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導きを導く者  作者: もち
11/21

10話

それでは10話目。

どうぞです。

帝国領:帝都:ギルド総本部:宙回廊-

ギルド総本部は1つの建物の中にいくつか区画が分かれており、その区画ごとに宙に浮いた回廊を通る必要がある。

ギルドという建物の中にそれぞれの区画という建物があり、それらを繋ぐ橋が回廊と考えてもいいかもしれない。

それらは、基本どの区画からでも目的地まで直線で行けるよう設計されているため、土地勘のないユウとルルアにとってはありがたい作りである。


「ん~…兄さん。ミーナさんのお土産ほんとにあれでよかったかな?」


「別におかしくはないだろう。ただ、ダイエットしてたりするとありがた迷惑ってこともあるかもな。」


「ダイエット…あんなに細いのに気にしたりするものなの?」


「人それぞれだろ。まぁ、太るだとかは置いておいて、陽樹を使ってるから健康にはなるだろうな。」


ルルアがミーナへと渡したものはアジール以外では味わうことができない、ある意味では光玉石よりも希少価値のあるクッキーであった。

素材である陽樹の樹液による自然な甘さを葉の苦みが更にひきたて、血液や魔力の循環などを円滑にする作用もある一種の魔法薬に位置づけられる菓子である。

1日限定100箱の人気商品である為入手は困難なため、ルルアも諦めかけていたのだが、そこはイオシスの活躍で事なきを得た。

具体的な内容をあげれば、巨陽樹である常陽の樹液と葉を交換材料に1箱譲ってもらったのである。

たまたま集合場所として指定していた常陽で、たまたまルルアがミーナへのお土産を求め、たまたまその言葉をイオシスが聞いていたという、偶然が重なったような形でのお土産であった。


「そういえば、兄さんはあんなに大きな光玉石をどこで買ったの?」


「ルルがイオシスと土産を探している時に、ちょっと変わった店で見つけてな。店主とはなかなか話しが弾んで餞別にもらったものだ。」


「それじゃあ、兄さんが持っておくのがその店主さんへの礼儀じゃないの?」


「俺が持っていても意味ないだろ?なら、使いそうな人の手にあったほうがいい。」


「それはそうだけど…。その店主さんの立場になって考えるとなんか納得いかない気がする。」


お互いのミーナへのお土産を話題にしつつ楽しげに歩を進める2人。

だが、酒場までまだ距離のあるこの時点でユウはもちろん、ルルアも敏感になった魔力感知により気付いていた。

目指している酒場に満ち溢れた殺気を孕んだ魔力のうねりを…。



-帝国領:帝都:ギルド総本部:酒場「束の間の休息」-

ギルドがギルドの為に用意した酒場。

ここに訪れるのは討伐対象のモンスターの血で汚れた身体を、心を酒で洗い流す者や、それぞれの情報を交換する者などギルド関係者のみといった、まさにギルド御用達といった酒場である。

では、酒が入れば人はどうなるか?

人によって差異はあれど酔ってしまうことに変わりはなく、中には暴れる者もいるだろう。

それがギルドに属するような一般人とは一線を画したような者であれば人的被害すら出かねない。

だが、そういった被害の発生は稀であり、ここ数年はいざこざ程度の騒ぎですんでいた。

そう、すんでいたのだ。

現在の状況をあげれば酒場の中心で、複数の男性と2人の女性が対峙しており、2人が囲まれる形となっている。

酒が入っている為か当事者達以外は皆その状況を面白おかしく見るだけで、誰も止めようとする動きがない。


「今ならまだ許してやるからさっさとその剣を返しな。まだ、死にたくはないだろ?」


険悪な雰囲気の中、口を開いたのは囲まれている女性の片割れであった。

その言葉は情けが含まれている内容ではあるが、制御を失った暴れださんとする魔力には容赦のない殺意が込められており、言葉自体が宙を舞っている状態である。

彼女の名は『サザーブ・ヲーリア』

銀色の短髪と鋭い目つきをした毒の覇者で中距離を担当している討伐Aランカーである。

いや、現在は担当していたとするのが最も適切かもしれない。

なにせ、現在毒の覇者で残っているのはサザーブともう1人、現在横で殺意込の魔力を用いて詠唱をしている『ミシュ・ドットーナ』だけである。

クルスの仇をとるという決意を持った者は今夜酒場へ集合するという約束であったが、シェルはとうとう現れなかった。

そのことにを怒るつもりはサザーブにもミシュにも全くなく、怒ることそのものが見当違いなのだと2人は理解していた。


「へっ!これほどの魔法剣をお前らに持たせておいたって宝の持ち腐れだ。だから俺達が使ってやろうって言ってるんじゃねえか、ははは!!」


「イグレグトソード…。」


サザーブの言葉に1人の男性が反応すると同時に、生気のない瞳をしたミシュが青く長い髪を揺らしながら詠唱を終えた魔法名を呟く。

すると2人を囲む者全ての喉元へ緑と黒のドロドロとした液体が固形された状態で迫り、触れる寸前で停止する。

その形状は鎌を連想させ、その先端から元の素材である液体が1滴床へと落ちると大きな音と蒸気をあげ融けだした。


「ヒッ!?」


「…即死級の毒を更に濃縮してます。触れれば終わりますので十分に気をつけてくださいね?」


酔い高揚していた気分は完全に醒め、毒の脅威に怯える複数の男性。

そんな彼らに対してニコッと微笑むミシュだが、状況が状況なだけに冷たいものにしか感じられない。

場所が違えばさぞかし魅力的な笑顔だっただろう。


「さて…もう一度聞くよ?今ならまだ許してやるからさっさとその剣を返しな。」


「返してくれないと、ショックのあまり魔法の制御に失敗してしまうかもしれません。そうすると皆さんに毒がかかってしまうかも…。」


最終通告だと宣告しているかのような冷たい抑制のない声で再度、剣の返却を求めるサザーブ。

それに追い打ちをかけるかのごとく脅しを含んだ言葉を投げかけるミシュ。

いくら酔っていようとも本能が身の危険を感じとったのだろう。

彼らは必死に助けを乞いながら剣をサザーブへと渡す。

そもそもが剣を返してもらうためだけに対立していた2人である。

用件が済むとあっさり魔法を解除し殺意もいつの間にかきれいに消え、もとの席で酒を飲みなおしはじめた。

周囲の観客も酒の肴が終わったことに残念がるも、変わらぬペースで飲み続ける。

未だ呆然とする複数の男性が取り残されたものの、もとの雰囲気を取り戻した酒場にはやはり活気があり、将来への意気込みや討伐対象の話し声があらゆる方向から聞こえてくる。

もちろん、その声の中にはサザーブとミシュも含まれている。


「はぁ…取り戻せて良かったですね。」


「まったくだ!あいつらが酔ってなかったら即殺してたところだよ!!」


新たに注がれた酒をサザーブは豪快に、ミシュは少しずつ上品に飲みながら先程の騒ぎについて語る。

ある意味彼らは運がよかったのかもしれない。

もし酔っていなければ、更に剣に執着するようならば死んでいただろう。

剣の名称は『氷牙』

クルスとともにいくつもの土地を巡った魔法剣であり、現在は形見でもある。

だからこそ非常に大切であり、それが人の手に渡るなど考えただけで憎悪を抱くほどである。

今回それほど大切な剣が一時的にでも手元から離れた原因は、揃って酔っていたからに他ならないが、半ば自暴自棄に似た形で酒を飲んでいたため仕方ない部分もある。

よって、自身に対して不甲斐なさを覚えるものの済んだことだとすぐに思考を切り替えるミシュ。


「…これからどうしましょうか?」


「ん!?そりゃあ、あのグラムをぶっ殺すだけだよ!!」


どうやら、サザーブは剣を護れなかったことに対して自身を許せないらしく未だ荒立った感情をあらわにしている。

背景に火山が噴火している光景が見えてくるような、まさに憤怒といった様子だ。

もちろん、今後の行動の意気込みによるやる気も含まれているのだろうが、見た目では苛立っているようにしか見えない。

だが、それもミシュの一言で四散する。


「…私もそれでいいとは思います。ですが…サザーブさんは怖くはないですか?」


「…」


酒の入ったグラスを持ったまま硬直するサザーブ。

先程までの荒々しかった雰囲気も也を潜め、視線を外すかのように無言でグラスを見つめる。

対してミシュだが、テーブルに置かれた両手は誰が見てもはっきりわかるほどに震えている。

震えを懸命に抑えようと両手を握りしめながら続きを語りはじめる。


「私は…怖いです。あのグラムに放った魔法は私の使用できる中でも最上級の毒素を持っています。でも…通じなかった。そして…私たちを逃がすためにクルス君は…。」


「…」


クルスの名を口にした瞬間に涙が頬を伝う。

その先の言葉を口にすれば今流れた1滴だけではすまない。

それがわかっていたからミシュは間をおいて自分を落ち着かせたうえで更に語る。

もちろん、クルスの死には触れずに。


「このまま挑んでもまた結果は同じです。いえ、今度は更にひどい結果になります。何にしても2人では無理だと思うんです。…長々とすいません。」


「いや…いいよ。」


サザーブもまたミシュと同じ考えに至ってはいたのだが、同時にその問題の解決策がないことも理解していた。


「ミシュの言う通り、このままだと殺されるだけってのはわかってる。でも、私たちには帝国にはまともに知りあいもいないし、仮に協力してくれる人がいても並みの力じゃ返り討ちにあうだけだよ。」


毒の覇者のメンバーはみなスベラキア大陸の出身であり、帝国には親しい知り合いもいなければ頼れる家族もいない。

そもそも、スベラキア大陸で仲間を揃えたところで勝てる見込みがないというのがサザーブの見解である。

だが、ミシュはその考えを正確に理解したうえで否定した。


「確かにそうです…ですが、先程言ったように2人では無理なんです。だったら多少強引にでも協力してくれる人を探すべきではないですか?」


「だから、そんなことしても無駄なんだってば!私の目のこと知ってるだろ!?この目でも最初はそれほど脅威は感じなかった。けど、攻撃の意志を向けてきてからのあいつは何人でかかろうと手に負えるもんじゃなかった!!」


「なんですかそれは…サザーブさんの目の特殊性は知っています。ですが、諦めるっていうんですか!?」


「なんでそうなるんだよ!私は絶対に諦めない!!」


「だったらそんなこと言わないでください!!」


不毛な言い争いをする2人だが、やはり止める者などいない。

中にはそれを増長させようとする者までいるしまつだ。

しばらく人の目を集めていた2人だが、代わり映えしないただの言い争いに皆が視線を外し始めたころ、サザーブのその鋭い目つきが柔らかなものへと変わった。


「…なんとなく思ったんだけどさ、こういった話しをまとめてたのもクルスだったね。」


「…なんですか急に。」


「シェルは意見言わないし、ミシュは頑固で意見変えないし、私は好き勝手言うし…それで最後にはいつも…いつもクルスの奴が決めてくれてたんだよね。」


「…」


「なんだかんだで皆まとまっててさ…楽しかったよね?」


「…はい、とっても。」


思いだすのは4人揃っていた幸せだった頃。

それは、数日前までは当たり前だったこと。


「私は、そんな楽しかった空間を奪ったあいつが許せない。だから本当に諦めるつもりはないんだ。ミシュが言う通り仲間がいれば多少は太刀打ちできるかもしれない。けど、それでもやっぱり殺せはしないよ。」


「やっぱり諦めてるじゃないですか!!」


「話は最後まで聞くもんだよ。ギルドが何を考えてるかしらないけど前までと変わらず難度Aの依頼として置いておくらしいから討伐Sランカー以上の人はこの依頼は放置するだろうね。つまり、ギルドでは討伐できないってことになる。」


「…それでどうするんですか?」


「これはあまり私も気のりしないことなんだけどね…ベンター教に入ろうかと思うんだ。」


「…え?」


「いけすかない変な集団だけど力だけはあるからね。すぐには無理かもしれないけどあいつ等を利用していつか必ず仇をとるんだ。」


「…でもそれだとサザーブさんの目も標て」


ミシュの口を指で押さえ言葉を遮るサザーブ。

その瞳は先程、昔を懐かしんでいた時と同じ柔らかなものであった。


「これが私の決意だよ。」


その決意に納得できず、だが否定もさせてもらえないミシュは、他に方法がないと諦めるしかなかった。

よって、2人の当面の目標として、事情こそ違えどかつて追われた大陸へと戻ることがあげられ、それが決定した時点で酒場を後にした。

もちろん、クルスの形見である氷牙を持ったうえで、である。


-------


「青春だな…2人とも熱くてかなわん。」


「僕はそれより何より兄さんが老けて感じるよ…。」


カウンターにはサザーブとミシュの去る姿をぼんやりと見ているユウと、そのユウを苦笑いで見るルルアが座っていた。

サザーブとミシュの剣をめぐっての騒ぎが終わる頃には酒場に着いており、そのまま酔って陽気になった者たちから一方的に情報を引き出しも終え、ひと息ついているところである。

ユウの手には酒場には場違いなお茶が握られており、それを飲む姿は若い外見にも関わらず異様に似合っていた。

ルルアの発言もそれに関してのことだろう。

だが、ルルアの手にも酒場には場違いなジュースが握られている。

お互いに酒を飲めないという理由で半ば無理矢理に用意してもらったものである。


「まあルルよりかは長生きだしな。それはいいとして、あの2人が今後敵となるかもしれないんだ。よく覚えておけよ。」


「うん。」


既に姿の見えないサザーブとミシュを脳内にもう1度映し出し架空の戦闘を演じるルルア。

実際に闘っている姿を目にしたわけではないが、ドートとのやりとりは魔力感知で鮮明に捉えていために、戦闘手段や行動などは実物そのものである。

結果、圧勝とまではいかないが1対2でも勝利を収めることができたようだ。

それを確認すると意識を現実に戻しひと息つく。

すると、いつものように見計らっていたかのごとくユウが話し始める。


「ミーナが言っていたことだが外れたな。」


「毒の覇者の生き残りがまた討伐依頼を受けるだろうって言ってたこと?」


「ああ。俺もミーナと同意見だったんだが…あいつら相当に視野が狭まっていたな。」


「どういうこと?」


「ランクが高ければ強いわけじゃないだろ?探せば低いランクで強いやつは結構いる。それこそルルや俺のようにな。」


「…僕って強いの?」


ルルアの言葉は、その力量を知っている者からすれば非常に不愉快にしか感じられないものだった。

だが、今その言葉をうけたのはユウただ1人であり、いつも通り何も気にした様子がない。

とはいえ、疑問がでないわけではない。


「もしかして対人戦をしたのはこの前のメルル達とが初めてか?」


「うん。だいたいは直感で相手との差を測れるけど全体を知らないからなんとも言えないし…。」


「なるほどな。まあ、ギルド内でいえばルルより上はかなり少ないぞ。」


「へっ!?そうなの?」


「ああ。確か…アルテアだったか?あいつと実際に闘ってみてもかなりいい勝負するだろうってぐらいだ。」


自身の力量に驚きを隠せないルルアへさらに説明を加え、そのままお茶を楽しむようにゆっくり味わうユウ。


(傲慢に染まるのも問題だが、自信がなくても困るからな。どれほど強くなるか楽しみだ。惜しむべきは最後まで見届けれないってことか。)


その後、すぐに落ち着きを取り戻したルルアと次の討伐依頼を決めるとお茶とジュースの追加を繰り返し、結局酒場をあとにしたのは日をまたいでからであった。

読んでいただきありがとうございました。


次話も読んでいただけると嬉しいです。

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