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導きを導く者  作者: もち
14/21

13話

それでは13話目。

どうぞです。

-???:異空間-

美しい湖と緑豊かな山々に囲まれた丘に高く積まれた石垣。

その上には和の城が堂々と建っている。

さほど大きくはないものの、城とくれば主人以外にも家臣などがいそうなものだが、生物そのものの気配がしない。

だとすれば畳が敷かれているだけの殺風景な部屋で、和菓子とお茶を用意している人影は生物以外の存在なのだろう。


「ユウ、お茶の用意ができた。」


静寂に包まれている城の中で唯一響いた音。

それは溢れんばかりの…いや、実際に溢れ出る愛情が籠められているユキからユウへ向けてのお茶の誘いであった。

城に合わせたのか、黒一色ではあるが着物を着用しており髪も以前の夢の中のようにしっかりと整えられている。

その姿は大和撫子と言っても差支えない程美しいものであった。


「ん…?もうそんな時間か。わかった、すぐに行く。」


本棚がいくつも置かれた一室。

そこで、書物に耽っていたユウはユキの言葉により意識を外へ向けると時間の経過の早さに驚きつつ返事をする。

だが、第3者が見ればユキのお茶の誘いもユウの返事も独り言のようにしか見えない。

なにせ、お互いが居る部屋は離れた位置にあり、まず声が届くことなどないのだから。

それでも会話が成り立つのは魂が繋がっているからか、魔法や術を用いたのか、それとも愛情のなせるものなのか。

方法は定かではないが、しっかりとお互いに伝わったのは事実である。

まだ読みかけの本に栞を挟み、目を閉じるユウ。

一瞬の間をおき目を開けると、そこはユキが居る部屋であった。


「座って。」


「ああ。こういったお茶は久しぶりだな。」


棗の抹茶をすくい、茶碗に入れ、茶をかきならすと沸いた湯を注ぐ。


「しばらくユウは向こうにかかりきりだったから。」


「それは悪かった。たまに見限られないか心配になることもあるんだが、その心配はいらないんだよな?」


慣れた手つきで茶筅を用いてお茶を点て、適度に泡を立てる。


「当たり前。はい、どうぞ。」


今や、世界中探し回ってもユキにしか点てることのできない、滅びてしまった茶道。

そのお茶を飲むのがユウの楽しみの1つであり、その姿を見ることがユキの楽しみの1つでもある。

その間は、お互いに無言となるのだが気まずいという感覚は一切ない。

言葉などいらない。


共にいる。


それだけで十分なのだ。

もっとも、他者が関わってくるような環境であるならば、ユウはともかくユキは嫉妬にかられそれ以上を求めることは明らかである。

実際にルルアに対して紹介された時など、ユウに密着して離れることはなかった程だ。

お茶を飲み終えると、縁側へ寝ころび空を見上げる。

当然だと言わんばかりにユウの頭を膝にのせ、膝枕の状態へと持っていくユキの行動もまた愛情なのだろう。

すると、見計らったかのごとく爽やかなそよ風が2人を撫ではじめる。

正確には見計らっていた。

ユウにせよユキにせよ自らが造り出した物でなくとも意志1つで操作することなど容易いことであり、この異空間はユキがユウと共にいる為だけに創造したものなのだから拍車をかけて操作しやすい。

つまりは、そよ風はユキが引き起こしたものであり、その甲斐あってユウの瞼は気持ちよさに少しずつ重くなり、そのまま小さな寝息が聞こえはじめた。


「…キスする。」


寝ているユウに恥ずかしそうにキスするユキは見た目のみであれば恋する少女に見えるかもしれない。

だが、ユウを見つめる瞳を見ればその見解は完全に撤回されるだろう。

ユキの目には、透き通っているのに濁りに満ちているのだから。

矛盾している表現ではあるが、まさしくその通りなのである。

今尚ユウへと堕ちていくユキの魂は醜くも美しく輝いている。


-------


ユウが寝てから8時間。

睡眠としては十分な時間の間、ユキはずっと起きていた。

ユウの寝息を聴く度に、そしてユウの重さを感じることに喜びに心を震わせながら髪を撫で続けていた。

だが、ふと手が止まる。


「時間か。」


「…うん。」


いつの間にか起きていたユウは、先程までのユキの膝と手の心地よさにまだ浸っていたい気持ちを抑えつつ起き上がる。

すると、突如空間全体が揺れ始め空一面にヒビが広がっていく。


「10日か…。即席で作った割には保ったほうだな。」


「製作時間2秒。」


「構成1秒に創造1秒か。…ん、動機が何にせよ久しぶりにユキと2人で過ごせたんだ。俺は満足しているから気にするな。それにそろそろ戻らないとルルに文句言われそうだしな。」


「うん…我儘ばかりでごめんなさい。」


「気にするな。俺も一緒にいたいって気持ちは同じだ。そうだな…ある程度ルルが成長したら一度実家に戻るか?」


「うん!!!」


ユキの元気の良い返事に若干驚きつつ、崩壊していく空間でお互いに抱きしめ合う。

その光景は、神秘的であり幻想的でありそして、狂おしい程に歪んでいた。



-カラマ共和国:ルクレイン領:正邪の森-

神託の巫女が所有する定めの神殿を囲むように広がっている大きな森。

それが正邪の森である。

特徴らしい特徴が一切なく、唯一珍しいと思えるのは全ての木々が完全に人工のものであることぐらいであろう。

そう考えれば遥か昔に苗木を植えていった先人達に敬意を表するべき素晴らしい森なのだが、目の見えない神託の巫女であるイメリュクには忌々しいものにしか感じられなくなっていた。


「はぁっはぁっ、ん…はぁっはぁっはぁっ。」


「巫女様…。どうぞ、水です。一気に飲まないでくださいね。少しずつ身体に吸収されていくのを感じるようにお飲みください。」


「はぁっはぁっはぁっ、あ…ありがとうございます。」


真夜中の暗い森の中で白き聖騎士の鎧に身を包む男性から水の入った容器を受け取ると、一気に飲み干してしまいたい欲求を抑えつつ忠告通り少しずつ口に含み始めるイメリュク。

額は一面汗で濡れ、肩で息をしつつ、胸を押さえている姿はまさしく疲労困憊という言葉が当てはまるだろう。

森の中を走ってきた際にでも足を挫いたのか、右足が大きく腫れていることで疲労に拍車をかけている。

幸いなのはもはや感覚が麻痺しているために痛みが感じられないことであろう。


「…巫女様。」


「はぁ…はぁ…そのような悲しそうな声を…はぁ…出されないでください…ふぅ。私は貴方がいたからこそここまで生き延びることができたんです。本当に感謝しています。」


見れば男性の鎧には真新しい傷がいくつもできており、男性自身にも怪我が窺えるような血が鎧を伝い垂れている。

おそらく、激しい攻防があったのだろう。

それも巫女を狙うというのだからそれ相応の戦力だったことが予想される。


「もはや用済みの私の為に…本当にありがとうございます。」


「何を行っているんです!まだ終わりなんかじゃない!!貴方はこれから幸せになるべきなんだ!!…俺はその手伝いがしたいんです。お願いです。自分を卑下するようなことを言わないでください。」


「…ごめんなさい。そうですね。それにこれでは私を護ってくれた貴方が道化になってしまいますもんね。」


「あはは、確かにそれは勘弁です。さて、いつ新手が来るかわかりませんし、早く森を抜けましょう。今は両手も空いてますので失礼ながら抱えさせていただきます。」


「えっ?…抱え、きゃっ!」


言葉の意味を理解できないままに抱きかかえられ、鎧ごしとはいえ実際に触れられている感覚がイメリュクの頬を真っ赤に染め上げていく。


「では行きますよ!」


「…はい。」


緊張し、うまく声のでないイメリュクだったがなんとか同意の言葉を口にすることはできた。

その可愛らしい姿に思わず微笑んでしまう男性。

もちろん、兜をつけている為見えるはずもなく、そもそもが目の見えないイメリュクには男性がどういった顔立ちをしているのかも知るすべはない。

それでも男性の若干の動きから笑われたと勘違いしたのか更に顔を赤くするイメリュクであった。

怪我を負った姫を傷だらけの騎士が抱えている。

そんな絵になるであろう光景であったが、唐突に崩れ去る。


「は~いはい、ストップだよスト~ップ。」


その声は、飄々と楽しげに発せられた。

聖騎士の男性が目を向けると長身の男性が木々の中から現れる。

長髪のオールバックでやつれており身体全体から死者の臭いを放っているのだが、瞳だけがギラギラと輝いている。

まるで獲物を狩るかのような輝きに聖騎士の男性は寒気を覚え抱きかかえていたイメリュクを降ろし剣を構え戦闘態勢をとる。


「新手か…。巫女様、すぐに終わらせますので少しだけお待ちください。」


「気をつけてくださいね…。」


「お~、自身ま~んまんだね~。それに~美人さんから心配してもらえるなんて羨ましいね~。さ~てさて、楽しませてくれよ~?」


「楽しむ暇などない!神託の神より加護を受けし聖騎士、エンデント。いざ参る!」


エンデントと名乗る聖騎士が一気に距離を詰め、両断しようと躊躇のない渾身の力をもって剣を振りぬく。

しかし、長身の男性は身体を横にずらし軽く避けてしまう。


「エ~ンデント君ね~。お~れは一応ナバリって~呼ばれてるよ~。」


挙句には剣を避けながら名を名乗る始末である。

名乗られたのだから名乗り返しただけなのだが、その独特の口調はからかっているとしか感じられない。

苛立ちを覚えながらも、それを律し連撃を繰り出すエンデント。

上から叩きつけ、下から斬り上げ、横から斬り払い、急所をめがけ突きを放つ。

それでも避け続けるナバリと名乗る長身の男性だが、その様子を攻撃しながら考察するエンデント。

なかなかに戦い慣れているようだ。


(こいつ…さっきまでの追手とは格が違うな。態度で誤魔化されるが相当に強い。)


聖騎士とは騎士の中級職にあたり、その中でも神の加護を受けた者は戦闘力が非常に高い。

深い信仰心が必要とされるため、加護を受けることのできる者は限られるのだが、エンデントはその加護を受けた者にあたる。

そのエンデントの攻撃を容易くいなすナバリはやはり相当な実力者ということになるだろう。

一刻も早くイメリュクを安全な場所へと連れて行きたいエンデントからすればもどかしいことだが、長期戦が予想される戦局である。

だが、ナバリの考察を続けていくうちに長期戦どころか、非常に短い時間で終わるのではないかという考えに辿りつく。

なにせ、ナバリの魔力が尋常ではない早さで消費されているのだ。

生きている以上は誰もが魔力を生産し、消費する。

食事や休息・睡眠をとることで生産し、運動をすればそれだけ消費も激しくなる。

だが、ナバリの魔力の消費量はそれでは説明がつかない程なのだ。

もともとが魔力の保有量がけして多いとは言えないナバリではあるが、その上で消費量が多いとくれば魔力が枯欠してしまうのは時間の問題だろう。

それも、さほど待たずしてその時は訪れる。

そう考え勝利を確信していたエンデントであったが、回避行動しかとっていなかったナバリが突如として攻勢に出た。

咄嗟に下段に構えていた剣を切り上げようとするが魔力により強化された足で止められ、両腕もまた完全に抑えられてしまった。


「ちっ!」


描いていた予想が大きく外れようとしていることに再び浮上してくる焦り。

思わず出た舌打ちもその表れだろう。

次の手を考えようと抑えつけられた剣からナバリへと視線を戻すとそこには大きく開かれた口があった。


「そ~ろそろエネルギーが切れるか~らね。ではい~ただくよ~。」


「なっ!?」


生えそろった鋭い牙のような歯が鎧を貫きエンデントの皮膚まで達し、そして…


「ぐわぁぁぁぁ!!!?」


「っ!?騎士様!!」


目の見えないイメリュクからすれば突然のエンデントの叫びだっために、思わず心配の声があがるとともに不安な想像が次々に浮かび、動揺を隠しきれないようだ。

普段から治まりきれていない魔力が暴走を起こしはじめ、その真っ白な髪が少しずつ発光しだした。

だが、そこでエンデントが再び叫ぶ。


「巫女様!俺は無事です!どうか動かずじっとしていてください!!」


その叫びはイメリュクを気遣うものであり、先程あげられた叫びとは全くの別物であった。

実際には無事とは言い難いものの、それでイメリュクが落ち着くのならばと咄嗟にでた言葉であったが、予想以上に効果が出たようだ。

今にも荒れ狂いそうだったイメリュクの魔力はある程度ではあるが落ち着きをみせはじめた。

その事に安堵するものの、戦闘に関して言えば一気に逆転されてしまった。

エンデントの首筋からは大量の出血。

両腕と剣は完全に捉えられており動かすことができない。

勝利の鍵だったナバリの魔力の枯欠だったが、現在は出会った当初と同等の魔力量まで回復している。

なぜ回復したのかは少し考えればすぐに分かった。


(こいつ…俺の魔力を喰ったのか!?)


ナバリの口からクチャクチャと不気味に響く音。

それは何かを食べているのだろう。

ではその食べているものとは?

エンデントの首筋の肉しかない。

つまり、ナバリはエンデントの肉を喰らい、その肉に宿っていた魔力を吸収したのだ。


「う~ん、な~かなかに美味だよ~。そ~れに魔力もたか~い。そ~れじゃあもう1口い~ただこうかな~。」


「ふざけるな!剛腕招!!」


続けて、捕食しようと口を大きく開けるナバリであったが、即座に拘束を解除する為に肉体強化を施すエンデント。

気を用いた肉体強化の中でも腕だけを徹底的に強化する技法「剛腕招」。

腕に纏われた気は全てが高密度なもので構成されており、見た目こそ変わっていないものの、実際の腕力は何倍にも膨れ上がっている。

その力をもって足で止められていた剣を大きく切り上げた。


「お~っと、危ないじゃな~いの。」


通常時の何倍もの速さで振われた斬撃だったが、それでも波に乗るかのように剣に足をかけたまま上空へと避けるナバリ。

だが、斬撃そのものを避けても放ったエンデントは先程までとは全くの別人である。

強化された腕力から繰り出された斬撃は、その速度故に衝撃破が発生したのだ。

そこまでは考えていなかったナバリは、身動きのとれない空中では避けることもできずにそのまま直撃する。


「まだだ!」


衝撃破により吹き飛ばされるナバリの落下地点へ先回りすると、精神統一し残った魔力を全て剣へと注ぎこむエンデント。

すると、剣の外側に光の膜ができあがる。

そのまま斜め下へ構え…


「これで終わりだ!光・刃・閃!!」


「うお~お~、これはやばいね~。」


あくまでも飄々としているナバリへ向かって駆け斬り上げると、同時にその光の膜が巨大に膨れ上がり、光の剣を形成する。

人為的且つ、即席の魔法剣である。

目が見えないイメリュクすらも眩しいと感じる程の光が空一面を照らし出す。


「光に包まれ消え去れ。」


エンデントが眩しく輝く空を見上げながら呟くと、暗き闇へと戻っていく。


「くっ…はぁ…はぁ…。ふぅ、巫女様終わりましたよ。さあ、行きま…っ、巫女様!?」


空にも地上にもナバリの姿がないことを確認すると、戦闘終了の報告をするエンデント。

だが、イメリュクへと視線を向けると倒れ伏している姿が目に入る。

慌てて駆け寄ろうとするも思うように身体が動かないことに毒づくが仕方のないことである。

なにせ、先程放った光刃閃は極限にまで昇華させた光により相手を消滅させるエンデントが万全であっても凄まじい反動がくる奥義なのだ。

それを、傷を負い体力も少ない中放ったとあっては、並大抵の衝撃ではないだろう。

悲鳴をあげる身体を引きずってようやくイメリュクの傍へ辿りついたエンデントであったが、そこで幼い声が耳に入る。


「お兄さんお兄さん。疲れてるのもこの人が大切なのもわかるけどもう少し警戒した方がいいよ?」


声は確かにイメリュクから発せられた、だが全く異なる人物のものであった。


「…まさか、幻術?」


「正解だよ。」


どうやら倒れ伏していたイメリュクは幻術によるものであったようだ。

エンデントが気付くと同時に歪み消えていく。

その代わりにまだ幼い、きらびやかなドレスを着た少女がエンデントの背後に現れた。

霞みかけてきた視界で捉えた少女の先にはイメリュクも確認できる。

どうやら木に寄りかかり寝ているようだ。

安堵すると共に、身体を叱咤しなんとか剣を構える。


「待って待って、私は戦わないよ。いくらお兄さんがボロボロでも勝てないものは勝てないからね。それにナバリのお兄さんとの勝負もまだついてないでしょ?」


「何?まさか…まだ生きているのか!?」


「そ~のと~り~。」


光刃閃の特性から、確実にナバリが消滅したと考えていたエンデントは驚きを隠せず困惑する。

そして、それを増長させるタイミングで現れるナバリ。

その身体には傷1つついていない。


「ふふふ、驚いてるね?でも身をもって体感したからわかるんじゃない?ナバリのお兄さんのおかしな能力を。」


「吸収…したのか?」


「大正解!あの光刃閃って、要は魔力の剣でしょ?ナバリのお兄さんは魔力とか気なら何でも食べれるみたいだからね。でもお兄さん凄いよ。あんな大技使っても倒せなかったのにまだ戦おうとしてるんだから。でもごめんなさい。もう終わらせなきゃいけないみたいなの。」


「ん~?げ~んすいさんから命令か~い?」


「大大正解!速やかに殺して帰還しろって言われたよ。」


「そ~りゃ残念だ~。も~少しあ~そびたかったんだがね~。」


無邪気に話す少女だが、エンデントにとってみればナバリと同様の異常者にしか見えない。

それも幼い外見であることが余計にそう感じさせる。


「そ~れじゃ、さっきの光をお~かえしするよ。」


離れた位置にいるにも関わらず口を大きく開けるナバリ。

捕食されることを恐れたエンデントは距離を取ろうとするが、すぐにその考えが間違いであることを思い知る。


「お兄さん自身の技で死んでください。」


まるで死の宣告のような少女の言葉と、ナバリの口から大口径の光線が放たれたのは同時であった。

それはまさしく、先程エンデントが放った光刃閃である。

迫りくる光線を前にして満足に動けないエンデントがとった行動は…。

祈りであった。


(神よ…どうか俺に巫女様の未来を切り開く力を。俺自身の力でなくてもいい、どういった経緯でもいい、巫女様が幸せに生きていられる未来を!)


それはまさしく滑稽であった。

そのうえ他力本願と言われても仕方のない行為ではあるが、最後までイメリュクを想うエンデントの行為は神をすら超える存在を動かすに至った。


「その願いききいれよう。」


「…え?」


どこからか聞こえてくる声に疑問を抱いていると、光線とエンデントの間に突如として現れる黒一色の青年。

それは紛れもなく、つい先ほどまで異空間にいたはずのユウであった。

突然の乱入者に驚くエンデント。

更には、ナバリが放った光線が消えているのだから思考が追いつかなくなっても仕方ない事態である。


「な~んだいおまえさんは~?」


「カッコいいお兄さんですね。」


「お~い、ア~イシス君。感想はそ~こじゃないだろ?」


「あは、ごめんなさい。」


ナバリもまた驚き警戒しているようだが、やはり緊張感が感じられない。

アイシスと呼ばれた少女に至っては光線が消えたことよりもユウの容姿に注目しているようだ。


「急いでいるんでな、挨拶はなしだ。とりあえずは寝てくれ。」


ユウが告げるとナバリもアイシスもその場に力なく倒れ込んでしまった。

魔力はおろか気の流動も感じられずに起こった光景にエンデントが感じたものは、畏怖と尊敬であった。


「あの2人は気絶させただけだ。しばらくするとまた襲ってくるから早く逃げろ。」


「はっ、はい!!」


見ず知らずの者からの言葉だというのに素直に受け止めるエンデントは、もはやユウを崇めてさえいるようだ。

そのまま寝ているイメリュクを抱きかかえ、森を抜けるために駆けだした。


(あの身体でよく頑張るな…それだけ巫女のことが好きってことか。…仕方ない、サービスで治しておいてやるか。)


エンデントが駆けて行った方角を見つめるユウ。

1秒も経たずに視線を戻すと次に気絶させた2人を見る。


(…さすがにこんな小さな子をそのままってのはよくないな。毛布ぐらいかけても嫉妬はされないだろう。…されないよな?よし、男の方にも毛布をかければ問題ないだろう。)


よくわからない不安を感じながらどこから取り出したのか上質な毛布をナバリとアイシスへかけると徐々に存在が希薄になっていく。


(しかし…戻って早々面白い人材を見つけたもんだ。それにドートの目的の男と出くわすとはな。やはり世界は狭いな。)


おそらくは帝都へ転移しているのであろう。

やがて、希薄だった存在もすぐに消失しユウは完全に転移を完了した。

エンデントが食いちぎられた首筋や、イメリュクの足の腫れが癒されていたことに気付いたのは、それからしばらくしてからであった。


--------------


「…ん~、あ~、み~ごとに気絶させられちゃったね~。」


「…」


「ん~?ど~したんだいア~イシス君?」


「この毛布のお兄さんに…惚れました!」


「お~!応援するよ~。」


「はい!ありがとうございます!!」


気絶から覚めたナバリとアイシスはどこかずれた会話をしながら与するベンター教へと帰還する。

ナバリは喰らった魔力により満足し、アイシスは恋焦がれる感情を抑えながら。

読んでいただきありがとうございました。


主人公の戦闘…どちらかと言えば介入ですね。


次話も読んでいただけると嬉しいです。

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