17話
なんとか2週間以内に更新できました。
それでは17話目どうぞです。
-帝国領:帝都:ギルド総本部:酒場「束の間の休息」:似非空間-
ルルアの魔力とアルテアの気によって発生した大爆発。
それは、離れた位置にいるミーナが感知でき、尚且つ恐れを抱く程のものであった。
(これは!?…なんという力でしょうか。おそらく訓練場の結界がなければここまで被害が広がっていますね。…素晴らしい成長です、ルルア様。)
調理の手を止めて感知した魔力と気について思考するミーナ。
だが、恐れはすれどミーナの心中を占めるのはルルアに対しての賛辞が大半のようだ。
それも仕方のないことである。
酒場から訓練場へ向かう際に確認したルルアの力量では、つい先程確認できた魔力など到底出せるようなものではないのだ。
となれば、戦闘の最中に成長したとしか考えられない。
このままいけば討伐SSランカーはおろか、帝国が誇る十二騎士すらも凌駕するのではないかと、小さくはない期待を胸に抱くミーナであった。
その様子を横目で視界に入れながら料理を仕上げていくユキは爆発云々には全く興味が湧かないようだ。
それ以前に横で調理するミーナに対しても関心を示すことはないのか、ミーナから話しかけられはしたものの、全く返答せずただ黙々と作業したのは調理開始早々のことであった。
考えてみればユキの行動理念で優先すべきはユウであり、それ以外には何1つ存在しないのだから特に不思議なことではなかった。
ユウが関わっていなければ、戦争が起きようが天変地異が起きようが世界が崩壊しようが、何の感情も抱かずに見捨てることができる。
今までもこれからもないことだが、ユウが破壊や混沌を望めば率先して叶えるだろう。
だが、別の意味で言えばルルアの成長はユキにとって非常にありがたいことである。
ルルアが強くなればなるほど、ユウが世界へ介入することは少なくなっていくのだから。
ユウが再び己のみを見て、視て、観て、診て、看てくれる日を願うユキであった。
-帝国領:帝都:中央広場:訓練場:似非空間-
張られた結界により土煙が半球状に閉じ込められており、爆発の影響なのか若干室内温度があがっているようにも感じるが、それ以外は普段のそれと全く変わらない訓練場内。
結界内は未だ視界不良なのは間違いないことだが、視界云々よりもまずはルルアとアルテアが生きているかが問題である。
2人が如何に強くとも身体の構成物質は一般人と変わらないことは否定しようがないことであり、魔力や気を失い身を護るすべを失った状態で爆発に巻き込まれればそれ相応に怪我を負うことになる。
アルテアはまだ余力を残している可能性もあるが、ルルアは間違いなく全魔力を使いきっている。
そのことを踏まえると、今回の爆発の規模から焼死も考えられるだろう。
いや、通常であれば魔力や気が残っていようと死んだとしか考えようのない爆発なのだ。
戦争で同程度の爆発が発生すれば万単位の人々があっけなく死を迎えるだろう。
「さて…暴走するかどうか。一応俺も降りておくか。」
一向に晴れる様子のない土煙の外、観客席でただ見ていたユウが呟きながらゆっくりと立ち上がる。
詠唱も何もしていない状態で風を纏うわけでも、重力を操るわけでもなく魔法や術の存在を否定するかのような方法を用いて浮遊し結界内へと進むユウ。
内部の様子は、全てが融けているとでも表現できるような過酷な環境へと変わっていた。
土が融け、空気が焼け、ただそこにいるだけで命を脅かされてしまいそうな程の高温なのだ。
だが、ユウにとっては気にする必要のない些細なものであり、それはアルテアにも言えることのようだ。
やはり余力を残していたのか爆発に耐え、過酷な環境へと変わった結界内でも平然としている姿が確認できる。
「随分と本気でやったようだな。」
「まぁな。8割程度出したがギリギリだったぜ。だが、これでルルアが俺よりも下だってことはわかっただろ。」
得意気に語るアルテアの顔はどこかスッキリした様子が窺える。
全力とは言えないが強者との戦闘を楽しめたからか、ルルアよりも強いということが確認できたからかはわらかないが、おそらくは前者であろう。
「まぁ、お前の言いたいこともわかる、というよりもわかった。ルルアはこれからも強くなっていく。それも際限なんてないぐらいな。お前はその強くなったルルアと俺がやりあうっていう道を示してくれたんだな?」
今までユウに対して悪態をついてばかりいたアルテアがはじめてユウへと笑顔を向ける。
それは捻くれたものではあったが、先程酒場で求めていた強くなるための希望を、欠片ではあるがユウが与えてくれたことによる感謝の表れなのだろう。
「どうだろうな。そう思うなら思ってくれて構わないが、道を示すのは俺じゃなくルルだな。」
「どういうことだ?」
「そのことはミーナを交えてからになる。また後でな。」
「ちっ、まあいい。まずはルルアを助けにいかないとな。ってか、お前は兄貴なんだろうが!まずお前が助けに行けよ!!」
疑問が後回しにされたことは特に問題はないようだが、今度はルルアを放っていることに怒りを示すアルテア。
「助け?そんなもの必要ないだろ。」
「あぁ?っ!!?」
アルテアのもっともな怒りに対してのユウの答えはどこか冷めた物言いではあるが、その理由はすぐにわかることとなった。
先程まで舞っていた土煙は突然の荒れ狂う風により晴れていき、その風は魔力により人為的に起こされていることが確認できる。
「何だこりゃ!ルルアにはもう魔力が残っていなかったはずだぞ!!」
「理由なんて今考えてもしたかないだろうに。とりあえず、身を護る為に本能でまだ使っていない魔力を引き出した…ということにでもしておけ。さて、ファイナルラウンド開始だ。勝利条件はルルを無力化すること、或いは正気に戻すことだ。」
「…暴走してるってことか。」
やがて、ルルアの姿が確認できる程度に土煙が晴れる。
だが、先程までと違い瞳に生気がなくフードが落ち角が見えている。
その角も以前ドートの前で起きた現象のように青白く光っており、膨大な魔力が渦を巻いているのが目視できる。
だが、アルテアが驚いたのはその魔力ではなかった。
「…なぁ、ルルアって女だったのか?」
「見た目は中性的だからわかりづらいかもしれないがれっきとした男だ。…角の異常な魔力よりも顔に目がいくんだな。」
「それぐらい驚いたんだよ!…あれで男なのかよ。」
ルルアの素顔をまともに見たのがこれが初めてだったのか、少しばかり目を奪われてしまったアルテア。
最後の呟きはどこか悔しさが混じっているようにも感じる。
だが、そのような感傷に浸っている時間などルルアは許してはくれなかった。
稲妻を模るかのように左右に滑るように移動しながら接近してきたのだ。
その動きは暴走しているとは思えない程に優雅であり、そして身体強化を施していないにも関わらず非常に速いものであった。
更には、魔力に慣れていなかったために今まで行えなかった動作中のプログラムの展開を行っている。
それも言語を用いずにである。
「魔力以外にもリミッターが外れたみたいだな。上等だ!かかって来やがれ!!」
双剣を構え、狂喜するアルテア。
体力の残りが少ないにも関わらず、高ぶる感情は気を身体全体に満たし体調を整える。
「予想はしていたが随分あっさりと壁を越えたな。さて、ルルがあの魔力を制御できるまで粘れるか…もしもの時は動くか。」
ルルアが移動しながらプログラムを展開している事、そしてアルテアが力量を上げたこと確認すると、文字通り見学するために観客席へと戻っていくユウ。
その際の呟きはアルテアが望んでいた強くなることに他ならないことだが、最終的にはルルアへ還元されるように考えていたようだ。
ユウが再び観客席へ着くとルルアから無数の光が見える状態であった。
その光はルルアの周囲の空間に敷かれた陣から次々と現れアルテアへと向かっていく。
それらを双剣でいなしつつルルアへ接近し本物の殺気を持って切りつけるアルテアであったが、確実に致命傷へとなりえたその斬撃はルルアの幻影を切り裂く結果となった。
そのことに驚くよりもまずは、見失ってしまったルルアがどこにいるのかを確認しようとするアルテア。
その間にも光は留まることなく降り注ぎ、索敵を妨げる。
どうやら、永続的にプログラムが展開されるよう設定されているようだ。
依然としてルルアの位置がつかめない状況が続くが、光の陣が敷かれている更に奥で魔力が凝縮されつつあることに気付いた。
(なるほどな、光の魔法に隠れて強力な魔法をぶっ放すつもりか。しかし、暴走してるとしたら何も考えずに突っ込んでくると思うが…本当に暴走してんのか?)
絶間なく降り注ぐ光の対処に慣れてきたのか、思考の隅で暴走の有無を考えていたアルテアであったが、突然耳に不気味な音が響く。
(ちっ、ヒビが入りやがった。余計なことを考えてる暇はなさそうだな。)
その不気味な音は、アルテア自身の気が急激に増加したことで負担が増したことも要因としてあがるだろうが、光に込められている魔力の異常な量により双剣の片割れにヒビが入った音であった。
剣の耐久度を考えると長くは持たないことは明白だが、光の陣の奥にルルアがいるという確証がない状態では突撃することも良策とは言えない。
だが、迷えばチャンスを逃す可能性もある。
光の奥にルルアがいる確証を得てから動くか、或いは賭けるかの2択ではあるが、その選択が果てしなく難しく感じるのはアルテアの豊富な戦闘経験の中でも初めてのことであった。
ミスが己の死へと繋がる死線を何度も潜り抜けてきたアルテアがである。
(…考えるのは性にあわねぇ。突撃だ!)
もはや、考えることを止め本能で突撃を決めたアルテア。
悲鳴を上げる双剣の片割れを気にも留めず振るい光をいなし、弾き、防ぎ、全力で駆けていく。
当然ながら立ち止まって防御に専念していた時と違い、いくつもの光が身体を傷つけていくが、それもまた気にする様子はない。
無謀にも見えるが、実際には最善の行動であった。
たった1つだけを除いては。
アルテアが光を掻い潜り、その陣本体を破壊するとその後方に確かにルルアはいた。
だが、その位置はアルテアが想定してた場所とは全く違っていたのだ。
誰であろうと相手がいるであろう位置で魔力が集中していれば、本人もまた同じ位置にいると判断するだろう。
ルルアはそれすらもプログラムに組み込み、自身はアルテアへ奇襲をかけることのできる位置で待ち伏せていたのだ。
つまり、アルテアには罠にかかるか光の魔法で少しずつ追い込まれていくか、どちらにしても敗色が強い選択しかなかったということになる。
これがもし、罠だと認識した上での突撃ならば状況は違ったかもしれないが、現実は完全に想定外の状況に動きが一時的ではあるが完全に停止してしまった。
それは、本当に一瞬の停止であったが高レベルの戦闘ともなれば悠久の時に匹敵するほどの時間の無駄となり、アルテアへと襲いかかる。
凝縮されていた魔力の正体は、正しく攻撃魔法のプログラムであり巨大な風の刃を形成し融けてしまった大地を抉り返しながらアルテアへと向かう。
「ぐっ!ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
鮮血が飛び散り、アルテアの左肘から下が切り落とされる。
停止から回復し咄嗟に避けたがやはり完全には避けきれずに更に切られた衝撃で完全にバランスを崩してしまった。
そこにルルア追撃をかける。
手に持っているのは間違いなくローミスリルだろう。
だが、その周囲を覆う魔力は黒く歪んでおり、どれほどの魔力が込められているのか見当もつかない。
先程までローミスリルに魔力は込められてはいなかった。
ならばほんの一瞬で膨大な魔力を注ぎ込み術式を完成させたことになる。
異常なまでの高難度の技術だが、術式の性能はその異常性を超す程の異常であった。
術式反転。
本来起こりうる物事の根本まで逆行しその内容を反転させる術式であり、物質にしても減少にしてもその効果は及ぶものの、その構成物質を完全に認識し把握しなくては行使することのできない使いどころの難しい術式である。
では、今回の術式反転を用いたのは何か。
それはローミスリルそのものにである。
魔力を吸収はすれど、すぐに吐き出してしまう性質を持つローミスリルだが、それを反転させ吸収のみに特化した物質へと変化させたのだ。
そして、その性質を活用する為に使用した魔法が重力変化魔法である。
重力を増す作用が、重力自体を吸収するローミスリルにより何重にも繰り返し増していき、やがて高密度な重力となり1つの場が形成される。
結果から言えば、生物ならばまず間違いなく死を迎えるであろう人為的なブラックホールの完成となる。
それが何なのか知りようのないアルテアだが、直感で死が目の前まで訪れていることを感じ取っていた。
(俺は…死ぬのか。あっけない死に方だな。)
死神の気配を感じはすれどさして動揺しないのは、死と隣り合わせの日常を送っていて慣れているからなのか。
それでもケジメとばかりに覚悟を決めると静かに目を閉じ、ルルアの攻撃を待つアルテア。
だが、攻撃を受けることなくバランスを崩したその状態で倒れこんでしまった。
不思議に思い目を開けてみると、涙を流し鼻水は垂れローミスリルを握りしめているルルアがいた。
「ご…べんな…ざい…ごべんなざい、ぃっく、ごべんなざい」
嗚咽を含んでいるためわかりづらいが、アルテアに対して謝っているようだ。
その瞳は紛れもなくルルアが正気を取り戻したことを示している。
死は免れたとわかるが、何故突然ルルアが正気に戻ったのかがわからないアルテアはその謝罪に対して何も反応できないでいた。
そのことに気付いたルルアは自ら語りだす。
「ずっど、いじぎは、っあっだんです。でぼっ、がらだが、いうごど、ぎがなくで。さっぎの、づがっでだら、あっ、あるであざんが、し…しんじゃうっでおぼっで!!ぞじだら、がらだがいうごと、ぎいでくれで。」
「あぁ~…もういい。さっきのはルルアのせいじゃない。だからもう泣くな。」
「でぼ!」
「いいっつってんだろ!俺達は戦った。そんで俺の力もルルアの力も上がった。結果オーライじゃねぇか。」
そのまま片手でルルアを抱き寄せ、胸で泣かせるアルテア。
角の青白い光も今は静まっており安定しているようだ。
観客席から2人の様子を見るユウの表情は幾分か優しげである。
(俺が介入せずに解決…と、上々の結果だな。アルテアの腕も後で治してやるか。だがそれよりも…。)
「まだ先になると思ったんだが、もう出てこれたんだな。世界の意志。」
「はい、あの子はとても成長が速いので。」
半透明の青白く輝く光に対して語りかけるユウは一見おかしく見えるかもしれないが、その光そのものから返事が返ってくるのだからある意味普通の会話なのかもしれない。
「それは良い事だ。もう少し成長すれば俺はルルの前から消える。その後は任せていいか?」
「私の復讐の為に使うかもしれませんが。」
「復讐相手は同じだろ?というより、お前がそう仕込んだんだろうに。まあ、俺がいなくなってもその時が来るまで時間はあるはずだ。その間にしっかりと準備するんだな。」
「親愛を持っているかと思えば、淡泊なのですね。」
「俺はもともと気まぐれなんだよ。さて、そろそろあの2人がくっついているのをなんとかしないとな。変な道に行かれても困る。お前もそろそろ戻ったらどうだ。」
「そうですね。」
会話が終わると観客席から再び浮遊し、ゆっくりと降りていくユウ。
降り立ち観客席を見てみると、青白い光はそのまま浄化されるかのように消えていったのであった。
読んでいただきありがとうございました。
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