12話
それでは12話目。
どうぞです。
-帝国領:帝都:ギルド総本部:商店街-
当たり前ではあるが、討伐ランカーにとってモンスターの討伐こそが戦場となる。
だが、立場が変われば認識も変わってくる。
「へい、らっしゃい!安いよ安いよ!!」
「今日は大セールだ!全品半額だぜ~!!」
「入荷したばかりの鋼製品だよ~見てかな~い?」
どこを見渡しても商品の売り込みにせいを出す者ばかり。
いかに安く仕入れ、いかに利益をあげるか。
商人とっては商売こそが戦場にあたるようだ。
「防具屋…防具屋…防具屋。…こんなにいっぱいお店が出てたらどこに入ったらいいかわかんないよ。」
ギルド本部内に設置された商店街だけあって、その店舗数は並大抵のものではなく、防具屋だけでも視界に入っているだけで3つは確認できる。
更に奥へ進めばより多くの店舗が待ち構えているのは想像するまでもなくわかる程だ。
ここまで数が多ければ逆に売り上げにくいのではないかと思われがちだが、需要と供給のバランスはしっかりと保たれており、その中でも更に利益を上げようとするのが商人の戦いというわけである。
だからこそある店舗がルルアの目にとまった。
そこは、熱気に溢れた商店街の中でぽっかりと空間に穴が開いたかのごとく人がいないのだ。
客の呼び込みを行う者もいなければ、何を取り扱っているのかの看板もないその店舗はただただ異質な空気を放っており、人を拒むかのような印象すら抱かせる。
「根性?…どう考えても怪しいよね。」
一通り店舗を見渡してわかることは、名が『根性』ということ。
そして、手入れのされていない古い昔ながらの木造建築物であることぐらいだろう。
「…うん。入ってみよう。」
人がいないからこそ目につくもののその外見上誰もが避ける店舗ではあるが、ルルアは何故か惹かれるように店内へと入っていく。
-帝国領:帝都:ギルド総本部:商店街:雑貨屋「根性」-
ルルアが店内へ入って感じたものは、雰囲気への違和感である。
並べられた商品の種類は様々だが主に雑貨を扱っているようだ。
だが、手入れのされていない外観と違い、キレイに整頓された商品というのは妙に不思議に思える。
更に、人がいないにも関わらずいくつもの気配を感じ、だが静寂に包まれている。
まるで、外とは空間そのものを隔てているような印象を受けるのだ。
そんな店内の雰囲気に戸惑いつつも、商品の物色を開始するルルア。
傷薬と違い精製に手間と技術の必要な体力回復薬や、武器防具の素材として最も有名なドラゴンの鱗、古代の機械の残骸など、見れば見る程希少価値の高い物が目に入ってくる。
だが、現在の手持ち金ではどれも手が出ない程に高い代物であるためそれらからはすぐに興味が失せる。
そもそもがルルアが求める物は防具であって、それ以外にかける資金も持ち合わせていない。
それでも興味を持ってしまう商品があった。
(これは…なんだろう?ただの鉱石にしか見えないけど、こんなの見たことないし、何より何も魔力を感じないなんておかしいよね?魔力を感じない…?確かミスリルっていう金属が魔力を含まなかったはずだけど何か関係あるのかな?)
「らっしゃい!そいつが気になるのか?」
ルルアが白くごつごつしたただの石としか形容できない商品を手に取り眺めていると客を迎える声が初めて聞こえた。
声の方向へ顔を向けるとスキンヘッドに鉢巻き、鼻の下に髭、作業着を上着だけ脱いでタンクトップの姿で腕を組んでいる筋肉質の男性が煙管を咥えていた。
「えっと…」
「そいつなら5000エルでいいぜ!」
「え、あの?」
「ん?高いってか!?なら3000エルでどうだ?」
「高いとかではなくて…」
「高いんじゃないのなら他の品もつけろってか!?か~!!若く見えてやり手じゃねぇか!!仕方ねえ!!フェンリルの牙にブレスポットをつけて3000エルにしようじゃねぇか!!!」
「いえ、ですから…」
「まだ納得できないってか!?ならおまけのおまけにドラゴンの鱗もつけてやるよ!!これでどうだ!!!」
「…わかりました。いただきます。」
「毎度ありっ!!!」
3000エルの買い物ではあるが、剣やアクセサリーとして加工すれば月の魔力が宿ると言われるフェンリルの牙、ブレスを吸収しそのまま攻撃に転用することもできるブレスポット言わずと知れたドラゴンの鱗、これら3点を購入しようとすれば500000エルは軽く超える。
全くルルアの言葉を聞こうとしない店員ではあるが、非常に得な買い物となった。
だが、結局のところ鉱石がどういった代物なのかが全くわかっていないことに気付いたルルアが、当然のことだが店員へと質問する。
「すいません、店員さん。この鉱石は何なのでしょうか?」
「ん?知らずに見てたのか?」
「はい、全く魔力が感じられないのでミスリルかとも思ったんですが、どうにも違うみたいですので悩んでいたんです。」
「そんなもんを相手に真剣に考えてるから何事かと思ったが、合点がいったぜ。いいだろう、教えてやるよ。そいつはローミスリル。ミスリルであることに間違いはないんだが…所謂粗悪品だ。」
「粗悪品?」
「ああ。ミスリルの1番の特徴は知ってるか?」
「はい、属性に染まりやすいということですよね?」
「その通り!もちろんローミスリルも染まりやすくはあるがその後が問題だ。ミスリルなら染まった属性を維持するんだがローミスリルはそれを放出しちまう。一番の長所が全く役に立たねぇんだよ。」
要点だけをしぼった非常にわかりやすい解答である。
だが、筋肉に溢れる肉体を使った動作は全てが暑苦しく見えることが店員の印象を下げてしまう。
1つ1つの動作が大きく大げさでなければまだいいのだが、それは贅沢というものなのかもしれない。
「なるほど…。でもそれならそれで使い道はありますね。いい買い物ができました。ありがとうございます。」
「おう!たまには顔を出せよ!!あぁ、そうだ!素材を加工するんならオイボレって鍛冶屋がお勧めだ!!試しに行ってみな!!」
「わかりました、行ってみますね。それでは失礼します。」
ローミスリルの活用方法を見出したルルアは、店員へ挨拶をすると逃げるかのように扉へと向かっていく。
どうやら、筋肉に酔ったようだ。
それを知ってか知らずか、快く送り出してくれる店員だったが、再度来店の約束をとりつける辺りはやはり商売人である。
「あれが導師か…まだ小さいってのに本当に世界の変革に関わるのかねぇ?まっ、腕は確かみたいだったが。はぁ、担当がミントならもう少し情報を回してもらえただろうにお堅いミーナじゃなぁ。しっかし、何で角を隠してなんかいたんだ?カラマ共和国じゃあるまいし堂々としてればいいのによ。」
ルルアが出て行った後の店員の呟きは誰の耳に入るわけでもなく、妙に店内に響いていた。
-帝国領:帝都:ギルド総本部:商店街:鍛冶屋「オイボレ」-
雑貨屋『根性』での買い物を済ませ、助言通りに鍛冶屋『オイボレ』へと来たルルアであったが、早くも後悔してしまった。
外装にも内装にも特に問題はない。
逆に立派な造りで他の店舗よりもひと際目立っている。
だが、杖に体重をかけなんとか立っている、一体何歳なのかの推測も出来ないほどの老人が鍛冶師であることが問題である。
髪も髭も何一つ手入れされていないようで、長々と伸びている。
更に、鍛冶師とは思えない程にやせ細った手足。
そんな老人の見た目のせいか、客は先程の雑貨屋『根性』と同様ルルア1人のようだ。
「あの…法衣の加工をお願いしたいのですが。」
それでも、来てしまったものは仕方ないと諦め老人に声をかけてみるルルア。
だが、返ってきた言葉は予想のはるか上を行くものであった。
「よくぞ来た…導師よ。」
「っ!?」
ルルアは名乗ってはいない。
更に言えば、完全な初対面である。
だというのに、その断定する言葉はルルアの心を大きく揺さぶる。
「警戒せずとも何もせんよ。なぜ導師と知っているかは…知っているからとしか説明できんのう。」
「説明になっていませんし、警戒するなというのも無理です。貴方は何者ですか?いえ、貴方は何ですか?」
警戒することにより、先程までと全く違う印象を老人に持ったルルアは質問を咄嗟に何者という生物に対しての言葉から、何という物体に対しての言葉に変える。
「その質問はなかなかひどいの。ワシはれっきとした人間じゃよ。ただそこいらの者どもより長生きしているだけのオイボレじゃ。ほれ、店の名前もそれを指しておろう?」
「それも到底答えとは言い難いですね…。」
「そうかの?的をえた答えだと思うんじゃが…。ところでそろそろその敵意を抑えてくれんか?老体の身体にはこたえるんじゃ。」
「完全に受け流しているというのによくそんな事が言えますね。」
「ほっほっほ。観察眼は相当鋭いようじゃの。だが、まだ甘い。何かなくなってはいないかの?」
「何が…っ!?」
老人の言葉に、警戒しつつ全身の所持品を確認しているとルルアの顔が青くなっていく。
背中にロープを使い縛り付けていたドラゴンの鱗がないのだ。
「加工は完了じゃ。これからはその法衣はドラゴンの法衣と呼んだ方がいいの。」
更に驚きの内容だが、ルルアが羽織っていたコートがいつの間にかドラゴンの鱗を加工して作り上げられた法衣へと変じていた。
見た目は何の変哲もないただの法衣ではあるが、内蔵された魔力がドラゴンのものであることから間違いのないことである。
「…本当に貴方は何…いえ、何者なんですか?」
「いつか、お主が本当の強さを手にしたときにでも教えよう。それまでワシはここに訪れる者の望む物を作り上げるのでな。色々と驚かせて悪かったが、また来なさい。」
「本当の強さ…わかりました。代金は置いておきますね。179000エルありますが足りますか?」
「十分じゃ。それではの。」
「はい。失礼しますね。」
老人の詮索を諦め、鍛冶屋を探している段階でフェンリルの牙を売却して得た利益をそのままドラゴンの法衣の加工代金として支払うルルア。
本来ならばまだ加工代金は高いのだが、それは人員と日数がかかるためであり、老人は1人で数分で完了させてしまったのだから妥当な金額である。
合わせて、雑貨屋の店員が勧めるだけの技術力である。
「おう、親父!あの小僧はどうだった!!」
ルルアが扉を閉めてしばらくすると店内中に広がる豪快な声。
老人が振り向くとそこには雑貨屋「根性」の店員が仁王立ちで立っていた。
「この馬鹿息子が。もう少し声をすぼめんかい。」
「でぇぁっはっは!そりゃ無理ってもんだ!!」
「それもそうじゃの。」
会話を聞く限り親子のようだが、いまいち繋がりが見えない2人。
だが、お互いにルルアが導師であることを知っているのだからどこか危険な香りが漂っているように見える。
「まあ、しばらくは様子見じゃな。ミーナが担当ならそうそう死ぬこともあるまい。」
「そこが逆に問題なんだよ!ミントが担当ならもっと俺たちに情報くれるだろうによ!!」
「焦ってもしょうがないじゃろう。今は成長するのを待つしかない。へたに動くでないぞ?これは命令じゃ。」
「ちっ、わかってるっての!このオイボレマスターが!!」
「ワシにとっては褒め言葉にしかならんぞ。オイボレ…良い響きじゃ。」
「その感覚はよくわからねぇ…。」
その後は危険な雰囲気もあっさりと四散し、お互いに平常へと戻る。
近い内に起こるであろう戦争に対しての思いを胸に抱きながら。
読んでいただきありがとうございました。
次話は久しぶりに主人公登場&主人公の戦闘です。