19話
また1ヶ月かかりました。
ごめんなさいです。
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ありがとうございますです。
今回までは卓上での話が続きます。
それでは19話目どうぞです。
-帝国領:帝都:ギルド総本部:酒場「束の間の休息」:似非空間-
ミーナが苦悩し出した答え。
それは、ギルドが決定したルルアを人柱として戦争に利用する事柄に異議を申し立てる、説得という名を着せた危険な橋を渡ることであった。
説得が成功する事はまずあり得ないことはミーナ自身がしっかりと自覚していることではあるが、行動しないままではいられない。
その理由としては先刻ミーナが語った内容に込められている。
家族と共に居ることを大切に感じている者ならば、訣別を望むことなどほぼない。
例外があるとすればより大切な存在と天秤にかけた場合であろう。
そして、今回がそれに当てはまる。
とはいえ、何故家族よりも大切な位置にルルアが位置づけられているのかはミーナにも要領の得ない不思議な感覚でしか把握できていない。
とくに男性として意識したことなどなく、弟的な感情以外は持ち合わせてはいない。
母性本能をくすぐられ何かと世話を焼きたくなる自覚はあるものの、それも家族と比較すれば些細なものとして処理できる。
では何故か。
非常に残酷かつ、非道なことだがルルアの導師としての魂に起因する。
導師とは導く者。
では何を導くのか?
人々を、正しくは魂を導く者である。
導くとの表し方も若干誤ったものとなり、巻き込むが最も適しているだろう。
生きとし生きる者には総じて魂が宿っているが、それがどういった形をし、どういった役割を担っているのかははっきりとはわかっていない。
だが、確かに存在し色や大きさによりその性質が大きく異なることは間違いないことである。
それら魂を出会った者であれば大なり小なり導師としての道へと巻き込んでいく。
それが、真の導師の姿であり、この場で知るのはユウとユキの2人のみとなる。
(ルルアの今後を考えればミーナの答えは非常にありがたいことだな。いや、これも導師の魂によるものだと考えれば当然のことか。俺が求めた答えではあったが…残酷だな。選ばれし者なんてどれほど巻き込まれていることやら。)
さすがに、同情の念を抱くユウであったがその内容を語ろうとはしない。
いや、語ることを避けていると言った方が適切だろう。
ミーナは、そして選ばれし者であるイオシスとドートは言うなれば犠牲者であり、ルルアという大きな流れに巻き込まれた哀れで小さな存在にしか過ぎない。
そう言えるほどに導師とは大きく果てのない存在なのだ。
無論、導師をはじめ神子についてもドラゴンについても職業としては世界中の文献を探しても名前やその特性のほんのわずかな一角のみの記載しか存在しない。
だからこそ、ユウは語らない。
自らの行動が半ば操られていたものだと知ればその原因となった者と被害者の関係が歪むであろうことは火を見るより明らかなのだから。
ルルアの戦争への参加を拒否するのもこれが要因となっている。
ミーナが答えを口に出してからしばらく沈黙が訪れていたが、それはユウのお茶を啜る音によって破られる。
するとユウの雰囲気から話が終わったことを悟ったのかルルアが質問を…する前にミーナが質問を開始する。
「ユウ様、失礼ながら質問をお許しください。」
「ああ、構わないぞ。というかそこまでかしこまらなくてもいいんじゃないか?」
「申し訳ありません、友人にもいつも言われているので治そうとはしているのですがなかなか敬語の癖が抜けないのです。気に障るようであれば質問は文章にまとめますので、それで確認いただければ幸いです。」
「別に不快というわけでもないからそのまま話してくれ。」
「それでは失礼ながら…。極秘事項である共和国のギルドから使者が訪れたことを知っていること、これもまた極秘なのですがギルド上層部で行われた会議の議題であったルルア様を、人柱にはしないとおっしゃったこと、更にギルドからの離反を軽く見ていられるその意識、ここまでの情報からある仮説を立ててみたのですが、色々な事柄がしっかりと当てはまっていきました。規定のランクを超える程のドラゴンの角を採集する実力がありながら今まで噂にすらなっていなかったことも、ルルア様と共に行動していることも…。単刀直入となってしまうのですが、ユウ様は千里眼の使い手なのではないですか?」
このミーナの質問に対して大きく反応したのはアルテアであった。
千里眼とは、言ってみれば広範囲解析魔法の最高峰に位置する技能の総称である。
戦闘訓練を教育に組み込んでいる学校では教科書にも載っている有名な技能ではあるが習得するには人生の半分を費やさなければ不可能だと言われている。高い精度を求めた場合に本当の意味で千里眼の使い手として捉えられ、ドラゴンの角を採集できる力量の持ち主はたった1人しかいない。
そして、そのたった1人を連想できたことによってアルテアは過剰に反応してしまった。
だが、千里眼については知ってはいるものの、そこから先を想像することのできなかったルルアにとってはアルテアの反応は疑問が尽きない。
「アルテアさん?どうしたんですか?」
となればその疑問は口から出てしまうもので、アルテア自身も隠す必要のない事柄と判断したのか緊張した面持ちで口を開く。
「十二騎士の中で素性が全くわからないやつが何人かいる…その中でも謎が多いのが『皇帝の目』って言われてる千里眼の使い手だ。目の前にいるのがそいつなんじゃないかって考えたら驚きもするさ。」
「兄さんが十二騎士かもしれない…ですか?」
「そうだ。ミーナが言うまでは思いつきもしなかったが考えてみればこいつの異常さなら十二騎士だって言われても違和感がねえ。…俺の知ってる十二騎士と比べても異常すぎるけどな。」
「実際はユウ様の力量の詳細は一切不明なのですが、十二騎士を超えているものと思われます。ユウ様…お答えください。」
質問をしたミーナはもちろん、ルルアもアルテアもユウへと視線を向け答えを待つ姿勢をとる。
だが、ユウにとってみれば考える必要のない質問なのだからさして間をおかずに返答する。
「千里眼は使おうと思えば使えるが、十二騎士ではない。そもそも千里眼は使う必要もないしな。」
ユウの答えに対しての反応は皆それぞれ違っていた。
ルルアはユウが身分が高い者ではなかったことへの安堵。
アルテアはユウのより異常な部分に対しての呆れ。
ミーナは自身の仮説が外れていたことによる落胆はあれど、どこかルルアに似た安堵があるようだ。
「では、私の勘違いだったのですね。申し訳ありませんでした。」
「気にするな。他に質問はないのか?」
「じゃあ、僕からいい?」
「ああ。」
ミーナの質問が終わり、次の質問をユウが求めると先程機会を逃したルルアが名乗りをあげた。
「僕は死にたくないから戦争に参加しないっていうのは賛成なんだけど、兄さんは初めて会った時に言ってたよね?僕が戦争の中心に立つのは間違いないって…。僕はこのまま戦争を避けようとしても結局巻き込まれるんじゃないの?」
「さて、どうだろうな。俺もそこまで万能なわけじゃないんでな。いつ巻き込まれるのかはわからないさ。だが、結局のところ戦場では力がなくてはどうにもならない。それならしっかりと鍛えて戦争の終盤に巻き込まれるのが望ましいな。」
「そう…。」
若干ふさぎこむルルアだが、出会った頃のように怒鳴り散らすことはしない。
(ふむ…それなりに現実に目を向けるようにはなってきているようだな。短い時間とはいえ、精神面でも成長したか。)
それを素直に嬉しく思うユウは優しげな笑顔で見つめていたのだが、隣で密着しているユキが不機嫌になっていくのが目に見えてわかった為に、すぐに話題を逸らす。
「アルテアからは何か質問はないのか?」
「ん?俺からは特にねえな。」
話題を逸らそうとするもあっという間に詰んだユウの隣でユキが突然立ち上がる。
「話がないならこれでお開き。さよなら。」
ユキが発言するとユウを除く3人の存在が希薄になっていく。
驚く暇もなく似非空間から退出させられた3人であったが、退出させられただけなのだからまだ幸せだろう。
そう、この世からもあの世からも完全に消え去るよりも…。
「…勝手なことしてごめんなさい。」
「いいさ。ルルに少しばかり嘘をついたが話すべきことは話した。逆に消さなかっただけよく我慢したと思うぞ。」
「なんとか抑えた。」
文字通りなんとかだったのだろう。
握りしめていた手から流れる血がその葛藤を証明している。
その手を使ってユウへ抱きつくユキ。
血液を凝固する作用自体がないかのように止めどなく溢れてくる血をユウの顔へ、身体へ服へすらも余すことなくすりつけていく。
自らの匂いをつけるかのようなその行動をユウは黙って受け入れ、魂はもちろん、身体そのものもユキで染まるのを心待ちにしているかのように嬉しそうな表情をしている。
それは、先程ルルアへ向けた笑顔とは比較にならない程素直なユウの表情であった。
「匂いはしっかりついたか?」
「まだ足りない。まだまだ足りない。まだまだまだまだまだまだまだまだまだ…」
反響するかのように同じ言葉を呟くユキはさながら壊れた機械のようである。
だが、それすらもユウにとっては心地よく感じる。
(さて…俺の介入で人間関係の結びつきが早めに出来上がりつつあるが今後どうなることやら。俺がここにいる時点で既に原型を相当歪ませてしまっているだろうが、そろそろアカシックレコードに影響しそうなことは控えておくべきかもしれないな。いくら今の俺でも介入しすぎれば壊しかねないしな。それに崩壊の終末を覆すのは生きている奴らの力でやらないと意味がない。)
狂ったユキの声をBGMに、狂ったユキの血の匂いを楽しみつつ思考に耽るユウ。
阿鼻叫喚にも思える光景はしばらく続くのであった。
-帝国領:帝都:ギルド総本部:酒場「束の間の休息」
ユキの手により似非空間から強制退出させられたルルアとアルテア、ミーナであったが、一瞬の出来事だった為に皆何が起こったのかが理解できてはいなかった。
感覚的には、気が付けば現実の空間へと帰還していたということになる。
人々が酒を飲み陽気に賑わっているのがその証拠だ。
「僕たち…現実に戻ってきたんですね。」
「そうみたいだな。いきなりすぎてわけわかんねえけどな。」
「原因はわかりかねますが、ユキ様によってあの空間から締め出されたと考えていいかと思われます。」
現実…その空気が、雰囲気がこれほどまでに落ち着けるものであったのかと、日常の大切さを感じる3人。
やはり、似非空間は現実とはどこかが違う。
そのどこかが疲労となってしまったのだろう。
皆が安堵感をあらわにしている。
「何にしてもこれで今日は解散だな。今から討伐に行く気になんてなりゃしねえ。」
「賛成です。さすがに疲れました。」
「それでは、私も自宅に戻るとしましょう。何か戦争に関して話が進めば私から連絡致しますのでご安心ください。」
「わかりました。お願いしますね。」
話は終わり、ルルアとミーナが帰宅しようと立ち上がる中、アルテアだけは動こうとしない。
疑問の視線をルルアが向けると、シンプルな答えが返ってきた。
「俺はここで飲みなおして帰るから先に部屋に戻ってろ。」
「はい、あまり飲みすぎないようにしてくださいね。」
「ああ。」
「店員さんにもあまり迷惑かけちゃ駄目ですよ?」
「ああ。」
「もう少し愛想良くすれば怖がられずに済むと思いますよ?」
「ああ。って、今はそれは関係ないだろ!!」
「関係大有りです。アルテアさんがそんな態度だから店員さんが怖がるんですよ。これは迷惑にも繋がりますから気をつけてください。」
「ちっ、わかったよ。」
楽しそうに注意をするルルアの姿は数刻前までとは全くの別人のようである。
死闘とも言える戦闘を繰り広げたことにより遠慮がなくなったと考えるのが妥当だろう。
それでも敬語が抜けないのはミーナと同じように敬語を使う癖が染みついているからではないだろうか。
もっとも、ユウという例外がいるのだから、ミーナよりはやや軽めの癖かと思われる。
「それではお先に失礼しますね。」
「…ああ。気をつけて帰れ。」
少しばかり口論になりかけはしたものの、あっさりとルルアに言いくるめられたアルテアは少しふてくされたように見える。
それでもルルアの帰り道を心配する辺りに不器用な優しさを感じることができる。
その優しさに笑顔で応えるとそのままミーナと共に酒場を後にするルルアであった。
酒場に残ったアルテアだが、ルルアの笑顔に見惚れ顔を赤くしていた姿を酒場のオーナーに心配され、酒に酔っていると誤魔化そうとできるだけ怖がられぬよう言葉や態度に気を遣い、結局は酒に酔うこともできなかったとか。
-帝国領:帝都:ギルド総本部:女性用宿舎-
ルルアの現在の住まいである宿舎とは少し離れた位置にある清潔感溢れる宿舎。
何もギルドが所有する宿舎は直轄討伐ランカーのみの宿舎ではなく、女性用としての宿舎も存在している。
討伐・採集・医療の仕事が目立っているギルドではあるが、それらの内容を処理する事務職ももちろん存在する。
受付嬢もその中の1つなのだが、それらの職もまた宿舎を借り、住まうことができる。
ミーナも宿舎を借りているわけなのだが、女性が住むとなると防犯面に目がいってしまう。
そこで女性用として別枠を用意し防犯面も向上させた宿舎が完成したわけだが、これがミーナを心配する家族であるギルドマスターが強行に建築したという裏話があるのだから笑えない。
そんな女性用宿舎の前までミーナを送り届けるルルアであったが、内心では焦ってしまっている。
その理由はミーナの決意にあった。
ルルアが人柱として戦争に参加することへの異議の申し立てを行い、失敗すればギルドと離反する。
ルルアにはつい最近まで家族がいなかった。
だからこそ、家族の大切さがよくわかる。
だというのにミーナはその家族であるギルドを離反する可能性があるのだ。
それもルルア自らに関係する事柄で。
納得のいかない内容ではあるが、それでも戦争への参加等もってのほか。
だが、ミーナには家族と共にいてほしい。
板ばさみのような状態で、何かを伝えたいのにその何かがわからない。
だから焦ってしまう。
何度も思考を重ねるも答えはでず。
もしも、ルルアに絶対に叶えたい目標がなければ戦争への参加もしていたかもしれない。
だが、残念ながらその目標が現実にあるのだから無闇な行動はとれない。
ではルルアは薄情なのか。
薄情ならば悩みはしない。
すぐにミーナを切り捨て、踏み台にするだろう。
ルルアは永遠に答えのでないような袋小路へと迷い込んでしまっていた。
だが、迷い込む要因となったのがミーナならば出口を指し示す光となったのもまたミーナであった。
「戦争など大人の我儘で起こるどうしようもなくくだらない争いなのです。それなのにルルア様を利用しようとすること自体が間違っているのです。何も気にされることはありません。それに離反を決めたのは私自身なのですから。私が…貴方をお護りします。」
護る。
それは、ルルアが大切に感じる人々に対して強く感じる想い。
では、ミーナは大切ではないのか?
否、そんなことはない。
ならば、自身のとるべき行動は?
「送っていただきありがとうございました。それではまたお仕事でお会いしましょう。」
「…はい。」
別れの挨拶を済ませるとミーナは規則的に靴の音を響かせながら宿舎の中へと消えていった。
やがて音が聞こえなくなるとルルアもまた寝泊まりしている宿舎へ向かって歩き出す。
ルルアの瞳にはまた1つ決意が宿っていた。
いかがだったでしょうか?
20話もまた読んでいただければ嬉しいです。