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導きを導く者  作者: もち
2/21

1話

仕事が休みだったのでかきあげることができました。

それではどうぞ。

-帝国領:帝都:宿屋「旅人の憩」-

安価で落ち着きのある宿屋として知られる「旅人の憩」

ユウが宿泊している宿屋だ。

ギルドでそのまま今後についての話をしてもよかったが、個室とはいえ人の目や耳が気になるため当初の予定通りユウの部屋へと向かうことになった。

その際ミーナには導師については他言無用であることをお願いしたところ快く了承してくれた。

テーブルを挟んで、安物だがある程度の強度と柔らかさを持っている丸椅子に座っているユウとルルア。

そこでルルアはある違和感に気付いた。


(何でだろう?お兄さんを2人感じる。)


先程まではまったく感じなかった違和感に戸惑いを覚え正直に聞いてみることにした。


「すみません…さっそくですが質問してもよろしいですか?」


「ん?いいぞ。だがその前にその敬語をなんとかしてくれないか?地なら無理に変えろとは言わないが…それといい加減に顔を見せてくれ。」


「えっと…うん。わかったよ。」


緑のフードを取ると中性的なまだ幼い顔立ちの少年が伏し目がちにしていた。

ルルアの耳はハーフエルフではあるがエルフと変わらない長さを持っている。

エルフは個体数が少なくただでさえ目立つのだが、最も目に入るものはエルフであることとは別にあった。

おそらく親である精霊の力を受け継いだのだろう、角があったのだ。

封印処理を施されており力の行使はできないようだが、秘めたる力は強大だ。そう断定できるほど力強く大きな角だった。

だがユウにとってはささいなことだった。特に気にした様子もなく珍しそうに角を見ている。

そんな様子に安心したルルアは自分の要望を告げる。


「呼び方は兄さんでいい?それから僕のことはルルって呼んでほしいんだけど?」


「ん、わかった、ルル。それじゃあ質問を聞こうか?」


「うん。兄さんの…意志っていうのかな?たましい?それが突然2つあるように感じてどうなってるんだろうと思って…」


質問を聞くと目を見開き唖然とするユウ。


「…わかるのか?」


「うん、なんとなくでしかないけど。」


「そうか…気付いたなら仕方ないな。」


どこか諦めた口調で溜息を吐くと、突然ユウの膝に甘えるように絡みついている女性が現れた。

ユウと同じく髪も服も黒一色の異様な雰囲気を持っており、髪が無造作に伸びている為、顔は確認できないがある程度は整った顔立ちをしているであろう予想はできる。

突然現れた女性に驚くルルアであったが直感的に理解した。

彼女がユウのもう1つの意志…魂なのだということを。


「では自己紹介といこうか。俺は綾真優。こちらの呼び方をするならユウ・アヤマだ。そして俺にくっついているのはユキだ。」


「よろしく」


「はい、よろしくお願いします。僕は…」


「いい」


ユキと紹介された女性は簡単な挨拶をすませると、ルルアの自己紹介を遮りもう用はないとばかりにユウへ更に絡みつく。協調性のカケラもないような対応にユウは再び溜息をついた。


「悪いな、基本的にユキは全てに興味がないんだ。あぁ、それとルルが表現してた俺の魂が2つっていうのはある意味正解だ。魂が根本から繋がっているから俺とユキはある意味同一人物なんだ。」


「嫌われているわけではないんだね…それよりも、たましいが繋がっていることに驚いたかな。それってたぶん個ではなくなるってことでしょ?」


「普通ならな。俺たちは特別だと思ってくれ。さて…そろそろ本題に入るか?」


それ以上は聞くなとでも言うかのように話を打ち切るユウ。

そしてそれを理解したのか今後の方針について自分なりの考えを話し始めるルルア。

夜遅くまで語り合う2人は本当の兄弟のようであった。



-帝国領:陽光の街アジール-

帝都から山を2つ超え大きな森を抜けた先に、陽光の街アジールがある。

太陽の光を全世界で最も長い時間注がれることで知られ、それ故に陽樹ラクラスの成長に最も適した地であり、観光地としても有名である。

自然樹の人為的な栽培は不可能とされており帝都に植えられていたものもここ、アジールから取り寄せられたものだ。

治安もよく帝国領の中でも評判が良く光の街とも呼ばれている。

そんな街から討伐依頼が入ったのはルルアの方針が決まった次の日だった。

難度:Aの討伐依頼だったが、討伐を専門にしていたルルアはFランカーであるにも関わらず受けることができた。まさしく行幸と言えよう。


○討伐依頼を戦闘訓練とする。


方針の1つである。

ルルアの総合能力値はC+であったが、今回は実際の戦闘能力の把握という形で2ランク上の難度:Aを、もちろん安全の為ユウも同行することにした。

ユキは留守番のようだ。


「兄さん、討伐対象のグラムってどんなモンスターなの?」


「それを調べるのも訓練の一環だ。ギルドで閲覧できる情報を見なかったのもそのためだ。種類や全長、習性なんかを知らなければ逆にこちらがやられる可能性も出てくる。これが訓練ならいいが、実際は殺し合いだ。やり直しはきかない。」


ルルアは軽い気持ちで聞いたのだろう。だが、返ってきた言葉は非情な現実を突き付けるものだった。


「…そうだね。ごめんなさい、兄さんが一緒に来てくれるからって甘えてた…。」


「わかってくれたのならいい。今回は討伐依頼だが、あくまでも戦闘は最終手段だと考えてくれ。徹底的に情報を集めた上でなら戦闘以外の方法も見えてくる。まぁ今回は確実に戦闘になるだろうがな。いつ死んでもおかしくないということだけは忘れるな。」


「はい!わかりました先生!」


覚悟を決めた心はユウからの教えを、心得を余すことなく吸収する。


「先生ね…。ん、それでいいか。じゃあ、情報収集といくぞ。期限は明日の正午まで。その段階で集まった情報をもとに行動してもらう。」


ユウは宿屋を探しに、ルルアは情報収集のため、街に聞きこみ調査へ。

集合場所は魔法での念話を利用することとしそれぞれ行動を開始した。



-帝国領:陽光の街アジール:巨陽樹ラクラス「常陽」-

観光客が多い為、必然的に宿屋も多くなるのだがそういった宿屋はしっかりとした造りで豪華な分、総じて宿泊料が高く設定されており必要最低限の金銭しか持ってきていないユウには手が届かなかった。

だが、そのおかげで珍しい体験をできるというのだから何が幸を成すかわからないものだ。

巨大な陽樹を1つの家として見立て暮らしている老人から宿泊を許されたのだ。

色素は抜けてしまっているものの、豊富な髪と髭を持つ70歳を過ぎたあたりであろう容貌をしていた。


「ご厚意感謝します。1日ではありますが何か手伝えることがあればどうぞおっしゃってください。」


「気にしなくてもよいぞ。言動も普段通りで構わんぞい。歳を意識してのことなら尚更じゃ…そもそもワシが年下のようじゃしのう、ユウ・アヤマ殿」


「…最近は色々と驚かされるな。」


見た目から言えば老人が年上であることは間違いない事である。

だが、ユウの反応は老人の発言を肯定とあらわしていた。


「常陽が教えてくれてのう。導く者が訪れると…人ならざる者と一緒にな。あぁ、常陽とはこの陽樹のことじゃ、良い名じゃろ?」


「常に陽を灯す樹か…確かにこの陽樹ならそれぐらいやってのけるだろうな。いや、実際にやっているからこその陽光の街か。おそらく始原の自然樹の1柱…違うか?」


「驚いたの…長き時を生きたが故の推測かの?それともこれさえもお主の力…まぁどちらでもよい。」


今回は老人が驚く立場となった。

そして、老人の反応もまた、ユウの発言を肯定とあわらしていた。


「そうだな、どちらでもいいことだ。とりあえず探り合いはこのぐらいにしないか?こういったやりとりは苦手なんだ。」


お互いがお互いをけん制し合う口頭での戦闘…。

それは人の思考や感情さえも計算に入れた高度な技術が必要とされるが2人はいとも簡単にそれをやってのける。


「このタイミングで切るか…なるほど。まぁ、そうじゃな、ここらで終わりにするか…さて、まだ名乗っていなかったの。ワシの名はイオシス…導かれし者じゃよ。」


「だろうな。でなければ色々と納得できない点が多すぎる。」


「ワシとしてはお主の存在の方が納得できんがのう。」


「俺はこの世界ではイレギュラーだ。あまり深く考えないほうがいい。俺の事よりもその導く者について話さないか?この世界の未来について、人ならざる者とな。」


交渉などの相手とのやりとりの中で最も重要なものは場を支配し、相手に有無を言わさぬこと。そして求める情報を餌とし相手を釣り上げる。もちろん、情報とは事前に相手が何を求めているかを知らなければ用意しようもないが、ユウはイオシスと始原の自然樹が繋がっているという点のみで、イオシスが求める餌とは導く者であるルルア以外ありえないという結論に至った。事実それは当たっており、そのため場の支配云々を飛ばしてさえイオシスは食いつくしかなかった。



-帝国領:陽光の街アジール:メイルの森-

陽光の街アジールから目に見える位置に静寂に包まれる森がある。

陽樹ラクラスと小動物のみが生息しており、一種の癒しを感じさせ、外界から隔絶されたかのような印象を受ける。

人里での情報収集は既に終えたルルアだったが、入手した情報にはいくつかグラムの行動に不可解な点を感じさせるものが含まれていたため更に情報が必要だと判断したようだ。

そのため、グラムが潜伏しているであろう森と隣接しているメイルの森に訪れ、情報を求めてひたすらに歩き続けていた。もちろん、隣接しているだけの森に確信に迫れるような情報は期待してはいなかった。だが、ルルアには精霊から受け継いだであろう角による特殊な能力があった。動物、はてはモンスターに至るまで、人語を持ちえない者との対話である。この能力を用い動物から情報を得ようとしているのだ。

このルルアの行動は予想外の結果を生み出すものとなった。


“「待って~!」「待て!」「待ってください!」”


突然頭に響いてくる3つの声に驚くルルア。辺りを探ると陽樹に似た雰囲気の小さな苗木がひっそりと植わっていた。


“「気付いてくれた~?」「気付いたか?」「気付いたのですね?」”


話し方に違いはあるが同じ内容の言葉が再びルルアの頭に響く。


「もしかして…この声は君なの?」


おそるおそる目の前にある小さな苗木に触れ話しかけるルルア。すると、眩い光が辺り一面を覆ったかと思うと紫・蒼・紅の陣が地面に書き込まれ、その光は小さな子供の姿を形作っていく。


“「ぷはぁ、やっと出れたよ~」「よし!」「ようやく出れました」”


その姿は物語にでてくるであろう妖精そのものだった。

紫のショートヘアの少し間延びした喋りである少女。

蒼い短髪の鋭い目つきの少年。

紅い長髪のこちらもまた鋭い目つきの少女。

いずれも背に小さな羽を持ち、大きさは50㎝にも満たない。


“「わは~ありがと~ごしゅじんさま~」「サンキュー!」「感謝致します。」”


理解が追いつかないルルアであったがある程度の予想は既にたっていた。

この子たちは自然樹の妖精なのではないかと。

妖精にしてはあまりにもはっきりとした自我をもっているものの、それ以外には該当する存在がなかった。

そんな思考をしているとふと先程の彼女たちの言葉を思い返し、気になる内容があることに気付いた。


「君たちが何者なのかよりも気になる言葉があったんだけど…ご主人様って何?」


ルルアの質問は至極当然のものであったが、3人は驚いたような呆れたような目をしていた。


“「ごしゅじんさまはごしゅじんさまですよ~」「何言ってんだ?あんたが契約したんだろ?」「膨大な魔力により私たちを自然樹から解き放ち、更に存在を昇華させ契約。主が先程行った内容です。まさか、無意識に行われたのですか?」”


これにはルルア自身驚いた。

確かに主従の契約を行う術や魔法の類の知識は持っていたがそれを実際に試したことなどなかったのだ。そのうえ、その内容は召喚術と呼ばれる一時的な主従関係のものであり、今回の契約とは全く別物なのだ。

だが、無意識にとはいえ契約を結んだことに違いはない。

今ここにルルアにとって初めての従者が誕生した。



-帝国領:陽光の街アジール:メイルの森入口-

妖精3人の出会いから2時間程で動物たちからの情報を得、今は街へ戻ろうとメイルの森の入口まで戻ってきていた。もちろん妖精も一緒だ。


「メルル、もうすぐで街につくからね。」


“「は~い、もりから出たことなかったからたのしみです~」”


メルルと呼ばれた少女は紫の髪を揺らしながら上機嫌でルルアの腕に抱きついている。


「ドラグム、できれば街の中では暴れないでね。」


“「後であんたが遊んで(戦って)くれるのならいいぜ」”


ドラグムと呼ばれた少年はニヤリと笑うと羽を広げ蒼き軌跡を描きながら真っ直ぐに飛び立った。


「はぁ…イーシャル、ドラグムを連れ戻してきてくれない?手荒なまねはできるだけなしで。」


“「かしこまりました。それでは行ってまいります。」”


イーシャルと呼ばれは少女はルルアに一礼すると羽を広げ紅き軌跡を描きながら凄まじい速さで飛び出していった。


○長女:メルル(紫の髪の少女)


○長男:ドラグム(蒼き髪の少年)双子の兄


○次女:イーシャル(紅き髪の少女)双子の妹


妖精の名前である。

森の中での会話で3人の妖精は兄弟だということがわかったのだが、名前を持っていないらしく主であるルルアが名付けることとなったのだ。

数分後、頭に大きなコブを作ったドラグムと、それを引きずっているイーシャルが帰ってきた。どうやら妹であるイーシャルの方が色々な意味で強いようだ。


「もお~、イーちゃんまたドラちゃんのことたたいたの~?女の子はそんなことしちゃいけないよ~」


「…申し訳ありません姉上」


勇猛果敢に見えるイーシャルだがメルルには勝てないようだ。


「それから、ドラちゃんはごじゅじんさまをこまらせたらメッ!だよ~」


「わかったよ…ルルア、はしゃいじまって悪かった。」


やんちゃなドラグムもまた、メルルの前では素直のようだ。


「これから気をつけてくれればいいよ。それより、街に入る前には必ず僕の中に入ってね。見られたらさすがにまずいからね。」


妖精とはエルフ以上に個体数が少ない精霊の一種である。

世の中の裏側では人身売買が行われているが、それは妖精もまた含まれている。ならばいくら治安が良くても邪な考えを抱く者は必ずいるものだ。それらの危険を避けるためにも見られないようにすることは必要であった。

それらの説明を予めしていたため、皆素直に契約により可能となったルルアとの同一化を行った。

そして、街へと戻ったルルアはユウからの念話を待つまでの間、妖精たちの観光をすることにした。

読んでいただきありがとうございました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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