14話
非常に遅れて申し訳ありません。
話は考えているのに文章の構成能力が低くうまくまとまらないといった状態です。
これもスランプと言っていいのでしょうか?
それでは14話目。
どうぞです。
-帝国領:農家の村セレクト:村はずれの小屋跡-
農作物の生産により成り立っている農家の村セレクト。
決して生産量も人口も多くはない、どちらかといえば貧しいに分類される村ではあるが、住人は皆明るく前向きに生きており寂れた雰囲気は一切感じられない。
困難があれば村人総出で解決する、強い団結力を持つ温かな村である。
ギルド直轄討伐ランカーとしてのルルアの初仕事はそんな村を脅かすモンスターの討伐となった。
「うわ~…大きな猪。」
通常では考えられない程巨大な猪が、広い畑の上で堂々と作物を食い荒らしている。
どうやらまだルルアには気付いていないようで、その巨体に似合わない小さな尻尾を嬉しそうに振り回しながら口に含んだ作物を咀嚼している。
収穫され保存されているものから栽培中のものまで、口に入るものならば制限がなく、専ら食物が被害にあっているようだ。
生産量も人口も多くはないセレクトからすれば由々しき事態である。
「野生の猪にしては落ち着いていますね。もしかして、大きくなる前は飼われていました?」
「はい。その先に壊れた小屋が見えると思うのですが、そこで食用として飼っておりました。」
ルルアの質問に答えたのは年老いた村長であった。
よく見てみれば猪の巨体に隠れて小屋の残骸が見える。
壊れ方を見る限り内側からのようだ。
おそらく猪が巨大化する際に壊れたものなのだろう。
「他の猪に異常はなかったんですか?」
「異常ですか?特には思い当たることはないのですが、何匹かは小屋が壊れた時に逃げだしてしまいまして、その子達に関してはわかりませんね。」
「なるほど、ありがとうございます。」
(残っている猪に異常はない…となると、逃げだした猪も多分異常なさそうだね。どうして1匹だけが大きくなったのかな?隔世遺伝で大昔の体格が突然発現した?それとも魔力を浴びたことで突然変異した?)
猪の巨大化の原因を考えているルルアであったが、作物を咀嚼していた猪と目が合ってしまった。
「村長さん、猪が僕達に気がついたようです。何をしでかすかわからないのでここから離れていただけますか?」
「わかりました。」
まだ子供であるルルアの言葉に素直に従うあたり、村長のギルドに対する信頼が見て取れる。
もしかしたら、過去にも何かしらの理由でギルドへの依頼を行っており、ギルドから派遣されたのだから信じるに値するといった心境なのかもしれない。
「ブモーーーーーーーー!!!」
村長が離れていくのを待っていたかのように猪が大きく叫びをあげる。
非常に大きな雄叫びではあるが、全く魔力が込められていないとなれば一般人はともかくルルアにとって脅威にはなりえない。
「村長さんに離れてもらって正解だったかな。さてと…熱量変化魔法レベル1最小展開、展開対象目前の猪、指向性-、全身を凍結させることを目的とする。実行!」
ルルアがプログラムを展開すると猪の巨体はピクリとも動かなくなり、目を凝らしてみれば薄い氷の膜に包まれていることがわかる。
最もレベルの低いプログラムを、必要最低限の魔力で発動させたにも関わらずこの結果である。
ギルド直轄討伐はランクに応じた討伐依頼のみだとミーナから説明を受けていたが、今回はルルアのランクであるFの中でも底面に該当する依頼であることが予想される。
別段どのような依頼であろうと気にしていないルルアだが、どうにも顔色が優れない。
(隔世遺伝の検証はできないから保留。突然変異は…心当たりがありすぎる。ドートさんとの戦闘は兄さんが戦争クラスの魔力量だったって言ってたし…。ということはこの討伐依頼は僕のせい?)
少しばかりの罪悪感を感じつつ、凍りついた猪を見つめていると村長からの声がかかる。
「も…もう終わったのですかな?」
「はい、外も中も完全に凍らせました。しっかりとした手順で解凍しないと心肺停止したままの状態ですから、危険はありません。食用に飼っていたということですし、切り分けていただいて大丈夫ですよ。」
「なんと!それはありがたい!それでは村の者を集めさっそくとりかかりますぞ!今夜はこの猪を使って盛大に祝いましょう!是非参加ください!」
言うやいなや村へと駆けていく村長の姿は、歳を感じさせない若々しいものであった。
それほどに嬉しいのだろう。
やがて、後ろ姿も見えなくなったころルルアが呟く。
「なんだか参加する気になれないし…このまま帰ってもいいよね?」
もう1度猪へ視線を向け、その後は村とは逆の道へと歩き出した。
村長が村人を引き連れて戻った時には凍りついた猪が1匹だけであった。
-帝国領:帝都:ギルド総本部:宿舎-
ミーナへセレクトでの討伐達成を報告すると、ギルド直轄討伐ランカーとして登録した日から世話になっている宿舎へと足を向けるルルア。
部屋の構図はベットと机が左右両脇に置かれた簡素なものだが、寝泊まりする分にはとくに問題はない程度の広さがとられている。
もちろん、部屋の入口の扉には鍵がついており防犯面も一応ではあるがされている。
扉を開け部屋へ入ると、ルームメイトとなったアルテアがいた。
「よう、帰ったのか。どうだった?」
「特に問題はなかったですね。」
「そいつは何よりだ。」
討伐:SSランカーであるアルテアがギルド直轄討伐ランカーの宿舎にいることに疑問を持ったルルアであったが、それはすぐに解決した。
実はギルド直轄として働いていた過去を持ち、当時住んでいた部屋をそのまま家賃を払い利用しているのだ。
アルテアが宿舎に住んでいることも、ルームメイトとなったことも多少の驚きがあったが、それ以上の驚きが別にあった。
「ココア飲むか?」
「えっと…はい、いただきます。」
「ちょっと待ってろよ。」
それは、非常に優しいことである。
ルルアが以前見たことのあるアルテアは眼光が鋭く常に不機嫌な表情をした近寄りがたい雰囲気であった。
事実それは今も変わらないのだが、1つ1つの行動がルルアへの思いやりが込められているように感じるのだ。
ギルドでは戦闘以外で酷な評価をされているが、それは間違いではないかとルルアの中でアルテアに対しての信頼感は確実に固められていた。
「ほら、熱いから気をつけろよ?」
「ありがとうございます。」
ココアを受け取ると宛がわれた左側のベットへ腰を降ろし、火傷しないよう慎重に飲んでいく。
「おいしいです。」
「そうかい、飲みたくなったいつでもいいな。」
「いつも用意してもらうのは悪いです。年齢もギルドのランクもそちらが上ですし、これからは僕がやらせてもらいますよ?」
「ガキはそんなこと気にしないでいいんだよ。だが、さすがに疲れてる時は俺もしたくねえし、そん時は頼めるか?」
「喜んで。」
ルルアの返事を満足げに受け取ると、鎧を身にまとい剣を手にするアルテア。
先日、セレクトへ討伐に向かう前にアルテアから直接聞いていた内容に間違いがなければ夜盗の討伐に向かうようだ。
実はこれはギルドからの依頼ではなく、自らが率先して行っている強くなるための訓練の1つである。
結果として、ギルドの依頼を達成したことも多数あるが、過ぎた殺生を行う為にその行いが認められることは難しいようだ。
「それじゃあ、行ってくる。夕方までには帰れるだろうから夜は一緒に飯食おうぜ?」
「はい、お気をつけて。」
フードをとっていないルルアの素顔をアルテアが知っているかは不明ではあるが、まだ幼い故か女性にも見えるルルアとの会話は夫婦に見えないこともない。
アルテアを見送ったルルアは、少し溜息をつくとベットへと横になり、そのまま小さな寝息が聞こえ始めた。
大した戦闘は行っていないがどこかに疲れが溜まっていたのであろう、深い睡眠に入っていった。
-帝国領:パンデミック平原-
広大な大地を保有するブルトゥラ大陸。
山があれば川もある。
高台があれば平地もある。
様々な土地が存在するが、見渡す限りが2メートルはある草に埋め尽くされ、霧で覆い囲まれているパンデミック平原は特殊であろう。
そのような環境であれば一般的にはモンスターの巣窟だと認識されるであろうが、パンデミック平原はモンスターの多さではなく、犯罪者が集まる無法の街がどこかにあることで非常に高い認知度を持つ。
尚、なかなかに帝都との距離が近いことでも認知度を上げているようだ。
そんな街を求め夜盗が平原へ訪れると情報を得たアルテアは、平原の入口近くで待ち伏せをしていた。
「こんな明るい時間でも薄暗いな…嫌なところだ。ったく、早いとこ来やがれってんだ。」
アルテアの愚痴通り、未だ太陽が真上にある時間帯だというのに平原の近くは暗く、明らかに危険である雰囲気を発している。
だが、だからこそ平原を訪れる時間は張り込む側としては非常にありがたい明るい時間だということが常識である。
そして、今回もそれに漏れずに夜盗はやってきた。
「やっと来たか。」
アルテアが溜息をつき夜盗を確認する。
おおよそ2~30人といった集団のようだ。
夜盗の集団としてはその規模はなかなかに大きなものではあるが、討伐SSランカーであるアルテアにとってはお遊びにすぎない、本当に些細な戦力である。
「ちっ、ギルドの奴か。かまうことはねぇ、お前らやっちまえ!!!!」
「「「「オオオオォォォォ!!!!」」」」
夜盗の頭は人の上に立つ者として優れてはいるのであろう、攻撃命令を出すと、部下全員が気合いを入れ突撃してきた。
しかし、知識が足りなかった。
今、目の前にいる人物が何者なのかを理解していれば、無謀としかとれない攻撃命令など出さなかったであろう。
「へっ、雑魚どもが!!」
横に大剣を振るえば何人もの夜盗が空を舞う。
縦に大剣を振るえば何人もの野党が地に潰れる。
2桁にも満たない、それも素振りのような攻撃で残る夜盗は2人となってしまった。
「お…お頭、多分あいつはアルテアですよ。」
「くっ、くそ!通りで強いはずだ!!逃げるぞ!!!」
「へぇ、逃げるってどこへ?」
夜盗の部下が、相手がアルテアであることに気付いたがもはや手遅れである。
頭が撤退命令を出したところで、残るは2人のみ。
逃がすわけもなく、ものの1振りで完全に沈黙。
戦闘開始から終了まで10秒。
何ともあっけない終わりである。
「はぁ…やっぱこんなんじゃ訓練にならねぇ。どうしたら強くなれるんだ。なぁ、お兄さんよ?」
大剣を持つ手を肩に持っていき、何もない空間へ語りかけるアルテア。
すると、少しずつ存在が濃ゆくなっていきある人物を形作っていく。
「そちらから声をかけてくれて助かった。会うのは2度目だが一応名乗っておこうか、俺はユウ・アヤマ。話しかけるタイミングを計っていたんだが、俺はなかなか空気が読めない男でな。」
形作られた人物は『ドラゴンの角の採集』の折、アルテアと訓練場にて対峙したユウであった。
ふわりと大地に足をつけると、アルテアへと歩み寄る。
「空気が読めないんじゃなくて囚われないって感じじゃねぇのか?俺の質問にも答えやがらねぇしな。」
「答えに興味はないだろうに、それを求めるのか?」
アルテアの正面へ立つと顔を突き合わせて返答するユウ。
身長差で少しばかり見下ろす形で目に映るユウの姿はアルテアにとってまごうことなき強者である。
「俺を負かせた人間がどういった答えを持っているのかってのは興味があるぜ。もしかしたら参考にさせてもらうかもしれねぇ。」
圧倒的な強者であるユウが目の前にいるにも関わらず、臆さず堂々としていられることはある種、すばらしい功績ではないだろうか。
実際にユウと戦闘した者にしかわからない功績ではあるが。
「殊勝な心がけだな。以前会った時とはまるで別人だ。」
「強い奴はしっかりと認める。でなけりゃ、先には進めねぇからな。」
「なるほどな。なら、答えは明日伝えよう。昼に酒場で待つ。」
明日の約束を取り付けると了承を得ないまま、存在が薄くなっていきその場を去るユウ。
「ちっ、囚われないんでもなくただの自由人だな。」
夜盗の躯による山の上でユウが去って行った空間を睨みつけるように毒づくアルテアであった。
-帝国領:帝都:ギルド総本部:宿舎-
疲れから眠ってしまったルルアだったが、冷えてきたせいか大きなくしゃみをしたことにより目が覚めてしまった。
そのまま虚ろな目で毛布を手繰りよせると包まるようにして身体を温める。
どこか霧のかかった頭で考えるのは猪が巨大化した原因についてであった。
(依頼は簡単だったからよかったけど、僕とドートさんの戦闘が原因なら他にも被害にあった動物がいるはず…ラトラスの森からだいぶ離れたセレクトであんなに大きな猪になっちゃってるんだから、アジールの周辺の動物はどんなふうになってるんだろう?1回確認に行ったほうがいいかも…。)
寝ぼけている状態での思考とは思えない程しっかりとしたものである。
依頼抜きでアジールへ向かう事を考えていると同時に浮かぶのは常陽で修行しているであろう妖精3人であった。
「3人とも元気かな…。」
「4人だろ?イオシスが抜けてるぞ。」
アルテアが外出し1人のはずの部屋で別の声がする。
だが、ルルアにとっては慌てることは何もない、非常に安心する声であった。
「そうだね、イオシスさんも含めて元気かなぁ?ね、兄さん。」
それは書き置きのみを残して行方が分からなくなっていたユウであった。
そう認識すると同時に眠気などどこへやら。
完全に覚醒するとベットから起き出てユウと顔を合わせる。
「まあ、心配しなくても元気だろう。」
「じゃあ、やっぱり3人でもよかったんじゃない?」
「喰いついてくるなんて珍しいな。どうしたんだ?」
「監禁なのか、失踪なのかわからないけど、全く連絡ないまま何日も連絡なしの兄さんが悪気もなく突然出てきて、心配してた僕が馬鹿みたいだから拗ねてみただけだよ。」
「それは悪かった。一応は少し前に帰ってきてたんだがルルは討伐に行っていたからな。」
頬を膨らませながら、少しばかり責めるかのような口調のルルアに素直に謝るユウ。
いつもと変わらないユウの様子に呆れながら、諦めながら、どこかほっとした複雑な感情を抱くルルア。
「さて、夜も遅いし同居人もそろそろ帰ってくるだろうから退散することにする。何か急ぎの話はあるか?」
「はぁ…ユキさんは落ち着いてくれたの?」
「落ち着いたとはっきりは言えないが一応はな。」
「一応なんだ。僕はしばらくギルドの直轄討伐ランカーとして働きながら魔力に慣れていく予定を立てたから、事前に教えてもらっていればまた2人で過ごしてくれて大丈夫だよ?」
「そうできればいいんだがな。」
「何か問題でもあるの?」
「これは明日にでも話そう。今日のところはもうお開きだ。ああ、忘れるところだった。同居人とはさっき会って話してきた。明日の昼に酒場で会う約束をしているからルルも来るようにな。」
アルテアに約束を取り付けた際と同様に、了承を得ずに存在を薄くして去っていくユウ。
「へっ?アルテアさんと会ってきたの?ねぇ、ちょっと兄さん!はぁ…もう。」
やはりアルテア同様、ユウが去って行った空間を頬を膨らませ見つめているルルアであった。
読んでいただきありがとうございました。
次話も読んでいただけると嬉しいです。