。だがその微笑みはどこか歪みを感じるものであった。
「そこまで高い評価をくれるとはな。どの程度かは戦ってみればわかるさ。さて、その場所に案内してくれ。」
そうして転移魔法陣による移動を行い案内された場所は上空1500m程の高さにある常陽の枝の1つであった。枝とはいえ、その太さは20mを超えている。そこに10m程離れ2人は向かい合った。
「ここでなら全力で戦っても被害は皆無じゃ。」
「確かにな。さすがは始原の存在だ、オリハルコンと同等の硬度をもっている。」
神の涙とも呼ばれるオリハルコンはその強度と硬度により最高の素材と知られている。もっとも存在は確認されておらずあくまでも伝承の中での話だ。
「お主がそう言うということはオリハルコンとは実在していたのかの?。」
「まあな。正確に言えば実在している、だ。そもそも神の涙なんて別名がつくような大層なものじゃないんだがな。…それは後で話すとしてそろそろ始めるか?」
「そうじゃな。では…最初から全開じゃ!!」
イオシスは叫ぶと同時に気を張り目ぐされていく。すると大気が震えだした。気による単純であり純粋な肉体強化によって場が悲鳴をあげているのだ。全身の強化を済ませると気で構成し具現化した刀を構える。だが対するユウは気も魔力も一切行使する様子がない。戦闘の構えさえないのである。
(ワシの威圧にここまで反応がないとは…なめているのか?それとも挑発?…何にせよ不気味じゃな。じゃが、思考に浸っている時ではない。)
お互いに言葉を発せず睨み合っていると輝く雪が降ってきた。それは2人の間に静かに降り立ち、そして融けた。それが合図となった。
イオシスが抜刀術を放つ。離れている相手に対しては通常ならば意味のない行為だが、その斬撃は空を切り裂きそのままユウへと真っ直ぐに飛んでいく。凄まじい速度で刀を振うからこそ成り立つ技術であった。だが、イオシスの攻めはここで終わらない。刀を振うと同時に足に纏う気による爆発的な脚力によりユウの上空へと場を移す。そして、刀に気を集中させ、空より舞い降り大きく振り抜いた。刀に纏われている気は先程足に纏わせたものを遥かに上回る。この1撃をもってすれば余波のみで民家の1つや2つ破壊しつくす威力である。更には先程放たれた斬撃もある。
(さあ、どう動くかの?)
もはや不可避である攻撃を前にしてユウはどのように動くか、期待半分、面白半分といった面持ちのイオシスだが驚愕に包まれることになる。
アルテアとの戦闘と同様にイオシスの刀が消えさったのだ。違いがあるとすれば刀全体が、そして纏われていた気も 斬撃も全てがはじめからなかったかのように“消失”したことである。
(なんじゃと!何がおこった…いや何をしたのじゃあやつは!…全く動いておらん。そのうえ気も魔力も流動は全く感じなかった。ならばなぜあのような不可思議なことがおこる?やはり人ならざる者としての力か?だが…)
模擬戦だということも忘れ思考にふけっていたイオシスだったが、それ以上は考えなかった。考えることができなかった。今支配されている感情は恐怖。それ以外の何物でもなく、恐怖対象はもちろんユウであった。場を支配していたイオシスの気が四散していき、かわりに場を支配しものはユウの放つ殺気である。それがイオシスの思考を侵し支配したのだ。とはいえ、殺気は一瞬のことであり既にこの場の支配はとかれていた。植え付けられた恐怖まではぬぐえないだろうが圧迫感はなくなったであろう。
「まだ意識を保てていることには素直に感心するが、それで終わりだ。これ以上の戦闘はできないだろう?引き分けにでもしないか?」
「確かに…戦う意志そのものが奪われた気分じゃ。正直なところお主が恐ろしゅうてしょうがない。だが、なぜじゃ?お主の勝利ではないのかの?」
「俺もこれ以上戦えないからだ。理由は違うがな。」
お互いにこれ以上の戦闘は不可能。よって引き分け。妥当な判断ではあるが満身創痍のイオシスと違いユウは消耗1つしていない。ほぼ一瞬のやりとりではあったがこの人外の模擬戦は実質ユウの勝利であった。
「わかった…この模擬戦は引き分けじゃ。」
納得のいかない結果ではあるが実際に戦闘はおろか、まともに身体が動かないイオシスは引き分けという提案をのむしかなかった。
-帝国領:陽光の街アジール:巨陽樹「常陽」-
ユウとイオシスが模擬戦を終え大地へと帰還すると、常陽を眺め呆けているルルアがいた為、声をかけイオシスとルルアにそれぞれ紹介をさせ常陽内の居間へと向かう。
「まさか陽樹に泊れるなんて思いもしなかったよ。」
「俺としては妖精を3人も引き連れていることに驚きだ。」
“「「「ビクッ!!」」」”
ユウの言葉に反応する妖精たち。
「僕の中にいるのにわかるの?さすが兄さんだね。3人とも出てきて大丈夫だよ。」
すると、ルルアの身体から光が漏れだしそれらは3人の子供を形作っていく。だが…
「…イオシス、何をしたんだ?この子たち、お前を見て怯えているぞ?」
「少しばかりお仕置きをのう…ここまで怖がられるとさすがに罪悪感が出てくるの。」
「う~ん、どんな内容だったの?教えてくれる?」
“「何年もろうごくじゅにとじこめられました~」「おまけに特別製のやつ…」「確かに私たちに非があったのは事実ですがあれはひどすぎます…」”
素直にお仕置きについて語りだす3人。その目には若干涙が浮かんでいた。
○8年間牢獄樹に縛り付けられていた。
○当初は1年間で出してもらえる話だった。
○牢獄樹の解呪は魔力を浴びせるという単純なものだが膨大な量が必要となる。
○牢獄樹の中では妖精の栄養素であるマナを取り込めず力が衰えていき成長も阻害された。
○妖精として死ぬ寸前であった。
3人がそれぞれ説明するため要領を得ず仕方なくルルアがわかりやすくまとめてみた。結果的に2つの非難に満ちた視線がイオシスに注がれる。
「イオシスさん…。」
「な…何かの?」
「最低です。人としてどうかと思います。」
「ぐはっ!」
容赦ない一言に吐血しそうな勢いのイオシス。ルルアに抱きつき泣いている妖精たち。その妖精たちをなだめるルルア。
(おそらく初めから妖精をルルアに使役させようと考えていたな。流れをつくるために閉じ込めたといったところか。考えはわからんでもないがやりすぎだな。それでこの状況は自業自得と…。しかしなんとも言えない空気だな…寝よう。)
面倒になったユウはその場を放置し寝ることにした。
-???:夢の中-
夢とは誰もが持っているもう1つの世界である。
自らの記憶や願望をもとに作り上げる自分だけの世界。
それは心を映し出した世界とも言える。
本来ならそこにはどのような存在でも介入などできない。
そう、本来なら…
質素なベット。
駆動式の勉強机。
学術書や漫画が置かれている本棚。
電源が入ったままニュースがながれているテレビ。
一般家庭の1人部屋といったところであろうか。そこに2人はいた。
「随分と久しぶりな場所だな…。」
「ユウと落ち着いて話したくて形成した…だけど嫌なら消す。」
「いや、このままでいい。せっかくユキが用意してくれた場だ。夢の中とはいえ昔を思い出せる。」
「よかった…。」
学生服に身を包むユウとユキ。だがユキの髪はしっかり整っており色白な端正な素顔が見えていた。
「それで、話ってなんだ?」
「ルルア…あの子を鍛えるのは何故?」
「ん?」
「今まで特に世界に介入したことなんてなかった。生物が、星が、世界が滅びようと何もせずただ傍観するだけ。住めなくなれば次の世界へ移動した。そうやって数えきれない時を生きてきた。」
「…ああ。」
「あの子はこの世界の重要人物…鍛えるということは微弱にだけど世界に介入するということ。ユウもそれをわかっているはず。今更になってどうして考えが変わったのかを教えて。」
質問に対し真剣に考えるユウ。その答えを出すのに夢の中ではあるが何時間にも及んだ。その間、ユキは待ち続けていた。
「考えが変わったわけじゃない。多分…同情だな。」
「…同情。」
「俺にはユキがいてくれたから壊れてもこうやって生きていられた。だがルルは違う。他人から言わせれば最低の理由かもしれないがなんとなくっていうのもある。納得させれるようなものじゃなくて悪いな。」
「クス…いいよ。その方がユウらしい。」
「悪かったな…。」
笑うユキにふてくされるユウ。
壊れてしまったユウにはユキが。
何1つ持たないユキにはユウが。
お互いがお互いを必要とし、理解する度に魂はより強く繋がる。
ユウの夢の中にユキがつくりだした過去の風景を持つ場。
そこは確かに2人だけの世界だった。
「ユウ…ユウ?寝た?…普段は無愛想だけど寝てる時は可愛い。」
夢の中で更に夢を見ているユウを膝枕しながら髪をなでるユキ。
「ユキがいてくれた…クス。うん、一緒にいる。ずっと一緒。」
強い想いは人を狂わせる。
「ユウは私。私はユウ。私はユウが好き。ユウは私が好き?」
狂った心は想いをさらに強くする。
「好き。きっと好き。だから一緒にいる。」
それらは延々と繰り返される。
「好き?違う。愛してる。ユウは愛してくれてる?」
どこまでもどこまでも堕ちていく。
「きっと愛してくれてる。一緒。一緒。私たちは一緒。」
世界を犠牲にして…。
読んでいただきありがとうございました。
少しずつ1話あたりの文章量が少なくなってきてます…。
次話も読んでいただけると嬉しいです。